友人のフリ

月波結

文字の大きさ
上 下
17 / 42

第17話 ゲームオーバー

しおりを挟む
 ドリブルしてシュート、それを拾ってまたシュート。洋のシュートは正確だった。
 あんなに不真面目なように見えて、バスケをする時の洋はいつも目が真剣だ。
 挑むような目で、敵を見据えた。
「三枝だっけ、あの背の低いの藤沢の友だちなんだろう? あいつ、すばしっこくてさ、困ってたんだよ」
 うちのチームを見ると、平均的に背は高いやつらが出るようだ。
 確かに身長では洋は不利だ。
 しかしもし洋の背がもっと高かったとしても、中学でバスケ部に入ることはなかった。洋の家庭の方針は学業優先だからだ。
 バスケをする時間があるなら塾に行け。
 僕も同じ塾に通わされたけれど回数が全然違った。洋の家ではいい大学に進学することが第一で、それ以外は子供の遊びでしかなかった。
 洋はバスケを諦めた。

 そろそろ始めようぜ、と誰かが言って背が一番高い自分がトスをすることになる。
 まぁこれはよく任されたので慣れている。
 僕の手にボールの感触が伝わり、ボールは自軍に回った。
 焦ったように相手チームが素早く展開していく。
 僕はこのチームでプレイした経験がないから、皆の動きを観察する。誰がどの役割なのか、確かめていく。
 そういう話だったので仕方なく、僕はシューターになる。僕の陣地は基本的にフリースローラインからゴール下まで。

 激しい混戦が続く。
 未経験者も多いようで、洋のよく周りを見たパスワークに振り回される。
 押していると思うと押し返される。
 センターラインを割って攻めてくるのは一度ではなかった。
 ――いい感じにパスが回り始める。背の高いやつが集まっただけあって、ノッてくると足が速い。
 示し合わせたようにパスが繋がって僕のところに着く前にシュートが決まった。
 わぁっと観客席から声援が上がる。
 女子たちが声を揃えて「E組、ファイト!」なんて言うから、段々白熱してくる。

 洋は丹念にパスを諦めないで回し、チームメイトに指示を出して走らせた。
 そして自分自身もボールが回ると、器用にガードをくぐり抜けて、何度もシュートを試みた。結構な確率で洋のシュートは決まった。

 休み時間はそう長くない。
 予め決めてあった終了時間はあと五分を切った。
 コートに焦りが走る。
 このままじゃ五分五分だ。同点というのは諦めがつきにくいものだ。

 大きく息を吸って、今井がボールを回した。トリッキーなバウンドパスも出て、試合はすごい速度で回転する。
 コーヒーカップに乗っているような、不思議な酩酊感。
 あと二分のところで洋がシュートを決めた。これで点差は二点。このままじゃ負ける。
 なんでもいい、とにかく勝つためにはボールを飛ばすんだ。
 どういう神様の気まぐれか、運良くボールが回ってくる。汗でボールが滑りそうになる。
 一瞬、溜める。
 ――大丈夫、あんなにやってきたじゃないか。
 洋は最後まで諦めない。僕の前に回り込もうと大きく楕円を描くように走ってくる。
 見つめるのはゴールだけ。
 周りの喧騒が遠のく。
 やれる。今までやってきた通り、大きく伸びてボールは宙を飛んだ。

 ポスッと、存在感のない音がした。
 試合終了の合図。
 時間が止まったように静まった体育館が、絶叫する。
「やった! 勝ったぞ! 今日は藤沢になんでも奢る。お前、マジすげぇ。今まで暗いやつだと思っててマジ悪かった!」
 そうなのか、暗いやつだと思われてたのかと納得していたところに片品が真っ直ぐ走ってきた。
「藤沢くん! すごかった、感動した! あんなにキレイなスリーポイントシュート決めるなんて最高!」
 僕はボールを持った瞬間、あの時、行けると思った。体の中をGOサインが走った。ゴール下に走る洋が目に入った。止められるわけにはいかない。
 それならここで打ってしまえばいい。
 ゴールポストまではとても遠く見えた。
 でもそこまで真っ直ぐな軌道が見えた。それを辿ってやればいい――。
 結果、僕のスリーポイントシュートは見事に決まり、二点差だった点数はうちのクラスに三点入ったことで覆った。

 周囲はすごいことになっていた。
 たかが昼休みのお遊びだったのに、大いに盛り上がっていた。
 片品が走ってきた勢いのまま、僕に飛びついた。危うく真後ろに倒れるところだった。
 皆は僕たちを茶化した。「いいところ見せられて良かったな」と竹岡が僕の肩を軽く叩く。

 僕はその騒ぎの中、C組を見ていた。
 洋は俯きがちにボールを床に何度か弾ませると、四十五度からのシュートを気晴らしのように決めた。
 理央がタオルを持って洋に駆け寄る。
 洋の表情がぱぁっと明るくなって、理央の頭を撫でた。そして二人は僕を指さして、こちらへゆっくり歩いてきた。
「奏、久しぶりのわりに大活躍だったじゃん。負けちゃったよ。絶対勝てると思ったのに、そういう驕りがいけないんだよな」
「たまたまだよ。洋だって僕のシュート率知ってるだろう?」
「シューターのくせにだよな」
「な、だから偶然だって」
「奇跡的な大逆転だったくせに」
 洋は理央の手を取ると、先に体育館を出て行った。試合に負けたはずなのに、どこか誇らしげな笑顔だった。
 早くしないと五限が始まる。
 体育館に向かってくる生徒たちの声がする。
 気が付けば僕の周りにいたクラスメイトの姿もなかった。誰もいない、広い体育館の中で僕は立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屋上でポテチ

ノコギリマン
ライト文芸
中学校の屋上で、カップル下校をカウントしている帰宅部の三人、誕生日に次々に告白されて疲れて果てたままバス停で雨宿りする野球部員、失恋するたびに家に帰るとトイレから出て来る父親にウンザリしている女子―― ――中学生の何気ない日常を切り取った連作短編。 ひとつひとつは独立していて短いので読みやすいと思います。 順番に読むと、より面白いと思います。 よろしくお願いします。

オーバードライブ・ユア・ソング

津田ぴぴ子
ライト文芸
<一部>ホラー要素あり 春先のある夜、二年前の冬に失踪した兄が首を吊っている夢を見た。 御子柴陽とその幼馴染である香西初は、この春に私立菖蒲ヶ崎高等学校に入学したばかりだ。 陽の四歳年上の兄、晴もかつてはこの学校に通っていたが、二年前の冬に突然行方不明になって以降、未だにその消息は掴めていない。 それからというもの、陽の目には幽霊と呼ばれるものが映るようになった。駅のホーム、近所の公園、通学路。あらゆる場所に当然のようにいる「それ」に、陽は好奇心に近いような感情を抱きつつも、自分から関わっていくことは無かった。 高校に入学したからには青春を謳歌しようと息巻く陽は、部活の一覧の中に軽音部を見つける。 放課後、入部届を片手に意気揚々と軽音部の部室である第二視聴覚室に向かった陽と初は、三年生の方保田織、そして和泉惺の二人と出会う。陽は彼らと話す中で、晴も軽音部に所属していたらしいことを知った。 陽と初、織、惺の四人でバンドを組むことになり、大喜びする陽。 そんな陽に、惺は怖い話は好き?と問い掛けた。 この学校の七不思議が本当にあるのかどうか調べたいと言う惺の話に、陽は好奇心に負けて乗ることにする。 バンドは極めて好調な滑り出しを見せたが、一方で織と惺は、陽と初には言えない何かを抱えているようだった。 晴の失踪、菖蒲ヶ崎高校に伝わる七不思議を始めとする数多の怪談話、校内で立て続けに起こる怪異。 それらは全て、この土地が持つ陰惨な記憶に収束していた。 <二部>ホラー要素なし 夏休みを終えて、文化祭に向けて動き出す軽音部の穏やかな日々の話 ※ひとつまみくらいのBL要素、またはBLの匂わせがあります。苦手な方はご注意ください。

ephemeral house -エフェメラルハウス-

れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。 あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。 あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。 次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。 人にはみんな知られたくない過去がある それを癒してくれるのは 1番知られたくないはずの存在なのかもしれない

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

NBAを目指す日本人

らんしゅすてるべんしょん
青春
日本では、身長と身体能力による先天的な不利によりNBAの活躍は基本無理であろうと言われた世界へ、175センチしかないNBAでは圧倒的な低身長で活躍していく少年の物語りである。 《実在する人物の登場あり、架空の人物も存在する、性格などは本人とは少し違う可能性もあるため、イメージを崩されたくないかたはブラウザバックでお願いします》 ※超不定期更新です。

ベスティエンⅢ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

バスケ部の野村先輩

凪司工房
BL
バスケ部の特待生として入学した雪見岳斗。しかし故障もあり、なかなか実力も出せず、部でも浮いていた。そんな彼を何故か気にかけて、色々と世話をしてくれる憧れの先輩・野村。 これはそんな二人の不思議な関係を描いた青春小説。

処理中です...