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最終話:それは永遠に有効だから

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ガタガタッと音が響く。
その音が異様に煩く感じるのは何故なのか。

「――ま、か⋯がわっ」
「脅されてくれんだろ」

さらりと続けられた言葉に、思わずうぐっと息を詰まらせる。

“言った、確かに言ったけど⋯っ”

「ここ、教室だから⋯!!」
「休講になったんだから人とか来ねぇよ」
「ば⋯っ!休講って休憩していい講堂の略じゃねぇからな!?」
「え、何言ってんの?」
「えっ、俺がおかしいの!?」

ぽかんとした顔を向けられ唖然とする。
そもそも教室なんていつ誰が来てもおかしくない場所で⋯

「望月⋯」
「ぅ、ううぐ⋯っ」

既に劣情を孕んだ瞳でじっと見つめられた俺は、渋々頷くしか出来なくて。

“だって俺は今脅されてんだから”

「⋯誰かの足音聞こえたらすぐにやめろよ」
「あぁ」
「あと一回で終わらせろよ?」
「えぇ⋯?」
「なっ!」

不満そうな声を出され苛立つ俺を楽しそうに見た嘉川は。

「そうだな、これが最後って訳じゃねぇもんな」
なんてふわりと笑った。

「~~~っ!」

その笑顔で何も言えなくなった俺はそれが凄く悔しくて。

「?もちづ⋯、っ!」

んちゅ、と無理矢理嘉川の口を塞ぐ。
そんな俺に驚いたらしい嘉川は、そのまま俺の背中に腕を回した。


「ーーん、んっ!」

俺から奪ったはずなのに、気付けば形勢逆転してしまった口付けは嘉川の望むままどんどん深くなって⋯

「ん、⋯っは、んんっ」

枯渇する酸素を求めるように口を開けば開くほど、まるで噛み付くような勢いで重ねられ続けた。


「待っ、くるし、か⋯がわっ」
「そか、了解」

了解、なんて言いながら再び角度を変えてキスされ溺れそうになっていると、ふに、と嘉川の手のひらがおもむろに下半身に這わされて。

「ゃ⋯!ま、触ん⋯なっ」
「なんで?ほら、どんどん固くなってるけど」
「ダメ、おま、お前にされたら⋯っ、すぐイっちゃ、からぁ⋯!」
「あー⋯」

俺の言葉を聞いた嘉川が、ふぅ、と大きく息を吐いたと思ったら。

「煽るとか本当強気だな」
「は⋯っ!?」

どうやら変なスイッチを入れてしまったらしく、嘉川はグッと自分のちんこを露にして。

「舐めて」
「⋯へ?」
「――脅されてくれんだろ?」
「~~ッ!」

ボソッと耳元で囁かれ、一気に頬が熱くなる。
ゾクゾクとして抵抗出来ない俺は、その場にしゃがみそっと嘉川のちんこに舌を這わせた。

「んっ」
裏筋からカリを唇で挟むように柔く食むと、ピクリと嘉川が反応する。

“嘉川、気持ちいいんだ⋯”

男のちんこを舐めるなんて屈辱的だと思うのに、嘉川が感じてくれるのが嬉しくなった俺はそのまま喉の奥まで一気に頬張った。

軽く吸いながらぐぽぐぽと顔を動かすと、嘉川が小さく息を漏らす。
その様子を確認しながら少しずつスピードを上げると、おもむろに口からちんこを引き抜かれて。

「⋯?嘉川?」
「交代」
「え⋯、へっ!?ちょ、待っ⋯!」

一気にぱんつごとズボンを脱がされた俺は机にうつ伏せになる形で嘉川に尻を向けさせられ。

ぬち、と熱い舌が俺の穴を這った。

「ーーっ!!」

ほぐすように舌で唾液を塗り、同時に少しずつ指も挿れられる。
たっぷりと垂らされた唾液を潤滑剤の代わりにしてどんどん深く指が入り、その圧迫感に俺はただただ息を詰めた。


「ごめんな、ローションがあればもう少しスムーズに出来んだけど⋯」

フェラのおかげだけとは言えないほどバキバキに勃たせた嘉川は既に張り詰めすぎて苦しそうにしていて。


“今まで寸止めばっかで、こいつも相当堪えてたんだよな⋯”


「⋯も、挿れて、い⋯いぞ」
「え⋯」

一瞬フリーズしたかのように静止した嘉川は、すぐにハッとした。

「いや、もう少しほぐさねぇと痛いだろ」
「ローションがあればいけんじゃね?」
「でもローションなんて今ここには⋯」

怪訝そうな顔をする嘉川。
そんな嘉川を無視して俺はそっと床に落ちたズボンのポケットからゴムを取り出して。

「⋯これ、ローション付きのだから」
「は?なんでこんなの持って⋯」
「別に⋯男の嗜み、だろ」

赤くなった顔を隠すように自ら机に突っ伏し尻を嘉川の方へ向ける。


“男の嗜み、かぁ⋯”
自分で自分の言葉に思わず苦笑してしまうのは、挿入される側に『自分』を設定して持っていたからで。

そしてそれらを察した嘉川がゴムの封を切ったことを、かさりとした音で知る。

ごくりと生唾を呑んた俺の腰を掴んだ嘉川は、ゴムのローションを穴に塗り付けながら少しずつ腰を進めて――


「ーーァ、ぅん⋯ん!」
「⋯っ、は、痛くねぇか?」
「ば⋯っ、いた、痛いに決まって⋯ん、だろ⋯っ!」

指とは比べ物にならないくらいの圧迫感と威圧感。
そしてギチッとした痛みが俺を襲う。

「ごめ⋯」
「い、いから!そのまま⋯っ」
「ん、ごめん⋯っ」

ごめん、と慌てて抜こうとした嘉川は、俺の言葉を聞いて今度は違う意味の謝罪をしながらズズッと更に奥に腰を進めて。

「ーーは、も、一気に⋯っ、苦し、から⋯っお願い⋯っ」
「⋯くそ、ほんとにお前は⋯っ!」

苦しそうに呻いた嘉川は、俺のおねだりを叶えるように一気に奥まで貫いた。


「ーーっ、んぁあっ!?」

ナカを一気に擦られた俺は思わず背を逸らし快感を逃がす。
そんな俺にのし掛かるように体重をかけた嘉川は⋯


「⋯何泣いてんだっつの」
「それは望月の方だろ⋯」


それはやっと体が繋がったからか。
それともやっと、心が繋がったからかーー⋯


俺が落ち着くまで堪えてくれていた嘉川が、ゆっくりと抽挿をはじめる。

挿入こそしなかったが、嘉川によって散々絶頂を教え込まれた俺の体は、腰を打ち付けられる度にビクビクと体を震わせた。

「望月、望月⋯っ」
「ん、ぁあっ、ん、あ⋯っ!」

自分のとは思えないような嬌声が教室に響き、それがより俺の羞恥を刺激した。

ぐちゅぐちゅと音を溢しながら激しくピストンされ、嘉川の荒い息を耳元で感じた俺はそのままゾクゾクと快感が背に走るのを止められなくて⋯


「ゃ、だめ⋯、い、イくっ、イっちゃう⋯っ!」
「わかった、俺も、俺もイくから⋯望月一緒に⋯っ」

嘉川の声をどこか遠くで聞きながら、最奥を求めるように深くを抉られて。

「ぁ、あぁあ⋯っ!」

そのまま呆気なく果ててしまった。





「最悪すぎる⋯」
「まぁそう言うなって」
「腰も痛ぇし何より尻が痛い」
「次はもっと慣らしてからすっからさ」

ぶつぶつ文句を言いたくなるのも仕方ない。
何故ならあっさりイかされた俺は、よりにもよって机にぶちまけてしまっていて⋯

「賢者タイムにこんな拷問ほんとねぇよ⋯っ」
「ほら、俺も手伝うから」
「嫌だ!なんか嫌だ!!」
「なんで」

なんとも言えない羞恥心から、自分だけで片付けようと必死に拭いていると、少し不満気に嘉川が覗き込む。


「えぇ!?だ、だってその⋯は、恥ずかしいし⋯」

ごにょごにょと声を小さくさせながらそう説明すると、「んんっ!」と突然嘉川が咳払いをして。


「⋯⋯煽ってる?」
「んな訳あるかバカ!!」
「脅し、って言ったら?」

良いことを思い付いたと言わんばかりの嘉川を軽く小突く。

「無効だアホ!」
「脅しなのに?」
「脅しなのに!つかそれは免罪符じゃねぇんだよ!!」

俺は小さく叫ぶようにそう文句を言って。


「⋯代わりに期限は無期限だから。他ので使え」

ぽつりとそう呟くと、一瞬キョトンとした嘉川はすぐさま破顔した。



“あーあ⋯”
俺は内心大きなため息を吐いた。
“俺があの時エロぱんつなんて選ばなければ⋯”


ノーパンか、エロぱんか。


「結果はまぁ⋯一緒だったかな」

誰にも聞こえなかったその呟きは、きっとこれから証明されるのだろう。


そして俺は永遠に有効な脅しネタを想像し、小さく笑いを溢すのだった。
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