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最終話.捨てた先に残るもの
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「結局、何も言われなかったな」
「そうねぇ」
「俺戦うつもりでいたんだけどねぇ」
なんて呑気に話す私達は、今隣国ベルハルトの王城のガラスで囲われた温室で1つのテーブルを囲っていた。
本来護衛騎士であるガルシアが主人であるレイモンド様と同じテーブルにつくなんてことは有り得ないのだが、今日は特別に『友人』としてこの場所に招待されていて。
「ま!今日は友のめでたい日だからね。薔薇で作られた紅茶を用意したんだ」
「きゃあ!素敵ですわぁ」
「キャサリン、高そうだから素敵だと思ったんだろ」
「突然鋭くなるのはやめてくれるぅ?」
「ははっ、ある意味いいバランスの夫婦になりそうだね」
にこりと笑ったレイモンド様に、ちらりとガルシアの顔を見上げると彼も私を見つめていたのかしっかり視線が交わって。
「ちょっと、言い合いからの突然のイチャイチャはやめてくれる?その寒暖差についていけてないから」
「い、イチャイチャだなんて⋯っ」
“して、る⋯かしら?”
まぁ、そう見えても仕方ないかもね。なんて。
“だって私達⋯”
「正式に報告致します、無事婚約を結ぶことができました」
「ま、承認したの俺だし知ってるけどね。でもおめでとう二人とも」
「ありがとうございます」
――そうなのだ。
とりあえず既成事実から作り、いざという対策を取った私達だったが、この度無事に婚約する事に決まって。
“罪に問われるどころか、アレクから何も言われなかったのがちょっと気になるけど⋯”
「軽い釘刺しで引いてくれるとか引き際を弁えてるのかヘタレなのかわかんないよね」
「え⋯」
少し不穏なその言葉を聞いて慌ててレイモンド様を見ると、ころころと笑ったレイモンド様がにぃっと瞳を三日月型に細めて。
「あ、別に大したことは言ってないよ?貴国は愛人を囲えるって事は婚外子と継承争いとか大変そうですねって言っただけ」
「こ、婚外子⋯?」
「いるとは聞いたことないけどさ、全く存在がなくても他国の王太子から言われるだけでいそうでしょ」
ははっ、と軽く笑うレイモンド様にゾッとした。
“それ、公妾って言われた私の事を当て擦りながら、そんなことしてると婚外子の方をベルハルトとして支持するぞって脅してるようなもんじゃない!?”
私に抗議してる場合じゃなくなって当然どころか、ベルハルトの、それもレイモンド様の最側近であるガルシアに嫁ぐ事になった私なんて下手につつけば何が出るかわからない地雷みたいなもんじゃないか、と思わずぶるりと身震いをした。
それも、いもしない婚外子という亡霊を恐れながら。
“まぁ、この国は先王も愛人がいたし、その子供が他国に留学しながら力をつけて⋯なんて可能性も実際あるし⋯”
そこまで考えツツ⋯と冷や汗が背中を流れる。
「⋯あの、その婚外子⋯いない、です⋯よね?」
「うん?」
ふふふ、と笑うばかりのレイモンド様に、最初から手のひらで転がされていたように感じ思わず苦笑が漏れた。
“他にもご兄弟がいて全員がレイモンド様を補佐する為に既に実務についてるって言ってたわね⋯”
それはつまり、継承権を持っている全員がレイモンド様と争うことを避けたともいえて。
底知れぬその様子に思わず目を奪われていると⋯
「⋯なんだよ、今更後悔しても遅いからな」
なんてガルシアが少しムッとしていた。
“あら、嫉妬してるの?”
寒くなった心が一気に温かくなり、ぷっと思わず吹き出してしまう。
「ばあっか!」
そんな彼がやはり可愛く見えてしまって。
「ガルのそんな顔が見れるとか面白いな」
「良かったわね?大好きなレイモンド様に誉められてるわよ」
「ほんとに今のは誉められた⋯のか?」
「疑問に思いながらちょっと喜んでるじゃない?あーほんとバカバカ」
「そうか」
「⋯ねぇ、なんで?なんでバカでガル喜ぶの?二人だけの違う意味とかもたせてる?突然俺をダシにいちゃつくのやめてってさっき言ったよね?」
少し戸惑うレイモンド様にまた笑い合った私達は、特別に用意してくれたという薔薇の紅茶を口に含む。
ふわりと口の中で広がる華やかな香りが鼻を抜けて、いつか濃厚な紅茶を飲めるようになりたいと思っていた少しだけ昔の自分を思い出した。
家格で見下すこの世界が嫌いだった
貧乏だからと見下す奴らが嫌いだった
家庭環境で見下す奴らも嫌いだった
でも、誰よりも私を見下していたのは自分自身だったのだと今ならわかるから。
あの頃捨ててしまった大切なものを、もう捨ててしまわないように。
選んだ人に、選び続けて貰えるように。
「私、幸せよ」
「あぁ」
少し口下手で、どこかズレてて。
そんなところも愛おしい彼と、新しい土地で断捨離してしまったものを拾い上げる生活を。
この優しい場所に居続ける為に、大切なものを大切にしていくことを、私は改めて誓うのだったー⋯
「そうねぇ」
「俺戦うつもりでいたんだけどねぇ」
なんて呑気に話す私達は、今隣国ベルハルトの王城のガラスで囲われた温室で1つのテーブルを囲っていた。
本来護衛騎士であるガルシアが主人であるレイモンド様と同じテーブルにつくなんてことは有り得ないのだが、今日は特別に『友人』としてこの場所に招待されていて。
「ま!今日は友のめでたい日だからね。薔薇で作られた紅茶を用意したんだ」
「きゃあ!素敵ですわぁ」
「キャサリン、高そうだから素敵だと思ったんだろ」
「突然鋭くなるのはやめてくれるぅ?」
「ははっ、ある意味いいバランスの夫婦になりそうだね」
にこりと笑ったレイモンド様に、ちらりとガルシアの顔を見上げると彼も私を見つめていたのかしっかり視線が交わって。
「ちょっと、言い合いからの突然のイチャイチャはやめてくれる?その寒暖差についていけてないから」
「い、イチャイチャだなんて⋯っ」
“して、る⋯かしら?”
まぁ、そう見えても仕方ないかもね。なんて。
“だって私達⋯”
「正式に報告致します、無事婚約を結ぶことができました」
「ま、承認したの俺だし知ってるけどね。でもおめでとう二人とも」
「ありがとうございます」
――そうなのだ。
とりあえず既成事実から作り、いざという対策を取った私達だったが、この度無事に婚約する事に決まって。
“罪に問われるどころか、アレクから何も言われなかったのがちょっと気になるけど⋯”
「軽い釘刺しで引いてくれるとか引き際を弁えてるのかヘタレなのかわかんないよね」
「え⋯」
少し不穏なその言葉を聞いて慌ててレイモンド様を見ると、ころころと笑ったレイモンド様がにぃっと瞳を三日月型に細めて。
「あ、別に大したことは言ってないよ?貴国は愛人を囲えるって事は婚外子と継承争いとか大変そうですねって言っただけ」
「こ、婚外子⋯?」
「いるとは聞いたことないけどさ、全く存在がなくても他国の王太子から言われるだけでいそうでしょ」
ははっ、と軽く笑うレイモンド様にゾッとした。
“それ、公妾って言われた私の事を当て擦りながら、そんなことしてると婚外子の方をベルハルトとして支持するぞって脅してるようなもんじゃない!?”
私に抗議してる場合じゃなくなって当然どころか、ベルハルトの、それもレイモンド様の最側近であるガルシアに嫁ぐ事になった私なんて下手につつけば何が出るかわからない地雷みたいなもんじゃないか、と思わずぶるりと身震いをした。
それも、いもしない婚外子という亡霊を恐れながら。
“まぁ、この国は先王も愛人がいたし、その子供が他国に留学しながら力をつけて⋯なんて可能性も実際あるし⋯”
そこまで考えツツ⋯と冷や汗が背中を流れる。
「⋯あの、その婚外子⋯いない、です⋯よね?」
「うん?」
ふふふ、と笑うばかりのレイモンド様に、最初から手のひらで転がされていたように感じ思わず苦笑が漏れた。
“他にもご兄弟がいて全員がレイモンド様を補佐する為に既に実務についてるって言ってたわね⋯”
それはつまり、継承権を持っている全員がレイモンド様と争うことを避けたともいえて。
底知れぬその様子に思わず目を奪われていると⋯
「⋯なんだよ、今更後悔しても遅いからな」
なんてガルシアが少しムッとしていた。
“あら、嫉妬してるの?”
寒くなった心が一気に温かくなり、ぷっと思わず吹き出してしまう。
「ばあっか!」
そんな彼がやはり可愛く見えてしまって。
「ガルのそんな顔が見れるとか面白いな」
「良かったわね?大好きなレイモンド様に誉められてるわよ」
「ほんとに今のは誉められた⋯のか?」
「疑問に思いながらちょっと喜んでるじゃない?あーほんとバカバカ」
「そうか」
「⋯ねぇ、なんで?なんでバカでガル喜ぶの?二人だけの違う意味とかもたせてる?突然俺をダシにいちゃつくのやめてってさっき言ったよね?」
少し戸惑うレイモンド様にまた笑い合った私達は、特別に用意してくれたという薔薇の紅茶を口に含む。
ふわりと口の中で広がる華やかな香りが鼻を抜けて、いつか濃厚な紅茶を飲めるようになりたいと思っていた少しだけ昔の自分を思い出した。
家格で見下すこの世界が嫌いだった
貧乏だからと見下す奴らが嫌いだった
家庭環境で見下す奴らも嫌いだった
でも、誰よりも私を見下していたのは自分自身だったのだと今ならわかるから。
あの頃捨ててしまった大切なものを、もう捨ててしまわないように。
選んだ人に、選び続けて貰えるように。
「私、幸せよ」
「あぁ」
少し口下手で、どこかズレてて。
そんなところも愛おしい彼と、新しい土地で断捨離してしまったものを拾い上げる生活を。
この優しい場所に居続ける為に、大切なものを大切にしていくことを、私は改めて誓うのだったー⋯
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