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三章 ランの誇り
第三十話 エピローグⅠ.Ⅱ
しおりを挟むエピローグⅠ・そしてその後
本物の町長さんは町長館三階の鍵のかかった部屋に監禁されていたのだそうだ。ニシェランが消えた時館や街を包んでいた炎はぴたっと消えてしまったらしい。
私が気絶している間に、館にいた皆は町長さんや私の事が気になって三階にあがったのだそうだ。そこに鍵のかかっている部屋があり、何やら部屋からゴツゴツと音がするのでドアを打ち破った所、本物の町長さんが監禁されていたのだという。
町長さんは結果的には無事だったわけなのだけど、十日あまり監禁されて、最低限の食事しか与えられてなかったせいでかなり痩せていたそうだ。
一方サラマンダー達に襲われた街はと言うと、事が起こり次第すぐ館にいた街の人達が知らせまわってくれたお陰で皆で消火活動をする事ができ、それほどの被害は出なかった。
あの時ベイロンドの森近くで魔女狩りの有志達を止める為にあの場に残ってくれていたアバンテはどうなったか――。
あの場で有志隊の説得を試みたアバンテ。だけど彼等にとってアバンテの必至の説得もあまり効果はなかったらしい。しかしその時、その様子を水晶球で見ていたコリネロスは、ルックさん達の止めるのも聞かずにその場所まで来たのだと言う!
有志隊の人達はどうやら、町長さんに化けたニシェランに猜疑心を強める魔法をかけられていたらしい。その事を見抜いたコリネロスは、解除魔法を使って彼等を正気に戻した。そうしてコリネロスの説明とアバンテの説得があって、彼等は街に帰る事にしたのだというのだった。
私は次の日の昼頃、アバンテと再会する事ができた。
私達は互いの無事を確認しあうと、喜んで抱き合った。草の匂いのする栗毛色の髪。アバンテ、本当によかった!
ニシェランが精霊界に帰り、本物の町長さんは町長館の前で演説をした。街が何者によって燃やされようとしたか、そして今回の事件が起きたのは一体何が原因であったのか…。そして私とリィディは町長さんに街の皆に紹介された。
「…彼女達はシェナを救ってくれた。その事について厚く礼を述べると共に、今我々が発達させてきた文化の他に、精霊、そして魔法という世界があった事を私達は知り、認めなくてはならない。
全てを昔に帰すという事はきっと不可能だろうが、それらと共存してゆける方法を街の皆で考えていきたい」
私はこの言葉が一番印象的だった。
街の炭坑は一部を閉鎖し、切り開いた山に緑を植えてはぐくんでいく。
町長館の焼け焦げた大広間はそのままにしておき、この事件があった事を忘れない、戒めにするのだと言う。
そう、確かに全てを昔に戻すなんていうのは無理だ。だけど精霊達と一緒に生きてゆくという努力をする事ができるなら、きっと今回のような事は防げるだろう。
*
「きっとまた、遊びに来てよ」
「またうちに泊まってってよ。絶対だよ」
二人は私の手を取ってそう言ってくれた。
セラノとアバンテだ。
「ええ、きっと来るわ。セラノとアバンテも遊びに来てよ。きっとそのうち招待するわ」
「え!本当?」
「本当よ!」
「僕、ランに聞いていっぺん魔女の塔っていうの行ってみたかったんだ」
「ええ、案内するわよ!」
「楽しみにしてるね。ラン」
「うん、それじゃまた!」
「またね!ラン」
「またな!ラン」
私とリィディはセラノの宿屋にもう一泊した後、朝方リィディのほうきに乗ってベイロンドの森、魔女の塔へと帰る所だった(ルピスの使いの力が無くなったら私はほうきの飛翔の魔法が使えなくなっていた)。二人に手を振りながら街は遠く、小さくなっていく。
「……」
色々な事があった。
初めての魔女の仕事をする為に水晶球の予見に従ってこの街に来た。セラノやアバンテに会い、ニシェランに会い、魔女の試練の真実を知って一度は魔女をやめようと思った。だけど…。
様々な体験をし色々考えもした。今回の事が終わってそれで何もかもが私の中で解決したというわけじゃない。
ルピスは…私達魔女が信じていた女神ルピスは、私には必ずしも正しい正義や秩序の女神ではなかった…。
もうしばらくして落ち着いたら、私はこの事をリィディやコリネロスにも話そうと思う。彼女達は何と言うだろうか。
――でも魔女を続けている者達なら、少なからず感じていた疑問だったと思う。私達は運命に翻弄されているだけの存在ではない。私達なりに魔女だという事に何かを見出し、そして続けている。悩みながら時につまづきながら、少しずつ答えを出して行くのだ。
私はその答えの一端に気付きかけたばかり。でも今はそれでいいと思うし、当たり前なのだと気付いた。
疑問や何かにぶち当たるというのはあって当然なのだ。大事なのはそれを認め、なんとかしようと努力しようとする事なのだと思う。その事に皆との出会いで気付く事が出来たのだ。
垂れ込めた雲は嘘のように去り、空は青々と晴れ渡っている。私達はその空をずっとずっと飛んで行った――。
*
エピローグⅡ・魔女の晩餐
――そして半年が過ぎた。
私はその間コリネロスに見てもらって魔法を猛勉強した。今ではのろのろとだけど、自分の魔力でほうきで空を飛ぶ事もできるようになった。
冬になりベイロンドには厳しい寒さが訪れる季節。森の巨大な常緑樹には重たそうに雪が積もっている。遠くに連なるピネレイ山脈も頂きを真っ白にしていた。
「――ラン、あなた魔女の晩餐出るんでしょ?」
ある日の夜、リィディが暖炉の前で黒いふさふさの毛皮の襟首のついたコートを脱ぎながら言った。
最近彼女は長く綺麗な黒髪をポニーテールにしてまとめている。髪を寄せ上げられて首元に覗く白いうなじが同じ女の私にもなまめかしい。うーんセクシーだ。
「うん、出るわ。リィディもコリネロスも出るのよね?」
私は台所で夕食の支度をしながら答えた。今日の夕食は私が全て作る当番になっている。最近リィディに料理も教えてもらっているので、自分では大分料理が上手くなったのではないかと密かに自負している。メインディッシュの鶏肉の赤ワインソース煮込みが柔らかそうに煮えていた。
先日塔に三通の黒い封筒が届いた。
それは私とリィディ、コリネロスにそれぞれ当てられた手紙だった。内容は、魔女の晩餐に私達を招待するというものだ。
魔女の晩餐と言うのは全国の魔女を集めて四年に一度、ある場所で行われるパーティーらしい。当然私はこの晩餐というのはまだ一度も出た事が無い。
リィディやコリネロスに聞く所によると、各国の魔女が作る秘伝の料理や芸があり、そして魔女同士が三日三晩楽しく語らい合う、魔女にとっての最大の娯楽らしいのだ。
私もそれを聞き、断然楽しみにしていた。あまり会う事のない他の場所の魔女達と会い、積もる話をするのがとても楽しそうだ。ベイロンドの魔女の塔の私達は晩餐会に参加を決めていた。
「ええ、楽しい晩餐会になりそうね」
「うん――」
おおよその夕食の支度を終えた私は調理器具を台所に置くと、窓に寄って外を眺めてみた。
森の空に多くの星が瞬いている。リィディも隣にやって来た。
「晩餐会か…」
「どうかしたの?ラン?」
「――いつかさ、いつか!私達魔女だけじゃなくってさ、友達とか、知り合いとかさ、皆一緒に晩餐会ができたらいいよね」
セラノとアバンテ――皆を呼んで、魔女だとか人間だとかの垣根無く――そう、精霊達も――皆で楽しめたらいい。リィディはフフッと微笑を漏らして遠くを見た。
「――そしたら私は…コリンズを呼ぼうかな…」
「――――!」
私は満面の笑みを浮かべてリィディを見た。それに気付いたリィディは少し照れくさそうに外を見続けた。
「…そんな日が来るといいね、ラン」
「うん――来るわ。来るわよ。きっと――」
「そうね――」
お互いに笑いあった。
空にほうき星が見える。幾筋ものほうき星が長い長い尾を引いて輝き、消えていった。
「リィディ――ッ、ラ―――ンッ!ちょっと手伝っておくれ――っ」
階下から聞こえる、しわがれた声。
「呼んでる」
「ふふ、さっ、行こうか」
「ベイロンドの魔女」END
短編外伝掲載予定。
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