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第1章 邂逅

復讐の理由

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 冷撫れいなと校舎を、ぐるりと歩き回ってみる。

 ここ八顕学園の基本構造は、一番大きな「本館」と、そこから星形に配置されたAからE棟。
 それに加えて多数のスタジアムや図書館や、そして寮生活をサポートするための住居地域――ってところか。

「あまり、入学式会場から離れない方がいいですよね」
「どこで成績発表、するんだろうな?」

 ――教師の姿はおろか、生徒の影もない。

 冷撫と2人でいる間はこっちのほうが好都合ではあるが、それにしてもこの静けさは不安を誘う。
 多分、上級生は寮にいたり、実家に帰っていたりするんだろうな。

 新入生が特別な日であるだけで、他の人々には只の休日だ。

「ゼクスくんは、どこかに所属したり――というのは?」
「多分どこにも所属しないだろうな。冷撫もないだろ?」

 そうですねーないですねぇ、と彼女は返事をした。
 そもそも、冷撫を勧誘したのも彼女が一人だったからだろう。
 隣にあの火威ひおどしアマツがいたら、話しかける可能性はほぼゼロだ。

 アマツはあの、粗暴な態度や容貌から勘違いされやすいが……。
 基本的には「いいひと」に分類されると思う。
 でもやはり勘違いされるし、例え【八顕】の誰が至極丁寧に接したとしても、たいていの人は萎縮してしまう。
 そういうものなのだ。

 ――特殊階級【八顕】というのは。

 【顕現者オーソライザー】への影響力が強すぎる。
 俺だって、そうだ。
 
 もし、只の捨て子であったならアマツと同等の態度を示すことは不可能だっただろう。
 元でも刀眞家の人だった、というのが大きい。

 ……頭が痛くなってきた。

「また、なんか悪い顔をしてますよ」
「ちょっと自爆しただけ」

 刀眞、とか。そういう名前を考えただけで気分が悪くなるとは。
 ちょっと弱すぎないか……?

「そういえば、どうしてあんなに彼らを憎んでいるのです?」

 ちょっと気分が悪くなっているタイミングでこれである。
 冷撫は気づいていなかったのだろう。ソレは仕方ない。

 俺は何度か深呼吸をして、そういえば詳しくは言ってなかったなと思い返した。

「刀眞家から追放されていることは知っています。蒼穹城家との契約も破棄されたと聞きました。でも、それは現当主の問題なのでは――? と、どうしても考えてしまいます」
「それはごもっとも。冷撫は知らないもんな」

 彼女が今まで無知だったのは、俺や冷躯さん達やアマツが彼女に教えなかったからだ。
 冷撫の実家である鈴音すずね家は、どちらかと言えば格式の高い一族であり、同時に火威ひおどし家の分家でもあるのだがが。
 殆ど【顕現者オーソライザー】を排出していない。

 ――よって【顕現者】事情には、そこまで詳しくないのだ。

「もし、5年前の『あの日』。
 俺が家から追放された後……、例えば実家に戻ろうとしたり、蒼穹城家に縋ろうとしていたら。
 確実にこの世から、消されていた」

 冷撫が目を見開いた。
 結果的に俺は失意にまみれて、戻る気も頼る気も無かったが。
 確実に殺されていたであろうことは、想像の産物ではない。

 実際、冷躯さん達の養子になって数年後の【八顕】・【三劔】合同会議に参加したときに聞いたのだ。
 
 考案は蒼穹城(そらしろ)進(しん)。
 嬉々として賛同したのが、東雲(しののめ)契(ちぎり)。
 ――そして、「家に帰ってきてたら、私達もやっていただろうな」と笑っていたのが刀眞一族。

「いや、ある意味では感謝してるよ。そのお陰で今の俺がいるんだしさ」
「……凄くこわい顔をしていますよ」

 冷撫に指摘され、慌てて取り繕う。
 しかし、事実だ。結果的に殺されていないだけだが。
 ――その分のやり返しはさせて貰おう。

「ごめんよ、怖がらせて」
「大丈夫です」

 黙ってしまった彼女をチラリと見やって、ちょっと刺激が強すぎたかと反省する。
 ――総ての【八顕】がそうするわけではない、というのは分かっているが、事実は事実だったのだから仕方が無いのだ。

 その時の会話のお陰で。
 それまでは『チャンスがあれば』なんて甘い考えをして居た俺に、『絶対に復讐してやる』と炎を灯してくれたのは事実なのだから。

「暗い話は終わり。……結果論で終わらせちゃいけないと思ってさ」
「でも、あの人達は。ゼクス・ファーヴニルが昔、自分達が蔑んだ刀眞胤であることは知らないのですよね?」
「まだ顔を合わせてないからなー」

 顔バレは多分無いと思うが。

「私は、ゼクスくんに復讐を止めて欲しい、なんて言いません」

 冷撫が、必死になって言葉を搾り出しているのを途中で止める。
 ――分かっている。

「私はあまり、【八顕】についての対立・協力関係もよく分かりません。……それでも、ゼクスくんが行動を起こしたことによって、火威家に何か影響があったとしても、友人として貴方を庇います」

 そう言ってくれるのが、一番ありがたいよ。
 俺は極力柔らかく微笑み、不安げに震えている彼女の手を見た。

 言うことに相当の勇気が必要だったろうことは、想像に難くない。

「大丈夫だよ、冷撫。……火威家には色々恩返しをするつもりだよ」

 丁度良いことに、火威は蒼穹城と刀眞と対立しているのだ。




 ――俺が復讐を進めて行くにつれ、火威家にもメリットは充分以上にある。
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