ギルド・ティルナノーグサーガ 『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

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第二章 我が儘お嬢様

父の想い

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父の想い


登場人物:

グラウリー:大柄な斧戦士ウォーリアー
ラヴィ:女性鍛治師ブラックスミス
バニング:暗殺者アサシン
マチス:老練な短槍使いフェンサー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師ブルーメイジ
トム:商人
ギマル:部族出身の斧戦士ウォーリアー
ベル・ブルジァ:豪商リドルトの姪



「みなさま…少しお話があるのですが…」
 老執事は青ざめた面持ちで部屋に入って来た。
「爺や…?どうしたの」
「はい…私、お嬢様が伏せっておられる間にグラウリー様達に、ここにいらっしゃるまでにどんな事があったのかお聞きしました…。その中で幾つか気がついた事がございまして…」

「気付いた事…何なんですか」
「はい…実は…確証はないのですが、道中皆様方を襲ったという黒衣の怪物。その怪物は、旦那様…ジル様に強い恨みを持っていると言ったのでございますよね…」
「確かにそうだが、何か心当たりでもあるのですか」

 老執事は追憶にふける様に眼を閉じた。
「そうです…この事は、旦那様からずっと秘密裏に誰にも漏らさぬよう仰せつかった事なのですが…。
お嬢様、これからお話します事はもう十年以上も前のお話です。ある日の夕暮れ時、いつものように部屋に篭り仕事をなされていた旦那様は、ふと私めを部屋にお呼びになりました…仕事をなさっている時は絶対に他の者を部屋に入れない旦那様が、珍しく部屋に来いと申されたので、私は何か火急の御用があるものかと緊張して伺いました…。部屋に入りますと、旦那様は椅子からお立ちになり閉め切った窓から庭園でお遊びになっているお嬢様のご様子をそっと覗かれてこう申されたのです。

『爺…ベルには、あの娘には我が家の血の運命など無縁でいて欲しいと私は思う』
『は……』
『忌まわしい鎖に繋がれるのは私だけでいい。リドルトとも血縁関係を絶った今、あの娘には普通の女子としての生き方をして欲しいのだ』
『……』
『……だがもし、もし、私が…何者かの呪いによって命を失うような事があれば…即座にベルをどこか遠くの街に住まわせて、この家とは何の関係もないように手配してほしい』
『……呪い…とは……?…わかりました』
『すまぬな。爺。そしてこの鍵…先祖代々伝わりし家史と秘術の記された書物の書庫の鍵は、お前が管理して、私が死んだ時はそのまま処分してくれ』
『……は……!』

――……と……」
 老執事は口に出してはならぬ禁断の言葉を口にしてしまったように、額にあぶら汗をにじませながら語った。


「――何の話……それ……爺や……?」
 ベルは初めてその人を見るかのような眼で長年仕えてきた老執事を見やった。
「わたしの家の、血の運命って何?伯父さんと血縁関係を切ったって、何よ!?」
だが老執事は今度は貝が口を閉じてしまったかのように何も語らぬ。ぶるぶると震える、少しばかり自分の思う侭ならぬようになってき始めたしわがれた手をスーツのポケットの中に入れると、やがて一つの銀色に輝く古ぼけた鍵を取り出したのだった。

「………」
 それをそっとベルの手を取り、掌の中に置いた。
初め意味がわからぬといった顔のベルは、しかしハッと老執事の顔を見ると――。
「……爺や…あなた、何か知ってるの……。わたしの知らない…何かを――」
老執事は瞑想するように閉じた眼を開き、真正面にベルを見た。
「……こちらでございます…」
 右手で部屋のドアを指し示すと、彼はゆっくりと部屋を出て行ってしまった。ベルは足早に老執事の後を追う。ティルナノーグの戦士達もそれに続いた。


 執事が歩を止めたのは、館の書物庫であった。
広い室内に背の高い本棚が何列も並び、棚には古い本がぎっしりと並べられて埃をかぶっている。
「ここに何か、あるって言うの!?」
「………」

 老執事はとある壁際の本棚の、中段ほどの分厚い本を数冊取り出すと近くの机に置いた。するとその取り出した本のあった場所に、小さな縦長い穴があった。
ベルはその穴と執事から受け取った鍵を見比べ、鍵穴の大きさが一致している事に気がついた。彼女は吸い込まれるようにして鍵を鍵穴に差し込み、右に回した。
小さな、錠の下りた様な音がすると、突然本棚の奥が四角形に少しだけ出っ張った。

「………」
 皆が見守る中で、ベルはその出っ張りをそろそろと引っ張り出した。その出っ張りは丁度机の引き出しに似ていて、引き出してみると意外に長い。
「この本は…?」
 机の上に置かれた引き出しの中に入れられた、古そうな数冊の本を見て誰かがつぶやく。


『アンデット生成とその駆使法・不老不死への研究』
『第Ⅲ紀錬金精製学』
『家史』

 ベルはそれらの本のタイトルを見ると、途端に不安気な顔をして救いを求めるような眼で老執事を仰いだ。それは信じられないものを見たような、恐れおののく少女のような眼だった。

「これを……」
老執事はその中の一冊を取り出すとベルに手渡す。その本には 『ジルの日記』 と書かれていた。
(父様の日記…!父様が日記をつけていたなんて、初めて知った…)
「ベル!」
「えっ?」
本を開こうとしたベルの手を、咄嗟にトムが止めた。
「な、何…トムさん…?」
「え…、あ、いや……」
トムは我にかえったように手を放し、眼鏡をずり上げる。丸い眼鏡のレンズが曇った。
「………」
 ベルは少し怪訝そうな顔をすると、ごくりと唾を飲み込んで表紙をめくったのだった。
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