四煌の顕現者:ゼクス・ファーヴニルの復讐譚

鶴生世乃

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第1章 邂逅

意志の暴走

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 地面が陥没するような凄まじい音がして、俺は目を開けた。
 ――今さっきまで、何をしていたっけ?


 ……ああ。
 確か善機寺ぜんきじに圧勝して、後は何もないし寝てたんだっけ。
 最近妙に眠気が来るのは、多分この【熾火結晶ボーンファイア・クリスタル】が、顕現力の抵抗になっているからだろう。
 いつもよりも約2割増しで身体にある顕現力を使わないといけないのは、いくら俺の顕現力容量が多くても、ちょっとキツい。

「何が起こってる?」

 近くにいた冷撫れいなに聞くが、彼女は答えられないようだ。
 ただただ青ざめた顔で、フィールドを見つめている。

 俺は、冷撫に倣ってそちらに目を向け――。



 愕然とした。


 フィールドが、クレーターのように凹んでいる。
 その外側に、対峙しているのがアマツと蒼穹城そらしろ進《しん》だ。

 周りには黒煙やら、焼き焦げた跡やら、大きな切り傷やらが散乱していて痛々しい。
 ……同時に2人もかなりの傷を、負っている。

 スタジアムに天井がなくて良かったと思う。

 まあ大方、アマツも蒼穹城も相手に対する敵意を隠しきれずぶっ放したんだろうけれど。
 その結果が、これだ。


 ――見紛うことなき、大惨事だ。
 こう考えてしまうと、俺の戦いが如何に地味なものであったのかわかりやすい。

「今まで俺は何をしてたんだっけ?」
「寝てましたよ。――何回も呼んだのに」

 そうでしたね。
 本当に申し訳ない。

 フィールドに目を戻すと、2人共自身の【顕現オーソライズ】した剣を杖に、たってやっとという状態だ。
 しかし、両方とも引かない。

 相手への執念で意識を保っているのか……?

「あのさぁ! 僕、君のこと嫌いなんだよね……」
「それは、――俺だって同じだぜ」

 ずっと前から、ああいう感じなんです、と冷撫。
 聞けば、昨日俺がいなかった頃も、危うく教室で喧嘩が始まる所だったという。

 確かに、分かる。
 蒼穹城の声や言葉は、妙に癪に障るのだ。
 完全に無意識だろうが、常に人を煽っているようなしゃべり方をする。

 そんな、中。

「――くっそがあああああぁぁぁぁ!」

 吼えたのは、アマツだった。
 憤然とした態度でゆらりと立ち上がると、剣を投げて霧散させる。
 
 対して蒼穹城は全く動けなかった。
 【顕現オーソライズ】には精神力と密接な関係のリソースである顕現力と、体力を同時に使う。
 顕現力の出力で強さが決まり、顕現力の量が多ければ多いほどそれを使っていられる。

 だから、顕現力の出力が弱い冷撫は、【顕装アーティファクト】に頼らなければ戦闘もままならないだろう。
 俺がやるような【顕現唱術ソーサライズ】や、顕現力をそのまま利用する戦い方も、冷撫は不得手だ。

 ――代わりに、冷撫は安定度が非常に高い。

「もう手加減なんて洒落臭しゃらくせぇ! 
 蒼穹城、お前は俺が全力を持って焼き尽くしてやるよ」

 腹の奥から吼えて、アマツは両手のひらから金色の焔を噴き出させた。
 神々しいこと、この上ない。

 同時に彼の背中からも焔が噴きだし、それはまるで翼のように展開して――。

「原初の理よ――。
 今ここに龍の姿となりて、敵をすべて熄滅そくめつさせ……」

 俺みたいに簡略しない、これまた長ったらしい詠唱をするアマツだが、その言葉は途中で焔の燃えさかる音に掻き消された。
 その威力は既に言い表せないほど、酷い物になっている。

「――【焔龍撃えんりゅうげき】ッ!」

 殆ど聞こえない状況の中、詠唱の終わりだけが不自然に澄んだように聞こえ……。
 アマツの背中に展開された翼のような物は、幾多の龍のような形を為し――。



 周りを見境無く、破壊し始めた。

「あの、馬鹿!」

 ――暴走だ。

 意志の力を利用した顕現力が、コントロールを失ったのだ。

 どうやら、暴走したのは冷撫が心配していた俺ではなく。
 アマツの方だったらしい。

 一歩遅れて、その事態に試験官達はやっと気づいたようだ。
 慌てて『試合は中断とする!』などと叫んでいるが、もう遅い。





 試験会場の機材はおろか、ドアや窓や設備すら破壊しつくさんとばかりに火の手が伸び始めていた。








 ――このままでは、スタジアムが崩壊する。
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