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第2章 希望と憎悪

僅かな家族の時間

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「正直、一家揃って呼び出された必要は無かったな」

 書類を1枚みせれば済む話だったと、父さんは言った。
 学園長との話が終わり、俺はいま両親を見送るために学園門へ向かっている途中だ。

 最後あたりは思いっきり「」をして居たらしく、父さんと学園長だけで話をしていたんだけれど。
 大体どういう話をしていたかは、見当がついている。

 すくなくとも――神御裂(かんみざき)、火威(ひおどし)、そして亜舞照(あまて)の名前は確認出来た。
 ということはだ、奏鳳(かなほ)が俺の事を少しは知っていたことも、納得は行く。

 恐らく、彼らの協力を経て、俺は今。
 ――ゼクス・ファーヴニルとして存在できているのだろう。

「難しい顔をしているな、ゼクス。話を変えよう」
「ん?」
「昨日、善機寺ぜんきじ家の長男をボコボコにしたって?」

 あー、うん。そうだよ。
 俺はとりあえず頷いておく。

 ちょっと色々やり過ぎた感は出たが、まあ自分の強さを見せつけることには成功した。

「でも、本当は事情をアマツに聞いたんだ。だから、本当に彼が自分の力を出し切っていたかどうかは分からない」
「……十中八九、本気ではないだろうな。善機寺家は初代から、どちらかと言えば【顕現唱術ソーサライズ】の家系だ。
 そもそも【八顕】でも中立だったはずだが、どう間違って蒼穹城なんかと……」

 父さんも、難しい顔をし始めるが。
 直ぐに我慢できなくなったのか、噴き出している。

「それにしても息子の成長を実際に見てみたかった」

 ――正直、怒られるかとビクビクしていたんだが、父さんはぴくぴくと笑いを堪えようとしていたらしい。
 そんな父さんとは逆に、カナンさんは心配そうな顔をしている。

「ゼクス、無理はダメだからね?」
「大丈夫だよ。供給を絶つくらいなら、そんなに顕現力を使わないって分かったし」

 そう言っても、カナンさんの表情は訝しげだ。

「そんなに心配するなよ。俺達の息子だぞ?」
「――そうね。そういうことにする」

 その後、アマツがあと1日くらいで目覚めるだろうと言うことを聞き、見送りに行った後は病室に駆け込むことにする。
 冷撫、めちゃくちゃ心配してるからな……。

 ちなみに学園は、休校になった。
 完全な休校というよりは、1年生だけ休みということだそうだ。
 本当は試験場でする予定だったガイダンスを、派手にぶっ壊されたおかげで丁度良い会場が見つからないんだと。

 ――すこし、1年生のカリキュラムも変わるんだろうな。

「人間関係はどう? 八顕学園って、7年もあるから大変よ」

 確かに、八顕学園は高校+大学までの期間がある。
 ――ちょっと失念してたな。

 いや、最初から期待はしてないか。
 俺はとりあえず、奏鳳と知り合った事を伝えておくと、母さんは頷いた。

「あそこら辺の人たちとは交流を持った方が良いかもね。立場的にも、蒼穹城・刀眞と対立しているから」
「ほー」
「しかも、将来のことを考えるなら。あの周りにはフリーの可愛い女の子が多い!」

 意気揚々と、しかも大真面目に、相当ゲスな事を言いおった父さんは、に母さんの回し蹴りを喰らって地面に崩れ落ちていた。
 日本史上最強の【顕現者オーソライザー】が、倒れ込んだのを見て。

 ――さっきの格好いい父さんはどこに行ったんだろう、と首を傾げざるを得ない。
 母さんはそんな父さんを一瞥して、ふんと鼻を鳴らし。
 もう一度、こっちに向き直る。

「冗談はさておき。ゼクスは名前を隠していたとしても、【三劔】八龍家の長男っていう身分なの。将来のことは、この7年で決めるんだよ」

 怖え。
 ――超、怖え。



 ……とか言っているうちにもう学園門である。

 俺がここから出ようとするには許可証がいるからね、今は外出できない。
 ――と、父さんが俺の方を振り向いた。

「ゼクス、5月の会議は出るか?」
「11家の? 何故?」
「楽しそうだから」

 うちの父さんは愉快犯か何かかな。
 普段とのギャップと相まって、強烈なものを感じる。

「ま、理由はさておき考えといて。どうせ日曜だろうし休みだろう」

 はいはい、適当に手を振る。
 でも、会えて気分が晴れやかになった。

 冷撫の所に、行くか。
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