姉ちゃんの失恋

月波結

文字の大きさ
上 下
12 / 23

第12話 見て見ぬふり――アオイ

しおりを挟む
 カエデからスマホにLINEが入った。
 こんなことは滅多にない。
 わたしはトイレに行っていて直レス付けられなかったことを死ぬほど後悔しながら、LINEを開いた。きせかえのキキララが微笑む。
 ピンクとパープルのスイートな雰囲気が好きでこのきせかえを買った。ピンク一色のマイメロと相当迷ったんだけど、ちょっぴり大人っぽいキキララを選んだ。パステル調で、男の子から見てもたぶん女の子っぽい。
 トークの一番上にカエデのアイコンがあって、うっとりする。やっぱりここにはカエデのアイコンがあるべきだ。何と言ってもわたしはカエデの彼女なんだし。カエデにはわたしの他に代わりはいないんだし。
「?」
『困るから勝手にうちに二度と来ないで』
 ……。困る? そんな素振り、今まで見せたことはない。
 別の女がいるの?
 でもわたしはほとんど毎日、カエデに会っている。他の女が横取りする隙もないくらいに。
 ……? わからない。
 どうしてそうなるんだろう。
 あ、ひょっとして宿題が終わらないのかもしれない。カエデはわたしより成績がずっといいからそんなことで困るなんて考えたこともなかったけど、カエデだって時間が足りないこともあるかもしれない。
 カエデは来年、3年生になったら進学クラスに入りたいと言っていた。宿題以外にも勉強する時間が足りないのかもしれない。
 何と言っても、わたしたちは会えばしまう。そういう仲だから離れ難い。カエデだってわたしと肌が離れるのは辛いだろう。だから、あんなつっけんどんな物言いになるんだ。
 それにLINEなんて文字だけだし、カエデのLINEはスタンプも絵文字も顔文字さえないんだもん。冷たい印象を受けることもあるだろう。
 なんだ、ビックリした。
 驚いたわたしがバカだった。
 カエデを一瞬でも信じられなかった自分が恥ずかしかった。

 翌日、午後イチにカエデの家に行く。
 午後イチの理由は、お昼ご飯のことでカエデに気をつかわせたくないから。だから、13時きっかりにカエデの家に着くように向かう。
 ピンポーン。
 呼び出し音が鳴る。家の中からパタパタと音がして、カエデの声がする。わくわくする。
「来てんじゃねーよ」
 ガチャッ、と音声が途切れる……。
 なんで? 昨日までは普通にドアを開けてくれたじゃない? 「また来たの?」って中に入れてくれたじゃない? 部屋に入ると熱烈な長いキスをいつもしてくれたじゃない?
 わたしたち、ほとんどそのために会ってたじゃない?
 愛してるから。わたしのこと愛してるからめちゃくちゃにしてくれてたんでしょう? 知ってるから、受け入れたのに。なんでそういうこと言うの?
 気がつくとわたしはカエデの家のドアフォンを無表情に連打していた。
右手の人差し指は力の入れすぎで反対側に反り返っていたけれど、不思議と痛みは感じなかった。爪の先が白っぽくなる。指と爪の間が離れそうになる。
なんなんだ一体。何をしてるの、わたしは。ぐちゃぐちゃに汗をかいた顔に、涙が大雑把に流れて広がっていく。
「アオイちゃん」
 なんて幼稚園の時に呼んでくれたりはしなかった。そんなのは甘い妄想だ。カエデは他人に興味が無い子供だった。カエデの興味を引いていたのはたった一人、一つ年上のお姉さんだけだ。
 ……。
 ピンポーン……。
 間延びした音が響いて、わたしの指は壊れる前に止まった。よかった、爪が剥がれてたりしたら、めっちゃストーカーっぽい。その前に終わりにできて、わたし偉い。
 そっか、お姉さんか。一つ年上のお姉さん、なんて言ったっけ……ああ、「ツバキ」さん。カエデにそっくりの真っ白い肌に黒い長い髪。切れ長の涼し気な目元に、グロスを塗らなくても紅い唇。
 思い出した。
 カエデは「姉ちゃんは予備校の夏期講習に行ってる」と言っていた。わたしたちのこと、バレたのかな……? 毎日、お姉さんのいない時間に会ってしてること、バレたのかな? それとも、お姉さんの講習は前期が終わって一日中、家にいるのかもしれない。それならわたしが上がれないのも納得だ。
 そうだ、きっと。お姉さんのことが原因で、わたしはカエデの家に上がれないんだ。
 考えてみたら大事おおごとではなかった。
『来るな』と言われたからビックリしたけど、それならカエデに会いに来てもらえばいいんだ。
 うちだって大丈夫。
 カエデが来た痕跡さえ残さなければ、毎日だって大丈夫。もちろん外で会ってもいいんだし、たまにはデートだっていいかもしれない。
 そう言えば、こんな関係になってから外で一度もデートなんてしたことがなかった。毎日がお家デートだから、気にしたこともなかった。
 何だか胸の奥につかえているものがある。
 それを取り出したら良くない気がして、見て見ぬふりをする。
 今日はとりあえず家に帰ろう。
 泣いちゃったからきっとメイク流れちゃったし、カエデだってあんなひどい言葉使いをして反省してるかもしれない。時間が解決してくれることもある。
 大丈夫、今まで愛されてきたことを忘れなければ。平常心、平常心。
 カエデにはわたし以外、いないんだもの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

【完結】天上デンシロック

海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより    成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
  しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
  ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。 
---
  
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。 ---
 もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。  実直だが未熟な高校生の響介は、憧れのロッカーになるべく奔走する。前途多難な彼と出会ったのは、音楽に才能とトラウマの両方を抱く律。  そして彼らの間で揺れ動く、もう一人の友人は──孤独だった少年達が音楽を通じて絆を結び、成長していく物語。   表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。本編作者( https://taittsuu.com/users/umiusisumi )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

月夜の理科部

嶌田あき
青春
 優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。  そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。  理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。  競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。  5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。  皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。

処理中です...