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婚約破棄されたはずの俺が気付けば結婚していた話

6.きっといつかの夢ではある(歓喜)

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そんなこんなはあったものの、エリウス様の計らいで北東の領地に出かける事になった俺達はのんびり馬車に揺られていて。

「シエラはもう行ったことあるとは思うんだけどさ。凄く綺麗な湖があるらしいから、着いたら行ってみない?」
「えぇ!もちろんよ」

にこにこと頷くシエラに癒されていた俺だったのだが。

「今日は野営になるんですわよね?バルフの狩りが見れますの?」

という爆弾に思わず吹き出した。

“確かに先日の狩猟会で狩りに慣れてるとは言ったけど⋯!”

シエラに蛙を食べさせるのか?と騒々し、ぶるりと震える。
確かに美味しい。蛙は美味しいけど⋯!

「⋯いや、今回はもう近隣の村で宿を取ってるから⋯っ」
「⋯まぁ、そうなの⋯。じゃあ帰りは?帰りはバルフの狩ってくれたご飯ね?」

うぐ、と言葉を詰まらせる。
“狼を狩った時は痺れ毒を使ったし元々手負いだったし⋯”

狩れなくはないし、狩ったならば捌くのも出来るが⋯

家で食べるような美しい盛り付けや味付けなんてものには自信がない。
どうしようか迷った俺は、そっと彼女の手を握って。


「着く前からもう帰りたいの?寂しいなぁ」
「!!そ、そんなことっ、バルフとならその、どこにでも一緒に行くわ⋯」

“よ、よし⋯!誤魔化せた、誤魔化せたよな!?”

領地に着いたらこっそり料理の練習もしようと俺は心に決めたのだった。

“それで料理の勉強に失敗したら今みたいな感じで誤魔化してまた宿を取ろう⋯!”



旅自体も問題なく、手配していた宿も多少狭かったが一晩ゆっくりするだけならば何一つ不満はなかった。

そして着いた領地は、少し涼しいくらいの気温が心地良い自然多めで。


「少し休んだらちょっと散歩とかどうかな?」

疲れてそうなら明日にしようかな、と考えながらシエラにそう提案すると元気そうに笑っていたのでまた後で、と話し一度別れる。

少し小さめな部屋を執務室とし、こちらで見回りたい場所のピックアップや帳簿の確認等をしていると軽くノックをしたシエラがぴょこんとドアから顔を出した。


「バルフ、用意出来たわ」
「もう?じゃあ早速出発ー⋯」

書類から顔を上げた俺の目の前に立っていたのは、いつもシックなドレスを好んで着ているのにまるで庶民のような簡易的なワンピースに袖を通しているシエラだった。

「へ、変じゃないかしら⋯?」
「全然⋯!でも、どうしたの?」

正直シエラの可愛さが凄すぎて庶民には見えないが。

「その、バルフは領地も見て回るつもりなんでしょう?だったら私も一緒に見て回る方がいいと思っただけよ」

シエラへの恩返しも兼ねての旅行なのに、そのシエラに気を遣わせてしまったと考え⋯
そしてそれ以上に、これからの事も考えてくれている事が嬉しく感じる。


「⋯ん、じゃあ一緒に行こうか」
「えぇ!」


シエラに合わせて俺も庶民っぽいシンプルな服に着替えると。

“⋯これは、逆に似合いすぎて背景だな⋯?”
地味な顔立ちがこれ以上ないほど俺を埋もれさせてしまっていた。

比較的穏やかな土地で治安もいいとは聞いているが、それでも何かあった時にシエラを守るのは自分な訳で。

“この服だと俺の存在見えなくて全員シエラに声をかけてくるかも⋯”
そんなあり得る未来にゾッとした俺は、仕方なくその服を脱いで簡易の騎士服を借りて着ることにした。


「シエラ、お待たせ」
「全然待ってない⋯って、バルフ!?どうして騎士服なの!?」

案の定驚いてしまったシエラに苦笑しつつ、「シエラが何を着ても可愛すぎるから心配になって⋯」と、本当の事をそのまま伝える。

俺の言葉を聞いたシエラは、ポッと頬を染めながら視線を外し、「なら仕方ないわね」なんて照れていて⋯

“いやもう本当に!可愛すぎるから!”

心臓が鷲掴みされた俺は、高鳴る心音を誤魔化しつつ彼女と市場へ向かった。



“予定では平民夫婦を装うつもりだったんだけど⋯”

シエラが高貴なオーラを全く隠せてないのと、俺が騎士服を着てしまっているせいで『お忍びで遊びに来た貴族令嬢と護衛騎士』の構図が完成してしまっていて。

“⋯ま、これはこれでいいかな”
と開き直った俺は、出店で凍る寸前まで冷やされたフルーツを買いシエラに渡す。

「凄く冷たいから気をつけてお召し上がりください、お嬢様?」

冗談めかしてそう言うと、ころころと笑ったシエラが
「畏まりましたわ、旦那様」
と返してきて。

「おや、二人は夫婦だったんかい?」

完全に護衛騎士っぽく振る舞っていた為に少し驚いたのかお店の人が話しかけてきた。


「⋯はは、俺には勿体無い妻ですよ」
「そうだね、えらく美人さん⋯だけどお似合いだよ」
「え、そうですか?」

しげしげと俺達を見比べていたが、うんうんと大きく頷きそう言われた。

“どう見ても釣り合ってないと思うんだけど⋯”

思わずきょとんとしてシエラを振り向くと、パッと満面の笑みでこちらを見ていて。

“⋯なるほど、笑顔で脅したな?”
簡単なからくりに納得して思わず笑ってしまった。


「ほら、いつまでも仲良くね」

別の種類のフルーツをオマケで貰った俺達はお礼を言ってその店を後にする。
広場で並んで座り、それぞれのフルーツを半分こにした俺達は仲良く堪能した。


「あんまり食べ過ぎると晩ご飯が食べられなくなっちゃうからなぁ」

美味しそうな匂いに惹かれそうになりつつ手を繋いで歩きながらキョロキョロと見回す。
どこも小さな子供が走っていて、ここの治安が良いことを証明しているようで嬉しくなった。


「お花、いかがですか?」

くいっと服を引っ張られた感覚がして右側を見ると、6歳くらいの小さな女の子がこちらを見ていて。

さっとしゃがんで少女と目線を合わせた俺が、「彼女に似合う赤いお花はあるかな?」と聞くと嬉しそうに大きな花弁のついた華やかなお花を一輪手渡してくれた。

銅貨を三枚渡すとペコッと頭を下げた少女が駆けて行く。


「まぁ、あんなに小さいのにお仕事のお手伝いをしてるのね」
「そうだね。孤児には見えなかったから、きっと両親の仕事を見よう見まねでやってるんじゃないかな」

なんて話ながら渡された花の葉を何枚か削ぎ、シエラの髪にそっと挿す。


「うん、シエラのローズブロンドにぴったりだね」
「も、もう、バルフってば⋯!」

少し照れながら、そっとシエラが俺の腕にすり寄り聞こえるか聞こえないかというような小声でお礼を言ってくれて。


穏やかな土地に緩やかな時間。
最愛の彼女とこうやって年を重ねられる幸せに感謝しつつ、エリウス様がプロポーズしたという湖に向かった。
のんびりと歩き、着いたその場所は人気がないからこそ神秘的な空間で。

“湖自体は思っていたより小さいんだな、あと凄く浅いから底までハッキリ見える”
小さな魚が泳いでいるのを眺めながらハンカチを敷くと、彼女もそっと隣に座った。


「こういうの、いいなぁ⋯」
「こういうの⋯?」

思わずそう呟くと、きょとんとしたシエラがそっと聞き返してきて。

「そうだね、ほらネイト家は兄妹が多くてさ。一番下なんてまだ5歳で」
「兄妹が⋯多い⋯」
「だからかな、小さな子供が元気に走り回っているのを見ると嬉しくなるんだよね」
「小さな⋯こ、子供⋯っ」
「こういう自然が近くにあるのも楽しそうだし、それに見た感じとても浅いから子供達も安心して遊べるなって思って」
「安心して⋯遊べる⋯」
「今回は下見を兼ねた旅行だけど、ゆくゆくはこの土地に来て新生活をスタートさせるんだなぁって思ったら⋯って、シエラ?」

ハッと気が付くと何やらシエラが考え込んでいて。


“⋯こ、これは、何かの結論を弾き出す前兆だな⋯!?”

何かを察した俺だったが、彼女がどんな事を言い出しても必ず対応してみせると意気込みごくりと息を呑む。

そして彼女が発したのは――
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