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第四章 星屑の夜
フィオレのギルド記録
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ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い。
フィオレ: 女魔法剣士。バルフスの最後の賭けに打ち勝った。
リュシター:バレーナ防衛隊隊長。
モンド: 侍の若者。古神ルディエの依代とされていた。
セバスチャン:騎士風の甲冑剣士 。モンドの渡し人。
エピローグ 1
愛の月。青鳥の日――。
『バレーナ失踪事変依頼』のギルド書記をティルナノーグ女魔法剣士フィオレ・ウェストマールが担当する――。
――あの時、街の皆さんが援軍に駆け付けて来てくれた事によって防衛隊の士気は大いに上がった。
私達は壁上からの援護射撃を充分に受けつつ豚鬼軍と戦う事ができ、さしも暗示に掛けられていた豚鬼等も次第に暗示が解け自分達の劣勢を理解していった。
(あっアンタは! アンタ等はもう敗けなんだ! 頼む、引いてくれッッ!!)
長刀使いヴァントは命を救ってくれた豚鬼をその戦の中で再度出会い、彼を退却させた。その豚鬼は豚鬼軍の中で一定の階級にいたらしく、事態を飲み込むと全軍に撤退を呼びかけたのだと言う。
かくしてバレーナ防衛隊は豚鬼軍の野望、そして侵攻を食い止めたのだった。
(アンタ等ティルナノーグか! 古豪だな……! 素晴らしい戦ぶりだったな!)
戦の後冒険者斡旋会が引き連れて来た冒険者の内我等のギルドを知る人に声を掛けられた。何やら有名ギルドの人だったみたいだけれど……。
あの時、初めて邪神リブラスとルディエが現世にその魂を顕現させた時――バレーナ領主館と豚鬼軍で光の柱が噴き出した。それぞれの邪神達はその地下深くに封印されていたのだと言う。
なんとバレーナの封印地は領主の玉座の真下だったらしく――リブラスが解き放たれた時、新領主は光に包まれてそのまま消え去ってしまったらしいという報告を近習がしている……。
新領主と言えば、その後領主の寝室から敵首領バルフスとの文のやり取りがあった形跡が見つかった。
彼は豚鬼軍の脅威に晒され続けるバレーナを見限り、住民と街を売り渡す代わりに莫大な報酬と自身の身の安全を約束してもらっていたらしい。
厳重な筈のバレーナに豚鬼が忍び込み住民を攫って行く事ができたのも、秘密裏に城壁を抜ける隠し道をいくつか領主が用意していたからという事だ。
突如消え去ってしまった新領主の跡は新領主の弟君が、領主が再び戻るまでその座を継ぐことになったのだそう。この人は新領主がその座を継いで後日影者にされていた人物だったのだそうだ。
元々バレーナの防備をより固める政策を進言していたらしくて、街の市民の事もよく考えていたらしい(だから兄領主に煙たがられていた)。なので戦の後リュシター防衛隊長とは更なる防備体制の件や市民からの見廻りや防備強化の点で政策の方向性が一致し、リュシター隊長もこれまでの功績がしっかりと認められたのだそうだ。
程なくして豚鬼砦から白旗を掲げた三匹の豚鬼がやって来た――。
リュシター隊長、防衛隊、弟領主の前で何も武具を持っていない事を確認された豚鬼は、ヴァントを助けた豚鬼だった。この豚鬼は人語を解す事ができ、その拙い言葉から語った事はこうだ――。
『元々バレーナと豚鬼砦は不可侵関係であったが、ある日現れた黒づくめの魔導師によって首領バルフスは双子の邪神の復活方法を授けられたのだ。
そして首領の暗黒魔導と邪神の力の強烈な暗示によって豚鬼等が統率、洗脳された。
だが邪神も首領も討たれた今、豚鬼等に侵攻の野望はもう無い。豚鬼砦以西には近づかない事を誓約するので豚鬼軍を追討する事は許してくれ……』
という事だった――。
防衛隊や近習からはその豚鬼等を処刑しろという怒りの声もあった。リュシター隊長や弟領主はどうすべきか考えていた様だったけれども。
(おっお願いします! この豚鬼は俺の命をも救ってくれたのです! 俺の命に代えて、悪さはさせません! だから、だからこいつ等の言う事を信じてあげてください!!)
その場にいたヴァントが突然隊長と弟領主に土下座をしたんだ。咄嗟の事に、皆何も言えなかった。ヴァントの事だからきっと考えての行動じゃなくて、衝動的な行動だったとは思うんだけれど、その真剣な態度もあってか、弟領主とリュシター隊長はその提案を受け入れたんだ。勿論、城付きの魔導師が誓約を違えぬ様魔導の戒めを施したけれども。
豚鬼は幾ばくかの財宝をバレーナに納めた。なんだか、ヴァントは件の豚鬼に豚鬼特製の菓子を個別に貰っていたけれど……。
――そうして諸々の後始末が済み、我々ティルナノーグは街を救った者達として弟領主から多くの恩賞を授けられた。この恩賞は街の役職衆から用意された分も含まれていた。
その後リュシター隊長に我々は防衛隊詰所に呼び出され。
(此度は豚鬼等の野望を食い止めて下さった事、誠に感謝致します。戦にて命を落とした者達も報われる事でしょう――我が防衛隊詰所に、英霊達と共に貴方達の名前を刻んでも宜しいか?)
と言われた。ヴェスさんは恥ずかしそうに頭を掻き、
(構わんよ。此方も全てが予定通りいかず、防衛隊にも迷惑を掛けてすまなかった――もし、もし我等の名前を刻んでくれると言うのなら――もう一人だけ)
ヴェスさんの言葉にリュシター隊長は不思議そうな顔をして。
(クリラという、我がかつての戦友が――我等が故郷であるこの街を襲う野望から街を救いたいと、初めに想ったのだ。彼奴はその野望を食い止める為の手掛かりを得る為に単身豚鬼砦に潜入し――リリを救い……その過程で傷と毒を負い今死線を彷徨っている……)
と言うヴェスさんの真剣な顔にリュシター隊長は快諾してくれた。リュシター隊長って本当に街を護ると言う職務に真面目で、それでいて信頼の出来る人だなあと私は思う。
戦士としてもかなりのものだったから、防衛隊長と言う職務がなければギルドにスカウトしたいくらいだ、とパジャさんは呟いていた。
そして毒に蝕まれているクリラさんの元には、セイラさんが身体を賭して探し当てた解毒薬が早馬で送られている。効果があり回復すると良いのだけれど……。
そうして――我等ティルナノーグの者達も依頼の後始末をし、ギルドへ帰還しようと言う日の前夜――。
*
モンドは深夜、ふと眼を覚ました。
戦でセバスチャンに邪神を祓われた後、寝込み幾度か目が醒めては再び眠りに落ちるというサイクルを繰り返していた。
邪神に精神を蝕まれた影響かと思われた。
身体が火照っているように思えてモンドは外の空気を吸おうと思った。寝室から廊下に出ると、『大鹿の毛並み亭』は照明も最低限に落として静まり返っていた。
中庭に出ようとして今日が新月だった事に気付く。柱の間から見える夜空には幾多もの星屑が瞬いていた。
「!」
中庭中央のベンチに一人の男が腰掛けていたのだった。
「セ――セバスチャンさん……」
「おお……モンドか――身体の方は良いのか……」
鎧兜を脱ぎ軽装になっていた剣士は振り返り言った。
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