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だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(その後)
12.強要されても落ちる時は落ちる(希望)
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「ねぇ、私は成長を褒めたらいいの?退化を叱ればいいの?」
「あら、褒められる一択だと思ったのだけれど」
国境の境目でもある正門前で、顔を真っ赤にして腕組みをしているキャサリンにそう言ってやると、更にキーキー喚き出す。
“でも、ちゃんと迎えには来てくれちゃうのよねぇ”
「ちょっと!?何笑ってんのよッ!」
「微笑ましくなっちゃって」
「どーいう意味よッ!怒ってんのよこっちはぁ!!」
「褒めてって言ってるわよ、私は」
「誰が褒めるかッ!」
訪問する旨を書いた手紙を事前に送った私は、ビスター公爵家の馬車に乗ってバルフ、そしてセラと共に隣国ベルハルトに来ていて。
「ちゃんと訪問の手紙、送ったじゃない」
「えぇそうね!成長ポイントよね!?けど内容が成長どころか退化なのよッ!『王太子殿下の予定もあけるべし』ってなんなのよッ!?私は秘書でも側近でもなんでもないのよっ!!追記でどでかいの突っ込むな!!」
「で、あけてくれたのかしら」
子犬のように騒いでいるキャサリンを放置し、同じく吠えているキャサリンを眺めるだけだった隣の男性⋯キャサリンの夫であるガルシア・ディートヘルム卿に視線を移すと、彼はゆっくり頷いて。
「あぁ、問題ない」
そう言いながらチラリと視線を馬車に向けた彼を見て、ちゃんと予定をあけて来てくれた事に安堵する。
“恋する相手がいなかったら落ちるものも落ちないものね!”
そして、少し緊張した面持ちのガルシア卿に向き直った私も、大きく頷き視線を馬車に少しだけ動かすと彼がほっと息を吐いた。
直接的な言葉は何も言わず、緊張感を持ちながら確認し合う様はまるで闇取引でもしているような気分になるが――
「じゃあ、行きましょうか、デートに⋯!」
「あぁ、よろしく頼む、デートを⋯!」
私達は闇取引に来たのではなくあくまでもデート、そして恋のキューピッドなのである。
「護衛はいるのかな?」
私の隣に立っていたバルフがキョロキョロと見ながらそう聞くと、ガルシア卿が首を振った。
「護衛はガルシアだけよ。お忍び⋯っていうか、一応まだ極秘情報だから乗っていただいてる馬車も我が家のだし」
「あら、キャサリンの馬車があるのね」
「バカにしてるわね!?あるわよ!出来たわよ!あんたほど裕福じゃないけど、一度飲んだ紅茶を干してまた飲むなんてことしなくてよくなったわよ!」
「だからあんなに香りが⋯」
「お黙りなさい!!!」
“お忍びってことは、平民の格好をしてるってことよね?”
予想していた服装だった事に安堵し、私がバルフに頷くと彼が御者に合図を送る。
その合図で馬車が近付き⋯
「改めて紹介するわ、私の専属侍女で、おそらく殿下がお探しになってらっしゃるー⋯」
カチャリと馬車の扉が開き、落ち着いたレモンイエローのワンピースを纏ったセラが一歩踏み出す。
「セラフィーナ・シルヴァよ!」
「不本意ながらしゃーなしで来ました、よろしくお願いします」
「不本意言ってるけどどうなってんのよッ!喜びなさいよッ!!」
騒ぐキャサリンを無視し彼女が馬車から降りた時、ガチャンという音と共にディートヘルム家の馬車が開き――
「⋯⋯⋯ッ!」
中から少し長めの銀髪をひとつに纏め、前髪を横に流している黄緑色の瞳をした青年ー⋯
レイモンド殿下が飛び出して来た。
“やっぱり『当たり』なのね”
ここでは目立つから、と移動した私たちは、あえて広場のベンチに集合して。
「そうね、とりあえず自己紹介が必要よね?」
「フルネームで呼ぶわけにもいきませんから」
私の言葉に補足するようにバルフが続けて口を開く。
“まぁ、フルネームがまずいのは一人だけなんだけど⋯”
でも、愛称呼びというのは親しさの第一歩。
ゆっくり育んで欲しい気持ちはもちろんあるが、アドルフに領地を任せて来ている以上私たちにもあまり時間はないのも確かで。
“セラには短期決戦で恋に落ちて貰うわよ⋯!”
「ガルシアだ」
「キャサリンよ」
「愛称はキャシーだったかしら?でもアレクシス元王太子殿下が呼んでたやつって思うと呼びたくないわね」
「リジーはどう?」
「キャサリンよ!!キャサリンって呼びなさいって言ってるでしょ!!?」
レイモンド殿下が呼んだリジーという愛称ははじめて聞いたが、真っ赤な顔して怒っている様子を見るとおそらく隠したい黒歴史のどれかに引っ掛かっているのだろう。
“私もいつかからかってやろうかしら”
面白い事を知った、なんて少しうきうきしていると、バルフがそっと片手を上げて。
「バルフです。そして妻のシエラです、俺たちもそのままの本名で問題ないかと」
“妻⋯!”
名実共に妻。
それは当然の事実ではあるが――
“直接バルフの口から改めて言われると照れるわね⋯!”
じわりと頬が熱くなったのを誤魔化すようにこほんと小さく咳払いをし、セラへ視線を移す。
「私の専属侍女のセラフィーナ。今日は専属侍女としての仕事をさせるつもりはないけれど、私の侍女であることに変わりないわ、彼女に何かあったらビスター公爵家が黙ってないことを忘れないで」
「どんだけ強気なのよあんたは⋯」
はぁ、とキャサリンが少し呆れた表情を浮かべるが、ここは当然引けない一線。
“バルフを拐った私が言うのもアレだけど、セラを拐わせたりしないんだから”
「最後は俺だね。というかフルネームがまずいのは俺だよね。レイでお願いしようかな?変に敬語とか使われちゃうと目を引く可能性があるから自然な話し口調でお願いするよ」
一通り自己紹介をした私たちの次なる問題は『どこに行くのか』という部分になるのだが⋯
“そもそも6人も集まって歩いてたら目立つわね”
しかしバラける訳にもいかない。
お忍びで来ているレイモンド殿下の護衛は、現状キャサリンの夫であるガルシア卿だけだし、セラと仲を深めて欲しいが私たちが離れたらセラもこちらについてくるだろう。
“というか、この状況でセラを一人にするなんて主人である私がするのはあり得ないわ”
「⋯いっそ市場まで出ませんか?」
私たちがうぅん、と悩んでいるとおずおずとバルフが提案する。
「城下町だとお忍び貴族も多いですし、この人数です。注目が増えればレイ様のお顔で気付かれる可能性も高いですし、ならいっそ平民街まで行くのもいいかと思います」
「でも、危険じゃないかしら?」
貴族の多い場所なら衛兵の見回りも多く、またなんだかんだで“お忍び”とわかっている相手に喧嘩を売るのは、個人を認識し悪意をもって近付く人か、物凄く愚かで傲慢な人。
“対して平民街は⋯”
皆が生活しているその場所は、自由だからこそ排他的とも言えー⋯
「大丈夫だよ、買い付けで何度か来たことがあるけど治安は問題なかったし。それにそこなら比較的大人数でも注目は集めないはずだよ」
「ベルハルトは貧民街を作らない事を第一にしているからね」
「えぇ、私もよく働きに出てましたし」
「確かに平民街ならば我々の顔を知らない人がほとんどだからな。万一注目を集めても気付かれないだろう」
少し不安になった私を落ち着かせるようにバルフがそう説明し、彼に続くように皆も続け――
「⋯って、働いてたの!?」
さらりと重ねられたセラの言葉に唖然とした。
「はい。そもそもシルヴァ伯爵家が窮迫してたのは父が裕福だった頃のように散財していたからです。それを補うために母と内職をしていました」
「な、内職⋯」
「色々やりましたよ、下請けの立場なので納品先は平民街のお店が多くて。その経験のお陰でシエラ様の侍女として雇って貰えたんですけど」
“そ、そうだったの⋯”
確かに専属侍女の条件の1つに『着眼点が面白い』を入れたわね、と思い出しながら納得する。
きっと“作る側”の意見が評価され、彼女に決まったのだろう。
「じゃあとりあえず場所は決まったわね?」
キャサリンの一言に私含め皆が頷き、とうとうこのキューピッド大作戦が始まった。
「あら、褒められる一択だと思ったのだけれど」
国境の境目でもある正門前で、顔を真っ赤にして腕組みをしているキャサリンにそう言ってやると、更にキーキー喚き出す。
“でも、ちゃんと迎えには来てくれちゃうのよねぇ”
「ちょっと!?何笑ってんのよッ!」
「微笑ましくなっちゃって」
「どーいう意味よッ!怒ってんのよこっちはぁ!!」
「褒めてって言ってるわよ、私は」
「誰が褒めるかッ!」
訪問する旨を書いた手紙を事前に送った私は、ビスター公爵家の馬車に乗ってバルフ、そしてセラと共に隣国ベルハルトに来ていて。
「ちゃんと訪問の手紙、送ったじゃない」
「えぇそうね!成長ポイントよね!?けど内容が成長どころか退化なのよッ!『王太子殿下の予定もあけるべし』ってなんなのよッ!?私は秘書でも側近でもなんでもないのよっ!!追記でどでかいの突っ込むな!!」
「で、あけてくれたのかしら」
子犬のように騒いでいるキャサリンを放置し、同じく吠えているキャサリンを眺めるだけだった隣の男性⋯キャサリンの夫であるガルシア・ディートヘルム卿に視線を移すと、彼はゆっくり頷いて。
「あぁ、問題ない」
そう言いながらチラリと視線を馬車に向けた彼を見て、ちゃんと予定をあけて来てくれた事に安堵する。
“恋する相手がいなかったら落ちるものも落ちないものね!”
そして、少し緊張した面持ちのガルシア卿に向き直った私も、大きく頷き視線を馬車に少しだけ動かすと彼がほっと息を吐いた。
直接的な言葉は何も言わず、緊張感を持ちながら確認し合う様はまるで闇取引でもしているような気分になるが――
「じゃあ、行きましょうか、デートに⋯!」
「あぁ、よろしく頼む、デートを⋯!」
私達は闇取引に来たのではなくあくまでもデート、そして恋のキューピッドなのである。
「護衛はいるのかな?」
私の隣に立っていたバルフがキョロキョロと見ながらそう聞くと、ガルシア卿が首を振った。
「護衛はガルシアだけよ。お忍び⋯っていうか、一応まだ極秘情報だから乗っていただいてる馬車も我が家のだし」
「あら、キャサリンの馬車があるのね」
「バカにしてるわね!?あるわよ!出来たわよ!あんたほど裕福じゃないけど、一度飲んだ紅茶を干してまた飲むなんてことしなくてよくなったわよ!」
「だからあんなに香りが⋯」
「お黙りなさい!!!」
“お忍びってことは、平民の格好をしてるってことよね?”
予想していた服装だった事に安堵し、私がバルフに頷くと彼が御者に合図を送る。
その合図で馬車が近付き⋯
「改めて紹介するわ、私の専属侍女で、おそらく殿下がお探しになってらっしゃるー⋯」
カチャリと馬車の扉が開き、落ち着いたレモンイエローのワンピースを纏ったセラが一歩踏み出す。
「セラフィーナ・シルヴァよ!」
「不本意ながらしゃーなしで来ました、よろしくお願いします」
「不本意言ってるけどどうなってんのよッ!喜びなさいよッ!!」
騒ぐキャサリンを無視し彼女が馬車から降りた時、ガチャンという音と共にディートヘルム家の馬車が開き――
「⋯⋯⋯ッ!」
中から少し長めの銀髪をひとつに纏め、前髪を横に流している黄緑色の瞳をした青年ー⋯
レイモンド殿下が飛び出して来た。
“やっぱり『当たり』なのね”
ここでは目立つから、と移動した私たちは、あえて広場のベンチに集合して。
「そうね、とりあえず自己紹介が必要よね?」
「フルネームで呼ぶわけにもいきませんから」
私の言葉に補足するようにバルフが続けて口を開く。
“まぁ、フルネームがまずいのは一人だけなんだけど⋯”
でも、愛称呼びというのは親しさの第一歩。
ゆっくり育んで欲しい気持ちはもちろんあるが、アドルフに領地を任せて来ている以上私たちにもあまり時間はないのも確かで。
“セラには短期決戦で恋に落ちて貰うわよ⋯!”
「ガルシアだ」
「キャサリンよ」
「愛称はキャシーだったかしら?でもアレクシス元王太子殿下が呼んでたやつって思うと呼びたくないわね」
「リジーはどう?」
「キャサリンよ!!キャサリンって呼びなさいって言ってるでしょ!!?」
レイモンド殿下が呼んだリジーという愛称ははじめて聞いたが、真っ赤な顔して怒っている様子を見るとおそらく隠したい黒歴史のどれかに引っ掛かっているのだろう。
“私もいつかからかってやろうかしら”
面白い事を知った、なんて少しうきうきしていると、バルフがそっと片手を上げて。
「バルフです。そして妻のシエラです、俺たちもそのままの本名で問題ないかと」
“妻⋯!”
名実共に妻。
それは当然の事実ではあるが――
“直接バルフの口から改めて言われると照れるわね⋯!”
じわりと頬が熱くなったのを誤魔化すようにこほんと小さく咳払いをし、セラへ視線を移す。
「私の専属侍女のセラフィーナ。今日は専属侍女としての仕事をさせるつもりはないけれど、私の侍女であることに変わりないわ、彼女に何かあったらビスター公爵家が黙ってないことを忘れないで」
「どんだけ強気なのよあんたは⋯」
はぁ、とキャサリンが少し呆れた表情を浮かべるが、ここは当然引けない一線。
“バルフを拐った私が言うのもアレだけど、セラを拐わせたりしないんだから”
「最後は俺だね。というかフルネームがまずいのは俺だよね。レイでお願いしようかな?変に敬語とか使われちゃうと目を引く可能性があるから自然な話し口調でお願いするよ」
一通り自己紹介をした私たちの次なる問題は『どこに行くのか』という部分になるのだが⋯
“そもそも6人も集まって歩いてたら目立つわね”
しかしバラける訳にもいかない。
お忍びで来ているレイモンド殿下の護衛は、現状キャサリンの夫であるガルシア卿だけだし、セラと仲を深めて欲しいが私たちが離れたらセラもこちらについてくるだろう。
“というか、この状況でセラを一人にするなんて主人である私がするのはあり得ないわ”
「⋯いっそ市場まで出ませんか?」
私たちがうぅん、と悩んでいるとおずおずとバルフが提案する。
「城下町だとお忍び貴族も多いですし、この人数です。注目が増えればレイ様のお顔で気付かれる可能性も高いですし、ならいっそ平民街まで行くのもいいかと思います」
「でも、危険じゃないかしら?」
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“対して平民街は⋯”
皆が生活しているその場所は、自由だからこそ排他的とも言えー⋯
「大丈夫だよ、買い付けで何度か来たことがあるけど治安は問題なかったし。それにそこなら比較的大人数でも注目は集めないはずだよ」
「ベルハルトは貧民街を作らない事を第一にしているからね」
「えぇ、私もよく働きに出てましたし」
「確かに平民街ならば我々の顔を知らない人がほとんどだからな。万一注目を集めても気付かれないだろう」
少し不安になった私を落ち着かせるようにバルフがそう説明し、彼に続くように皆も続け――
「⋯って、働いてたの!?」
さらりと重ねられたセラの言葉に唖然とした。
「はい。そもそもシルヴァ伯爵家が窮迫してたのは父が裕福だった頃のように散財していたからです。それを補うために母と内職をしていました」
「な、内職⋯」
「色々やりましたよ、下請けの立場なので納品先は平民街のお店が多くて。その経験のお陰でシエラ様の侍女として雇って貰えたんですけど」
“そ、そうだったの⋯”
確かに専属侍女の条件の1つに『着眼点が面白い』を入れたわね、と思い出しながら納得する。
きっと“作る側”の意見が評価され、彼女に決まったのだろう。
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