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だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(その後)
7.一応頑張ればロマンチックと言えなくも⋯ない
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「控えめに言って最っ高だったわ」
「それはようございました」
コホンと咳払いしながらそう伝えると、淡々とした感じでセラが返事をしてくれる。
“久しぶりだったから物凄かった⋯!”
未だに興奮が冷めやらぬ私は、しかし久しぶりだったせいで明け方近くまで盛り上がってしまった代償で未だにベッドから起きれずにおり⋯
「マッサージいたしますので転がってください」
「転がってるわ」
「もう半回転お願いします」
セラに言われるがまま全身を揉み解して貰っていた。
“気持ちいい⋯!”
少し熱いくらいに温められた手でゆっくり揉まれると、筋肉痛がかなり軽減されー⋯
「もう少し加減ってして貰えなかったんですか?」
「久しぶりだったから⋯私もその、ね?」
「あー⋯シエラ様が、欲求不満だったんですね」
「そうだけど!でも『が』って強調しないで!?」
「まぁ、こんなになるまで抱いてる時点で旦那様もだったんでしょうが⋯」
はぁ、とわざとらしくため息を吐くセラは、そんな態度とは裏腹にまるで慈しむように丁寧にマッサージをしてくれていて。
“素直じゃない⋯というより、もしかしてあまりこういう行為にいいイメージがないのかしら?”
なんて、ふと疑問が芽生えた。
確かに私も初夜でバルフを押し倒した時は『したい』というより、『体だけでも』という気持ちが強くて。
きっとあの夜、失敗せず最後まで営めたとしても今ほどに気持ちよくなかったんだろうな⋯なんて思う。
“ちゃんと想い合っている、って実感はそれだけで気持ちよさが増す気がするし⋯”
そしてだからこそ、時間を忘れて夢中になってしまうのだろう。
「セラも、想い合える相手が出来てその人との初夜が終わった後はまた考えが変わるかもしれないわね」
ふふ、と少し微笑ましく感じながらそう言うと、一瞬彼女のマッサージする手が止まり。
「初夜ですか。その想い合う相手との初夜はまだですが、私は処女じゃありませんよ」
「えぇ、そう――⋯って、えぇえ!?」
さらりと告げられた私は驚きながら更にベッドで半回転し彼女を見る。
「あ、丁度そろそろ股関節あたりを解したかったんですよ。そのままの格好でお願いします」
「丁度そろそろ、じゃないわ!?えっ、想い合う相手とはまだなのにはじめてじゃないって⋯それ⋯!」
想い合う相手とはまだなのに、既に処女じゃない。
それはつまり、好きな人や恋人じゃない相手に捧げさせられたということ――
そんな答えに行き着いた私の顔が一気に青ざめた。
“そういえば、亡命してきたって言ってたわね”
そしてそれと同時に怒りが沸いてきて⋯
「⋯誰なの、私が全力でなんとかしてあげるわ」
「え、いりませんよ。もう捨てた過去です」
「捨てたんじゃなく、“捨てさせられた”んでしょ!?許さないわ、私の可愛い侍女に⋯!」
「シエラ様⋯」
メラメラと燃える私に、ぽかんとするセラ。
「どうしてそこまで私なんかに⋯?専属侍女になったばかりの新参者ですよ?」
「いつ、とか関係ないわ。私はセラをもう“内側”って決めたのよ。なら主人である私が守るのも怒るのも当然よ!」
「そういう⋯もの、なんですか⋯」
少しだけ、押し付けがましかったかしら――なんて不安に思った私だったが、唖然とした表情をしていたセラの口角が一瞬だけ上がった事に気付く。
その小さな変化にホッとし、そして同時に必ず彼女の幸せを守ると私は心に誓いー⋯
「ご安心を。好きな相手ではありませんでしたが、私が選んだ相手ですよ」
「⋯へ?」
「継母ざまぁの一環です」
“継母ざまぁ!!”
自己紹介で言われた濃い挨拶を思い出しハッとするが、継母ざまぁとセラの言う行為が繋がらない。
「ざまぁと、好きじゃないけど選んだ人との行為って⋯ど、どう繋がるの?」
「私、ベルハルトの出身なんです」
「ベルハルト!?⋯ってことは、ベルハルトから亡命してきたの?」
“隣国じゃない!”
しかもただの隣国ではない。
ベルハルトはこのキーファノに隣接している上に、何より⋯
“キャサリンが嫁いだ国だわ⋯っ!!?”
バルフの元婚約者で、今では一応、多分、少なくとも私からしたら友人であるキャサリンがアレクシス元王太子をフッて電撃結婚した騎士のいる国。
そしてベルハルトといえば――
「⋯あそこの国って、“はじめての相手”と結婚する決まりだったわよね?」
「えぇ、そうです」
ベルハルトと言えば穀物も有名だが、それよりもかなり厳密に処女性を大事にしている国としても有名で。
「夫婦になってはじめて互いに触れるっていう、ロマンチックな国ー⋯」
「ヤりさえすれば手篭めに出来る糞みたいな国ですよ」
「セラっ!?」
ケッと忌々しそうに顔を歪めたセラにビクリとする。
“美女のこういう顔って迫力あるわね!?”
とか軽く現実逃避してみても、彼女の醸し出す負のオーラからそれが紛れもなく現実だと思い知らされて⋯
「まさかそんな⋯」
“⋯でも、確かに結婚したい相手と無理やり体を繋げれば強制的に結婚出来る⋯という事でもある、のかも⋯”
結婚した相手が生涯自分しか知らない、という唯一無二感は私にはやはりロマンチックに聞こえるが、実際そこに住んでいたセラの言うような危険性も確かにあるのだと気付かされる。
「そもそも、何故そんな法律が出来たかシエラ様はご存知でしょうか?」
「え?えっと確か、何代か前の女王陛下が夫だけを愛すると宣言なされて、それまでの側室制度が廃止になったのよね」
元々ベルハルト王室は、血筋を途絶えさせない為に側妃という存在が当たり前だったのだが、史上初の女王陛下の戴冠式で陛下本人が『彼だけを愛します』と側室を拒否した⋯と、少なくともマーテリルアでは伝えられていた。
「その純愛に感銘を受け、その女王陛下に習い自然とそういう風習になったって聞いたけど⋯」
「それ、嘘ですよ」
「嘘なのっ!!?」
さらりと否定されて私は愕然とした。
「自然とそういう風習に?だったらなんで法律になってんだって話です」
「そ、そう言われれば⋯」
「実際の歴史はそんなロマンチックなものではありません。元々ベルハルトは男性しか爵位が継げなかったんです、それはもちろん王室も」
“でも、確かにベルハルトには女王陛下が⋯”
セラの話に思わず首を傾げると、セラも小さく頷いて。
「側妃の産んだ王子が王太子になった⋯までは良かったんです。王妃様には王女様しかおりませんでしたし、実際その為の側妃でもありますからね。そしてそこで問題が発覚しました」
「ま、まさか⋯」
「王太子殿下が、不義の子だと判明したんです」
「!!」
“それって、つまり王様じゃなく別の男性との間に出来た子だったっていうこと⋯!?”
辿り着いた答えに息を呑む私と、そんな私とは対照に平然としているセラ。
セラのその様子を見るに、どうやらベルハルトではその歴史が公然と伝わっているのだろう。
「その時の派閥は揉めたそうですよ。王家の血が一滴も混じっていない王子か、王家の血なのは間違いないが『王女』⋯どちらが相応しいのか、と」
長い歴史でのイレギュラー。
『例外』というのは、最初の1つの壁がいつも高い。
“血統を考えれば王女殿下だけど⋯”
男性にしか継承権がなかったのに、突如それを覆すには理由が必要で。
そして、その理由が王家の失態とも言える出来事ならば、女王誕生はそれを確定付け信用を失う可能性もある。
『保守派』ならば『言わなければバレない』血統に目を瞑る事は簡単に想像できた。
「それでも、確かに史上初の女王陛下が誕生されたのよね⋯?」
「はい。その王太子と結婚することで丸く治めました」
「その王太子殿下と王女様が結婚!?」
“た、確かに事情さえ知っていれば血は繋がっていないけれどー⋯!”
しかし事情を知らない人から見れば、二人は紛れもなく兄妹。
『禁断』と呼ばれる類いのもので。
「⋯だから、マーテリルアではそこまで伝わってないの⋯?」
「ご明察です。ベルハルトでは暗黙の了解として皆が口をつぐみました。口にする者もいたでしょうが⋯少なくとも、その後消えましたね、物理的に」
「物理的に!?」
「あ、もう何代も前なので今更刺客とか⋯大丈夫⋯です、よね⋯?」
「ちょっとセラ!?突然怖いこと言わないでちょうだい!?」
淡々としていたセラが、急にとんでもない疑問を投げかけたせいで私の肝が一気に冷えた。
「それはようございました」
コホンと咳払いしながらそう伝えると、淡々とした感じでセラが返事をしてくれる。
“久しぶりだったから物凄かった⋯!”
未だに興奮が冷めやらぬ私は、しかし久しぶりだったせいで明け方近くまで盛り上がってしまった代償で未だにベッドから起きれずにおり⋯
「マッサージいたしますので転がってください」
「転がってるわ」
「もう半回転お願いします」
セラに言われるがまま全身を揉み解して貰っていた。
“気持ちいい⋯!”
少し熱いくらいに温められた手でゆっくり揉まれると、筋肉痛がかなり軽減されー⋯
「もう少し加減ってして貰えなかったんですか?」
「久しぶりだったから⋯私もその、ね?」
「あー⋯シエラ様が、欲求不満だったんですね」
「そうだけど!でも『が』って強調しないで!?」
「まぁ、こんなになるまで抱いてる時点で旦那様もだったんでしょうが⋯」
はぁ、とわざとらしくため息を吐くセラは、そんな態度とは裏腹にまるで慈しむように丁寧にマッサージをしてくれていて。
“素直じゃない⋯というより、もしかしてあまりこういう行為にいいイメージがないのかしら?”
なんて、ふと疑問が芽生えた。
確かに私も初夜でバルフを押し倒した時は『したい』というより、『体だけでも』という気持ちが強くて。
きっとあの夜、失敗せず最後まで営めたとしても今ほどに気持ちよくなかったんだろうな⋯なんて思う。
“ちゃんと想い合っている、って実感はそれだけで気持ちよさが増す気がするし⋯”
そしてだからこそ、時間を忘れて夢中になってしまうのだろう。
「セラも、想い合える相手が出来てその人との初夜が終わった後はまた考えが変わるかもしれないわね」
ふふ、と少し微笑ましく感じながらそう言うと、一瞬彼女のマッサージする手が止まり。
「初夜ですか。その想い合う相手との初夜はまだですが、私は処女じゃありませんよ」
「えぇ、そう――⋯って、えぇえ!?」
さらりと告げられた私は驚きながら更にベッドで半回転し彼女を見る。
「あ、丁度そろそろ股関節あたりを解したかったんですよ。そのままの格好でお願いします」
「丁度そろそろ、じゃないわ!?えっ、想い合う相手とはまだなのにはじめてじゃないって⋯それ⋯!」
想い合う相手とはまだなのに、既に処女じゃない。
それはつまり、好きな人や恋人じゃない相手に捧げさせられたということ――
そんな答えに行き着いた私の顔が一気に青ざめた。
“そういえば、亡命してきたって言ってたわね”
そしてそれと同時に怒りが沸いてきて⋯
「⋯誰なの、私が全力でなんとかしてあげるわ」
「え、いりませんよ。もう捨てた過去です」
「捨てたんじゃなく、“捨てさせられた”んでしょ!?許さないわ、私の可愛い侍女に⋯!」
「シエラ様⋯」
メラメラと燃える私に、ぽかんとするセラ。
「どうしてそこまで私なんかに⋯?専属侍女になったばかりの新参者ですよ?」
「いつ、とか関係ないわ。私はセラをもう“内側”って決めたのよ。なら主人である私が守るのも怒るのも当然よ!」
「そういう⋯もの、なんですか⋯」
少しだけ、押し付けがましかったかしら――なんて不安に思った私だったが、唖然とした表情をしていたセラの口角が一瞬だけ上がった事に気付く。
その小さな変化にホッとし、そして同時に必ず彼女の幸せを守ると私は心に誓いー⋯
「ご安心を。好きな相手ではありませんでしたが、私が選んだ相手ですよ」
「⋯へ?」
「継母ざまぁの一環です」
“継母ざまぁ!!”
自己紹介で言われた濃い挨拶を思い出しハッとするが、継母ざまぁとセラの言う行為が繋がらない。
「ざまぁと、好きじゃないけど選んだ人との行為って⋯ど、どう繋がるの?」
「私、ベルハルトの出身なんです」
「ベルハルト!?⋯ってことは、ベルハルトから亡命してきたの?」
“隣国じゃない!”
しかもただの隣国ではない。
ベルハルトはこのキーファノに隣接している上に、何より⋯
“キャサリンが嫁いだ国だわ⋯っ!!?”
バルフの元婚約者で、今では一応、多分、少なくとも私からしたら友人であるキャサリンがアレクシス元王太子をフッて電撃結婚した騎士のいる国。
そしてベルハルトといえば――
「⋯あそこの国って、“はじめての相手”と結婚する決まりだったわよね?」
「えぇ、そうです」
ベルハルトと言えば穀物も有名だが、それよりもかなり厳密に処女性を大事にしている国としても有名で。
「夫婦になってはじめて互いに触れるっていう、ロマンチックな国ー⋯」
「ヤりさえすれば手篭めに出来る糞みたいな国ですよ」
「セラっ!?」
ケッと忌々しそうに顔を歪めたセラにビクリとする。
“美女のこういう顔って迫力あるわね!?”
とか軽く現実逃避してみても、彼女の醸し出す負のオーラからそれが紛れもなく現実だと思い知らされて⋯
「まさかそんな⋯」
“⋯でも、確かに結婚したい相手と無理やり体を繋げれば強制的に結婚出来る⋯という事でもある、のかも⋯”
結婚した相手が生涯自分しか知らない、という唯一無二感は私にはやはりロマンチックに聞こえるが、実際そこに住んでいたセラの言うような危険性も確かにあるのだと気付かされる。
「そもそも、何故そんな法律が出来たかシエラ様はご存知でしょうか?」
「え?えっと確か、何代か前の女王陛下が夫だけを愛すると宣言なされて、それまでの側室制度が廃止になったのよね」
元々ベルハルト王室は、血筋を途絶えさせない為に側妃という存在が当たり前だったのだが、史上初の女王陛下の戴冠式で陛下本人が『彼だけを愛します』と側室を拒否した⋯と、少なくともマーテリルアでは伝えられていた。
「その純愛に感銘を受け、その女王陛下に習い自然とそういう風習になったって聞いたけど⋯」
「それ、嘘ですよ」
「嘘なのっ!!?」
さらりと否定されて私は愕然とした。
「自然とそういう風習に?だったらなんで法律になってんだって話です」
「そ、そう言われれば⋯」
「実際の歴史はそんなロマンチックなものではありません。元々ベルハルトは男性しか爵位が継げなかったんです、それはもちろん王室も」
“でも、確かにベルハルトには女王陛下が⋯”
セラの話に思わず首を傾げると、セラも小さく頷いて。
「側妃の産んだ王子が王太子になった⋯までは良かったんです。王妃様には王女様しかおりませんでしたし、実際その為の側妃でもありますからね。そしてそこで問題が発覚しました」
「ま、まさか⋯」
「王太子殿下が、不義の子だと判明したんです」
「!!」
“それって、つまり王様じゃなく別の男性との間に出来た子だったっていうこと⋯!?”
辿り着いた答えに息を呑む私と、そんな私とは対照に平然としているセラ。
セラのその様子を見るに、どうやらベルハルトではその歴史が公然と伝わっているのだろう。
「その時の派閥は揉めたそうですよ。王家の血が一滴も混じっていない王子か、王家の血なのは間違いないが『王女』⋯どちらが相応しいのか、と」
長い歴史でのイレギュラー。
『例外』というのは、最初の1つの壁がいつも高い。
“血統を考えれば王女殿下だけど⋯”
男性にしか継承権がなかったのに、突如それを覆すには理由が必要で。
そして、その理由が王家の失態とも言える出来事ならば、女王誕生はそれを確定付け信用を失う可能性もある。
『保守派』ならば『言わなければバレない』血統に目を瞑る事は簡単に想像できた。
「それでも、確かに史上初の女王陛下が誕生されたのよね⋯?」
「はい。その王太子と結婚することで丸く治めました」
「その王太子殿下と王女様が結婚!?」
“た、確かに事情さえ知っていれば血は繋がっていないけれどー⋯!”
しかし事情を知らない人から見れば、二人は紛れもなく兄妹。
『禁断』と呼ばれる類いのもので。
「⋯だから、マーテリルアではそこまで伝わってないの⋯?」
「ご明察です。ベルハルトでは暗黙の了解として皆が口をつぐみました。口にする者もいたでしょうが⋯少なくとも、その後消えましたね、物理的に」
「物理的に!?」
「あ、もう何代も前なので今更刺客とか⋯大丈夫⋯です、よね⋯?」
「ちょっとセラ!?突然怖いこと言わないでちょうだい!?」
淡々としていたセラが、急にとんでもない疑問を投げかけたせいで私の肝が一気に冷えた。
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