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第四章 星屑の夜
呼び出し
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ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い。ギルドに復帰した
フィオレ: 女魔法剣士。今回の依頼の書記を務める
パジャ:暗黒魔導師。療養中
ヴェロン:ティルナノーグのギルドマスター
エピローグ 3
ヴェスカード達がバレーナを後にしてニ週間程経った頃――。
【朱の街】王都ベルクフリートの街道近く、森の中に位置するティルナノーグベルクフリート支部の石造りの塔に山男とフィオレは呼び出された。
「おおヴェス、こちらですよ」
門を開けると療養中である導師パジャが奥の部屋へと招き入れると、奥まった部屋には一人の老人が腰掛けていた。
「ヴェスカード、フィオレ、今回の依頼ご苦労だったな」
現ギルドマスターのヴェロンは立ち上がると山男とフィオレの肩に手を掛け労いの言葉をかけた。
「ギルドに戻ると聞いた。嬉しいぞ」
既にパジャから話を受けていたヴェロンは二つ返事で山男の帰還を承諾した。依頼に出る前ギルドへの復帰をヴェロンに尋ねられていたが、その時既に山男の返事は見抜かれていた様な気がする。多少気恥ずかしい心持ちだった。
だが歯を見せて和かに男らしく笑うその笑顔は、歳は取ったが山男が若い頃憧れた魔法戦士のそれと幾分も変わらぬ。改めて帰ってきたなという思いがした。
「ああ――また世話になる――して、今日は何用なのだ?」
山男は隣に立つフィオレと顔を見合わせた。
山男は再びギルドに戻り所属支部への手続きや登録、傷の手当てなどそれなりにやる事が山積みであり、フィオレもまた今回の依頼の書記として記録をしたためる仕事や経理も担当していたのでその間を縫っての来訪であった。
「なに、貴方達に二つ伝えたい事がありましてね」
導師がヴェロンと顔を見合わせ、悪魔の様な笑みを浮かべた。途端山男の胸に不安がよぎる。こういう時のパジャは碌な事を言わない。
「ヴェスカード、お前にフィオレの渡し人となってもらう」
ヴェロンが言った。
「…………」
「…………」
暫し二人は沈黙して顔を見合わせ……。
「「エ、エエ――ッッ!!」」
と声を上げた。
「そんなに驚く事でも……フィオレもそろそろ渡し人が必要ですしね」
パジャがやれやれという顔をして言う。
「いっいや、しかしお前……フィオレは女魔法剣士だろ? 俺が魔導を使えない事は知っているだろう?」
「そうですそうです!」
フィオレもヴェスカードの脇から顔を突き出して力を込めて言った。……なんだかそれはそれで少し腹立たしい様な気もするが。
「魔導は引き続きパジャとミーナに見てもらうよ。お前にはフィオレに剣技と、そして冒険者としての判断や依頼をこなす上での様々な場面での気構えだとかを教えてやって欲しいのだ」
「――ウム……まあ、そうだな……フィオレお前、確かにもう少し剣技の方は磨かんといかんなとは俺も思っていたぞ」
山男は頬を掻きながらフィオレを見て言った。
「な――……うぅ、ハア……ヴェスさんが……私の渡し人かぁ――ハァ……」
フィオレが白い頬を紅潮させて困った顔をする。
「お前なんだその言い草は! 俺だって渡し人なんて久しぶりだし――あ、そうだお前この際だからちゃんとギルドの報連相もしっかり教えるからな! こないだみたいな事があったら困るし!!」
「ハァ!? またそれを言うんですか? ヴェスさんてそう言うところありますよね? ちょっと意地悪というか、大人気ないって言うか! セバスチャンさんを見習ってくださいよ!?」
「グッ――お前! ……パジャ、ヴェロン、しかと引き受けたぞ! コイツは俺がしっかり教育する!」
まだ何か言いたげなフィオレの頭を押さえて真面目くさって山男が言った。ヴェロンとパジャは笑いながら、
「クク……まあ二人ともこないだの依頼でお互いよく知り合えた訳だし、いいではありませんか……フィオレ? もしヴェスから不当な扱いを受けたらいつでも我等に安心して相談してくださいね」
「ハイ! そ――させて、貰います!!」
フィオレは手を払いのけつつ言った。
自分は結構大人しい性格だと思っていたのに、何故だかこの斧槍使いに文句を言われると言い返してやりたくなるのが不思議であった。
「それでな、もう一つの件だが――」
ヴェロンが切り出した。
「クリラの容体がかなり良くなってきた――」
*
その治療院はベルクフリートの外れ、閑散とした公園の隅にひっそりと居を構えていた。
受付の者にギルド名と名を告げると、クリラは三階の個室にて治療を受けているのだと説明があった。
もし豚鬼の追跡があれば毒に侵されたクリラも狙われる可能性が考えられた為面会をヴェロンによって禁じられていたが、豚鬼の野望も潰え容体も良くなっているという段階になって面会が許されたのだった。
山男は伝え人となったフィオレを伴って静かな階段を上がっていった。
階段を上がりきるとダイヤル式で開くドアがあり、受付で伝えられた番号に錠前を合わせると奥へと続く通路があった。
「厳重ですね」
フォオレが薄暗い通路を見渡して呟く。
「ウム、三階には病室は一室しかないそうだ。金額はかかるがクリラの為に安全であろう部屋をとったヴェロンの計らいだな」
通路の曲がり角に人の気配がある――。
それは壁に背を預けたセイラであった。
「獅子斬り殿か」
セイラが腕を組みながら山男を見て言った。
「セイラ、来ていたのか」
山男は多少驚いた様子だった。
「……フン、クリラさんは俺の先輩だしな。それに送った解毒薬の効果も気になった……」
「――そうだったな。まこと、お前が身体を賭して解毒薬を探し当ててくれたからこそだ。俺からも礼を言うよ」
山男がそう言うとセイラは目線を外し腕を組んだまま視線を落とした。
「クリラさんの為にやった事さ。ギルドの同胞だからな」
「そうだ――な――」
ヴェスカードは豚鬼の砦潜入の時にセイラに言われた事を思い出していた。後ろのフィオレはその雰囲気に口を挟むタイミングを失いハラハラとした顔をしている。
「お前の傷はいいのか――豚鬼に」
「ミーナが献身的に治癒魔導を施してくれたお陰で日常的な生活には支障がなくなった――あいつには感謝をしてもしたりぬ」
「そうか――ならばよかった」
「あの時――豚鬼の首領バルフスの腕を登った時――あの時のお前達の一矢がなければ俺は死していたやもしれぬ……本当に、本当に助けてもらったよ、セイラ」
山男は姿勢を正すとセイラに深々と頭を下げた。
「――戻るのだろう?」
「ン……?」
「……再びギルドに、ティルナノーグに戻ると聞いたぞ。ならば……ならば我等は同胞だ。同胞を助けた事に、そこまで深い礼をされる言われもないさ――」
言うやセイラは腕を解き右拳を山男に突き出すのだった。
「ハッ――!」
山男は小さく笑って右拳を突き出し、突き合わせた。
セイラは、この端正な顔をした野伏はセバスチャンにこそ礼儀を尽くすが本来はこのような、己の本音を簡単には晒せぬ性分なのだ――その男が、自分が認めた男に対する不器用な行動がこれなのだ。
「改めて――宜しくな、セイラ。また共に依頼に行く事もあるだろうよ」
「……ああ――その時はまた、共に戦おう。獅子斬り殿――さあ、クリラさんが待っている」
セイラは通路の奥の部屋を指した。
*
個室のドアを開けると一人の看護師? がいた。
長くサラリとした癖のない金髪を背中の後ろまで伸ばしている。歳の頃はフィオレよりも上な様だが、顔立ちはぞくりとするような妖艶さを身に纏っている。幼さが残る様でも、大きな娼館の首位を務める様な堂々たる大人の色気がある様でもあった。歳を当ててみろ、と言われれば一番答えにくいかのような女であった。
「クリラは――」
山男が聞くと濃い紫色のローブを纏った女が少し頭を下げた。
「あら……貴方が噂に聞こえたヴェスカードさん、そしてそちらがフィオレさんですね。私は血の魔導師フレイ・ウィッチウッドと申します。ギルドマスターに命ぜられてクリラさんの看病を……クリラさんはこちらです」
妖艶な笑みに一瞬部屋に入った目的を思い出すと、フレイと名乗る女の背中をついて奥に通された。不快ではないが、強く鼻に残る香水の匂い。フィオレは普段香りの極めて弱い香水をつけている様だったから、余計に気になったのかも知れなかった。
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