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第一部 第四章 神の世界侵略編
神との戦い
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「愛してるよ、エル」
アルが『転移』して姿が見えなくなった後。
エルは予想外の不意打ちの仕返しに、少しの間呆けて頬を緩めていた。
戦いの前だと言うのに、アルからの愛の言葉に、エルは口角が上がるのを我慢出来なかった。
それで目の前のメカクシに対する怒り、汚い物に対するこの負の感情が無くなった訳では無い。
しかし、その中でも胸の中に温かい物を感じていた。
(――この温かさのおかげで、わたしは戦える)
言葉にするという事の大切さを、改めて実感する。
(わたしは彼を愛しているのだと、わたしは彼に愛されているのだと)
恐怖は無い。
ただ、目の前の敵を――、
(神を討ち、わたしたちの『永遠』の物語の舞台を、護ります)
アルへの感情に想いを馳せていたエル。
「別れの挨拶は終わったかい?」
しかし、依然塔の瓦礫の上でゆったりと座りこちらを見下ろす、メカクシの挑発的な声に意識を戻される。
一度心を落ち着ける為、そして改めて戦いへの覚悟を決める為。
目を伏せ、一瞬の瞑想。
そして、改めて正面の敵、メカクシと対峙する。
「随分と簡単に行かせてくれるんですね。アルさんだって片目の所有者なんですよ?」
エルは紫紺と真紅の色違いの両の瞳で、鋭い視線を送る。
そして、メカクシの挑発的な調子を真似する様に、言葉を返す。
それは相手の流れに乗せられない様にという反抗の意味合いも有るが、やはりエルにとって気になる所でもある。
真実の目の奪還を求めているこのメカクシが、易々と片目の所有者であるアルを見逃す事に違和感が有った。
「アレも君だよ、同じさ。どっちでもいい。――それに、この世界は終焉だ、逃げ場なんてないよ」
まただ。
度々アルとエルを同一視するメカクシの発言。
アルはそれについて理由を知っている様だった。
しかし、エルに配慮した結果、それについて詳細を秘密にしている事にもエルは気づいていた。
しかし、ここまで来れば嫌でも分かってしまう。
真実の目の権能を自在に扱うアル。
そして、このメカクシの言動。
つまり――、
(――彼はわたしで、わたしは彼だった。という事ですね)
一心同体だとか、そういう比喩表現では無い。
真の意味で魂が繋がっているのだ。
“どっちでもいい”とはつまり、エルを通してアルの持つ権能も奪うことが出来るという事だ。
メカクシにとっては二対一よりは一対一の方が都合がいい。
アルを引き留める理由が無いのだ。
そして、どうやらメカクシはアルが逃げたのだと思っているらしい。
しかし、そうではない。
アルが見た真実の目のビジョン――『魔女エル』の残したメッセージ。
それに従い、アルは魔導書の魔法を行使する為に、“ある場所”へと向かった。
実際にその目で見た訳では無いエルには、詳しい事は分からない。
しかし、アルの事は無条件で信頼している。
それはアルも同じだ。
エルの事を信頼し、この場を――メカクシの相手を、エルに任せてくれたのだ。
メカクシが“アルが片目を渡さない為に逃げた”のだと思い込んでくれているのなら、アルの行動に邪魔が入る事は無いだろう。
それはこちらにとって都合が良い。
アルが帰るまでの間、エルもまた自分のやるべき事を成す。
――ローブが、風に靡く。
互いに見合い、一瞬の間。
機を伺い、どちらが先に動くかの読み合い。
エルは『転移』の波の乗る。
メカクシは周囲の『空間』を歪ませ、背景に溶け込む。
動いたのは殆ど同時だった。
互いに違った魔法を駆使した、瞬間移動。
瞬間移動した先は、互いに上空だった。
お互いに不意を突こうとし、死角である空からの攻撃を選択した結果、両者がぶつかる。
エルは薄紫色の『結晶』で作った双剣。
メカクシは鋼の槍。
以前に対峙した時と同じ武器を互いに魔法で作り出し、それを振るう。
エルは静かな水面の様に。
対してメカクシは、まるで遊戯を楽しむかの様に、笑みを浮かべながら。
暗雲の覆う空。
二つの強大な魔力の塊同士がぶつかる衝撃で、暗雲に風穴が空く。
風穴から覗く、大きな月。
互いに魔力をぶつけあった衝撃で弾かれて、再び距離が生まれる。
先に次の手を打ったのはメカクシだ。
エルの周囲の『空間』が揺らめき、そこから鎖が現れ、エルの身体を拘束した。
『結晶』の双剣が手から零れ落ちる。
メカクシは鎖に拘束されて身動きの取れないエルに向かって、片手を銃の形にして赤い稲妻を放つ。
以前のそれよりも明らかに威力の高い赤い稲妻。
それはもはや極太のビームだ。
それは勢いを落とす事無く、エルの居た空間を穿つ。
しかし、それをただで受けてやる程エルも甘くは無い。
それは、まるで華の様だった。
エルは薄紫色の『結晶』で出来た盾を作り出し、赤い稲妻のビームからその身を守った。
しかし、元は円形だったはずの『結晶』の盾。
その盾は赤い稲妻のビームの威力で縁が抉れ、まるで華の様に、花弁を作っていた。
『結晶』の華はそのままボロボロと崩れ、役目を終えたそれは枯れ落ちた。
想像以上の威力に、エルは少し眉を顰める。
そして、稲妻のビームを防いだエル。
彼女は同時に自身拘束していた鉄の鎖を『温度変化』で溶かし、その拘束から抜け出していた。
今度は、エルの反撃だ。
まずは『光源』のフラッシュ。
追撃を防ぐ為に、瞬間移動で位置を変える。
刹那の瞬きの間に、エルはその場を『転移』する。
そして、『重力』の魔法。
宙に浮いていたメカクシの身体が、勢いよく塔の残骸の一つに向かって打ち付けられる。
エルの転移先は元々メカクシの居た空間だ。そこから、地に伏せるメカクシを見下ろす。
身体を起こそうとするメカクシ。
しかし、更なる追撃。
衝撃によって砕け、飛び散った瓦礫。
それをすぐさま『物体浮遊』で弾丸に変えて、メカクシへと撃ち込む。
そして、直撃した瓦礫の弾丸を『形状変化』し、瓦礫はスパイクの様に変化させる。
メカクシの身体へとそのスパイクの棘が食い込み、また更なる追撃を与える。
「ぐっ……。可愛い顔して、エグイ事やってくれるね……。でも――」
そう言った瞬間。
メカクシの周りの地が隆起し、そこから黒い物体が湧き出て来る。
それらは一直線に、エルに向かって襲い掛かって来る。
この黒い物体、黒い触手には覚えが有る。
これは――、
「異形――!」
「懐かしいだろう? “君が”永遠の牢獄に閉じ込めた、民の成れの果てだよ」
“異形”――大災厄の魔力に当てられ、それに耐えられなかった民の変質した姿。
いや、違う。
あの大災厄もこのメカクシの仕組んだものだった。
ならば、あの異形化の現象も同じだ。
現に今、メカクシが異形と同質の黒い触手を産み出している事がその証拠だ。
メカクシがエルの『永遠』の大魔法に割り込み、それを“不老不死の呪い”と“異形化”という現象に書き換えて、民を永遠の牢獄に閉じ込めた。
気づけば、メカクシは異形を“泥”として身に纏っていた。
先程負った負傷もその黒い泥が補い、まるで人形に付いた傷を埋める様に、治して行った。
メカクシは自分の身を守る様に、異形の黒い泥の鎧を纏う。
メカクシの黒い泥の鎧からはまるで複数本の腕の様に触手が生え、蠢いていた。
目を覆っていた包帯も、今は代わりに黒い泥がマスクを作っている。
「わたしじゃない! あなたが、仕組んだことでしょう! どうして、そんな――」
これは違う。
この泥は、この異形は、二〇〇年前の大災厄の被害者では無い。
メカクシの産み出した、エルの心を揺さぶる為のまやかしだ。
この黒い泥に、命は無い。
しかし、それを頭では理解していても、心は言う事を聞いてはくれない。
メカクシのその一手は、エルの心の静かな水面に波紋を立てるには十分だった。
「どうしてって、あの雲隠れした龍を炙り出す為にしてた、遊びの一環だよ。大災厄も、もっと昔にやった魔王降臨も」
あの惨劇すらも“遊び”だと、メカクシはそう言うのだ。
「――でも、失敗だった。魔王はよく分からない勇者に討たれるし、大災厄くらいじゃあの龍は爪の先すら見せてくれなかった」
「――!!!」
エルの、声にならない叫び。
“遊びだった”その一言で、水面に立った波紋はどんどん大きくなり、ついには弾ける。
(わたしの、わたしの二〇〇年が、こんな奴の、ただの遊びだった……?)
そんな事が、有っていい訳が無い。
エルは感情に身を任せ、『結晶』の双剣を手に、メカクシに向かって突撃した。
先程までの冷静で、計算された、理性的な攻撃とは違う。
それは無謀な、一直線の特攻だ。
「それ、隙だらけだよ」
先程までの挑発するような、不敵な笑みを携えていたメカクシの表情が、ふっと冷たい物に代わる。
そして、まるで吐き捨てる様にそう言った。
そのまま、また指を銃の形にして、エルに向け、赤い稲妻を放った。
まんまとメカクシの策に嵌り、挑発に乗って大きな隙を見せたエル。
直線的な特攻をしていたエルに、回避や防御の体勢を取る暇は与えられなかった。
赤い稲妻を諸に受ける。
そして、その直線のビームの勢いに押されるまま、エルの身体はその直線上の先へ飛ばされて行った。
・・・
――声が、聞こえる。
「ん……。ここ、は……?」
メカクシの攻撃を受けたエルは、旧王都から飛ばされて、この場で倒れていた。
身体を起こすと視界に入って来た光景。
それでここがどこなのかはすぐに理解出来た。
聞こえてくるのは、大勢の人の声。
そして、周囲を見渡すと、綺麗で豪華な造りの城。
ここは、新王都の王城だ。
一瞬、意識が飛んでいた様だ。
この感覚は、知っている。
これは死だ。
本来ならば一度死んでいた。
しかし、『永遠』の魔法の不死性によって、エルの身体は致死のダメージも無かった事修正してしまう。
かつて対峙した宮廷魔導士の逆再生の治癒の様な、不完全な不死性の挙動ではない。
死という、そして損傷という事象そのものが無かった事になる。
全てが修正され、元に戻る。
完全なる不死性だ。
しかし、身体が重い。
おそらく、あの赤い稲妻の所為だ。
神の一撃だ。
おそらく、それには『不死殺し』に相当する力が含まれているのだろう。
実際に本物の『不死殺し』の魔法が使えるのはかつての『魔女エル』、そして現代ではエルとアルだけだ。
このメカクシの力はそれに似た何かでしか無い、類似品でしか無かったのだろう。
それ故に、『不死殺し』として完全には機能していなかったのが救いだ。
しかし、本来なら『永遠』によって無かった事になるはずの身体へのダメージだが、腐っても神の一撃だ。
それを諸に受けたエルの身体は、ずっしりとした重み、疲労感の様な形として、ダメージの蓄積を感じていた。
エルが吹き飛んできた衝撃で崩れた王城。
その崩れた部分から冷たい外の空気が流れ込み、エルの昇っていた頭の熱を冷ましてくれた。
小さく深呼吸。
そして、エルは自分の左手を見た。
「よかった……」
そこに鈍く光る簡素な指輪が有る事に――攻撃を受けた衝撃で壊れたり、無くしたりしていなかった事に、安堵した。
エルはその左手を右手で包み、そっと抱きしめる。
まだ疲労感の残る中、重い腰を上げて、崩れた城の瓦礫の山から立ち上がるエル。
「うんうん。『認識阻害』も無くなって、“見やすく”なったね」
エルは顔を上げる。
壊れた城の壁に空いた風穴から、上空にに浮くメカクシが見下ろしているのが見えた。
メカクシの言葉に、エルは自分の状況を改めて認識して、はっとした。
『魔力感知』に引っ掛からない様に、そして何よりこの王都で自分の――災厄の魔女の姿を隠す為に纏っていた『認識阻害』のローブ。
それがあの赤い稲妻の攻撃を諸に受けて、焼き切れてしまっていた。
今のエルはその長い黒髪とエルフ耳を晒し、露わにしている。
「その姿をこの国の民が見たら、どう思うだろうね?」
そう言って、メカクシはまた槍をどこかから生み出し、仕掛けてくる。
しかし、今度のその攻撃は殺傷目的ではない。
エルの不死性に対して最も有効な攻撃手段、それは物理的な攻撃ではなく、精神的な攻撃だ。
メカクシの攻撃は、エルを王城の外へと――民の、衆目の前へと誘導する為の物だ。
エルも『結晶』の双剣を作り出し、応戦する。
しかし、メカクシの手数が多すぎる。
今のメカクシは“黒い泥の鎧”を纏い、その身を堅く強固に守っている。
その所為で、結晶の刃は思ったように通らない。
更に、複数の異形の触手を腕の様に巧みに操り、それを攻撃と防御に組み込んでいる。
両手に持つ槍だけでなく、追撃として繰り出される触手の腕による多段攻撃。
その手数は、エルの二本の腕だけではとても捌き切れなかった。
数度の打ち合いの末。
メカクシのラッシュに押し切られ、エルの両手の双剣が弾き飛ばされる。
そして、得物を失ったエルのがら空きになった胴に、メカクシの触手の腕による薙ぎ払い。
その一撃を諸に受けてたエルの身体は、王城の壁に空いた風穴から、外へと飛ばされた。
触手の腕の一振りによって飛ばされたエルの身体は、王城へ避難していた民の集っていた広場の方へと投げ出さた。
受け身も取れず、飛ばされた勢いのまま広場の地へと叩きつけられる。
エルの身を包み隠すローブは、もはや無い。
その長い黒髪、エルフ耳――災厄の魔女として言い伝わる、その姿。
王城へと避難してきていた民の目に、エルのその姿が映し出される。
「なんだなんだ!?」
「黒髪の、エルフ……!?」
「災厄の、魔女――!」
次々と、群衆の方から、恐怖に駆り立てられた声が上がる。
視線が、刺さる。
困惑、不安、敵意。
そんな負の感情を孕んだ民の視線が、ダメージを負ったエルの身体の傷を、ズキズキと抉って来る様だった。
「違うんです、あの……」
エルは誤解を解こうと、敵ではないと伝えようと、一歩、民衆の方へと歩を進める。
しかし、民衆はエルの方から後退して、離れて行く。
エルと民衆の間には、まるで視えない大きな壁が出来ている様だった。
このままでは、まずい。
この国が、一般市民までもが敵となっては、メカクシとの戦闘どころでは無くなる。
一度体勢を立て直すべきだ。
このままでは、戦えない。
「アルさんが戻って来るまで、一度撤退を――」
エルが『転移』での一時撤退を図ろうとする。
しかし――、
「本当に逃げちゃって、良いのかな?」
「――っ!!」
エルは息を吞む。
メカクシは片手を天に掲げ、巨大な異形の黒い“泥の塊”を自身の頭上に生成していた。
エルはすぐに、メカクシの意図を察した。
この“泥の塊”を、どうするのか。
その掲げた手を振り下ろせば、どうなるのか。
本当に、この神は汚い奴だ。
「じゃ、ばいばい」
メカクシは、天に掲げた手を勢いよく振り下ろす。
そして、その“泥の塊”の攻撃はその勢いを、重力を受けてさらに加速させながら、こちらへと迫って来る。
しかし、それはエルを狙った攻撃ではない。
正確には、エルだけを狙った攻撃ではないのだ。
今、エルの後ろにはこの王都の避難民が集っている。
エル一人ならば、『転移』使ってこの攻撃を回避し、逃走する事も容易い。
しかし、今そうすれば、この後ろに居る民衆は“泥の塊”に押し潰されて、死んでしまうだろう。
メカクシの意図は、まさにそれだ。
エルから回避と逃走の選択肢を奪い、確実に通るであろう攻撃。
「なんだ、あの黒い奴は!?」
「こっちへ来るぞ!!」
民衆のどよめきが、背後から聞こえてくる。
エルはちらりと、背後の民衆の方へと視線を送る。
エルの脳裏に、先程の民衆の視線、そして二〇〇年間の記憶が過る。
(わたしを敵視するこの国の民を、本当に守る必要はあるのでしょうか。見捨てて、逃げてしまえばいい。そうして、その後アルさんと合流して――)
そんなエルの迷い。
民衆を見捨てるという選択肢が、エルを惑わす。
そんな中、視線の先に映った、ある人の姿。
「あ……」
避難民の中に居た、見知った顔。
八百屋の母娘の姿が、そこにあった。
エルは自分でも気付かない無意識の内に、微笑みを溢していた。
(なんだ。わたしって、意外と“人間”なんですね)
もう、エルに迷いは無かった。
ここに居るのは、“災厄の魔女”ではない。
“泥の塊”が迫って来る。
時間は、無い。
エルは一度呼吸を整える。
そして、民衆に向かって語り掛ける。
「皆さん、離れていてください。わたしが、何とかします」
そう言って、エルは“泥の塊”の方へと跳んだ。
民衆がどう思うかなんて知った事では無い。
これは、エルの決めた事だ。
「はあっ――!」
エルは両手を前へ突き出し、そこへ『結晶』の盾を作る。
『結晶』の盾に“泥の塊”が激突。
その圧倒的威力、魔力の塊の重みを受ける。
「ぐっ……」
『結晶』を通して、腕にまでその衝撃が伝わって来る。
今にも折れてしまいそうだ。
その威力に耐え切れずに、『結晶』の盾にヒビが入る。
そして、砕け散った。
しかし――、
「まだです!!」
エルはすぐさま次の手を打つ。
エルの使った魔法、それは『霧』の魔法だ。
『霧』のバリアが“泥の塊”を覆い、威力を削いで行く。
だが、やはりそでは足りない。
威力を削いでも、完全には止められなかった。
エルは“泥の塊”に呑まれ、地に叩きつけられた。
しかし、最後の抵抗だ。
その直前、再び『霧』の魔法を背後の民衆の方へと展開し直し、結界を作った。
――また死んだのだろうか。
それとも、気絶していただけだろうか。
背後から聞こえるどよめき声に揺さぶられ、意識を起こす。
倒れたまま、エルは民衆の方へと視線を送る。
どうやら『霧』の結界はちゃんと機能してくれたらしい、彼らは無事みたいだ。
「よかっ、た……」
「こんなに狙い通りにいくのも、面白くないなあ」
メカクシがそんな不満を垂れながら、地に降り立つ。
そして、こちらへとゆっくりと歩いて、迫って来る。
エルの身体は、動かない。
“泥の塊”を直接受けた所為だろうか、やはりメカクシの攻撃は不死の肉体にもダメージが有るらしい。
迫って来るメカクシを迎え撃たなくてはならない。
しかし、身体は鉛の様に重く、動かない。
メカクシは鎧から生える黒い触手でエルの首を掴み、引きずり上げた。
エルの両の腕は、だらりと宙に放られている。
「じゃあ、その目は返してもらうよ」
そして、槍を捨てたその手を、エルの顔の方へと伸ばす。
メカクシの目的、真実の目。
メカクシの指が、エルの右目の瞼に触れ、その眼球を、抉り出す――。
「つかまえた」
「――!?」
――否。
メカクシの指が、エルの右目を捉える事は無かった。
魔女の不敵な笑み。
それに対して、メカクシが抱いた感情は“恐怖”だった。
神であるメカクシが、人間に対して恐怖など抱くはずがない。
しかし、現にメカクシは恐怖を感じていた。
人形の様にぶらんと宙に放り出されていたはずのエルの腕。
その腕が、右目へと伸ばしたメカクシの腕に向かって、その手の平を広げ、喰らい付く。
爪が食い込み、もはやどちらの物か分からない血が流れ、腕を伝う。
「やっぱり、そうですよね。あなたは、怖いんですよね」
エルはぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
その表情には、薄っすらと不敵な笑みが浮かび、それは“災厄の魔女”を彷彿とさせた。
「怖い? 何が? この僕に、怖い物など――」
メカクシは狼狽し、抵抗する。
エルの手を引きはがそうと、藻掻き、搔き毟る。
しかし、エルは掴んだメカクシの腕を離さない。
そのメカクシの腕が、ぶくぶくと泡立ち始めていた。
「あなたは、死ぬ事が怖いんです。だって、そんな風に鎧を纏って、身を守ろうとする。それは、死を恐れるからです」
エルの魔法が、少しずつメカクシの身体を蝕む。
「やめろ、やめろ!! 離せ!! 離せよ!!!」
「今もそうです。わたしが何をするのか、あなたは理解して、そして、恐怖している」
その“熱”は更に沸き上がり、燃え上がり、メカクシの腕から広がって行く。
そして、身体の隅から隅まで伝播して行った。
エルの魔法――『温度変化』だ。
エルはこの時を、待っていた。
鎧で身を包み、エルの魔法攻撃の致命傷を悉く避けてきたメカクシ。
しかし、目的の真実の目を目前とした瞬間。
勝利を確信したその瞬間に、メカクシに生まれた隙。
メカクシの犯した、たった一つのミス。
それは、エルが触れられる距離まで、無防備で近づいてしまった事。
触れてしまえば、それでお終いだ。
『温度変化』によってメカクシの身体は灼熱に包まれ、沸騰し、そして――、
「嫌だ!! 嫌だ!! 僕は神だぞ!! お前なんか、お前なんかに――」
「ばあーん」
沸騰した肉体は、弾け飛ぶ。
エルの首を掴んでいた黒い触手は燃え尽き、解放されたエルの身体は、どさりと地に落とされた。
エルはけほけほと咳をした。
そして、『永遠』の不死性によって身体の治癒――修正が始まっているのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。
メカクシだった赤黒い物が目前に落ちている。
その周りには弾けた肉片と血が華を咲かせていた。
「終わり、ました……」
エルは安堵の声を漏らした。
これで、終わった。
メカクシを倒し、この王都を――この世界を、救ったのだ。
人の気配に振り替えると、王城の避難民たちがエルの後ろに集まっていた。
そして、避難民たちは顔を見合わせる。
そして、その中の誰かが、声を上げた。
「助けていただいて、ありがとうございます。それで、あの、あなたは……?」
―――
“あなたは”――ですか。
この人たちの目には、どう映ったでしょうか。
わたしは、誰でしょう?
わたしは、災厄の魔女。
この人たちの知っている通りの、かつて王都を襲った大災厄の元凶。
でも――。でも、わたしは――)
「わたしは――、『永遠』の魔女、エルです」
少し迷った後、わたしはそう答えました。
それは驕りで、それはエゴで、それは傲慢かもしれない。
でも、それでも、わたしは――。
彼らを、この世界を護るために戦ったわたしは、“災厄の魔女”なんかじゃ無かったはずです。
だから、わたしは、そう答えました。
これで、いいんですよね? アルさん。
―――
一件落着。
そう思い、油断していた。
しかし、終わりのはずが無かった。
『魔女エル』が未来に託した魔導書、そしてそこに残したメッセージ。
こんな簡単に終わるのならば、それは必要無かっただろう。
まだ終わりじゃない。
『魔女エル』の見た未来は、ここからだ。
がさり、と背後で物音。
その不穏な気配に、エルは振り返った。
赤黒い物体――沸騰し、弾けた身体は肉や骨が露出していて、醜い様相。
死んだはずのメカクシが、立ち上がっていた。
「――しぶとい、ですね」
「まだ、終わらない。この世界は、終焉だ。僕の、全てを、くれてやる、だから、もう一度――!」
メカクシを中心として広がった邪悪な魔法の光が、天に立ち昇る。
魔法の光とその衝撃に、エルは腕で顔を覆い、目を伏せる。
魔法の光が天を貫き、空間に風穴を空ける。
――これは、大魔法だ。
「ああああああああああああああああああああ!!!!」
メカクシの、焼けた喉から響く、最後の叫びが、王都中に木霊する。
赤黒いそのもはや人の形を保てない身体が溶け、“黒い泥”となる。
そして、その“黒い泥”は天に広がる風穴へと吸い込まれて行った。
メカクシの――神の存在の全てを触媒とした、大魔法。
その有り余る程強大な触媒を喰った、大魔法によって産み出された者。
それは――、
「――魔王」
天の風穴から、溢れ出る大量の“黒い泥”。
そして、その泥は集まり、形を成す。
人とも魔獣とも似つかない、まさしく“異形”の姿。
異形の王。
その存在が有る限り、世界に汚れを撒き散らす。
巨大な汚れの化身。
『魔王降臨』――それが、メカクシが死に際に放った大魔法だった。
これが、かつての勇者と魔女が討った、不死の魔王。
その正体だ。
アルが『転移』して姿が見えなくなった後。
エルは予想外の不意打ちの仕返しに、少しの間呆けて頬を緩めていた。
戦いの前だと言うのに、アルからの愛の言葉に、エルは口角が上がるのを我慢出来なかった。
それで目の前のメカクシに対する怒り、汚い物に対するこの負の感情が無くなった訳では無い。
しかし、その中でも胸の中に温かい物を感じていた。
(――この温かさのおかげで、わたしは戦える)
言葉にするという事の大切さを、改めて実感する。
(わたしは彼を愛しているのだと、わたしは彼に愛されているのだと)
恐怖は無い。
ただ、目の前の敵を――、
(神を討ち、わたしたちの『永遠』の物語の舞台を、護ります)
アルへの感情に想いを馳せていたエル。
「別れの挨拶は終わったかい?」
しかし、依然塔の瓦礫の上でゆったりと座りこちらを見下ろす、メカクシの挑発的な声に意識を戻される。
一度心を落ち着ける為、そして改めて戦いへの覚悟を決める為。
目を伏せ、一瞬の瞑想。
そして、改めて正面の敵、メカクシと対峙する。
「随分と簡単に行かせてくれるんですね。アルさんだって片目の所有者なんですよ?」
エルは紫紺と真紅の色違いの両の瞳で、鋭い視線を送る。
そして、メカクシの挑発的な調子を真似する様に、言葉を返す。
それは相手の流れに乗せられない様にという反抗の意味合いも有るが、やはりエルにとって気になる所でもある。
真実の目の奪還を求めているこのメカクシが、易々と片目の所有者であるアルを見逃す事に違和感が有った。
「アレも君だよ、同じさ。どっちでもいい。――それに、この世界は終焉だ、逃げ場なんてないよ」
まただ。
度々アルとエルを同一視するメカクシの発言。
アルはそれについて理由を知っている様だった。
しかし、エルに配慮した結果、それについて詳細を秘密にしている事にもエルは気づいていた。
しかし、ここまで来れば嫌でも分かってしまう。
真実の目の権能を自在に扱うアル。
そして、このメカクシの言動。
つまり――、
(――彼はわたしで、わたしは彼だった。という事ですね)
一心同体だとか、そういう比喩表現では無い。
真の意味で魂が繋がっているのだ。
“どっちでもいい”とはつまり、エルを通してアルの持つ権能も奪うことが出来るという事だ。
メカクシにとっては二対一よりは一対一の方が都合がいい。
アルを引き留める理由が無いのだ。
そして、どうやらメカクシはアルが逃げたのだと思っているらしい。
しかし、そうではない。
アルが見た真実の目のビジョン――『魔女エル』の残したメッセージ。
それに従い、アルは魔導書の魔法を行使する為に、“ある場所”へと向かった。
実際にその目で見た訳では無いエルには、詳しい事は分からない。
しかし、アルの事は無条件で信頼している。
それはアルも同じだ。
エルの事を信頼し、この場を――メカクシの相手を、エルに任せてくれたのだ。
メカクシが“アルが片目を渡さない為に逃げた”のだと思い込んでくれているのなら、アルの行動に邪魔が入る事は無いだろう。
それはこちらにとって都合が良い。
アルが帰るまでの間、エルもまた自分のやるべき事を成す。
――ローブが、風に靡く。
互いに見合い、一瞬の間。
機を伺い、どちらが先に動くかの読み合い。
エルは『転移』の波の乗る。
メカクシは周囲の『空間』を歪ませ、背景に溶け込む。
動いたのは殆ど同時だった。
互いに違った魔法を駆使した、瞬間移動。
瞬間移動した先は、互いに上空だった。
お互いに不意を突こうとし、死角である空からの攻撃を選択した結果、両者がぶつかる。
エルは薄紫色の『結晶』で作った双剣。
メカクシは鋼の槍。
以前に対峙した時と同じ武器を互いに魔法で作り出し、それを振るう。
エルは静かな水面の様に。
対してメカクシは、まるで遊戯を楽しむかの様に、笑みを浮かべながら。
暗雲の覆う空。
二つの強大な魔力の塊同士がぶつかる衝撃で、暗雲に風穴が空く。
風穴から覗く、大きな月。
互いに魔力をぶつけあった衝撃で弾かれて、再び距離が生まれる。
先に次の手を打ったのはメカクシだ。
エルの周囲の『空間』が揺らめき、そこから鎖が現れ、エルの身体を拘束した。
『結晶』の双剣が手から零れ落ちる。
メカクシは鎖に拘束されて身動きの取れないエルに向かって、片手を銃の形にして赤い稲妻を放つ。
以前のそれよりも明らかに威力の高い赤い稲妻。
それはもはや極太のビームだ。
それは勢いを落とす事無く、エルの居た空間を穿つ。
しかし、それをただで受けてやる程エルも甘くは無い。
それは、まるで華の様だった。
エルは薄紫色の『結晶』で出来た盾を作り出し、赤い稲妻のビームからその身を守った。
しかし、元は円形だったはずの『結晶』の盾。
その盾は赤い稲妻のビームの威力で縁が抉れ、まるで華の様に、花弁を作っていた。
『結晶』の華はそのままボロボロと崩れ、役目を終えたそれは枯れ落ちた。
想像以上の威力に、エルは少し眉を顰める。
そして、稲妻のビームを防いだエル。
彼女は同時に自身拘束していた鉄の鎖を『温度変化』で溶かし、その拘束から抜け出していた。
今度は、エルの反撃だ。
まずは『光源』のフラッシュ。
追撃を防ぐ為に、瞬間移動で位置を変える。
刹那の瞬きの間に、エルはその場を『転移』する。
そして、『重力』の魔法。
宙に浮いていたメカクシの身体が、勢いよく塔の残骸の一つに向かって打ち付けられる。
エルの転移先は元々メカクシの居た空間だ。そこから、地に伏せるメカクシを見下ろす。
身体を起こそうとするメカクシ。
しかし、更なる追撃。
衝撃によって砕け、飛び散った瓦礫。
それをすぐさま『物体浮遊』で弾丸に変えて、メカクシへと撃ち込む。
そして、直撃した瓦礫の弾丸を『形状変化』し、瓦礫はスパイクの様に変化させる。
メカクシの身体へとそのスパイクの棘が食い込み、また更なる追撃を与える。
「ぐっ……。可愛い顔して、エグイ事やってくれるね……。でも――」
そう言った瞬間。
メカクシの周りの地が隆起し、そこから黒い物体が湧き出て来る。
それらは一直線に、エルに向かって襲い掛かって来る。
この黒い物体、黒い触手には覚えが有る。
これは――、
「異形――!」
「懐かしいだろう? “君が”永遠の牢獄に閉じ込めた、民の成れの果てだよ」
“異形”――大災厄の魔力に当てられ、それに耐えられなかった民の変質した姿。
いや、違う。
あの大災厄もこのメカクシの仕組んだものだった。
ならば、あの異形化の現象も同じだ。
現に今、メカクシが異形と同質の黒い触手を産み出している事がその証拠だ。
メカクシがエルの『永遠』の大魔法に割り込み、それを“不老不死の呪い”と“異形化”という現象に書き換えて、民を永遠の牢獄に閉じ込めた。
気づけば、メカクシは異形を“泥”として身に纏っていた。
先程負った負傷もその黒い泥が補い、まるで人形に付いた傷を埋める様に、治して行った。
メカクシは自分の身を守る様に、異形の黒い泥の鎧を纏う。
メカクシの黒い泥の鎧からはまるで複数本の腕の様に触手が生え、蠢いていた。
目を覆っていた包帯も、今は代わりに黒い泥がマスクを作っている。
「わたしじゃない! あなたが、仕組んだことでしょう! どうして、そんな――」
これは違う。
この泥は、この異形は、二〇〇年前の大災厄の被害者では無い。
メカクシの産み出した、エルの心を揺さぶる為のまやかしだ。
この黒い泥に、命は無い。
しかし、それを頭では理解していても、心は言う事を聞いてはくれない。
メカクシのその一手は、エルの心の静かな水面に波紋を立てるには十分だった。
「どうしてって、あの雲隠れした龍を炙り出す為にしてた、遊びの一環だよ。大災厄も、もっと昔にやった魔王降臨も」
あの惨劇すらも“遊び”だと、メカクシはそう言うのだ。
「――でも、失敗だった。魔王はよく分からない勇者に討たれるし、大災厄くらいじゃあの龍は爪の先すら見せてくれなかった」
「――!!!」
エルの、声にならない叫び。
“遊びだった”その一言で、水面に立った波紋はどんどん大きくなり、ついには弾ける。
(わたしの、わたしの二〇〇年が、こんな奴の、ただの遊びだった……?)
そんな事が、有っていい訳が無い。
エルは感情に身を任せ、『結晶』の双剣を手に、メカクシに向かって突撃した。
先程までの冷静で、計算された、理性的な攻撃とは違う。
それは無謀な、一直線の特攻だ。
「それ、隙だらけだよ」
先程までの挑発するような、不敵な笑みを携えていたメカクシの表情が、ふっと冷たい物に代わる。
そして、まるで吐き捨てる様にそう言った。
そのまま、また指を銃の形にして、エルに向け、赤い稲妻を放った。
まんまとメカクシの策に嵌り、挑発に乗って大きな隙を見せたエル。
直線的な特攻をしていたエルに、回避や防御の体勢を取る暇は与えられなかった。
赤い稲妻を諸に受ける。
そして、その直線のビームの勢いに押されるまま、エルの身体はその直線上の先へ飛ばされて行った。
・・・
――声が、聞こえる。
「ん……。ここ、は……?」
メカクシの攻撃を受けたエルは、旧王都から飛ばされて、この場で倒れていた。
身体を起こすと視界に入って来た光景。
それでここがどこなのかはすぐに理解出来た。
聞こえてくるのは、大勢の人の声。
そして、周囲を見渡すと、綺麗で豪華な造りの城。
ここは、新王都の王城だ。
一瞬、意識が飛んでいた様だ。
この感覚は、知っている。
これは死だ。
本来ならば一度死んでいた。
しかし、『永遠』の魔法の不死性によって、エルの身体は致死のダメージも無かった事修正してしまう。
かつて対峙した宮廷魔導士の逆再生の治癒の様な、不完全な不死性の挙動ではない。
死という、そして損傷という事象そのものが無かった事になる。
全てが修正され、元に戻る。
完全なる不死性だ。
しかし、身体が重い。
おそらく、あの赤い稲妻の所為だ。
神の一撃だ。
おそらく、それには『不死殺し』に相当する力が含まれているのだろう。
実際に本物の『不死殺し』の魔法が使えるのはかつての『魔女エル』、そして現代ではエルとアルだけだ。
このメカクシの力はそれに似た何かでしか無い、類似品でしか無かったのだろう。
それ故に、『不死殺し』として完全には機能していなかったのが救いだ。
しかし、本来なら『永遠』によって無かった事になるはずの身体へのダメージだが、腐っても神の一撃だ。
それを諸に受けたエルの身体は、ずっしりとした重み、疲労感の様な形として、ダメージの蓄積を感じていた。
エルが吹き飛んできた衝撃で崩れた王城。
その崩れた部分から冷たい外の空気が流れ込み、エルの昇っていた頭の熱を冷ましてくれた。
小さく深呼吸。
そして、エルは自分の左手を見た。
「よかった……」
そこに鈍く光る簡素な指輪が有る事に――攻撃を受けた衝撃で壊れたり、無くしたりしていなかった事に、安堵した。
エルはその左手を右手で包み、そっと抱きしめる。
まだ疲労感の残る中、重い腰を上げて、崩れた城の瓦礫の山から立ち上がるエル。
「うんうん。『認識阻害』も無くなって、“見やすく”なったね」
エルは顔を上げる。
壊れた城の壁に空いた風穴から、上空にに浮くメカクシが見下ろしているのが見えた。
メカクシの言葉に、エルは自分の状況を改めて認識して、はっとした。
『魔力感知』に引っ掛からない様に、そして何よりこの王都で自分の――災厄の魔女の姿を隠す為に纏っていた『認識阻害』のローブ。
それがあの赤い稲妻の攻撃を諸に受けて、焼き切れてしまっていた。
今のエルはその長い黒髪とエルフ耳を晒し、露わにしている。
「その姿をこの国の民が見たら、どう思うだろうね?」
そう言って、メカクシはまた槍をどこかから生み出し、仕掛けてくる。
しかし、今度のその攻撃は殺傷目的ではない。
エルの不死性に対して最も有効な攻撃手段、それは物理的な攻撃ではなく、精神的な攻撃だ。
メカクシの攻撃は、エルを王城の外へと――民の、衆目の前へと誘導する為の物だ。
エルも『結晶』の双剣を作り出し、応戦する。
しかし、メカクシの手数が多すぎる。
今のメカクシは“黒い泥の鎧”を纏い、その身を堅く強固に守っている。
その所為で、結晶の刃は思ったように通らない。
更に、複数の異形の触手を腕の様に巧みに操り、それを攻撃と防御に組み込んでいる。
両手に持つ槍だけでなく、追撃として繰り出される触手の腕による多段攻撃。
その手数は、エルの二本の腕だけではとても捌き切れなかった。
数度の打ち合いの末。
メカクシのラッシュに押し切られ、エルの両手の双剣が弾き飛ばされる。
そして、得物を失ったエルのがら空きになった胴に、メカクシの触手の腕による薙ぎ払い。
その一撃を諸に受けてたエルの身体は、王城の壁に空いた風穴から、外へと飛ばされた。
触手の腕の一振りによって飛ばされたエルの身体は、王城へ避難していた民の集っていた広場の方へと投げ出さた。
受け身も取れず、飛ばされた勢いのまま広場の地へと叩きつけられる。
エルの身を包み隠すローブは、もはや無い。
その長い黒髪、エルフ耳――災厄の魔女として言い伝わる、その姿。
王城へと避難してきていた民の目に、エルのその姿が映し出される。
「なんだなんだ!?」
「黒髪の、エルフ……!?」
「災厄の、魔女――!」
次々と、群衆の方から、恐怖に駆り立てられた声が上がる。
視線が、刺さる。
困惑、不安、敵意。
そんな負の感情を孕んだ民の視線が、ダメージを負ったエルの身体の傷を、ズキズキと抉って来る様だった。
「違うんです、あの……」
エルは誤解を解こうと、敵ではないと伝えようと、一歩、民衆の方へと歩を進める。
しかし、民衆はエルの方から後退して、離れて行く。
エルと民衆の間には、まるで視えない大きな壁が出来ている様だった。
このままでは、まずい。
この国が、一般市民までもが敵となっては、メカクシとの戦闘どころでは無くなる。
一度体勢を立て直すべきだ。
このままでは、戦えない。
「アルさんが戻って来るまで、一度撤退を――」
エルが『転移』での一時撤退を図ろうとする。
しかし――、
「本当に逃げちゃって、良いのかな?」
「――っ!!」
エルは息を吞む。
メカクシは片手を天に掲げ、巨大な異形の黒い“泥の塊”を自身の頭上に生成していた。
エルはすぐに、メカクシの意図を察した。
この“泥の塊”を、どうするのか。
その掲げた手を振り下ろせば、どうなるのか。
本当に、この神は汚い奴だ。
「じゃ、ばいばい」
メカクシは、天に掲げた手を勢いよく振り下ろす。
そして、その“泥の塊”の攻撃はその勢いを、重力を受けてさらに加速させながら、こちらへと迫って来る。
しかし、それはエルを狙った攻撃ではない。
正確には、エルだけを狙った攻撃ではないのだ。
今、エルの後ろにはこの王都の避難民が集っている。
エル一人ならば、『転移』使ってこの攻撃を回避し、逃走する事も容易い。
しかし、今そうすれば、この後ろに居る民衆は“泥の塊”に押し潰されて、死んでしまうだろう。
メカクシの意図は、まさにそれだ。
エルから回避と逃走の選択肢を奪い、確実に通るであろう攻撃。
「なんだ、あの黒い奴は!?」
「こっちへ来るぞ!!」
民衆のどよめきが、背後から聞こえてくる。
エルはちらりと、背後の民衆の方へと視線を送る。
エルの脳裏に、先程の民衆の視線、そして二〇〇年間の記憶が過る。
(わたしを敵視するこの国の民を、本当に守る必要はあるのでしょうか。見捨てて、逃げてしまえばいい。そうして、その後アルさんと合流して――)
そんなエルの迷い。
民衆を見捨てるという選択肢が、エルを惑わす。
そんな中、視線の先に映った、ある人の姿。
「あ……」
避難民の中に居た、見知った顔。
八百屋の母娘の姿が、そこにあった。
エルは自分でも気付かない無意識の内に、微笑みを溢していた。
(なんだ。わたしって、意外と“人間”なんですね)
もう、エルに迷いは無かった。
ここに居るのは、“災厄の魔女”ではない。
“泥の塊”が迫って来る。
時間は、無い。
エルは一度呼吸を整える。
そして、民衆に向かって語り掛ける。
「皆さん、離れていてください。わたしが、何とかします」
そう言って、エルは“泥の塊”の方へと跳んだ。
民衆がどう思うかなんて知った事では無い。
これは、エルの決めた事だ。
「はあっ――!」
エルは両手を前へ突き出し、そこへ『結晶』の盾を作る。
『結晶』の盾に“泥の塊”が激突。
その圧倒的威力、魔力の塊の重みを受ける。
「ぐっ……」
『結晶』を通して、腕にまでその衝撃が伝わって来る。
今にも折れてしまいそうだ。
その威力に耐え切れずに、『結晶』の盾にヒビが入る。
そして、砕け散った。
しかし――、
「まだです!!」
エルはすぐさま次の手を打つ。
エルの使った魔法、それは『霧』の魔法だ。
『霧』のバリアが“泥の塊”を覆い、威力を削いで行く。
だが、やはりそでは足りない。
威力を削いでも、完全には止められなかった。
エルは“泥の塊”に呑まれ、地に叩きつけられた。
しかし、最後の抵抗だ。
その直前、再び『霧』の魔法を背後の民衆の方へと展開し直し、結界を作った。
――また死んだのだろうか。
それとも、気絶していただけだろうか。
背後から聞こえるどよめき声に揺さぶられ、意識を起こす。
倒れたまま、エルは民衆の方へと視線を送る。
どうやら『霧』の結界はちゃんと機能してくれたらしい、彼らは無事みたいだ。
「よかっ、た……」
「こんなに狙い通りにいくのも、面白くないなあ」
メカクシがそんな不満を垂れながら、地に降り立つ。
そして、こちらへとゆっくりと歩いて、迫って来る。
エルの身体は、動かない。
“泥の塊”を直接受けた所為だろうか、やはりメカクシの攻撃は不死の肉体にもダメージが有るらしい。
迫って来るメカクシを迎え撃たなくてはならない。
しかし、身体は鉛の様に重く、動かない。
メカクシは鎧から生える黒い触手でエルの首を掴み、引きずり上げた。
エルの両の腕は、だらりと宙に放られている。
「じゃあ、その目は返してもらうよ」
そして、槍を捨てたその手を、エルの顔の方へと伸ばす。
メカクシの目的、真実の目。
メカクシの指が、エルの右目の瞼に触れ、その眼球を、抉り出す――。
「つかまえた」
「――!?」
――否。
メカクシの指が、エルの右目を捉える事は無かった。
魔女の不敵な笑み。
それに対して、メカクシが抱いた感情は“恐怖”だった。
神であるメカクシが、人間に対して恐怖など抱くはずがない。
しかし、現にメカクシは恐怖を感じていた。
人形の様にぶらんと宙に放り出されていたはずのエルの腕。
その腕が、右目へと伸ばしたメカクシの腕に向かって、その手の平を広げ、喰らい付く。
爪が食い込み、もはやどちらの物か分からない血が流れ、腕を伝う。
「やっぱり、そうですよね。あなたは、怖いんですよね」
エルはぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
その表情には、薄っすらと不敵な笑みが浮かび、それは“災厄の魔女”を彷彿とさせた。
「怖い? 何が? この僕に、怖い物など――」
メカクシは狼狽し、抵抗する。
エルの手を引きはがそうと、藻掻き、搔き毟る。
しかし、エルは掴んだメカクシの腕を離さない。
そのメカクシの腕が、ぶくぶくと泡立ち始めていた。
「あなたは、死ぬ事が怖いんです。だって、そんな風に鎧を纏って、身を守ろうとする。それは、死を恐れるからです」
エルの魔法が、少しずつメカクシの身体を蝕む。
「やめろ、やめろ!! 離せ!! 離せよ!!!」
「今もそうです。わたしが何をするのか、あなたは理解して、そして、恐怖している」
その“熱”は更に沸き上がり、燃え上がり、メカクシの腕から広がって行く。
そして、身体の隅から隅まで伝播して行った。
エルの魔法――『温度変化』だ。
エルはこの時を、待っていた。
鎧で身を包み、エルの魔法攻撃の致命傷を悉く避けてきたメカクシ。
しかし、目的の真実の目を目前とした瞬間。
勝利を確信したその瞬間に、メカクシに生まれた隙。
メカクシの犯した、たった一つのミス。
それは、エルが触れられる距離まで、無防備で近づいてしまった事。
触れてしまえば、それでお終いだ。
『温度変化』によってメカクシの身体は灼熱に包まれ、沸騰し、そして――、
「嫌だ!! 嫌だ!! 僕は神だぞ!! お前なんか、お前なんかに――」
「ばあーん」
沸騰した肉体は、弾け飛ぶ。
エルの首を掴んでいた黒い触手は燃え尽き、解放されたエルの身体は、どさりと地に落とされた。
エルはけほけほと咳をした。
そして、『永遠』の不死性によって身体の治癒――修正が始まっているのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。
メカクシだった赤黒い物が目前に落ちている。
その周りには弾けた肉片と血が華を咲かせていた。
「終わり、ました……」
エルは安堵の声を漏らした。
これで、終わった。
メカクシを倒し、この王都を――この世界を、救ったのだ。
人の気配に振り替えると、王城の避難民たちがエルの後ろに集まっていた。
そして、避難民たちは顔を見合わせる。
そして、その中の誰かが、声を上げた。
「助けていただいて、ありがとうございます。それで、あの、あなたは……?」
―――
“あなたは”――ですか。
この人たちの目には、どう映ったでしょうか。
わたしは、誰でしょう?
わたしは、災厄の魔女。
この人たちの知っている通りの、かつて王都を襲った大災厄の元凶。
でも――。でも、わたしは――)
「わたしは――、『永遠』の魔女、エルです」
少し迷った後、わたしはそう答えました。
それは驕りで、それはエゴで、それは傲慢かもしれない。
でも、それでも、わたしは――。
彼らを、この世界を護るために戦ったわたしは、“災厄の魔女”なんかじゃ無かったはずです。
だから、わたしは、そう答えました。
これで、いいんですよね? アルさん。
―――
一件落着。
そう思い、油断していた。
しかし、終わりのはずが無かった。
『魔女エル』が未来に託した魔導書、そしてそこに残したメッセージ。
こんな簡単に終わるのならば、それは必要無かっただろう。
まだ終わりじゃない。
『魔女エル』の見た未来は、ここからだ。
がさり、と背後で物音。
その不穏な気配に、エルは振り返った。
赤黒い物体――沸騰し、弾けた身体は肉や骨が露出していて、醜い様相。
死んだはずのメカクシが、立ち上がっていた。
「――しぶとい、ですね」
「まだ、終わらない。この世界は、終焉だ。僕の、全てを、くれてやる、だから、もう一度――!」
メカクシを中心として広がった邪悪な魔法の光が、天に立ち昇る。
魔法の光とその衝撃に、エルは腕で顔を覆い、目を伏せる。
魔法の光が天を貫き、空間に風穴を空ける。
――これは、大魔法だ。
「ああああああああああああああああああああ!!!!」
メカクシの、焼けた喉から響く、最後の叫びが、王都中に木霊する。
赤黒いそのもはや人の形を保てない身体が溶け、“黒い泥”となる。
そして、その“黒い泥”は天に広がる風穴へと吸い込まれて行った。
メカクシの――神の存在の全てを触媒とした、大魔法。
その有り余る程強大な触媒を喰った、大魔法によって産み出された者。
それは――、
「――魔王」
天の風穴から、溢れ出る大量の“黒い泥”。
そして、その泥は集まり、形を成す。
人とも魔獣とも似つかない、まさしく“異形”の姿。
異形の王。
その存在が有る限り、世界に汚れを撒き散らす。
巨大な汚れの化身。
『魔王降臨』――それが、メカクシが死に際に放った大魔法だった。
これが、かつての勇者と魔女が討った、不死の魔王。
その正体だ。
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