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第一章 クリラの依頼
お伽話
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ヴェスカード: 獅子斬りと呼ばれた斧槍使い
フィオレ: かつて王立図書館で働いていた女魔法剣士
パジャ:老人の暗黒魔導師
スッパガール: 斧戦士の女傑
セバスチャン:騎士風の甲冑剣士
モンド:侍見習いの若者
セイラ:優男風の野伏
ミーナ:美しき回復術師
ヴァント:快活な長刀使い
*
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「――この古文書は四百年前この辺りの一部地方に伝わっていたサンヴァルド語――そのものではないですが、その更に源流……の古代語で書かれているような気がします。一部文章や単語の配列がサンヴァルト語に似ている部分が。ヴェスカードさん、この街の図書館は大きいのかしら?」
元王立図書館の司書は何か一つでも多く手がかりを見つけようと、目を皿のように古文書を見ながら聞いた。
「あ、ああ――あるぞ。バレーナの、この街の図書館は無論ベルクフリート程ではないが、なかなか大きい」
「そうなんですね、もう閉館時間になっているでしょうが、明日図書館に行ってサンヴァルト語の辞典と共に見ればもう少し読み解けるかもしれません」
フィオレが言うと、誰とは無しにおぉ~という声が漏れた。人知れずパジャはその様子を眺めると悪魔のような微笑みを浮かべた。
「かみ――神、蘇り、鍵……ってとこかね、これがオークの企みの手がかりか……」
セイラが形の良い顎に手を置きながら言った。
「神様が蘇るって……なんなんスかね、具体的に……それじゃまるで、お伽話みたいな――気合い入ってますね、その古文書」
「しかしあの隘路のオーク共、恐らくこの古文書と鍵を探していたのではあるまいか。となればやはり彼奴等にとって必要不可欠なものなのであろうな……」
「ともあれ、フィオレが図書館に行けばもう少しわかると言うのですから明日朝イチで行くべきでしょう。更なる手がかりが掴めるかも知れません」
「ハイ、明日開館時間と共に行きますわ。サンヴァルト語の辞典があるといいのですけれど――」
「結構だが、誰かを連れて行った方が良いな。依頼はもう始まっている。一人で行動は避けた方がいい」甲冑剣士が言う。
「あ、ハイハイ!俺、フィオレ姐さんの護衛します!」
名乗りを挙げたのは長刀使い、ヴァントだった。
「え、お前行くの?お前フィオレが可愛いから一緒に行きたいとか思ってない?」セイラが言うと隣のミーナに耳をつままれた。
「ちっ、ちゃいますよ!セイラさんやだなあ!ていうか俺も図書館で見たい本ありますし!武器の図鑑とか!」
「君ね……遊びに行くんじゃないんだよ?依頼の手掛かりを見つけに行くんだよ?わかる?……これまたやっちゃったね、ペナルティ腕立て百回だよ」
「すっすいませんしたッ!今やります!腕立て!」
「……酒場で腕立てやってたら変でしょ。自分の部屋で後でやりなさい」
「は、ハイわかりました!絶対やります!」
どうやらセイラはヴァントの渡し人であるようだった。
モンドが聞こえぬように舌打ちをする。
「では明日フィオレに図書館で古文書を調べてもらうとして、他の者は聞き込みなどをしてオークの動きなど違和感を感じている者から情報を集めましょう」
「そうさな……俺は今夜のうちにクリラが依頼を受けたと言うエマ婆に話を聞きに行ってみよう。実際オーク砦に攫われたリリにも話を聞けるとよいのだが」と山男が言うと、
「それなら私も同行します!」
「フィオレか……いや別に俺一人でも構わんぞ。エマ婆は俺も子供の頃知っているしな」
「あのう、セバスチャンさんの言っていた事聞いていました?単独行動は避けた方がいいって――それに、一人で話を聞くより二人の方が何か手がかりが掴めるかもしれないじゃないですか」
「ム……確かに、それもそうか。ではそうするかな。パジャ、では今から行ってくる」山男は導師にそう告げると席を立った。
「そうしてもらえると助かります。我々は酒場でも情報を集めてみますよ」
「ウム、頼む。ではフィオレ行こう」
「ええ」
そうして二人は『大鹿の毛並み亭』を出てカンテラを片手にエマ婆の家へと向かった。
*
「そういえばフィオレ、お前凄いのだな」
道すがら山男が後ろを歩くフィオレに声をかけた。
「え?」
「いや、先の古文書の解読よ。ああ言うのは俺はさっぱりわからぬ。よく一部でも読み解けたものだと感心した」
「……いえ、古い言語学は私の興味の範疇でもありましたし、たまたまといえばそうなのですが……」
「いやいや、ただ闘うというだけの依頼ならばまだしも、こうして手掛かりを探っていかなければならぬ依頼ではやはりお前のような者がいなくてはならぬのだと感じた」
カンテラの光に彩られてオレンジ色に光を受ける山男の振り向き姿が妙に気さくで嬉しそうだった。なんとなくそう褒められると嬉しくも気恥ずかしい気持ちになる。
「ま――まだ一部ですから、明日図書館で必ずもう少し詳細を掴んでみせます」
頬が僅かに暖かくなっているのを悟られないと良いなと思った。
「まあ戦闘はまだまだだがな、ハハハ。おいおい覚えていくがいいさ」
……やっぱり一言余計なんだよなあと聞こえぬようにため息をついた。
「確か……このあたりだ」
記憶の片隅を掘り起こしながら大通りから何本も路地を入っては抜けてゆく。少し静かな住宅街まで来ると、山男は脚を止めた。
記憶の通りにエマ婆の家はあった。
山男の記憶の中では婆さんというかおばさんだったが、目の前の家は頭の中で思い描いていた家よりも古びていた。
トントン……とドアをノックする。
ややあってなんだい?誰だい?という聞き覚えのある声が聞こえてきた。そうして扉が三分の一ほど開かれた隙間からエマ婆が顔を覗かせた。
「エマ婆さん、久方ぶりだな。俺は……」
「あ、あんた……ヴェス坊やかい?」
「そうだ。祖父のアイスクレイスと近所に暮らしていた、クリラの幼馴染のヴェスカードだよ」
「まあ……まあ……覚えとるよ!ああ、大きくなったねえ!」と老婆は顔を綻ばせた。
ヴェスカードは簡潔にギルドのことフィオレの紹介、話せる範囲のクリラの依頼について説明をした。
「――それですまないのだが、今回の件の根本を解決すべく、実際に攫われてしまったリリにも話を聞きたいのだ。どうかお願いできないだろうか」
と山男が問うと、途端にエマ婆は難しい顔をした。
「そうかい――本当ならば今はあまり初対面の人に合わせたくないのだけれど、クリラには世話になったし、悪いことをしてしまったからねえ――だけれども……」
「だけれども?」
「今、リリは攫われたショックでね、殆ど口が聞けなくなっちまって――何か役に立つ話が聞かせられるかどうか……」
と、皺のある手をさすりながら横を向いて言った。
「本当に――すまぬ――」
山男はそれ以上は何も言えなかった。
*
「リリ……くん、遅くにごめんね……?少しだけ、話を聞かせて欲しいの」
奥の部屋のソファに腰掛ける孫のリリは、初対面の人間二人に戸惑うような顔をしていた。少しでも緊張を紛らわそうと、フィオレが膝立ちで目線の高さを合わせる。
「リリくんを攫って行ったオークはどこから入ってきたのかわかる?」
「……」
「オークは砦でどんなことをしているか、リリくんは見た?」
「…………!!」
何かを思い出し、怯えたような顔――!
フィオレが後ろに離れて立つ山男の顔を心配そうに見る。刺激せずに、優しく――という山男のジェスチャー。
フィオレは静かにうなづいた。
「――どうして、どうして――リリくんが攫われたのかな?何か心当たりは――ある?」
フィオレが出来うる限り優しく、ゆっくりと問うと――。
「……」
リリは蒼白な顔にみる間に涙粒を浮かべた。
ハッハ、と、息を上手く吐きたいのに吐けないような、そんなもどかしそうな、苦しそうな顔をして――。
「――だけ、じゃない……」
「え――?」
「僕――だけじゃ……ない。他にも――他にも何人もの攫われた人が――いた、よ――」
涙を流しながら、やっとの思いでリリはそう口にした。
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