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三章 ランの誇り
第二十四話
しおりを挟む「ラン、そこの木の脇に私を降ろしてくれるかい?」
「アバンテ!何馬鹿な事を言ってるの」
「馬鹿な事でも何でもないよ。ランやリィディさんが行ったら今の状況では捕まってしまうかもしれない。
かといってこのまま素通りすればラン達の住んでいる魔女の塔に残っている、コリネロスっていうお婆さんの魔女も危険かもしれないんだろ?」
それらは、全く私が心配していた事全てではあったのだけども。
「シェナの街に住んでいる私なら…わけを話せばもしかしたらわかってくれるかもしれない」
「…でもそんな!彼等は少年団の意見だって聞き入れてはくれなかった。だからここまで来たのよ?」
「ラン達が塔に行っている間に僕達話し合ったんだ。もし有志隊が予定通り街道を森へ進んできて、ばったりと会ってしまったら僕達は何をすべきかって事をね」
セラノがリィディに捕まりながら言った。
「そう、もしそうなったらあたし達のうちどっちかが降りて、彼等を説得しなきゃいけないわねって決めていたのよ。少年団の皆が説得に行ってくれたと言うのに、あたし達だけ何もしないわけにはいかないからね。
それにこれはあたし達の街の問題でもあるもの。街を危機から救ってくれた女の子を魔女狩りになんてさせたくない…あたしもランのあの魔法を見た時正直言って恐れてしまった。それは本当に申し訳なくて、間違った事だって思っている。
本当のランは優しくて、友達を大事にしてくれる女の子だもの。だけどあたしの街の人達がランを恐れるというのもあたしすごく嫌なのよ。きっと彼等もあの時のあたしと同じ様に怯えているだけだと思うの。話せばわかってくれるって思う。
あたしの街の人達、そして炭鉱夫は本当は皆気のいい人達なのよ。信じてもらえるかしら、ラン」
「――それは、それは…知ってるよ。でも…少年団の皆の事は気にならないの?」
「セラノにまかせるよ!それにセラノにはシェナについたら、町長にランの事を掛け合う橋渡しの役をしてもらわなければならないわ。だからここはあたし一人で何とかするから」
アバンテはこともなげに言っている…けど…。
「それなら私もここで降りて、彼等を説得してみるわ」
リィディがそう言った。しかしアバンテは首を振って、
「リィディさん、それは駄目よ。今言ったようにあの人達を説得するのは街の人間の役目だと思うもの。それに、あなたが彼等の前に出たら…」
リィディはアバンテを少し驚いた顔で真っ直ぐ見て、彼女の言いたい事を理解したようだった。
「そう…ね…わかったアバンテ」
「ありがとうリィディさん」
「そんな…わかったって…リィディ…」
「ラン、アバンテはあなたが一度望んで、くじけたと思っていた事の橋渡し――協力をしてくれると言うのよ。あなたの望みはあなた一人がどんなに望んでも、かなわないじゃないの。アバンテもまた、あなたと友達でい続けたいと言ってくれているのよ」
リィディに諭されて、私はそう…街の大好きな人達とずっと仲良くしたいのだという事を望んでいるのだと思い返した。アバンテはその初めの一歩として、有志隊の人達を説得してくれると言うのだ。
「……」
(ポン)
「だーいじょうぶよ、ラン。あたしはきっと上手くやるから、あんたも上手くやるんだよっ!」
アバンテは満面の笑顔を浮かべて私の背中を軽く叩く。その顔は丘の上のアジトでアバンテと初めて会った時、楽しく話をし合った時の笑顔だった。
私は胸が一杯になった。
「さっ、そこに降ろして」
私はアバンテの言われるままにほうきを降ろした。アバンテは身軽にほうきを飛び降りる。
「アバンテ、頼んだよ!」
セラノがアバンテに声をかけた。
「まっかせなさい!セラノ、あんたこそちゃんとランを助けてあげなさいよ!」
「アバンテっていつも僕の事頼りない奴だと思ってるんだよなぁ」
「あははは。んなことはないって!」
アバンテはセラノを見てケタケタと可笑しそうに笑った。リィディと私もつられて笑う。
「それじゃあアバンテ、お願い!」
私はほうきに乗りながら右手を差し出した。アバンテもその手を取り固く握手する。
「あんたも頑張って。ラン…セラノ、ランをしっかり助けるんだよ!」
「わーかってるってば!」
「アハハハ…」
何だかこの二人のやり取りを見ていると、セラノのお父さんとマーカントさんのやり取りを思い出す。マーカントさんもよくセラノのお父さんにこんな風に冗談を言っていたっけ。
「…それじゃあ…」
「ああ!ラン、全部終わったらまたアジトで遊ぼうよ。約束だよ」
「――ええ、約束!」
ほうきが高く宙空に上がるとアバンテは小さくなった。大きく手を振っている。私達も手を振りながら、ほうきをシェナへと向かわせた。街道の上空をほうきが抜ける時、行列の喚声が聞こえた。そして後方から彼等に叫びかける女の子の声。
「――頼りになる娘ね」
風に目を細めながら、リィディが呟いた。
その言葉に私とセラノは大きく頷いたのだった。
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