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第2章 希望と憎悪
黄昏時の警告
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その日の黄昏時。
太陽が沈みかけるころのこと。
――俺は、善機寺颯に呼び出されていた。
当日に退院したのは知っていたが、あの実技試験で完膚なきまでに叩き潰してしまった相手だ。
蒼穹城や刀眞と一緒に来て、報復されると考えていたのだが……。
彼はひとけの少ない中庭の片隅で、1人で俺を待っていた。
「来たか」
「待ち伏せか何かか?」
「俺1人だ」
周りを見回して、らしい人が居ないことを確認する。
正直、信用していない。
恨まれる理由を作ってしまったのは、事実だ。
「で、用は?」
「まずは謝りたい」
――これは、予想が少しズレたな。
俺はてっきり、彼が今回の事を受けてこちらに恐怖心を抱くか。
『無名のくせに粋がるなよ』と牙を剥くかどちらかだと、予想していたんだが。
謝られることは全くしていないのに、何故謝っているんだろう?
「正直、見くびっていた。全くの無名だ、火威アマツの腰巾着かなにかだろうと考えていた」
「いや、それはいいんだが……」
こちらも正直言えば、もっと強いと思っていた。
そう考えれば、分かるような気がする。アマツだって「彼の本領は別だ」と言っていたし、使わないのは何故だろうと。
手加減してくれていた、という事なのだろう。
――いや、無名で全くのデータがない、警戒対象ですらない人物に本気を出す人なんて【八顕】にはいないか。
アマツだって、蒼穹城だからこそああやって暴走してしまったんだし。
相手が一般性となら、能をさらけ出さないのは当たり前か。
「それで……、話はそれだけ?」
それともまだ、伏兵を隠してる?
俺はまだ、警戒していた。
「いや。本題といっては何だが……、亜舞照一行と接触したと風の便りで聞き及んだから、情報を渡そうと思っている」
「情報?」
こちらの推測も、少々外れた物になる。
――わざわざ謝ってくるのだから、もう蒼穹城と決別するだとか。
そういう話を期待していたんだが、そうではないらしい。
「そもそも、まだあちらにいるつもりなんだろ? 敵、の情報を信じると思うか?」
「それは――、もう少し見極める時間が欲しい」
見極める必要もなく。
善機寺の事なんてこれっぽっちも眼中にないよ、と言いたくなる。
医務室の職員の会話を、小耳に挟んだのだ。
――火威アマツの部屋には見舞いが絶えないが、善機寺颯の部屋には誰も来ないと。
見舞いに来ることがすべてではないし、もしかしたら別の方法で心配されているのかも知れないが。
それでも、彼の顔を見ていたらそれもなさそうだ、と言うことが分かる。
明らかに、迷っている。
「独りだった俺に話しかけてくれたのは、彼らが先だったんだ。……それがどういう意味なのか、知りたい」
「……そうか」
結果は分かりきっているが、刺激することもないだろう。
俺が必要以上に唆した結果、逆に思考が偏っても面倒なだけだ。
「情報を聞くよ」
「終夜の令嬢は、遼に――いや、刀眞家に狙われている」
――こっちは、ついに予想だにしなかったな。
そもそも、俺と古都音さんの間には未だ何もない。
たった数分、顔を合わせただけだ。
「それが、俺に何の関係があるって?」
「実を言えば、昼の対面を偶然目撃した」
ああ、そういうことか。
俺は彼の言葉を理解する。
確かに、昼に……。
古都音さんに割いた時間は、ちょっと不自然だったと俺も思う。
「まだ、何にもならないと思うけど」
「【三貴神】を初め、彼女ら側の【八顕】は終夜と一緒に居るが、直接的な干渉が出来ない。
蜂統アガミは【顕現】に欠点を抱えているため、防御は出来ても反撃が出来ぬ」
弱点を丁寧に説明してくれる彼の言葉に、説得力を感じて。
俺は頷くほかなかった。
「俺は進や遼の本質を信じたいが、これだけはどうしようもない。
現状、なんとか出来るのはゼクス・ファーヴニル、お前だけなんだ」
太陽が沈みかけるころのこと。
――俺は、善機寺颯に呼び出されていた。
当日に退院したのは知っていたが、あの実技試験で完膚なきまでに叩き潰してしまった相手だ。
蒼穹城や刀眞と一緒に来て、報復されると考えていたのだが……。
彼はひとけの少ない中庭の片隅で、1人で俺を待っていた。
「来たか」
「待ち伏せか何かか?」
「俺1人だ」
周りを見回して、らしい人が居ないことを確認する。
正直、信用していない。
恨まれる理由を作ってしまったのは、事実だ。
「で、用は?」
「まずは謝りたい」
――これは、予想が少しズレたな。
俺はてっきり、彼が今回の事を受けてこちらに恐怖心を抱くか。
『無名のくせに粋がるなよ』と牙を剥くかどちらかだと、予想していたんだが。
謝られることは全くしていないのに、何故謝っているんだろう?
「正直、見くびっていた。全くの無名だ、火威アマツの腰巾着かなにかだろうと考えていた」
「いや、それはいいんだが……」
こちらも正直言えば、もっと強いと思っていた。
そう考えれば、分かるような気がする。アマツだって「彼の本領は別だ」と言っていたし、使わないのは何故だろうと。
手加減してくれていた、という事なのだろう。
――いや、無名で全くのデータがない、警戒対象ですらない人物に本気を出す人なんて【八顕】にはいないか。
アマツだって、蒼穹城だからこそああやって暴走してしまったんだし。
相手が一般性となら、能をさらけ出さないのは当たり前か。
「それで……、話はそれだけ?」
それともまだ、伏兵を隠してる?
俺はまだ、警戒していた。
「いや。本題といっては何だが……、亜舞照一行と接触したと風の便りで聞き及んだから、情報を渡そうと思っている」
「情報?」
こちらの推測も、少々外れた物になる。
――わざわざ謝ってくるのだから、もう蒼穹城と決別するだとか。
そういう話を期待していたんだが、そうではないらしい。
「そもそも、まだあちらにいるつもりなんだろ? 敵、の情報を信じると思うか?」
「それは――、もう少し見極める時間が欲しい」
見極める必要もなく。
善機寺の事なんてこれっぽっちも眼中にないよ、と言いたくなる。
医務室の職員の会話を、小耳に挟んだのだ。
――火威アマツの部屋には見舞いが絶えないが、善機寺颯の部屋には誰も来ないと。
見舞いに来ることがすべてではないし、もしかしたら別の方法で心配されているのかも知れないが。
それでも、彼の顔を見ていたらそれもなさそうだ、と言うことが分かる。
明らかに、迷っている。
「独りだった俺に話しかけてくれたのは、彼らが先だったんだ。……それがどういう意味なのか、知りたい」
「……そうか」
結果は分かりきっているが、刺激することもないだろう。
俺が必要以上に唆した結果、逆に思考が偏っても面倒なだけだ。
「情報を聞くよ」
「終夜の令嬢は、遼に――いや、刀眞家に狙われている」
――こっちは、ついに予想だにしなかったな。
そもそも、俺と古都音さんの間には未だ何もない。
たった数分、顔を合わせただけだ。
「それが、俺に何の関係があるって?」
「実を言えば、昼の対面を偶然目撃した」
ああ、そういうことか。
俺は彼の言葉を理解する。
確かに、昼に……。
古都音さんに割いた時間は、ちょっと不自然だったと俺も思う。
「まだ、何にもならないと思うけど」
「【三貴神】を初め、彼女ら側の【八顕】は終夜と一緒に居るが、直接的な干渉が出来ない。
蜂統アガミは【顕現】に欠点を抱えているため、防御は出来ても反撃が出来ぬ」
弱点を丁寧に説明してくれる彼の言葉に、説得力を感じて。
俺は頷くほかなかった。
「俺は進や遼の本質を信じたいが、これだけはどうしようもない。
現状、なんとか出来るのはゼクス・ファーヴニル、お前だけなんだ」
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