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3.どうしてお怒りに?

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 それは、そんな会話をパトリスとした日の夜遅くのことだった。
 控えめに扉がノックされ、扉を開くとパトリスがそこにいたのだ。

「ど、どうしたの? こんな時間に……」

 パトリスが部屋に訪ねてくることはあったが、こんな時間に訪ねてくるのは初めてだった。
 戸惑いつつも中へと促すと素直に部屋へと入ってくる。

「これを持ってきました」
「それは……」

 そっと私へと手渡されたのは、蜂蜜色の液体が入った小さな小瓶。
 主に沈痛成分が入っているソレは私が昨日用意するか迷って用意をしなかった、初夜に使われることが多いあの魔法薬だった。

「ありがとう……?」

 確かに沈痛成分も入っているので今から飲んでも効果はあるのかもしれない。
 普通の痛み止めでもいい気はするが、折角愛する義弟が心配して持ってきてくれたのだ。
 私は素直にその薬を受け取り中身を呷った。

「ん、結構美味しい、のね……?」
「そうですか。他には?」
「うぅん、ちょっと暑くなってきたかしら」

 私がそう答えると、こくりと頷いたパトリスが丸い小さな魔道具を出して起動する。
 その瞬間、部屋全体を薄い膜が張ったように感じた。

「防音効果のある魔道具です。それと内側からの攻撃に強い仕様になっています」
「内側?」
「出られない、ってことですよ」
「ちょ、パトリス……!?」

 防御魔法の応用なのだろうが、何故それを今展開したのかと首を傾げていると、私の手首をパトリスが掴む。
 そしてそのまま部屋の奥、ベッドのある方へと手を引かれた。

「え、待って、ダメ! 嫌ッ!」
(ベッドには『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』があるのに!)

 パトリスに擬似パトリスが見られてしまうことを恐れ思わず声を荒げてしまう。
 そんな私を見て、パトリスが一瞬傷付いたような顔をした。

「あ……ちが、今のは」
「何も、違いませんよ」

 ゆっくり首を振るパトリスが私の言葉を否定しそのままベッドの前までやってくる。
 あぁ、何故彼がそんな表情をするのだろう。
 まさかもうパトリスディルドを見てしまったのか。
 だから私に幻滅し、今から追及しようというのだろうか。

(いいえ、まだよ!)

 奇跡的に枕の影で隠れ、パトリスからは見えない位置にあるそのディルドの場所を横目で確認した私は、ここからなんとか誤魔化し隠しきれないかを瞬時に計算する。
 だがさりげなくベッドの下へ放り込むことは出来ない。
 だってアレは私のハジメテの相手であり、そして愛するパトリスのおちんちんなのだから。

(こうなったら私の体で隠すしかないわ)

 枕の下へ隠しても退けられれば終わりだし、シーツの下に忍ばせてもとても立派なモノであったパトリスのおちんちんはシーツをもっこりさせてしまうだろう。
 ならばそう、ここは胸の谷間へ隠すのが最善策だ。

「だって俺は今から貴女に酷いことをしようとしているんだ。嫌がられても、仕方ない……」
 
 おっぱいで男性器を包み快感を与える『パイズリ』という閨の作法がある。
 その作法を使えば、ディルドを完全に隠し、かつ罪悪感も生まれない。

 そう考えた私はパトリスが何かを話している隙に枕へと、正確には枕の影に置かれているディルドへと飛び付いた。

(取ったわ!)

 そしてすかさず夜着の胸元からディルドを滑り込ませた。

「はは、それで逃げたつもりですか?」
「逃げてなんて」
(どちらかといえば隠したつもりよ)

 ディルドをしっかり胸で挟むように両腕を抱えて固定する。
 枕へと飛び付いたままの体勢から体を起こせず、四つん這いでパトリスにお尻を向けているというこの格好はかなり恥ずかしいが、ディルドを見られて軽蔑されるよりはマシだとそう思った。の、だが。

「全然、逃げれてませんよ」
「ま、まさかバレ……ひゃっ!?」

 私のベッドに片膝をついて乗り上げたパトリスが夜着の裾をめくり、臀部を露出させる。
 そして露になった下着の上から優しく揉み始めた。

「え、な、何……」
「ここにもう誰かが触れたなんて、腸が煮えくり返るようです」
「やっ、待……! そんなとこ、触られてないからぁっ」

 もにゅもにゅと下から持ち上げるように揉まれると、パトリスが触れた部分からじわりと熱が広がりさっきよりも暑くなる。
 自分が触れてもこんな反応にはなりないのに、一体何故パトリスが触れただけでこんなに全身が火照るのか理解が出来ない。

「触られてない? だが純潔を捧げたって……」
「それは、ひゃんっ、そうだけどっ」
「つまり愛撫も無しに無理やり挿入だけしてきたということですか」

 まるで忌々しいとでも言わんばかりにチッと舌打ちをしたパトリスは、一気に私の下着をずり下げ肌を露出させた。

「きゃああっ!」
「いくら叫んでも助けは来ませんよ、防音になってますからね」
「あっ、ちがっ、やぁあっ」
「凄い、フラヴィ姉様の愛液で既にテラテラとしています」
「あぁあっ」

 まるで観察するように視姦されたと思ったら、私の滴った愛液を指先で掬い戻すようにくちゅりと蜜壺へと挿入される。
 彼の指が浅いところを擦り、私は堪らず嬌声を上げた。

(どうして? パトリスが触れたところが全部熱いわ……!)
「魔法薬の効果は凄まじいですね、少し触れただけでこんなに乱れるなんて」
「魔法、薬……?」

 感心したように呟かれたその言葉を思わず聞き返してしまう。
 魔法薬とは、まさかパトリスが持ってきてくれた閨用の鎮痛剤のことだろうか?

「えぇ、さっき飲んだでしょう。あれは痛みを軽減する他、感度を高める効果もあるんです」
「感度を?」

 まさかそんな、と否定しようとしたが、可能性は十分あり得る。
 魔法薬とは他の効果も出ることがあり、だからこそ重宝するのだ。
 初夜で使われる魔法薬に、鎮痛効果以外のそういった効果があってもおかしくはないだろう。

 そしてその効果が出ているならば、この異常に敏感になり熱く火照る体にも辻褄が合う。

「でもそんなっ、だからって」
「せめてこうやってフラヴィ姉様を気遣い大事にしてくれる男が相手だったなら、俺だって諦められたのに……!」

 苦しそうに告げられた意味がわからない。
 パトリスが何を諦めなくてはならないのかも理解できないし、体を気遣い大事にしてくれるディルドなんてないだろう。
 ディルドとは、自分勝手に楽しむあくまでもただの道具なのだ。

「……愛撫もされてないということは、口付けもされてない?」
「そ、れは」

(ナカへと挿入するために濡らそうと舐めたけど、あれって口付けになるのかしら)

 パトリスの質問に思わず口ごもる。
 ディルドの存在は隠したいが、パトリスに嘘を吐きたくはない。
 だがそんな葛藤からくる僅かな言い淀みをどう解釈したのか、苦しそうに息を詰めたパトリスが私の肩を掴み仰向けにした。

「いや……っ!」
(ディルドが胸から零れちゃう!)

 必死で両胸を腕で挟みディルドが動かないよう押さえていると、そんな私をパトリスがじっと見下ろしていることに気付く。
 彼の視線は隠すように両腕で庇われている胸へと集中していた。

「ふぅん、もしかして胸は触られてないんですか?」
「え……?」
「だからそんなに必死になって隠してるんですか。俺に汚されないように?」

 まるで自嘲するようにハッと笑うパトリスは、私の頬を軽く撫でて唇へと口付けを落とす。
 撫でた手とは違い、その口付けは噛み付くような乱暴なものだった。

「んっ」
「その男の感触なんて上書きすればいい。それに、まだ触れられてない部分があるならそこは全て俺が貰います」
「何……、やっ、やだやだ止めて! ダメなのっ!」
「思い出してください、俺はもうひ弱な弟ではなくただの男なんです。力でフラヴィ姉様に負けません」

 愛するパトリスからの口付けの余韻に浸る暇なく、彼の手が私の腕を掴む。
 待ってと懇願するが一切聞く気がないのか、力を込められゆっくりと両腕が胸から外された。

「あ、ダメ……! やだぁ……っ」

 夜着のためコルセットもしておらず、そして腕という支えを失った胸がふるりと揺れる。
 組み敷いた状態で揺れたその胸を見下ろしていたパトリスは、夜着の裾を再び掴み一気に脱がせた。

 無理やり脱がされた夜着が引っ掛かり、ばるん、と大きく揺れながら全ての肌が晒される。
 いや、晒されたのは肌だけではない。

「あ、あぁ……、見ないで、パトリス……っ、うぅっ」

 勢いよく脱がされたことで胸の谷間へと隠した『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』がボロンと飛び出しパトリスの眼前に晒されてしまったのだ。
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