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第2章 要の17日
9日前 要
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今日は朝早くから学校に用事があって、由芽の頬に軽くキスをして、布団を肩まで掛け直してやってから先に学校に行く。由芽が起きるのを待ってる時間がなかった。
いつもはオレの方が先に起きて、由芽が目覚めるのを隣で待っている。由芽が楽しい夢を見ているのを壊さないように、じっと彼女の顔を見つめている。それがこの前までのオレの「ささやかなしあわせ」だった。
今朝はかなり冷え込んでいたので由芽の部屋の暖房を入れて、自分はダウンを着た。本格的に冬だ。
昼に学校近くの洋食屋で玲香と一緒にランチを食べてキャンパスを歩いていると、玲香が誰かに手を振った。口元に笑みがこぼれているので珍しいと思って彼女の視線をたどると、そこには原田と親しげに歩く由芽がいた。
原田と由芽はオレが知っている以上に親密に見えて、何故か気持ちが焦る。原田は着々とオレたちが別れる日を指折り待っているのかもしれない。
「汐見さん、お久しぶり。元気?」
「お陰様で。大島さんほどじゃないですけど……」
「そう? 相変わらずみたいね? わたし、先に行くね?」
するりと組んでいた腕を抜いて、先を歩いていた例の取り巻きのところに彼女は行ってしまった。
何でも月に一度、連中は集まってパーティーを開くそうで、玲香は最近、その企画で忙しそうだった。オレも誘われたけど、仲間にはなりたくなかったので丁重に断った。断ったことに玲香は嫌な顔をしなかった。
玲香が一行に加わるのを見届けて、向き直ると原田が話しかけてきた。あまりいい空気ではなかった。
「要さ、今は大島さんとつき合ってるの? それともその約束の日までは由芽ちゃんが彼女なの? 聞いた感じだと由芽ちゃんが彼女だって話だよね?」
「……原田には関係ない」
そうだ、原田には関係ない。今はまだ約束の日まで九日残っているし、……正直、どっちと一緒にいるべきなのか、自分自身がよくわからなくなってきた。
「関係あるよ。由芽ちゃんがまだ要の彼女なら遠慮するけど、そうじゃないなら遠慮いらないよな?」
「原田くん、いいよ、わたしのことでケンカしないで」
「由芽はいい子だと思うよ。確かに約束の日までオレは由芽と一緒にいるべきなんだろうけど……。ごめん、いろいろ上手く行かない」
そうなんだ、思った通りに上手くいかないんだ。もっと物事はスマートに、絡まっていても数列のようにいろいろなパターンで解《ほぐ》してやれば上手くいくはずなのに、人の気持ちと数字はこんなにも違う。そして今は「十七」というたわいもない素数に悩まされている。
「わたし、もう講義に行くね」
由芽は原田が呼び止める声も聞こえないふりをして走っていった。
「原田、由芽と本当に親しくなったんだな」
嫌味ではなかった。
「……由芽ちゃんに必要なのはお前だって気づけよ。って、そんなこと言う僕はかなり人が良いよなぁ。なんで由芽ちゃんは振り向いてくれないんだろう。お前みたいな最低な男はまじで似合わないよ」
「そう思うよな。別れるっていうのを抜きにしても、オレには由芽はもったいないよ」
原田は静かに怒っているように見えた。午後の講義の始まる時間は過ぎて、キャンパスを歩く人がぐっと減っている。寒い中、ベンチでコーヒーを二人で飲んだ。
「大島玲香とは由芽ちゃんを一人にしてまで会って、何してんの? そんなに一緒にいたい女だとはオレには思えないけど」
「原田はむしろ、玲香の何が気に食わないの? ……確かに会ってる間はほとんどベッドの中だけど」
「まじかよ? それってセフレって世間では言わないのかよ? どっちがどっちのセフレかわかんないけどさ。でも……そんなことのために、お前、捨てちゃうの? 大事なもの、全部。『セックス』のために別れるとか、バカなのか?」
セフレか……。どう考えても、オレが玲香のセフレだよな。いつ切られるかわかんないってやつだ。
「オレ、バカだよなー。知ってる、自分はバカだって。原田に言われるまでもないよ」
「じゃあ、あいつと別れろよ。由芽ちゃんといることに不満はないだろう? お前が由芽ちゃんの不満、漏らすの聞いたことないぞ。いいか、最後の忠告だから。別れないならバカげた『十七日』なんて無視して由芽ちゃん、押し倒す。その自信はあるよ」
「だろうな。原田に誘われてなびかない由芽はある意味、強いよな」
「なびかないから困ってるんだろ?」
と原田はその後もブツブツこぼした。由芽の本心は、オレに遠慮して原田を遠ざけているだけかもしれない。他の男を選ぶくらいなら、原田なら安心なのに。
「由芽は原田がすきなの?」
キッチンに由芽が立っている時、思い切って尋ねてみた。もしそうなら、約束なんかやめてすぐにでも原田にくれてやろうと思っていた。
「なんでそう思うの? わたしは要しか好きじゃないよ……今となっては要には迷惑かもしれないけど」
「そっか」
赤い顔をしてうつむきながらじゃがいもとニンジンを鍋に入れる由芽が、いつも通りかわいい。それは理由のないかわいさで、原田が言う通り、由芽を嫌いになったりしたわけじゃない。
いじっていたスマホをこたつの上に置くと、由芽のところに向かう。由芽がこっちを見る。顎を無理に引いて、口づけをする。嫌がる素振りはなく、それどころかいつもと何も違わない。煮物が焦げると由芽が悲しむと思ってコンロのスイッチを止めた。
「由芽……オレがそんなに好き?」
「うん」
「最初はオレの方から由芽を口説いたのにな……」
たまらなかった。そう、最初は好きになってほしくてあれこれした。
暑い中アイスを奢ると由芽はこぼして照れながら、「よくあることなの」と笑った。パスタを食べに行けばいつもトマトソースをシャツに跳ばすのに、頼むのはトマトソースだけだ。一緒に服を見に行くと、不思議なことにいつも同じような白いシャツを手に取って、「これどうかなぁ」と聞いてくる。
――思い出は無理に作らなくたって山ほどあった。
その思い出が背中を押して、また由芽の唇を奪う。拒まれることはなかった。不器用な彼女のキスに合わせながら、ブラウスのボタンを外していく。耳元、首筋から柔らかな胸元まで小刻みに口づけて、由芽の息遣いが変わっていく。
「要……一度でいいから、大島さんと同じように抱いてくれる? どんなんでも怖がらないから」
由芽の瞳から涙がキレイにこぼれ落ちた。ああ、こうやって泣いているのか……。
「玲香とするのは由芽とするのと全然違うよ? オレはあんまりやさしくないし、玲香は見ての通り、何事にも貪欲だし」
「わたしには教えてくれないの? わたしの知らないセックスの仕方」
由芽がそんなことで思い詰めていたなんて、全然知らなかった。由芽の、かわいらしく柔らかい唇から思いも寄らない言葉たちがこぼれ落ちていく。彼女の何を見てきたのか、自分に疑いを持つ。
「オレは、由芽のこと、傷つけたくないよ」
「大島さんとはするんでしょ?」
「……するよ」
「気持ちいいんでしょ?」
「……そうだね。でも、それは由芽とするときの気持ちよさとは本当に違うんだ。オレは由芽にそういうことをしたくない。今のままの由芽でいてほしいから」
「わかんないよ……」
スポーツ或いは狩りのようなセックスを、由芽とする気はなかった。由芽にはいつまでも由芽でいてほしかったし、汚れてほしくなかった。……忘れていたけれど、いつでも由芽はオレの心のいちばんキレイなところにいた。いつまでもキレイでいてほしい、というのは勝手だろうか?
「オレ、最低なんだよ。由芽と手を繋ぐ資格もないよ」
「そんなのわたしが決めることじゃん!」
初めて聞く由芽の大きな声に驚く。何があっても強く自己主張なんてしなかったのに。
下を向いて少し考える。
「……原田はいいやつだよ。あいつ、ずっと由芽のこと好きだったみたいだし、やさしいよ」
「そんなの、わたしが決めることじゃん……」
肉じゃがは途中のまま、ベッドに倒れ込む。由芽の希望通り、お互いがひとつになるような濃厚なキスをする。唇を味わって、口の中を大きくかき混ぜてどこまでが自分なのかわからなくなるまでキスをする。途中、由芽が逃げようとしたけれど、顎を強く掴んで離さない。由芽の中に自分を流し込んで由芽は涙目になりながらオレを飲み干す。
「怖い?」
震えてるんじゃないかと思うほど、いつもより小さく見えた。彼女の中で何かの決意が固まったらしい。
「続けて……」
由芽の覚悟は本物だったと思う。でもオレはやはり彼女をめちゃくちゃにしたいと思えなかった。隠れるようにそっと咲いている花を踏みにじらないように、注意深く、より丁寧に抱いた。
それは彼女には本望ではなかったと思う。だけど、最低なオレにできることはそれくらいのことだった。
由芽の鎖骨の近くに強くキスマークをつける。彼女からキスを求められて、やさしく応える。小さな胸にも赤いキスマークが点々とつく。体中、やさしく愛した。
「怖くない?」
と聞く度に小動物のように小さく縦に首を振る。――由芽は大事な人だ。
と、忘れていたことを、目を塞いでいたことを突然強く思い出す。どうして忘れていたんだろう? 玲香は「やらせてくれる」けれど、たぶん、いつまでもベッドの中だけの関係だ。
由芽と暮らしてきた日々を思い出す。彼女の前髪をかきあげて、その狭いおでこにキスをする。由芽はため息をついて、自由に、いつもと変わらないセックスに感じている。
終わると、由芽を毛布ごとくるんで腕の中にしまう。どこにもやりたくない、という勝手な気持ちが湧いてくる。反面、それがどんなに狡いことかと考える。
でも今は由芽はまだオレのもの、まだここにいてくれる。今夜は捕まえておこう、何処にも行かないように。
その晩はすごく深い眠りに落ちた。
いつもはオレの方が先に起きて、由芽が目覚めるのを隣で待っている。由芽が楽しい夢を見ているのを壊さないように、じっと彼女の顔を見つめている。それがこの前までのオレの「ささやかなしあわせ」だった。
今朝はかなり冷え込んでいたので由芽の部屋の暖房を入れて、自分はダウンを着た。本格的に冬だ。
昼に学校近くの洋食屋で玲香と一緒にランチを食べてキャンパスを歩いていると、玲香が誰かに手を振った。口元に笑みがこぼれているので珍しいと思って彼女の視線をたどると、そこには原田と親しげに歩く由芽がいた。
原田と由芽はオレが知っている以上に親密に見えて、何故か気持ちが焦る。原田は着々とオレたちが別れる日を指折り待っているのかもしれない。
「汐見さん、お久しぶり。元気?」
「お陰様で。大島さんほどじゃないですけど……」
「そう? 相変わらずみたいね? わたし、先に行くね?」
するりと組んでいた腕を抜いて、先を歩いていた例の取り巻きのところに彼女は行ってしまった。
何でも月に一度、連中は集まってパーティーを開くそうで、玲香は最近、その企画で忙しそうだった。オレも誘われたけど、仲間にはなりたくなかったので丁重に断った。断ったことに玲香は嫌な顔をしなかった。
玲香が一行に加わるのを見届けて、向き直ると原田が話しかけてきた。あまりいい空気ではなかった。
「要さ、今は大島さんとつき合ってるの? それともその約束の日までは由芽ちゃんが彼女なの? 聞いた感じだと由芽ちゃんが彼女だって話だよね?」
「……原田には関係ない」
そうだ、原田には関係ない。今はまだ約束の日まで九日残っているし、……正直、どっちと一緒にいるべきなのか、自分自身がよくわからなくなってきた。
「関係あるよ。由芽ちゃんがまだ要の彼女なら遠慮するけど、そうじゃないなら遠慮いらないよな?」
「原田くん、いいよ、わたしのことでケンカしないで」
「由芽はいい子だと思うよ。確かに約束の日までオレは由芽と一緒にいるべきなんだろうけど……。ごめん、いろいろ上手く行かない」
そうなんだ、思った通りに上手くいかないんだ。もっと物事はスマートに、絡まっていても数列のようにいろいろなパターンで解《ほぐ》してやれば上手くいくはずなのに、人の気持ちと数字はこんなにも違う。そして今は「十七」というたわいもない素数に悩まされている。
「わたし、もう講義に行くね」
由芽は原田が呼び止める声も聞こえないふりをして走っていった。
「原田、由芽と本当に親しくなったんだな」
嫌味ではなかった。
「……由芽ちゃんに必要なのはお前だって気づけよ。って、そんなこと言う僕はかなり人が良いよなぁ。なんで由芽ちゃんは振り向いてくれないんだろう。お前みたいな最低な男はまじで似合わないよ」
「そう思うよな。別れるっていうのを抜きにしても、オレには由芽はもったいないよ」
原田は静かに怒っているように見えた。午後の講義の始まる時間は過ぎて、キャンパスを歩く人がぐっと減っている。寒い中、ベンチでコーヒーを二人で飲んだ。
「大島玲香とは由芽ちゃんを一人にしてまで会って、何してんの? そんなに一緒にいたい女だとはオレには思えないけど」
「原田はむしろ、玲香の何が気に食わないの? ……確かに会ってる間はほとんどベッドの中だけど」
「まじかよ? それってセフレって世間では言わないのかよ? どっちがどっちのセフレかわかんないけどさ。でも……そんなことのために、お前、捨てちゃうの? 大事なもの、全部。『セックス』のために別れるとか、バカなのか?」
セフレか……。どう考えても、オレが玲香のセフレだよな。いつ切られるかわかんないってやつだ。
「オレ、バカだよなー。知ってる、自分はバカだって。原田に言われるまでもないよ」
「じゃあ、あいつと別れろよ。由芽ちゃんといることに不満はないだろう? お前が由芽ちゃんの不満、漏らすの聞いたことないぞ。いいか、最後の忠告だから。別れないならバカげた『十七日』なんて無視して由芽ちゃん、押し倒す。その自信はあるよ」
「だろうな。原田に誘われてなびかない由芽はある意味、強いよな」
「なびかないから困ってるんだろ?」
と原田はその後もブツブツこぼした。由芽の本心は、オレに遠慮して原田を遠ざけているだけかもしれない。他の男を選ぶくらいなら、原田なら安心なのに。
「由芽は原田がすきなの?」
キッチンに由芽が立っている時、思い切って尋ねてみた。もしそうなら、約束なんかやめてすぐにでも原田にくれてやろうと思っていた。
「なんでそう思うの? わたしは要しか好きじゃないよ……今となっては要には迷惑かもしれないけど」
「そっか」
赤い顔をしてうつむきながらじゃがいもとニンジンを鍋に入れる由芽が、いつも通りかわいい。それは理由のないかわいさで、原田が言う通り、由芽を嫌いになったりしたわけじゃない。
いじっていたスマホをこたつの上に置くと、由芽のところに向かう。由芽がこっちを見る。顎を無理に引いて、口づけをする。嫌がる素振りはなく、それどころかいつもと何も違わない。煮物が焦げると由芽が悲しむと思ってコンロのスイッチを止めた。
「由芽……オレがそんなに好き?」
「うん」
「最初はオレの方から由芽を口説いたのにな……」
たまらなかった。そう、最初は好きになってほしくてあれこれした。
暑い中アイスを奢ると由芽はこぼして照れながら、「よくあることなの」と笑った。パスタを食べに行けばいつもトマトソースをシャツに跳ばすのに、頼むのはトマトソースだけだ。一緒に服を見に行くと、不思議なことにいつも同じような白いシャツを手に取って、「これどうかなぁ」と聞いてくる。
――思い出は無理に作らなくたって山ほどあった。
その思い出が背中を押して、また由芽の唇を奪う。拒まれることはなかった。不器用な彼女のキスに合わせながら、ブラウスのボタンを外していく。耳元、首筋から柔らかな胸元まで小刻みに口づけて、由芽の息遣いが変わっていく。
「要……一度でいいから、大島さんと同じように抱いてくれる? どんなんでも怖がらないから」
由芽の瞳から涙がキレイにこぼれ落ちた。ああ、こうやって泣いているのか……。
「玲香とするのは由芽とするのと全然違うよ? オレはあんまりやさしくないし、玲香は見ての通り、何事にも貪欲だし」
「わたしには教えてくれないの? わたしの知らないセックスの仕方」
由芽がそんなことで思い詰めていたなんて、全然知らなかった。由芽の、かわいらしく柔らかい唇から思いも寄らない言葉たちがこぼれ落ちていく。彼女の何を見てきたのか、自分に疑いを持つ。
「オレは、由芽のこと、傷つけたくないよ」
「大島さんとはするんでしょ?」
「……するよ」
「気持ちいいんでしょ?」
「……そうだね。でも、それは由芽とするときの気持ちよさとは本当に違うんだ。オレは由芽にそういうことをしたくない。今のままの由芽でいてほしいから」
「わかんないよ……」
スポーツ或いは狩りのようなセックスを、由芽とする気はなかった。由芽にはいつまでも由芽でいてほしかったし、汚れてほしくなかった。……忘れていたけれど、いつでも由芽はオレの心のいちばんキレイなところにいた。いつまでもキレイでいてほしい、というのは勝手だろうか?
「オレ、最低なんだよ。由芽と手を繋ぐ資格もないよ」
「そんなのわたしが決めることじゃん!」
初めて聞く由芽の大きな声に驚く。何があっても強く自己主張なんてしなかったのに。
下を向いて少し考える。
「……原田はいいやつだよ。あいつ、ずっと由芽のこと好きだったみたいだし、やさしいよ」
「そんなの、わたしが決めることじゃん……」
肉じゃがは途中のまま、ベッドに倒れ込む。由芽の希望通り、お互いがひとつになるような濃厚なキスをする。唇を味わって、口の中を大きくかき混ぜてどこまでが自分なのかわからなくなるまでキスをする。途中、由芽が逃げようとしたけれど、顎を強く掴んで離さない。由芽の中に自分を流し込んで由芽は涙目になりながらオレを飲み干す。
「怖い?」
震えてるんじゃないかと思うほど、いつもより小さく見えた。彼女の中で何かの決意が固まったらしい。
「続けて……」
由芽の覚悟は本物だったと思う。でもオレはやはり彼女をめちゃくちゃにしたいと思えなかった。隠れるようにそっと咲いている花を踏みにじらないように、注意深く、より丁寧に抱いた。
それは彼女には本望ではなかったと思う。だけど、最低なオレにできることはそれくらいのことだった。
由芽の鎖骨の近くに強くキスマークをつける。彼女からキスを求められて、やさしく応える。小さな胸にも赤いキスマークが点々とつく。体中、やさしく愛した。
「怖くない?」
と聞く度に小動物のように小さく縦に首を振る。――由芽は大事な人だ。
と、忘れていたことを、目を塞いでいたことを突然強く思い出す。どうして忘れていたんだろう? 玲香は「やらせてくれる」けれど、たぶん、いつまでもベッドの中だけの関係だ。
由芽と暮らしてきた日々を思い出す。彼女の前髪をかきあげて、その狭いおでこにキスをする。由芽はため息をついて、自由に、いつもと変わらないセックスに感じている。
終わると、由芽を毛布ごとくるんで腕の中にしまう。どこにもやりたくない、という勝手な気持ちが湧いてくる。反面、それがどんなに狡いことかと考える。
でも今は由芽はまだオレのもの、まだここにいてくれる。今夜は捕まえておこう、何処にも行かないように。
その晩はすごく深い眠りに落ちた。
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