33 / 61
だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(その後)
14.近付くココロと踏みにじるキモチ
しおりを挟む
「⋯⋯私のは差し上げませんけど」
“セラぁぁあ!!”
勇気を出しただろう殿下に、まさかの返事。
彼女の主人として思わず頭を抱えたくなった私だったが。
「あぁ、売るって言っていたもんね。欲しいんじゃなくて、貰って欲しいだけだから⋯受け取ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
「そういう⋯こと、でしたら」
“めげてない⋯!”
共同作業が効いたのか、トリプルデートがスタートした時より落ち着かれている殿下にホッとする。
それに。
「ありがとう、ございます⋯⋯」
「んッ!」
ぽつりと呟かれた彼女のお礼に、ぎゅっと自身の胸元を握られた殿下が小さな呻き声を上げて私からは苦笑が漏れた。
“至近距離で照れ混じりのはにかんだお礼はグッとくるわよね”
私ですら何度も掴まれたのだ。
殿下が呻いても何も不思議はないがー⋯
「どうかされましたか!!まさか、毒⋯っ」
「いつ何に誰がどうやって盛るのよばかぁっ!」
「いや、問題ない、ふはっ、問題ないから⋯!!」
きゃいきゃいと騒ぐ彼らに私とバルフは顔を見合わせてぷっと吹き出した。
“こういう言い合いを見てると、年よりずっと幼く見えるわね”
外交で見る時よりもずっと楽しそうで、きっと彼らの本質はこちらなのだろう。
そんなやり取りを微笑ましく思いー⋯
「ふふっ」
「セラフィーナ?」
「いえ。なんでも」
釣られて笑った事が恥ずかしかったのか、はたまた悔しかったのか。
プイッと顔を逸らしたセラも、いつもより少し幼く見えて。
“相手は固定、だし選択肢は他にないんだけれど⋯”
でも案外いいカップルになるのかもしれない、なんて私はやはり微笑ましく見守った。
「そろそろ少しお腹がすいてきたわね」
私がそうもらすと、どうやら皆もそうだったらしく。
「そうだね、そろそろ時間もお昼時だし⋯何か食べようか?」
「でもこの辺って、店内で食べれるのって酒屋ばかりなのよねぇ」
「「ッ」」
酒屋、と聞いてビクリと肩を震わせる約2名――は置いておいて、私はバルフをちらりと見る。
「んん、期待に応えたいのは山々なんだけど、買い付けって荷物も多いし色んなお店を回るからゆっくり食事とかは取ったことないんだ」
「そうなの⋯?」
バルフならいい店を知ってるのでは、と思ったのだが、予想外の返事に唖然とする。
「もしかして、飲まず食わずで仕事をー⋯っ!?」
仕事に根を詰めるタイプのバルフだ。
そのあり得すぎる事実に私は焦ったのだが。
「いや、流石にそれは大丈夫、倒れたら大変だしね。移動しながら食べられる出店で食べてたよ」
「さっきのラスクってやつね!?」
返ってきた答えにホッとし、そして食べさせて貰った甘いパンの耳を思い出してぱぁっと気分が明るくなる。
「ふふ、そうだね。まぁ食事だから串焼きみたいなのとか⋯パンにお肉を挟んだものとかも食べてたかな」
「まぁ、サンドイッチにお肉を⋯?」
「サンドイッチ⋯というより、パンの真ん中に切れ込みを入れてかぶりつくって感じのだけどね」
“かぶりつく⋯!”
それは貴族として生きてきた私には少しはしたなく、人目のある外で⋯なんて考えられないのだが。
“バルフも⋯そうやって食べてたのよね⋯?”
普段から落ち着き、冷静な彼がワイルドにかぶりつき口元を拭うー⋯
「み、見たい⋯じゃなくて、私も食べてみたいわ⋯!」
「ん?じゃあシエラが好きそうなの何か探しに行こうか」
「ほんと?」
「はぁーーーっ、こっちの意見んんっ!!」
「あら、キャサリンはどこか行きたいとこがあったのかしら」
「屋台でいいわよぉッ!」
相変わらずのキャサリンをどこか微笑ましく感じながら、私たちは再び元の場所に戻るべく歩みを進めた。
「さっきのラスクも、また食べたいわ」
「うーん、あれはご飯って感じじゃないからお持ち帰りにしようか?」
「まぁ!ならアドルフたちにも買って行きましょう!セラも何か欲しいものがあればー⋯」
「⋯セラって、うそ、セラフィーナ?」
私たちの誰の声でもない、どこか甲高い声が聞こえ思わず振り向く。
そこには焦茶の髪をした女性が立っていて――
「御義姉様」
“セラの義姉⋯!?”
継母ざまぁ、にあれだけ拘っていたセラ。
そんな継母の連れ子である姉は、セラにとってどのような女性だったのか。
「ちょっと、突然居なくなったと思ったら何なのよその服!?」
「引っ張らないでください」
「というか、本当にどこに行ってたわけ!?アンタが突然消えるから、手に入るはずだったお金が入らなくて最悪だったんだけど!」
ガクガクとセラの肩をゆする姿を見てカッと頭に血が上る。
“そんなの、セラが亡命を選んだ時点でわかりきってるのよッ!!”
「無礼じゃな――⋯!」
「そういうのは、ちょっと見過ごせないかな」
「はぁ?何よ急に横から⋯」
“レイモンド殿下!”
怒りに任せてセラと義姉の間に割り込もうとした私より早く、義姉の腕を掴んでレイモンド殿下が止める。
いきなり平民の格好をした男性に腕を掴まれたからか、掴んだ腕を振り払うように義姉がセラから後退るように離れた。
「な、何よあんた⋯?案外いい服着てるみたいだけど⋯」
“あら?レイモンド殿下のお顔を知らないのかしら”
戸惑っているらしい義姉の言葉に少し驚くが⋯
“ー⋯でも、確かシルヴァ伯爵家の内情も知らずに結婚した人の娘だったものね”
周りに目を向ける事なく、楽しいことだけを見るタイプ。
末端貴族の中にはそういった人も一定数いる。
お金目当てで結婚したのに相手の懐事情すら調べなかったのならば、ある意味自分とかけ離れた王族なんて存在に興味を示さない⋯なんてこともあり得るわ、なんて私は納得した。
“まぁ、単純にこんな平民街に護衛らしい護衛も付けず王太子が歩いてるなんて思いもしないだけかもしれないけれど――”
「⋯それ、お義姉様に関係ありますか」
「セラフィーナ?」
そんな義姉とレイモンド殿下の間を割るように、今度はセラが前に出る。
「なによ、いつも何も言わなかったアンタが文句でも言うっての?」
「別に、文句は⋯ありませんが」
はぁ、とセラが深くため息を吐くと、そんなセラに苛立ったのか義姉の眉がピクリと動いた。
「ただ、愚かだな⋯と」
「なんですって⋯!?」
「お金がないから今ここにいるんですよね」
「そうよッ!アンタが逃げるから、私がアンタのやってた内職なんかをさせられるハメになったの!本当にふざけないでよ!」
「私のやっていた内職を?義姉様に出来るなんて思いませんね、繊細じゃないですもの」
「アンタが一番図太いでしょ!!」
“⋯⋯⋯⋯⋯⋯え”
怒鳴り合う姉妹のやり取りに、私含め皆がぽかんとして。
「⋯セラ、一方的に搾取されてたのかと思ったのだけど⋯」
「うん、どちらかと言えば彼女の方が強いというか、翻弄してる⋯かな」
完全に煽っているセラは、傷つくどころか生き生きして見えるほど。
突然腕を掴まれた時はヒヤッとしたが、格は完全にセラの方が何倍も上で。
“だから義姉はざまぁの対象に選ばれなかったのかしら?”
いや、この様子なら継母も口だけで蹂躙してそうね⋯なんて思わず想像すると少し可笑しく⋯
「だから、無理やり閨に放り込まれそうになったのね⋯」
口で勝てないならば、強行手段しかない。
それはただの想像。
“でも、もし本当にそうだったらー⋯”
セラの事を想い、私の胸が締め付けられていたその時。
カンカンカンー⋯
と、遠ざかるような小さな金属音。
そして。
「は?なにこれぇ」
「やめてッ!!!」
それは、私が初めて聞いたセラの叫び声だった。
“セラぁぁあ!!”
勇気を出しただろう殿下に、まさかの返事。
彼女の主人として思わず頭を抱えたくなった私だったが。
「あぁ、売るって言っていたもんね。欲しいんじゃなくて、貰って欲しいだけだから⋯受け取ってくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
「そういう⋯こと、でしたら」
“めげてない⋯!”
共同作業が効いたのか、トリプルデートがスタートした時より落ち着かれている殿下にホッとする。
それに。
「ありがとう、ございます⋯⋯」
「んッ!」
ぽつりと呟かれた彼女のお礼に、ぎゅっと自身の胸元を握られた殿下が小さな呻き声を上げて私からは苦笑が漏れた。
“至近距離で照れ混じりのはにかんだお礼はグッとくるわよね”
私ですら何度も掴まれたのだ。
殿下が呻いても何も不思議はないがー⋯
「どうかされましたか!!まさか、毒⋯っ」
「いつ何に誰がどうやって盛るのよばかぁっ!」
「いや、問題ない、ふはっ、問題ないから⋯!!」
きゃいきゃいと騒ぐ彼らに私とバルフは顔を見合わせてぷっと吹き出した。
“こういう言い合いを見てると、年よりずっと幼く見えるわね”
外交で見る時よりもずっと楽しそうで、きっと彼らの本質はこちらなのだろう。
そんなやり取りを微笑ましく思いー⋯
「ふふっ」
「セラフィーナ?」
「いえ。なんでも」
釣られて笑った事が恥ずかしかったのか、はたまた悔しかったのか。
プイッと顔を逸らしたセラも、いつもより少し幼く見えて。
“相手は固定、だし選択肢は他にないんだけれど⋯”
でも案外いいカップルになるのかもしれない、なんて私はやはり微笑ましく見守った。
「そろそろ少しお腹がすいてきたわね」
私がそうもらすと、どうやら皆もそうだったらしく。
「そうだね、そろそろ時間もお昼時だし⋯何か食べようか?」
「でもこの辺って、店内で食べれるのって酒屋ばかりなのよねぇ」
「「ッ」」
酒屋、と聞いてビクリと肩を震わせる約2名――は置いておいて、私はバルフをちらりと見る。
「んん、期待に応えたいのは山々なんだけど、買い付けって荷物も多いし色んなお店を回るからゆっくり食事とかは取ったことないんだ」
「そうなの⋯?」
バルフならいい店を知ってるのでは、と思ったのだが、予想外の返事に唖然とする。
「もしかして、飲まず食わずで仕事をー⋯っ!?」
仕事に根を詰めるタイプのバルフだ。
そのあり得すぎる事実に私は焦ったのだが。
「いや、流石にそれは大丈夫、倒れたら大変だしね。移動しながら食べられる出店で食べてたよ」
「さっきのラスクってやつね!?」
返ってきた答えにホッとし、そして食べさせて貰った甘いパンの耳を思い出してぱぁっと気分が明るくなる。
「ふふ、そうだね。まぁ食事だから串焼きみたいなのとか⋯パンにお肉を挟んだものとかも食べてたかな」
「まぁ、サンドイッチにお肉を⋯?」
「サンドイッチ⋯というより、パンの真ん中に切れ込みを入れてかぶりつくって感じのだけどね」
“かぶりつく⋯!”
それは貴族として生きてきた私には少しはしたなく、人目のある外で⋯なんて考えられないのだが。
“バルフも⋯そうやって食べてたのよね⋯?”
普段から落ち着き、冷静な彼がワイルドにかぶりつき口元を拭うー⋯
「み、見たい⋯じゃなくて、私も食べてみたいわ⋯!」
「ん?じゃあシエラが好きそうなの何か探しに行こうか」
「ほんと?」
「はぁーーーっ、こっちの意見んんっ!!」
「あら、キャサリンはどこか行きたいとこがあったのかしら」
「屋台でいいわよぉッ!」
相変わらずのキャサリンをどこか微笑ましく感じながら、私たちは再び元の場所に戻るべく歩みを進めた。
「さっきのラスクも、また食べたいわ」
「うーん、あれはご飯って感じじゃないからお持ち帰りにしようか?」
「まぁ!ならアドルフたちにも買って行きましょう!セラも何か欲しいものがあればー⋯」
「⋯セラって、うそ、セラフィーナ?」
私たちの誰の声でもない、どこか甲高い声が聞こえ思わず振り向く。
そこには焦茶の髪をした女性が立っていて――
「御義姉様」
“セラの義姉⋯!?”
継母ざまぁ、にあれだけ拘っていたセラ。
そんな継母の連れ子である姉は、セラにとってどのような女性だったのか。
「ちょっと、突然居なくなったと思ったら何なのよその服!?」
「引っ張らないでください」
「というか、本当にどこに行ってたわけ!?アンタが突然消えるから、手に入るはずだったお金が入らなくて最悪だったんだけど!」
ガクガクとセラの肩をゆする姿を見てカッと頭に血が上る。
“そんなの、セラが亡命を選んだ時点でわかりきってるのよッ!!”
「無礼じゃな――⋯!」
「そういうのは、ちょっと見過ごせないかな」
「はぁ?何よ急に横から⋯」
“レイモンド殿下!”
怒りに任せてセラと義姉の間に割り込もうとした私より早く、義姉の腕を掴んでレイモンド殿下が止める。
いきなり平民の格好をした男性に腕を掴まれたからか、掴んだ腕を振り払うように義姉がセラから後退るように離れた。
「な、何よあんた⋯?案外いい服着てるみたいだけど⋯」
“あら?レイモンド殿下のお顔を知らないのかしら”
戸惑っているらしい義姉の言葉に少し驚くが⋯
“ー⋯でも、確かシルヴァ伯爵家の内情も知らずに結婚した人の娘だったものね”
周りに目を向ける事なく、楽しいことだけを見るタイプ。
末端貴族の中にはそういった人も一定数いる。
お金目当てで結婚したのに相手の懐事情すら調べなかったのならば、ある意味自分とかけ離れた王族なんて存在に興味を示さない⋯なんてこともあり得るわ、なんて私は納得した。
“まぁ、単純にこんな平民街に護衛らしい護衛も付けず王太子が歩いてるなんて思いもしないだけかもしれないけれど――”
「⋯それ、お義姉様に関係ありますか」
「セラフィーナ?」
そんな義姉とレイモンド殿下の間を割るように、今度はセラが前に出る。
「なによ、いつも何も言わなかったアンタが文句でも言うっての?」
「別に、文句は⋯ありませんが」
はぁ、とセラが深くため息を吐くと、そんなセラに苛立ったのか義姉の眉がピクリと動いた。
「ただ、愚かだな⋯と」
「なんですって⋯!?」
「お金がないから今ここにいるんですよね」
「そうよッ!アンタが逃げるから、私がアンタのやってた内職なんかをさせられるハメになったの!本当にふざけないでよ!」
「私のやっていた内職を?義姉様に出来るなんて思いませんね、繊細じゃないですもの」
「アンタが一番図太いでしょ!!」
“⋯⋯⋯⋯⋯⋯え”
怒鳴り合う姉妹のやり取りに、私含め皆がぽかんとして。
「⋯セラ、一方的に搾取されてたのかと思ったのだけど⋯」
「うん、どちらかと言えば彼女の方が強いというか、翻弄してる⋯かな」
完全に煽っているセラは、傷つくどころか生き生きして見えるほど。
突然腕を掴まれた時はヒヤッとしたが、格は完全にセラの方が何倍も上で。
“だから義姉はざまぁの対象に選ばれなかったのかしら?”
いや、この様子なら継母も口だけで蹂躙してそうね⋯なんて思わず想像すると少し可笑しく⋯
「だから、無理やり閨に放り込まれそうになったのね⋯」
口で勝てないならば、強行手段しかない。
それはただの想像。
“でも、もし本当にそうだったらー⋯”
セラの事を想い、私の胸が締め付けられていたその時。
カンカンカンー⋯
と、遠ざかるような小さな金属音。
そして。
「は?なにこれぇ」
「やめてッ!!!」
それは、私が初めて聞いたセラの叫び声だった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
942
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる