ギルド・ティルナノーグサーガ 『ブルジァ家の秘密』

路地裏の喫茶店

文字の大きさ
上 下
16 / 32
第二章 我が儘お嬢様

ブルジァ邸を目指して

しおりを挟む
15
ブルジァ邸を目指して


登場人物:

グラウリー:大柄な斧戦士ウォーリアー
ラヴィ:女性鍛治師ブラックスミス
バニング:暗殺者アサシン
マチス:老練な短槍使いフェンサー
トッティ:若い鈍器使いメイサー
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師ブルーメイジ
トム:商人
ギマル:部族出身の斧戦士ウォーリアー
ベル・ブルジァ:豪商リドルトの姪



「さて…そろそろ出発しましょう!皆準備は大丈夫よね?」
 ベルは紅いマントをボタンで留めると皆にそう言った。グラウリー達は補充した道具や食料などを各自荷物に入れ、再び旅に出る体制を整えたのだった。

 彼等は道中のルートを話し合って決めた。まず、水晶球の秘宝を持って行くベルの父親がいる場所、ブルジァ邸が最終目的地となる。ブルジァ邸はバルティモナ山の山をいくつも越えた西方に位置しており、ルナシエーナからは北西、大陸の一番北西に位置するトールズという都市から少し離れた場所にあるのだという。その周囲を広大な「トールズの原始林」に囲まれたトールズは、その豊富な資源を活かした商業、独自の文化が発達しており、海岸に面している事から貿易、また辺境への連絡船も発達している。都市の規模としてはベルクフリート、ルナシエーナ、バレルナ、タリム・ナクに続く五番目の都市である。

 ルナシエーナからは一応街道が通ってはいるが、その道中には彼等が懸念すべき要因が多々あるのだった。まず第一にルナシエーナの周囲にはあやかしの森と呼ばれる、トールズの原始林程ではないにしろ広大な森が広がっている事。そしてそこを抜けたとしても暫くすると再び深く、闇濃く原始の生態系を残すトールズの原始林がある。普段ならば深い森とはいえ、彼等にとってそれほど懸念すべき場所ではないのだが、今はかの黒衣のリッチが残した言葉『もう貴様等にとって安らかな夜など無い』という言葉が気に掛かっていた。夜闇こそ彼等闇の眷属が最も活性化する時。
 そして深い森というのは魔の力が及びやすい場所でもある。もしかしたら再び黒衣のリッチは彼等の前に姿を現そうとしているのではないだろうか。

 トールズの原始林に入るまではあやかしの森を迂回して進んだ方が良いのではないか、という意見もあったのだが、そうするとルナシエーナを抜けるまでに1.5倍以上もの時間を食ってしまう事になってしまう。さらに月の暦が変化するのを待ち、転移門を使ってトールズ北東の転移門まで瞬間移動するという意見も出てはいた。これはしかし、暦の関係でルナシエーナからトールズまで馬で旅するよりも若干の時間を食ってしまうという理由もあったが、それよりもベルの心情的な面を考えて実行できぬ計画であった。

 それが恐らく一番安全かつ確実な方法なのだとはいえ、いつ死神がその枕元に訪れるかわからぬ父親がいるというのに、暦が変わるのを待ってルナシエーナに留まり続ける。というのはベルにはあまりにも残酷すぎる選択であった。秘宝をリドルトより譲り受けた以上彼女は一刻も早く病床の父に秘宝を持って行きたいのである。というわけで結局彼等の取る道筋は馬を用いてあやかしの森を抜け、街道沿いにトールズの原始林に入り、ブルジァ邸を目指すというものになるのであった。普通の速度ならば旅人が三週間で着く道程。それを時間の無い今回の旅ではもう少し速度を上げてゆくつもりだった。



 彼等が馬を十頭用立ててルナシエーナ正門を出たのは午後の四時過ぎ。街は不夜城へと変化を見せ始める寸前の、昼と夜の入り混じりあう黄昏時にも似た二極の様相を重ねて見せており、街の中央の尖塔が幾つも連なる大聖堂の巨大な鐘は、あと一時間で街中にその音を響かせるのである。
「さあ、行くぞ。皆、もうひと頑張りだ!」
 グラウリーの号令がこだまする。馬の嘶きが聞こえ、そして蹄の音。彼等は日の落ちようとしている方角へと馬を走らせた。

                               *

 少しでも早く。
その想いがパーティーを占める。
ベルの父親を救う為一刻も早く秘宝を届けなければならなかったし、そしてルナシエーナの周辺に広がる黒々とした森を少しでも早く抜けなければならなかったからである。

 ルナシエーナの門を出てから一時間ほども走ると、そのあやかしの森は見えてくる。トールズの原始林のように現代の生態系とは遠く離れた人智の及びにくい場所ではないにせよ、それでもルナシエーナに住まう人々がこの森をあやかしの森、として忌み嫌うのは、太陽の光がほぼ遮られると言ってもよいほど木々が深く密生している部分が多々ある為、そしてその暗がりの部分に魑魅魍魎が跳梁跋扈すると考えられ――実際にしていた――ていたからであった。

 秋の日はつるべ落とし――と例えられるように、この時期、日が沈むのは早くなってきている。
森の入り口まで来るとトムは懐中時計――この時代とても高価なものだった――をちらりと見た。時刻は十七時十七分。太陽は森の彼方へとその姿を隠しつつあり、空は次第に赤味を増して目にも鮮やかな黄昏時を作り出そうとしていた。

「ここからは速い速度では走れない。皆一列ずつになって進んでいこう。先頭は俺が、二番手はバニング、そしてトッティ、ボケボケマン、その後ろにベル、マチス、ラヴィ、トム、ギマル、しんがりをエイジ、頼めるか?」
「OK、まかせときな」
 あやかしの森には一応の街道が通っており、それは北のベルクフリート、トールズへと続く道などに通じてはいる。しかしその街道は森の中を走るものであり、迂回して作られた新道からすれば石畳の質も、道の幅もランクダウンする旧道であった。
 しかし彼等はこの旧道を抜けて行かなければならない。グラウリーはここで全体的に戦士を均等に配置し、どの角度、距離にでも柔軟に対応でき、判断力、計算力に優れたボケボケマンら魔道師を前列と後列に配置した。

 旅の定石を言うならばこれから暗くなる時間帯に森に入ろうとはせず、入り口付近で一夜を明かすのが当然である。そうも言ってられぬ事情ゆえに、だが一抹の不安を胸に抱きながらグラウリーは進軍を指示した。
森はうっそりと暗く、あちらこちらから虫や鳥の鳴き声が響く。彼等は時間的にはまだ若干早いながらも松明に火をつけると、暗がりへと進んでいった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...