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第四章 星屑の夜
雷撃の狂戦士
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ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い
パジャ:かつて魔王と異名をとった暗黒魔導師
スッパガール: 斧戦士の女傑。アウグスコスに勝利した
モンド: 侍の若者。古神ルディエの依代とされた。
ヴァント: 鬼付きの長刀使い。モンドを追う
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聞き慣れた声に我を取り戻し前方を見やると、巨大でおぞましい姿へと変貌したバルフスの口から熱線が放たれてヴェスカードへと向かっていた。
「しまっ――!!」
斧槍をかざすがそれで防げるとも思えぬ。だが、その熱線は山男の前で見えない壁に阻まれて飛散した。
「ヌウッ!」
伝説の双子の古神リブラスの怨気宿る仮面を装着したバルフスの口元が忌々しそうに歪む。
「ヴェスッッ!!」
山男の肩を後ろからパジャが掴んだ。
「魔法障壁か、すまぬ」
「それはいいですが、まずい事になりました!モンドが古神に身体を依代とされてしまった!」
「ああ……俺にも見えた」
「ここは私が受け持ちましょう。ですから、貴方もモンドを取り戻す為に左陣に走って貰いたい!」
「だが……!」
「左陣にはスッパガール、ヴァント、そしてセバスチャンが向かっていますが疲弊しています。それだけではきっと足りない!それに、古神が完全にモンドを乗っ取れば防衛隊にも死者を出すでしょう。もしモンドが人間を殺めたとなれば、彼は帰る場所を失ってしまう――!」
導師の表情は真剣だった。
「……それはわかる、わかるが……!お前一人で、あれと?」
そうしているうちにも魔法障壁には幾多もの魔法弾が撃ち込まれている。今にも砕け散りそうであった。
「いらぬ心配ですよ、ヴェス!!私は【魔王】ですよ?まさか私の実力を忘れた訳ではないでしょう」
そう言う導師の表情はいつになく厳しく――いや、表情だけではなく、普段あり得ぬ様な幾多もの荒々しい皺が眼の下、頭の上に走り始める。山男は至近にいてその圧を感じていた。
「……承知した。だが、だが――無理はしすぎるなよ、パジャ。口の端から血が……漏れている」
そう言われて導師は袖口で血を拭う。パキパキという音がして、次第に老人の魔導師はその骨格を変えていく様だった。
「フフ……さっきワインを飲みましたからね……さあ!駆けて、駆けて下さい!そして、貴方達も一旦前線へと戻って下さい。ここは危険になります!」
「しょ、承知しました……!」
導師に言われヴェスカードの後を付き従っていた勇猛な武者達も何も言えず踵を返した。目の前で悪魔の様な姿に骨格を変えてゆくパジャを、同じ人間とは思ぬ様な気持ちであった。
「すまぬ、モンドを取り戻したら必ず戻る。死ぬなよ!パジャ!!」
山男が左陣を目指し手綱を引いた。敵陣を横殴りに駆けながらモンドを目指さなくてはいけないから、いつまでも感傷に浸ってはおられぬ。
「フッ……というか、戻った時にはこちらはもう終わっていると思いますけどね――モンドを戻すには、恐らく仮面――あの仮面を破壊する事です!武運を祈ります!」
導師が錫杖をかざすと山男を紅い光が包んだ。身体の芯から燃え上がる様な闘志が湧いてくる。短時間の剛力を得る魔導であった。
「オオッ!!」
言うや山男は魔法銀の斧槍を振るいながらモンドを目指すのだった。
*
『我等の首領バルフス様!そして一人の人間を依代として古神はついに蘇ったぞ!』
『これで我等はあの忌々しい城壁に引き篭もる人間共を根絶やしにできる!!』
その神の奇跡を目の当たりにし、多くの豚鬼共は雄叫びを挙げた。悲願である古神の復活が成ったからである。
「クッ……!!此奴等!!」
それまで士気高く豚鬼達の進軍を食い止めていた防衛隊だったが、ここへ来て豚鬼達は息を吹き返し、狂気の様な士気の上がりようを見せていた。ずるずると前線を押し上げられてゆく。
中陣に陣取るは首領バルフス。そして敵右陣には古神に今持って身体を乗っ取られしモンドがいるのだった。
「ウ、ウ……あ――」
仮面に頭部を穿たれた元人間の侍であったその顔には、邪悪な怨念宿る仮面が装着されている。
初めその仮面に抗って取り外そうとする侍だったが、やがてその手はダランと力無く落ちた。すると糸の切れた操り人形の様であったそれは、別の何かの力によって動き出したかの様にムクリと顔を起こす。突如両の手を開くと掌から紫雷が走り、落とした愛刀と豚鬼の剣を引き寄せたのだった。
『我等が古神ルディエ!憎き人間共を殺してくれエッ!!』
周囲の豚鬼達がモンドを囲んで囃し立てた。
「ウ、オオ――ッ!!」
モンドが右手の愛刀を天に突きかざすと、その剣先から放射状に紫電が放たれる。
「ギャアッ」と言う豚どもの悲鳴が聞こえると周囲の十匹程の豚鬼が黒焦げになって地に臥したのだった。
『わ、我等の神……』
周囲の豚鬼にどよめきが走り、その元人間の周りを後ずさった。
(熱い――熱い……)
それは自分の精神――自我が黒い焔に覆われ、小さく、燃えてゆき無くなって行くかのような感覚であった。
消えたくない、死にたくないと抗うが、その四肢の先はとうに焔に包まれて感覚がなくなってしまっていた。
(お前が生きていても誰もお前を愛してはくれぬではないか――)
頭に響く、声。
(ち、違う……俺は、俺は……)
モンドの自我は胸を掻きむしり苦悩した――。
*
(ホウ……まだ人間の精神が残っておるな……!)
古神リブラスと同化した豚鬼の首領は、双子の神であるルディエの状況を距離を置きながらも知覚していた。
(同化を早める手助けをしなくてはな)
バルフスが念じると超常的な力は仮面を通じてモンドの装着する画面へと伝達されたのだった。
(――周りの者が許せぬのなら、己が苦しむのなら――)
(その全てを滅ぼし、殺せ――!!)
「ウ……アア!!」
自我を包む焔が一層強くなるのを感じたモンドは、苦しんだ様子を見せながら馬を走らせた――その先は、防衛隊の方角だった!
(殺せ、殺せ!!己を蔑む者を滅するのだ!!)
豚鬼の陣を掻き分けながら防衛隊を目指すモンド!
握る二刀を再びかざそうとする――雷撃の準備動作!!
すると、ギャリインという金属音を立てて剣を合わせる武者が現れたのだった。
――ティルナノーグの長刀使い、ヴァントであった。
「グゥッ!!」
「クソォ!やっと辿り着いた! モンド!おいモンド!何やってんだよお前ェ!!」
目の前に居る剣士に見覚えがあった。
よく――望まぬのに、よく話しかけられた様な、そんな気がする。
「正気に!クソ、戻れよな!モンドォ!!」
叫びながら長刀で撃ち込んでくる。煩い。この剣士の言葉は酷くモンドであった者をイラつかせ、そしてどこか胸をチクリと傷ませたのだった。
撃ち合いながら右の手の愛刀で刃状の電撃を飛ばす。が、それを上手く躱す長刀使い。業を煮やして二刀で十文字に斬りつけると、それをヴァントは長刀で防ぐのだった。
「クッ……!あ、あれ~……お前、いつもの方が……まだ、強いんじゃ……ないの?剣に、精細が……ないぜッ!」
「グガァ!!」
ニヤつく(様に見えるが強がっている)その顔を消し去りたいと、十文字の刀身に雷撃を走らせる。雷撃は長刀を伝わり、ヴァントの身体を焼いた。
「おわぁッッ!グ、グ……!」
咄嗟に剣をモンドの二刀より離した為にダメージは甚大ではなかった。ヴァントの判断が素晴らしく速かったのだ。が、雷撃による熱はヴァントの革鎧や衣服から煙を立てている。
(クソ!クソ……!モンド!どうしちまったんだよ、お前!!)
攻めあぐね半円を描く様にモンドを伺うヴァント。どうすれば……。
「モンドッ!ヴァント――ッ!!」
暴風の斧戦士、スッパガールも駆け付けた。
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