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8.直感が働いた突拍子もない結論は、案外真理とも言える
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「えーっと、レオ?あの、ここは⋯」
「僕の膝の上ですね」
「そうね、それもおかしいわね⋯?」
苦し紛れに言った空腹を満たす為、差し入れを落ち着いて食べれる場所に行こうと提案された私が今いるのが⋯
「それからその、ここ、もしかしてもしかしなくても⋯」
「僕の宿舎ですね、殿下直属の護衛騎士なので一人部屋ですよ、ご安心ください」
「何を!?ねぇ何を安心すればいいのかしらっ!?」
彼の部屋に二人きりだと言うことがむしろ安心出来ず身動ぎをしようとするものの、がっつり抱き抱えられていてひたすら戸惑う。
「あの、この体勢だとレオは食べ辛いでしょ⋯?下ろして貰えないかしら」
「いいえ、僕も凄く飢えていたのでこの体勢がいいですね」
「いや、飢えてるのなら尚更⋯」
ちゃんと座るべきでは?という言葉は、後ろからぢゅうっと首筋に強く吸い付かれて呑み込んでしまった。
「ーーッ!?」
「飢えてるんです、貴女が足りないって言いましたよね?」
腕に抱えたままのバスケットを奪い、サイドテーブルに置くレオ。
そのままおもむろにバスケットから一つのパイを取り出して私の前に持ってくる。
「はい、あーん、ですよ」
「え、え?いやあの⋯私自分で⋯」
「あーん」
「えっと、その⋯レオが飢えてるの、よね?」
「あーん」
「あ⋯あーん⋯」
令嬢として少しはしたない気もしたが、絶対に退かないという固い意思を察し早々に諦めた私は、彼に促されるまま口を開いた。
さくりと口でほどけるパイはとても美味しくて、流石公爵家のシェフだわ、なんて思ったのだが⋯
「あ、あの、凄く美味しいわよ⋯?レオも食べない⋯?」
「僕はセリに食べさせる事で飢えを補っているので」
“それ絶対補われてないから!!”
にこりと微笑み、それが至極当然と言わんばかりのレオに内心ツッコミを入れる。
そもそもこの差し入れは、私がレオに食べて欲しくて持ってきたもの。
決してレオに食べさせて欲しくて持ってきた訳ではなくて。
「⋯⋯わかったわ」
一応膝から降りれるか試したものの、レオの左腕がそれを許してくれそうになかった為彼の膝の上で少し体勢を変えて横座りする。
そしてそのまま腰をひねりレオと向き合うと、少し彼の頬が赤く染まった。
“しれっと首筋に吸い付いてきたくせに、真っ直ぐ見つめられると照れるのね”
そんな彼の様子が少し可笑しく、私はこほんと咳払いで笑いを誤魔化した。
「セリ?」
「私もしてあげるわ」
「え、何を⋯」
少しぽかんとするレオの顎を、ガシッと掴む。
そしてバスケットからパイを一つ取り出し、そのまま彼の口の中に思いっきり詰めた。
「ん⋯っ、んぐ⋯っ!」
「ほら、あーんよ、レオ!」
あーん、と言いながら無理やりパイを捩じ込んでいる事には目を瞑る。
“絶ッ対にえっちな雰囲気にはさせないんだから!!”
何しろ彼には『お仕置き』という名目で外で触られた前科がある訳で。
そしてここは『彼の』『一人部屋』な訳で!
“私の貞操は私が守るわ。だって私達、婚約者同士とはいえ知り合ったばかりなんだもの⋯!!”
突然口にパイを捩じ込まれたレオは、涙目になりつつも必死にもごもごしなんとか咀嚼する。
瞳にうっすら溜まる涙が、彼の濃い灰色を写し込んでいて⋯
“知り合ったばかり⋯のはずなのに。やっぱり私、どこかでー⋯”
その光景に、少し引っ掛かった。
思わずじっと眺めてしまった私の様子に気付いたレオは、軽く涙を拭いながら私の顔を覗き込んできて。
「んッ!?」
そのままちゅ、と口付けられた。
「なっ、何を⋯っ」
「いえ、それはむしろ僕のセリフなんですが」
それはまぁ確かに。なんて一瞬納得しかけたものの。
「だ、だからってその、突然キ、キスするだなんて⋯っ」
「僕の事が嫌いなんですか⋯?」
「⋯えっ?嫌い⋯では⋯」
“嫌いかと問われると困るわね⋯”
「嬉しいです、セリ。つまり僕の事を愛してくれてるんですね!」
「あっ、愛ぃ!?」
飛躍と言っても過言ではないほど話が膨らみ少し焦る。
そんな私を相変わらず微笑ましそうに眺めたレオは、またゆっくりと顔を近付けてきて⋯。
「ッ」
啄むような触れるだけの口付けを何度もされた。
“え、えっちな雰囲気にはさせないって思ってるのに⋯っ”
えっちか、と問われるとそれはあまりにも可愛らしい行為で思わず止めるのを躊躇ってしまう。
“だって私達、婚約者同士で⋯それに⋯”
まだ知り合ったばかりのはずなのに、予言書に表記されていた彼の二面性だって知っている。
向けられているこの好意が偽りである可能性もあるはずなのに⋯
何故か彼から向けられるこの想いは、本心だとそう思えた。
「⋯もう少しだけ、深く触れてもいいですか?」
「深く⋯?」
啄むような口付けをどれくらいの時間重ねたのか、少しぼんやりとしてきた私にそうそっと尋ねるレオ。
その問いの意味を理解する前に、彼の舌が私の口の中に入ってきて。
「ー⋯!」
私の舌を扱くように、彼の熱い舌が中で絡む。
確かに深くなった口付けに意識を持っていかれていた私だったが、その時ふと下半身の違和感に気付いて⋯
“れ、レオのレオが固くなってる⋯!?”
主張し、そして気付かせる為なのかはたまた無意識なのか、服の上からだが擦るように掴まれたままだった腰を動かされていた。
慌てて制止しようとするものの、塞がれた口からは言葉を発する事はできずに唇の端から小さな吐息が溢れるだけでー⋯
「ーーーっ、ひゃん!」
腰を掴まれている手とは反対の手が、突然私の乳首を摘まんだ。
「服の上からなのに、ほら、こんなに勃ってますよ」
クスッと笑われ、羞恥で一気に顔が熱くなる。
なんだか悔しくすら感じ睨むようにレオを見ると⋯
“な、なんでそんな顔してるのよ⋯”
嘲笑とはかけはなれた、むしろ不安そうなレオの表情に胸を締め付けられた。
「好きです、セリ。僕には貴女だけ⋯」
懇願するように呟かれ、チラリとアリスの顔が浮かぶ。
“予言の強制力ー⋯。私も感じたあの『恐怖』をレオも感じてるのかしら⋯”
奪ワレテハナラナイ。
排除シナクテハナラナイ。
“不安にならなくてもいいのに⋯”
私はヒロインではなく、貴方を見てるからー⋯
確かに芽生えたあの恐怖を思い出し、そしてその感情を上書きするようにそっとレオのおでこに口付けを落とす。
途端にバッと顔をあげたレオは、さっきまでの不安そうな顔とは全然違っていて。
「大丈夫よ、私の婚約者は貴方だわ」
「セリ⋯」
ふわりと微笑んだレオは、そのまま私に強く抱き付き⋯
“っていうか、お、押し倒された!?”
そのままぐっと体重をかけられ気付けば組み敷かれていた。
「ま、待ってレオ、その、私達は婚約者よ」
だからまだ早いわ、という遠回しの私の主張は。
「はい、わかっています。つまり実質夫婦、いえ、最早完璧に夫婦ということですね」
「一歩手前!夫婦の一歩手前よっ!?」
先ほどまでの儚げな微笑みではなく、どことなく灰暗い微笑みに変わっていた。
“予言書に書かれていた『二面性』って、絶対こうじゃなかったハズなのにぃ~っ!”
「僕の膝の上ですね」
「そうね、それもおかしいわね⋯?」
苦し紛れに言った空腹を満たす為、差し入れを落ち着いて食べれる場所に行こうと提案された私が今いるのが⋯
「それからその、ここ、もしかしてもしかしなくても⋯」
「僕の宿舎ですね、殿下直属の護衛騎士なので一人部屋ですよ、ご安心ください」
「何を!?ねぇ何を安心すればいいのかしらっ!?」
彼の部屋に二人きりだと言うことがむしろ安心出来ず身動ぎをしようとするものの、がっつり抱き抱えられていてひたすら戸惑う。
「あの、この体勢だとレオは食べ辛いでしょ⋯?下ろして貰えないかしら」
「いいえ、僕も凄く飢えていたのでこの体勢がいいですね」
「いや、飢えてるのなら尚更⋯」
ちゃんと座るべきでは?という言葉は、後ろからぢゅうっと首筋に強く吸い付かれて呑み込んでしまった。
「ーーッ!?」
「飢えてるんです、貴女が足りないって言いましたよね?」
腕に抱えたままのバスケットを奪い、サイドテーブルに置くレオ。
そのままおもむろにバスケットから一つのパイを取り出して私の前に持ってくる。
「はい、あーん、ですよ」
「え、え?いやあの⋯私自分で⋯」
「あーん」
「えっと、その⋯レオが飢えてるの、よね?」
「あーん」
「あ⋯あーん⋯」
令嬢として少しはしたない気もしたが、絶対に退かないという固い意思を察し早々に諦めた私は、彼に促されるまま口を開いた。
さくりと口でほどけるパイはとても美味しくて、流石公爵家のシェフだわ、なんて思ったのだが⋯
「あ、あの、凄く美味しいわよ⋯?レオも食べない⋯?」
「僕はセリに食べさせる事で飢えを補っているので」
“それ絶対補われてないから!!”
にこりと微笑み、それが至極当然と言わんばかりのレオに内心ツッコミを入れる。
そもそもこの差し入れは、私がレオに食べて欲しくて持ってきたもの。
決してレオに食べさせて欲しくて持ってきた訳ではなくて。
「⋯⋯わかったわ」
一応膝から降りれるか試したものの、レオの左腕がそれを許してくれそうになかった為彼の膝の上で少し体勢を変えて横座りする。
そしてそのまま腰をひねりレオと向き合うと、少し彼の頬が赤く染まった。
“しれっと首筋に吸い付いてきたくせに、真っ直ぐ見つめられると照れるのね”
そんな彼の様子が少し可笑しく、私はこほんと咳払いで笑いを誤魔化した。
「セリ?」
「私もしてあげるわ」
「え、何を⋯」
少しぽかんとするレオの顎を、ガシッと掴む。
そしてバスケットからパイを一つ取り出し、そのまま彼の口の中に思いっきり詰めた。
「ん⋯っ、んぐ⋯っ!」
「ほら、あーんよ、レオ!」
あーん、と言いながら無理やりパイを捩じ込んでいる事には目を瞑る。
“絶ッ対にえっちな雰囲気にはさせないんだから!!”
何しろ彼には『お仕置き』という名目で外で触られた前科がある訳で。
そしてここは『彼の』『一人部屋』な訳で!
“私の貞操は私が守るわ。だって私達、婚約者同士とはいえ知り合ったばかりなんだもの⋯!!”
突然口にパイを捩じ込まれたレオは、涙目になりつつも必死にもごもごしなんとか咀嚼する。
瞳にうっすら溜まる涙が、彼の濃い灰色を写し込んでいて⋯
“知り合ったばかり⋯のはずなのに。やっぱり私、どこかでー⋯”
その光景に、少し引っ掛かった。
思わずじっと眺めてしまった私の様子に気付いたレオは、軽く涙を拭いながら私の顔を覗き込んできて。
「んッ!?」
そのままちゅ、と口付けられた。
「なっ、何を⋯っ」
「いえ、それはむしろ僕のセリフなんですが」
それはまぁ確かに。なんて一瞬納得しかけたものの。
「だ、だからってその、突然キ、キスするだなんて⋯っ」
「僕の事が嫌いなんですか⋯?」
「⋯えっ?嫌い⋯では⋯」
“嫌いかと問われると困るわね⋯”
「嬉しいです、セリ。つまり僕の事を愛してくれてるんですね!」
「あっ、愛ぃ!?」
飛躍と言っても過言ではないほど話が膨らみ少し焦る。
そんな私を相変わらず微笑ましそうに眺めたレオは、またゆっくりと顔を近付けてきて⋯。
「ッ」
啄むような触れるだけの口付けを何度もされた。
“え、えっちな雰囲気にはさせないって思ってるのに⋯っ”
えっちか、と問われるとそれはあまりにも可愛らしい行為で思わず止めるのを躊躇ってしまう。
“だって私達、婚約者同士で⋯それに⋯”
まだ知り合ったばかりのはずなのに、予言書に表記されていた彼の二面性だって知っている。
向けられているこの好意が偽りである可能性もあるはずなのに⋯
何故か彼から向けられるこの想いは、本心だとそう思えた。
「⋯もう少しだけ、深く触れてもいいですか?」
「深く⋯?」
啄むような口付けをどれくらいの時間重ねたのか、少しぼんやりとしてきた私にそうそっと尋ねるレオ。
その問いの意味を理解する前に、彼の舌が私の口の中に入ってきて。
「ー⋯!」
私の舌を扱くように、彼の熱い舌が中で絡む。
確かに深くなった口付けに意識を持っていかれていた私だったが、その時ふと下半身の違和感に気付いて⋯
“れ、レオのレオが固くなってる⋯!?”
主張し、そして気付かせる為なのかはたまた無意識なのか、服の上からだが擦るように掴まれたままだった腰を動かされていた。
慌てて制止しようとするものの、塞がれた口からは言葉を発する事はできずに唇の端から小さな吐息が溢れるだけでー⋯
「ーーーっ、ひゃん!」
腰を掴まれている手とは反対の手が、突然私の乳首を摘まんだ。
「服の上からなのに、ほら、こんなに勃ってますよ」
クスッと笑われ、羞恥で一気に顔が熱くなる。
なんだか悔しくすら感じ睨むようにレオを見ると⋯
“な、なんでそんな顔してるのよ⋯”
嘲笑とはかけはなれた、むしろ不安そうなレオの表情に胸を締め付けられた。
「好きです、セリ。僕には貴女だけ⋯」
懇願するように呟かれ、チラリとアリスの顔が浮かぶ。
“予言の強制力ー⋯。私も感じたあの『恐怖』をレオも感じてるのかしら⋯”
奪ワレテハナラナイ。
排除シナクテハナラナイ。
“不安にならなくてもいいのに⋯”
私はヒロインではなく、貴方を見てるからー⋯
確かに芽生えたあの恐怖を思い出し、そしてその感情を上書きするようにそっとレオのおでこに口付けを落とす。
途端にバッと顔をあげたレオは、さっきまでの不安そうな顔とは全然違っていて。
「大丈夫よ、私の婚約者は貴方だわ」
「セリ⋯」
ふわりと微笑んだレオは、そのまま私に強く抱き付き⋯
“っていうか、お、押し倒された!?”
そのままぐっと体重をかけられ気付けば組み敷かれていた。
「ま、待ってレオ、その、私達は婚約者よ」
だからまだ早いわ、という遠回しの私の主張は。
「はい、わかっています。つまり実質夫婦、いえ、最早完璧に夫婦ということですね」
「一歩手前!夫婦の一歩手前よっ!?」
先ほどまでの儚げな微笑みではなく、どことなく灰暗い微笑みに変わっていた。
“予言書に書かれていた『二面性』って、絶対こうじゃなかったハズなのにぃ~っ!”
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