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だったらお家に帰ります!夫婦喧嘩からはじめる溺愛婚(続行)
4.学習は睡眠時もいいが実体験に勝るものなし
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「自慢じゃないけど、私、友達少ないのよね」
「本当に自慢じゃありませんねぇ~」
自室に閉じ籠ってしまったライトンの部屋の前に立った私は、ごくりと唾を呑み込んで。
「ライトン?入るわよ、少しお話出来ないかしら」
「開けるよー」
ライトンから返事が来るかドキドキ待つ私の横をスルリと潜り、いきなり扉を開けたのはビジールだ。
「ちょ!まだ返事が……」
「いーって。だってここ、俺の部屋でもあるもん」
部屋数が、というより使用人がいない為兄弟で手伝いあえるようにと同室らしい二人。
部屋の主でもあるビジールが扉を開けたのだ、折角の機会に便乗しない手もなくて。
「ライトン、さっきのことなんだけど」
ビジールに続いて部屋に入ると、ベッドの中で丸まっているのだろう。
もぞりと動いた塊の傍にしゃがみ、声をかける。
「確かに突然バルフ……貴方のお兄様を連れていってしまったことは謝るわ。それにさっきのご両親のこともごめんなさい。けど、あれは誤解で……」
「…………………………」
「うーん、そ、そうだわ!お土産にケーキを買ってきたの。一緒に食べましょう」
「…………………………」
「それとも買い物に行く?なんでも!なんでも買ってあげるわよ!?」
「…………………………」
“手強いわね”
最初にもぞりと動いた以降、ピクリとも動かないライトン。
何かしらの反応があれば、それに対応する方法を考えればいい。
けれど無反応だと、どこから仲良くなる糸口を見つければいいのかわからなくて。
“というか、本当にこの中にいるのよね?”
確かに最初もぞりと動いたが、それが見間違いだったら?
もしかして独り言を話していたのでは――
ふとそんな不安が過った私は、上掛けの端をそっと掴み、ゆっくりと捲って……
「きゃっ!」
ちゃんと中にいたライトンにドンッと押され、尻餅をつく。
元々しゃがんでいたので、怪我どころか痛いところもなかったものの――……
「そうやって金で解決させよーとするとこ、凄い嫌いだ!!そうやって兄ちゃんも買ったんだろ!!」
「…………ッ」
……――言われた言葉が、ツキリと刺さる。
お金で買ったつもりはないが、高位貴族の圧力で結婚に持ち込んだのは確かで。
「欲しがるものを買えば僕が懐くとか思ってんの!?これだから金持ちって嫌なんだ!」
「待……っ!」
「あーあ」
そのままベッドから飛び出してしまったライトン。
“私のバカ……!キャサリンの時に学んでたのに!”
傲慢だと思われたのだろうか。
いや、傲慢だったのだろうか。
「だからバルフも、いつも受け取ってくれないのかしら……」
プレゼントを用意してくれたことはもちろん嬉しかった。
けれど同時に悲しかったのは、私のプレゼントを受け取って貰えないから。
“けど、それはあげる『私』の意見であって、要らないものを無理やり押し付けられていたのだとしたら――……”
放心してそのまま座り込んでいた私をクラリスがそっと立たせてくれる。
「んー、バルフ兄のことはわかんないけど、ライトンのは拗ねてるだけだから大丈夫だよ」
「でも……」
「ちょっと先に変な店があるけど、俺たちは“商人”だからさ。その辺の線引きはちゃんと学んでるし危ないことにはならないから」
「へ、変な店ですって!?」
『商人』を強調して言ったところをみると、おそらく『怪しいものを売る店』なのだろう。
“そんな危ないお店がすぐ側にあるのに、あんなに可愛い天使が一人で出てったっていうの……!!?”
そしてその事実に気付いた私はゾッとした。
「さ、拐われちゃうわ……!」
「いや、兄さんを拐った義姉さんみたいなのって滅多にいないっていうか、逆によく空気に溶け込んでる兄さんを見つけられたなぁっていうか……」
「ダメ!私が、私が守らなくちゃ……っ」
「ちょ、シエラ様ぁ~!?」
「うわ、猪じゃん……」
飛び出してしまったライトンを追って私も慌てて飛び出す。
どっちに行ったのかはわからないが、ビジールの言った場所に“いなければ”いいので真っ直ぐそっちに向かって走った。
「アレクシスゥゥウ!!!あんた女の扱いはクソだったけど仕事は出来たでしょッ」
『違法』とつくものの摘発は難しい。
違法売買所も、違法賭博場も、客含め皆口が固いからだ。
そしてなんとか尻尾を掴み摘発しようとしても、トップはもう逃げた後……というのがザラである。
――それはわかっているのだが。
「ライトン……!無事でいて!」
それでも、焦る気持ちは押さえられなかった。
「なんだぁ?やたらいい女がいるじゃねぇか」
「!」
どこかにライトンが紛れているのでは、と不安になった私は裏通りの闇市場に入りキョロキョロと視線を泳がせていて――……
そして、それが逆に目立ってしまったのだろう。
“それでなくてもこんな場所に護衛もつけず一人でいれば目立つのは当然だわ……!”
あっという間に屈強な男たちに囲まれた私は、きゅっと小さく息を呑んだ。
“でも、ライトンがいるなら私が守らなくちゃ……!だって私は、あの天使の義姉だもの!!!”
おどおどした姿を見せれば逆効果だろう。
ならば少しでも堂々と振る舞うしかない訳で。
「私は――」
「ちょっと荷物取りに行ってる間に一人でお楽しみですかぁ~?」
「クラリス!」
私を囲む男たちの隙間を縫ってクラリスが私を支えるように半歩前に出る。
「あぁ?突然なに……」
「これが見えません?」
「こ、この紋章は……!」
そんなクラリスが見せたのは、ビスター公爵家の家紋が入った懐中時計だった。
“あれはお父様がキーファノに行く前に持たせてくれた……!”
さすがにこのマーテリルア二大公爵家のことは知っていたのだろう、男たちの表情に戸惑いが生まれて。
“今だわ!!”
ハッとした私は、思い切り胸を張ってなるべく“傲慢”に見えるような表情を作る。
そのままギッと周りを睨んで。
「私はどちからといえば客よッ」
「シエラ様、どちからといえば、は不要かと」
「どちらかじゃなく客よッ!!」
フンッと鼻を鳴らしてそう断言し、一番偉そうな男にあえて人差し指を突きつけた。
「欲しい商品があるわ、探してくれるかしら?」
「そ、それはどんな……」
「黒髪にオリーブ色の瞳をした、天使よッ!」
「て、天使ですかい……」
「わぁ、やっぱりポンコツですねぇ~」
格好よくキメているところにクラリスの茶々が入り、ジロリと睨む。
睨まれたクラリスは、ふざけているのかと思ったが男たちから視線を外さなくて。
“……やだ、ちょっと格好いいじゃない。後で護衛分もケーキに紅茶とジャムもつけなくちゃね!”
なんて思わずきゅんとした。
男たちは、そんな私たちをどうするか少し迷ったようだが、それでも案内する気になったようで。
「畏まりました、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
恭しく頭を下げたかと思ったら、そのままゆっくり奥に向けて歩きだす。
“歩幅は合わせてくれてるわね”
それはつまり、私をちゃんと『客』として認識したようで。
当面の危険が去ったことで少し安堵した。
“あとは、紹介された中にライトンがいないことを願うしかないわね……”
もし、もしもライトンがいたのなら。
残念ながら、私にはヒーローのように檻を壊す力も敵と戦う力も何もない。
“もっと嫌われるかもしれないけれど……”
けれど、絶対助けたい。
その為に私にあるのは――……
“お金よッ!!いくらかかってもいいわ、絶対買う!!!”
バルフの弟をお金で買う、という想像をし、思わず意識がその非現実的な妄想に傾いてしまった私。
そんなことを考えている場合ではなかったとすぐに現実に戻ってきたが、バルフを連想してしまったことで頬がつい緩んでしまって。
“こんな顔じゃダメ!”
パシンと思い切り両頬を自分で叩くと、私を案内していた男たちにクラリスまでもギョッとして。
“少し気合いを入れ直そうとしただけなのだけど”
何かそんなにまずかったかしら?なんて思わず首を傾げた私に聞こえてきたその声は。
「彼女の頬の腫れ、どういうことでしょうか?」
「あーぁ、タイミングがいいのか悪いのか……」
苦笑いを浮かべたクラリスのその更に後ろに立っていたのは。
黒髪と、いつもは穏やかなオリーブ色の瞳に今日は怒りを滲ませたその人は――――
「本当に自慢じゃありませんねぇ~」
自室に閉じ籠ってしまったライトンの部屋の前に立った私は、ごくりと唾を呑み込んで。
「ライトン?入るわよ、少しお話出来ないかしら」
「開けるよー」
ライトンから返事が来るかドキドキ待つ私の横をスルリと潜り、いきなり扉を開けたのはビジールだ。
「ちょ!まだ返事が……」
「いーって。だってここ、俺の部屋でもあるもん」
部屋数が、というより使用人がいない為兄弟で手伝いあえるようにと同室らしい二人。
部屋の主でもあるビジールが扉を開けたのだ、折角の機会に便乗しない手もなくて。
「ライトン、さっきのことなんだけど」
ビジールに続いて部屋に入ると、ベッドの中で丸まっているのだろう。
もぞりと動いた塊の傍にしゃがみ、声をかける。
「確かに突然バルフ……貴方のお兄様を連れていってしまったことは謝るわ。それにさっきのご両親のこともごめんなさい。けど、あれは誤解で……」
「…………………………」
「うーん、そ、そうだわ!お土産にケーキを買ってきたの。一緒に食べましょう」
「…………………………」
「それとも買い物に行く?なんでも!なんでも買ってあげるわよ!?」
「…………………………」
“手強いわね”
最初にもぞりと動いた以降、ピクリとも動かないライトン。
何かしらの反応があれば、それに対応する方法を考えればいい。
けれど無反応だと、どこから仲良くなる糸口を見つければいいのかわからなくて。
“というか、本当にこの中にいるのよね?”
確かに最初もぞりと動いたが、それが見間違いだったら?
もしかして独り言を話していたのでは――
ふとそんな不安が過った私は、上掛けの端をそっと掴み、ゆっくりと捲って……
「きゃっ!」
ちゃんと中にいたライトンにドンッと押され、尻餅をつく。
元々しゃがんでいたので、怪我どころか痛いところもなかったものの――……
「そうやって金で解決させよーとするとこ、凄い嫌いだ!!そうやって兄ちゃんも買ったんだろ!!」
「…………ッ」
……――言われた言葉が、ツキリと刺さる。
お金で買ったつもりはないが、高位貴族の圧力で結婚に持ち込んだのは確かで。
「欲しがるものを買えば僕が懐くとか思ってんの!?これだから金持ちって嫌なんだ!」
「待……っ!」
「あーあ」
そのままベッドから飛び出してしまったライトン。
“私のバカ……!キャサリンの時に学んでたのに!”
傲慢だと思われたのだろうか。
いや、傲慢だったのだろうか。
「だからバルフも、いつも受け取ってくれないのかしら……」
プレゼントを用意してくれたことはもちろん嬉しかった。
けれど同時に悲しかったのは、私のプレゼントを受け取って貰えないから。
“けど、それはあげる『私』の意見であって、要らないものを無理やり押し付けられていたのだとしたら――……”
放心してそのまま座り込んでいた私をクラリスがそっと立たせてくれる。
「んー、バルフ兄のことはわかんないけど、ライトンのは拗ねてるだけだから大丈夫だよ」
「でも……」
「ちょっと先に変な店があるけど、俺たちは“商人”だからさ。その辺の線引きはちゃんと学んでるし危ないことにはならないから」
「へ、変な店ですって!?」
『商人』を強調して言ったところをみると、おそらく『怪しいものを売る店』なのだろう。
“そんな危ないお店がすぐ側にあるのに、あんなに可愛い天使が一人で出てったっていうの……!!?”
そしてその事実に気付いた私はゾッとした。
「さ、拐われちゃうわ……!」
「いや、兄さんを拐った義姉さんみたいなのって滅多にいないっていうか、逆によく空気に溶け込んでる兄さんを見つけられたなぁっていうか……」
「ダメ!私が、私が守らなくちゃ……っ」
「ちょ、シエラ様ぁ~!?」
「うわ、猪じゃん……」
飛び出してしまったライトンを追って私も慌てて飛び出す。
どっちに行ったのかはわからないが、ビジールの言った場所に“いなければ”いいので真っ直ぐそっちに向かって走った。
「アレクシスゥゥウ!!!あんた女の扱いはクソだったけど仕事は出来たでしょッ」
『違法』とつくものの摘発は難しい。
違法売買所も、違法賭博場も、客含め皆口が固いからだ。
そしてなんとか尻尾を掴み摘発しようとしても、トップはもう逃げた後……というのがザラである。
――それはわかっているのだが。
「ライトン……!無事でいて!」
それでも、焦る気持ちは押さえられなかった。
「なんだぁ?やたらいい女がいるじゃねぇか」
「!」
どこかにライトンが紛れているのでは、と不安になった私は裏通りの闇市場に入りキョロキョロと視線を泳がせていて――……
そして、それが逆に目立ってしまったのだろう。
“それでなくてもこんな場所に護衛もつけず一人でいれば目立つのは当然だわ……!”
あっという間に屈強な男たちに囲まれた私は、きゅっと小さく息を呑んだ。
“でも、ライトンがいるなら私が守らなくちゃ……!だって私は、あの天使の義姉だもの!!!”
おどおどした姿を見せれば逆効果だろう。
ならば少しでも堂々と振る舞うしかない訳で。
「私は――」
「ちょっと荷物取りに行ってる間に一人でお楽しみですかぁ~?」
「クラリス!」
私を囲む男たちの隙間を縫ってクラリスが私を支えるように半歩前に出る。
「あぁ?突然なに……」
「これが見えません?」
「こ、この紋章は……!」
そんなクラリスが見せたのは、ビスター公爵家の家紋が入った懐中時計だった。
“あれはお父様がキーファノに行く前に持たせてくれた……!”
さすがにこのマーテリルア二大公爵家のことは知っていたのだろう、男たちの表情に戸惑いが生まれて。
“今だわ!!”
ハッとした私は、思い切り胸を張ってなるべく“傲慢”に見えるような表情を作る。
そのままギッと周りを睨んで。
「私はどちからといえば客よッ」
「シエラ様、どちからといえば、は不要かと」
「どちらかじゃなく客よッ!!」
フンッと鼻を鳴らしてそう断言し、一番偉そうな男にあえて人差し指を突きつけた。
「欲しい商品があるわ、探してくれるかしら?」
「そ、それはどんな……」
「黒髪にオリーブ色の瞳をした、天使よッ!」
「て、天使ですかい……」
「わぁ、やっぱりポンコツですねぇ~」
格好よくキメているところにクラリスの茶々が入り、ジロリと睨む。
睨まれたクラリスは、ふざけているのかと思ったが男たちから視線を外さなくて。
“……やだ、ちょっと格好いいじゃない。後で護衛分もケーキに紅茶とジャムもつけなくちゃね!”
なんて思わずきゅんとした。
男たちは、そんな私たちをどうするか少し迷ったようだが、それでも案内する気になったようで。
「畏まりました、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
恭しく頭を下げたかと思ったら、そのままゆっくり奥に向けて歩きだす。
“歩幅は合わせてくれてるわね”
それはつまり、私をちゃんと『客』として認識したようで。
当面の危険が去ったことで少し安堵した。
“あとは、紹介された中にライトンがいないことを願うしかないわね……”
もし、もしもライトンがいたのなら。
残念ながら、私にはヒーローのように檻を壊す力も敵と戦う力も何もない。
“もっと嫌われるかもしれないけれど……”
けれど、絶対助けたい。
その為に私にあるのは――……
“お金よッ!!いくらかかってもいいわ、絶対買う!!!”
バルフの弟をお金で買う、という想像をし、思わず意識がその非現実的な妄想に傾いてしまった私。
そんなことを考えている場合ではなかったとすぐに現実に戻ってきたが、バルフを連想してしまったことで頬がつい緩んでしまって。
“こんな顔じゃダメ!”
パシンと思い切り両頬を自分で叩くと、私を案内していた男たちにクラリスまでもギョッとして。
“少し気合いを入れ直そうとしただけなのだけど”
何かそんなにまずかったかしら?なんて思わず首を傾げた私に聞こえてきたその声は。
「彼女の頬の腫れ、どういうことでしょうか?」
「あーぁ、タイミングがいいのか悪いのか……」
苦笑いを浮かべたクラリスのその更に後ろに立っていたのは。
黒髪と、いつもは穏やかなオリーブ色の瞳に今日は怒りを滲ませたその人は――――
応援ありがとうございます!
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