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【続】だったら私が貰います!婚約破棄からはじめた溺愛婚(熱望)

2.戸惑うのは拗らせすぎたせいなのか(疑問)

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“どうしてかしら!?バルフが、バルフが昨日より絶対絶対格好いいわ⋯っ!”

暫く廊下を走りハァハァと息を切らした私は、どこに向ければいいかわからないこの高鳴りをカーテンにくるまるという奇行でなんとか消化しようとし⋯⋯


「シエラ、何をしてるんだ」

かなり呆れた声に慌ててニュッと顔を出す。

「お父様!」
「とりあえず出なさい、はしたないから⋯」

率直な感想にハッとした私は慌てて飛び出て、身なりを整えた。

“嬉しさのあまり自分を見失っていたわ、私が今気にすべきは昨日の行為ではなくこれからの行為。私がメロメロにされてる場合じゃない、バルフをメロメロにしてずっとずーっと愛されたいもの⋯!”

それに。

“⋯バルフもちゃんと気持ち良かったかはわからないし⋯”

ハジメテの私に合わせ、私の快感を引き出せるなら彼には相当余裕があったはずで。
過去の経験は覆せないし、彼が誰かと比べたりするような人じゃないとわかっていても。

これからは私だけに夢中になって欲しいから。


「⋯お父様、お父様はお母様の体にだけ夢中ですか?」
「ごふっ」

“さすが親子、お兄様と反応がそっくりね?”

なんて事を考えつつ、気になっていた事の続きを聞こうと私は更に口を開いてーー⋯

「申し訳ございません公爵様!今すぐシエラをお借りしてもよろしいでしょうか!!?」

私と父の間に体を滑り込ませるようにして真っ青になったバルフが飛び込んで来る。

目の前に広がった背中に、服の上からだとわからなかった彼の筋肉を思い出し私はまたじわじわと頬が熱くなってきて⋯。


「⋯んんっ、ゴホン。えーっと、バルフくん、まさかとは思うが君、シエラ以外に夢中になっている体がある⋯なんて言わないだろうね?」
「はいっ!!?」
「いやほら、娘が気になる事をだね⋯」
「そんなことあり得ませんのでッ!というかシエラはなんでそんな事を⋯」
「ッ!」


思わず涎を垂らしそうになりつつゴクリと喉が鳴った時、バルフの背中がくるりと動き眼前に彼の胸板が広がって。


“昨日じわりと汗ばんだこの胸が私のおっぱいと密着して⋯⋯ッ”

「い、いやぁぁぁあっ!!!」
「ぅえっ!!?し、シエ⋯⋯っ」

再びドンッと彼を押し退けた私は、赤いどころではなくなった顔を見せないようバルフをそこに残し、その場から自室へ逃げ帰った。



「あぁ、メロメロにしたいのに⋯っ、バルフが、バルフが格好良すぎる⋯」

元々好きだったのも自分。
押し掛け拐ったのも自分。

好きの大きさを測れるならば、きっとこの大陸だけでは足りないだろうこの想いが恥ずかしいような、その想いを受け入れてくれて嬉しいようなこのくすぐったさが堪らない。


――だからこそ、バルフにももっともっと夢中になって欲しいから⋯。


悶えるようにクッションに顔を押し付けていた私は、チリンとベルを鳴らした。

「お呼びでしょうか、シエラ様」
「手紙を書くから用意を」
「はい」

すぐに私付きのメイドが手渡してくれたペンを握り、訪問したい旨を記載した手紙を完成させる。

“⋯なんだかんだで私、誰かに手紙を書くなんて初めてね?”

王太子の婚約者候補という事で疎遠だった令息達。
その王太子から冷遇されていたせいで令嬢達からも距離を置かれ嗤われていて。

友達どころか知り合いと呼べる相手すらいなかった私が、まさか手紙を書くなんてと思うとなんだか少し感慨深い。

“とは言っても、友達って訳ではないのだけれど”

ふむ、と封蝋をした手紙を眺めた私はその手紙を持ったまま立ち上がった。


「お預かりいたします」

書いた手紙を受け取ろうとしてくれたメイドを私はそっと手で制す。

「いいわ、これは私が直接渡すから馬車をお願い」
「え?で、ですが⋯」
「いいのよ、無礼には無礼を返すのが私の流儀だもの」


事前アポの意味を全く成さない訪問する旨が書かれた手紙を持ち、私は颯爽と馬車に乗った。


これは相手が相手だからこそで、一般的にマナー違反だと言うことは重々承知しているのだが⋯


“ま、訪問先はここだしいいでしょ”

到着した先で慌てて出てきた彼女に、フフンと鼻を鳴らした私は目の前で真っ赤になって震えているその女に向かって手紙を差し出した。


「訪問の手紙よ!許可いただけるわよね?」
「ほんっとあり得ないんですけどこの女ァッ!だからアレクに見向きもされなかったのよ!!」

キャンキャン騒ぐのはもちろんバルフの元婚約者であり狩猟会で恋人のアレクシス殿下に「公妾として迎えよう」なんて言われていたキャサリン・カーラ男爵令嬢でー⋯


「で、なんでわざわざ私のところに来るわけぇ?」

かなり不本意そうに、しかし公爵家の家紋が入った馬車を見てわざとらしいほど大きなため息を吐いたキャサリン嬢が渋々客室に案内してくれた。


専属のメイドがいないのか、直接彼女が入れてくれた紅茶を訝しみながら香りを確認する。

「いや本当に失礼よね!毒味がてら私が先に飲みましょうかぁぁ!?」
「あらいやだわ、毒だなんて。私はただこんなに香りが薄い紅茶があるなんてと不思議に思っただけよ」
「はーー!これだからっ!これだから金持ちって嫌いなのよね!!てゆーかあんたが嫌いだっつの!」
「というか貴女、公爵家相手によくそんなふてぶてしい態度取れるわね?」
「あーら、私は未来の王太子妃よ?態度が大きいのはそちらではなくて?」
「まーあ、まだ諦めておりませんでしたの?」

んぐぐ、とお互い睨み合い――

「⋯見向きもされなかったくせに!」
「⋯バルフには愛されておりますが!?」

なんだか段々可笑しくなってきて。


「言っとくけどバルフそんなに魅力的じゃないからね?確かに狼狩ってきたときはドキッとしたけど、よく思い返せば狼を狩ってきたバルフではなく狼を狩ってきた『公爵家に婿入りしたバルフ』にドキッとしたって気付いちゃったし」
「殿下も全く魅力的ではありませんけどね、不誠実の塊だもの」

言いながらプッと吹き出すと、キャサリン嬢もハッと吹き出した。


「⋯で?なんか用があったんじゃないの」
「!」

ため息混じりに頬杖をついたキャサリン嬢にそう聞かれドキッとする。

“聞きたい事ー⋯”
それはもちろん。

「その、ば、バルフとの夜の⋯こと、ですわ」
「夜ぅ?」
「そ、そうですのっ!お恥ずかしながら私はバルフしか経験しておりませんので!?作法は学びましたけど!実際のところ、その、私ばかり気持ち良かった⋯気が、して⋯⋯」

彼女から語られるバルフのハジメテ⋯なんて聞きたくなんかないけれど。
それでもこの先彼の相手をするのは私だけだから。

“王太子もメロメロにしたテク⋯教えて貰うわよっ!”

キッと睨むように彼女を見る。
決意を固めた私を見たキャサリン嬢は、先程とは違いスッと姿勢を正してー⋯


「ばっっっかじゃないの???」

これ以上ないと言うくらい呆れた表情をし、アホらし、と私の口に無理やりクッキーを詰め込んできた。

「~~ッ、~~ッ!?」
「あー、ちょっと緊張して損した。何これ私馬鹿にされてんのぉ?⋯とか思ったけど、なんか真剣そうだから真面目に答えてあげるわ」
「⋯⋯⋯ッ!」

慌ててモグモグとクッキーを咀嚼し飲み込んで彼女の言葉を待つ。
そんな私に告げられたのは。


「し、ら、なぁ~っ、い!」
「⋯なッ!!」

夜会で何度も向けられた嫌らしい笑顔に苛立つが、そんな私にはお構い無しのキャサリン嬢は。


「だってヤッてないもの」
「⋯⋯⋯え?」
「だからぁ、ヤッてないって言ってんの!ヤる訳ないでしょお?ちなみにアレクともヤッてないわよ」
「ヤらずにあんなに手玉に取れるものなの!?」
「あんたと私は違うのよ」
「サイズが?」
「本当に失礼!!!あんたは失礼の塊よッ」

ゼェゼェと息を切らせながら怒鳴るキャサリンを眺めつつ呆然とする。

“キャサリンとバルフはヤッてない⋯?”

「あいつ淡白そうだし女を買うような度胸もなさそうだから、どー考えてもあんたがはじめてでしょ」
「ば、バルフのはじめてが、私⋯!?や、やだ、胸がっ!胸が苦しいわ医師を呼んで!!!」
「いらんいらん!」
「で、でもっ、昨日のバルフ凄く余裕があって格好良くて、私は今日目も合わせられなくって⋯!」
「あ、そういう情報いらないから。てかあんたに余裕が無さすぎてそう見えただけじゃない?てゆーかあんな地味男のどこがそんなにいいのか純粋にわからないわ」

ポイッとクッキーを口に含み全く興味無さそうなキャサリン嬢にそう聞かれ、バルフのいいところを思い浮かべた私は⋯


「⋯そうね、やっぱり商いも担っていたからお金の流れを読むのも上手くてお兄様もいつも誉めてるわ。バルくん、なんて呼んでなかなか返してくれないのが不満なのだけれど⋯」
「⋯え、何あいつ小公爵様にも好かれてんの?益々意味わかんないんだけどぉ?公爵家を惑わす変な蜜でも出してんの?そんで公爵家ってカブトムシかなんかな訳?」

心底不可思議だと言わんばかりのキャサリン嬢の物言いに、失礼な事を言われているとわかっていながらなんだか少し楽しくて。


“バルフのハジメテが私だって事実のお陰かしら?それともこうやって誰かと思い切り本音を話すのが初めてだからかしら⋯”

あんなに嫌いだった彼女をちょっと好きになりつつある自分に少し驚いた。

「⋯今度、私の家にも招待するわ」
「お兄様がいらっしゃる時にお願いするわ!!」
「既婚よ」
「子供は?」
「4歳」

チッと舌打ちをする彼女に呆れを通り越して少し感動すら覚える。


「というかアレクシス殿下がいるじゃない」
「あら、私が狙うのは正妃のみよ。公妾なんて言われてるうちはアレクなんてキープよキープ!」
「き、キープ⋯!?」

“この国の王太子を捕まえてキープ⋯!”
キャサリン嬢の物言いにポカンと口が開いた。

「み、未来の王太子妃なんじゃなかったの⋯?」
「そうよ。でもこの国の、なんて一言も言ってないんだから」
「えっ!」
「今度の夜会、他国の王太子も来るらしいしねっ」

フフッと微笑む彼女はやはり可愛く、そしてこの野心と行動力があるならばいつか本当にその座を掴みそうだと無意識に身震いする。

“でも、他の王太子を狙うとしたらエスコートどうするのかしら?”
それは本当にちょっとした疑問だったのだが。

「アレクと行くに決まってるじゃない」
「殿下と行くの!?キープなのに?」
「本当に馬鹿ね、男爵令嬢である私としては他国の王太子なんて話しかけられないでしょ。でもアレクのパートナーとしてならいくらでも話しかけられるのよ?」
「⋯⋯っ!」

な、なるほど。
確かにそれは一理ある、が。

「流石にちょっと殿下が不憫ね⋯」
「どこが?公妾とか堂々と言ってくる相手よ。もちろん私を正妃に⋯ってんなら再考するけど、あんなの踏み台よ」
「私、貴女がバルフと婚約破棄してくれて心底ありがたく思うわ」
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