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6.同じ二択が出たときは黙って三択目を探せ、というのは嘘
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「俺の家ここな」
大学生には不釣り合いなマンションに案内された俺は思わず挙動不審になる。
そんな俺に小さく笑みを溢した嘉川は。
「耐震工事で綺麗になってるけど、築年数かなりいってるから」
なんて耳元で囁いた。
「ーッ!!お、おまっ、わざわざ耳⋯っ!」
ふっと嘉川の吐息を間近に感じた俺は慌てて距離を取ろうとするが、すかさず腕を掴んだ嘉川がそれを許さない。
逃げられない力、それでも俺を気遣っているのか痛くはない力加減でー⋯
しっ、と反対の手で『静かに』のポーズを取った嘉川が、再び顔を俺の耳元に近付けた。
「耐震工事で見た目だけ、実際は声とか響くから⋯な?」
その声色がやたらと色っぽく感じ、“合コンとかでお持ち帰りされる女の子ってこんな気分なのか?”なんて考えて⋯
“って、俺は!男!だから!!!”
と盛大に自分へツッコミを入れる。
「酔ってるせい⋯酔ってるせいだ⋯」
なんてぶつぶつ言いながら5階にある嘉川の部屋に入った。
「汗かいたし着替えるだろ」
室内へ案内された俺は、シンプルで無駄な物がない部屋に少し感心しつつ質問に答える。
「あ、じゃあシャワーも借りていい?」
「酒飲んでるからダメだ」
嘉川のその発言は当たり前といえば当たり前なのだが、こちらとしても人様の服を借りるのにシャワーも浴びないのは抵抗があって。
うぐぐ、と押し問答をした結果、洗うのではなくぬるま湯で汗を流すだけ⋯という妥協点で合意した。
ちなみに10分以内という時間制限付き。
「望月はこっそり洗いそうだから回収しとくわ」
と、シャンプー等のボトルを全て回収する徹底ぶりを見せた嘉川に、“過保護かよ”なんて思いながら服を脱ぐ。
そのタイミングでノックが響いて。
「脱いだ服洗濯回しとくけどいいか?乾燥機付きだから明日にはまた着れると思うけど」
思わずビクッとした俺は慌てて全部脱ぎ、風呂場の扉を閉めてから「頼む!」と返事をした。
“ビビった⋯”
バクバクと速くなった鼓動に焦りつつ、ふぅ、と深く息を吐く。
男同士での泊まりなんてよくあるし、この間だって青山の家のシャワーを借りたというのに何故か嘉川だと調子が狂っていて。
「くそ、なんなんだよ一体⋯!」
誰に向けてでもない悪態を溢しながらシャワーで汗を軽く流していた時、ふと俺の目に飛び込んできたのはシャンプーボトルなどがあった棚に1つだけ残されたボトルだった。
「回収し忘れか⋯?」
何気なく取ったそのボトルは、粘着性の透明の液体が入っていて。
“開封してあるけど、量的に未使用だよな⋯”
不思議に思った俺はまじまじと見つめ⋯⋯
「ーーって、これローションか!?」
ハッとし顔が赤くなる。
“い、いや髭剃りとかに使ってるのかもしれないよな⋯?”
と考え、ならば開封済み未使用ってのはおかしいか、と首を傾げた。
この状態のローションが嘉川の家にあって、でも未使用ということは単純に使用主が嘉川ではないということになるのでは⋯という結論を導き出す。
「まさかこの使用主、俺じゃない⋯よな?」
あははっと笑い飛ばしてみたものの、嫌な汗が背筋を伝って。
“俺が今ここにいるのは終電を逃したから”
そして嘉川は明らかに終電に気付いていてわざと言わなかった訳で。
「つーか、今俺が風呂借りてんのって汗をかいたからだろ⋯?」
デートの行き先を選んだのも嘉川で、そしてそれすらわざとだったとしたら⋯
「こ、このローションの使用主⋯やっぱ俺なのか⋯っ!?」
ザアッと血の気が引いた俺は、慌てて風呂から飛び出し着替えを確認した。
「くそ、またこの二択か⋯っ!」
着替えとして俺に提供されていたのは、オーバーサイズのTシャツと、スウェットズボン、そして予想通りのエロぱんつ。
ノーパンか、エロぱんか。
青山の家では、さっさと開き直りサクッとエロぱんつを選んだが⋯
チラッと風呂場のローションに視線を移した俺は、ヒョエッと小さく悲鳴をあげた。
“どっちもダメだ、どっち選んでも俺の処女が散るかもしれん⋯!!”
究極の二択とはことことか、と思わず頭を抱える。
「そろそろ10分たつぞ、倒れてねぇよな?」
「た、倒れてはねぇよ!」
倒れてはいない。
別の意味で倒れそうになってはいるが。
もうそんなに時間がたったのか、風呂場の向こうに嘉川の気配を感じつつ洗濯機の方を見るが、そこにあるのはやはりゴウンゴウンと音を立てて動く洗濯機だった。
――めちゃくちゃ洗濯機が憎い。
「うわぁ、俺のぱんつを、普通のぱんつを返せぇ⋯っ!」
なんて洗濯機に泣き言を言ってももちろん止まってくれるはずなどなくて。
“乾燥まで終わるにはあと2時間半か⋯”
表示された時間に殺意を覚えつつ、俺は第三の選択肢を選ぶことにした。
「籠城だ!!!」
エロぱんつを脱衣かごに投げ入れ浴室に飛び込む。
“どうせノーパンを選んでもエロぱんつを選んでも結果は同じなんだろ⋯!?”
「絶⋯ッ対出ない!!」
「なんで」
「それはもちろーー⋯ぎゃあぁっ!?」
いつの間に脱衣所に入ってきたのか、浴室の磨りガラスになっているドアを挟んで俺達は向かい合っていた。
「ちょ、なんで入ってきてんの!?」
「10分たっても出てこねぇから、倒れてるんじゃないかと思って」
「さっき会話したんだから倒れてないってわかってたよな!?」
必死に抗議する俺にお構い無しの嘉川は、最後の砦だった浴室扉もあっさり開けた。
「あ、ほんとだ、倒れてなくて良かったわ」
「現在進行形で会話してるんだよなぁ⋯っ!!」
第三の選択肢である籠城を選んだことを激しく後悔しながら俺はその場にしゃがみ込む。
“ノーパンかエロぱんつを選んでいれば少なくともTシャツとスウェットズボンはあったのに!”
完全に防備0の真っ裸な俺の心臓が痛いほどバクバクと跳ねる。
「しゃがみ込んで大丈夫か?結構飲んでたもんな、起こしてやろうか」
しゃがんでいる理由がアルコールじゃないことを絶対わかっているはずの嘉川は、それでも俺の介抱というスタンスで俺の後ろにしゃがむ。
そのまま俺の両肩を自身の方へ引き寄せて――
べしゃ、と服のまま座った嘉川の足の間にすっぽり入る形で俺も尻を床に着けた。
「な⋯っ!?」
「ほら、俺にもたれて楽にしろよ、すぐ元気にしてやるからさ」
俺の背中に嘉川の胸がピッタリと引っ付く。
視界に入るのはあのローション。
“絶対今すぐコイツを押し退けて風呂場から出なきゃなのに”
ピタリと隙間なく引っ付いた嘉川の胸が、想像よりずっと速い鼓動を鳴らしていて⋯
背中から伝わる心臓の音は、真っ直ぐ想いを告げられているように感じ俺から逃げる意欲を奪った。
「望月⋯?」
俺が動かなくなった事に気付いた嘉川は、心配そうに顔を覗き込んでくる。
“くそ、全部策略のくせに本当に心配そうにしやがって⋯!”
ぶつけようのない怒りにも似た激情から、俺はただ嘉川を睨み付けた。
「⋯顔、赤いな」
「お酒のせいだっつの」
「あぁ、そうだな」
何処か嬉しそうな嘉川は、俺の返事に同意しつつ顔を近付ける。
“後ろから抱き締められてるせいで俺は身動き取れないし、アルコールで力も出ないから⋯”
まるで言い訳のようにそんなことを考えながら、俺はそっと嘉川からのキスを受け入れた。
大学生には不釣り合いなマンションに案内された俺は思わず挙動不審になる。
そんな俺に小さく笑みを溢した嘉川は。
「耐震工事で綺麗になってるけど、築年数かなりいってるから」
なんて耳元で囁いた。
「ーッ!!お、おまっ、わざわざ耳⋯っ!」
ふっと嘉川の吐息を間近に感じた俺は慌てて距離を取ろうとするが、すかさず腕を掴んだ嘉川がそれを許さない。
逃げられない力、それでも俺を気遣っているのか痛くはない力加減でー⋯
しっ、と反対の手で『静かに』のポーズを取った嘉川が、再び顔を俺の耳元に近付けた。
「耐震工事で見た目だけ、実際は声とか響くから⋯な?」
その声色がやたらと色っぽく感じ、“合コンとかでお持ち帰りされる女の子ってこんな気分なのか?”なんて考えて⋯
“って、俺は!男!だから!!!”
と盛大に自分へツッコミを入れる。
「酔ってるせい⋯酔ってるせいだ⋯」
なんてぶつぶつ言いながら5階にある嘉川の部屋に入った。
「汗かいたし着替えるだろ」
室内へ案内された俺は、シンプルで無駄な物がない部屋に少し感心しつつ質問に答える。
「あ、じゃあシャワーも借りていい?」
「酒飲んでるからダメだ」
嘉川のその発言は当たり前といえば当たり前なのだが、こちらとしても人様の服を借りるのにシャワーも浴びないのは抵抗があって。
うぐぐ、と押し問答をした結果、洗うのではなくぬるま湯で汗を流すだけ⋯という妥協点で合意した。
ちなみに10分以内という時間制限付き。
「望月はこっそり洗いそうだから回収しとくわ」
と、シャンプー等のボトルを全て回収する徹底ぶりを見せた嘉川に、“過保護かよ”なんて思いながら服を脱ぐ。
そのタイミングでノックが響いて。
「脱いだ服洗濯回しとくけどいいか?乾燥機付きだから明日にはまた着れると思うけど」
思わずビクッとした俺は慌てて全部脱ぎ、風呂場の扉を閉めてから「頼む!」と返事をした。
“ビビった⋯”
バクバクと速くなった鼓動に焦りつつ、ふぅ、と深く息を吐く。
男同士での泊まりなんてよくあるし、この間だって青山の家のシャワーを借りたというのに何故か嘉川だと調子が狂っていて。
「くそ、なんなんだよ一体⋯!」
誰に向けてでもない悪態を溢しながらシャワーで汗を軽く流していた時、ふと俺の目に飛び込んできたのはシャンプーボトルなどがあった棚に1つだけ残されたボトルだった。
「回収し忘れか⋯?」
何気なく取ったそのボトルは、粘着性の透明の液体が入っていて。
“開封してあるけど、量的に未使用だよな⋯”
不思議に思った俺はまじまじと見つめ⋯⋯
「ーーって、これローションか!?」
ハッとし顔が赤くなる。
“い、いや髭剃りとかに使ってるのかもしれないよな⋯?”
と考え、ならば開封済み未使用ってのはおかしいか、と首を傾げた。
この状態のローションが嘉川の家にあって、でも未使用ということは単純に使用主が嘉川ではないということになるのでは⋯という結論を導き出す。
「まさかこの使用主、俺じゃない⋯よな?」
あははっと笑い飛ばしてみたものの、嫌な汗が背筋を伝って。
“俺が今ここにいるのは終電を逃したから”
そして嘉川は明らかに終電に気付いていてわざと言わなかった訳で。
「つーか、今俺が風呂借りてんのって汗をかいたからだろ⋯?」
デートの行き先を選んだのも嘉川で、そしてそれすらわざとだったとしたら⋯
「こ、このローションの使用主⋯やっぱ俺なのか⋯っ!?」
ザアッと血の気が引いた俺は、慌てて風呂から飛び出し着替えを確認した。
「くそ、またこの二択か⋯っ!」
着替えとして俺に提供されていたのは、オーバーサイズのTシャツと、スウェットズボン、そして予想通りのエロぱんつ。
ノーパンか、エロぱんか。
青山の家では、さっさと開き直りサクッとエロぱんつを選んだが⋯
チラッと風呂場のローションに視線を移した俺は、ヒョエッと小さく悲鳴をあげた。
“どっちもダメだ、どっち選んでも俺の処女が散るかもしれん⋯!!”
究極の二択とはことことか、と思わず頭を抱える。
「そろそろ10分たつぞ、倒れてねぇよな?」
「た、倒れてはねぇよ!」
倒れてはいない。
別の意味で倒れそうになってはいるが。
もうそんなに時間がたったのか、風呂場の向こうに嘉川の気配を感じつつ洗濯機の方を見るが、そこにあるのはやはりゴウンゴウンと音を立てて動く洗濯機だった。
――めちゃくちゃ洗濯機が憎い。
「うわぁ、俺のぱんつを、普通のぱんつを返せぇ⋯っ!」
なんて洗濯機に泣き言を言ってももちろん止まってくれるはずなどなくて。
“乾燥まで終わるにはあと2時間半か⋯”
表示された時間に殺意を覚えつつ、俺は第三の選択肢を選ぶことにした。
「籠城だ!!!」
エロぱんつを脱衣かごに投げ入れ浴室に飛び込む。
“どうせノーパンを選んでもエロぱんつを選んでも結果は同じなんだろ⋯!?”
「絶⋯ッ対出ない!!」
「なんで」
「それはもちろーー⋯ぎゃあぁっ!?」
いつの間に脱衣所に入ってきたのか、浴室の磨りガラスになっているドアを挟んで俺達は向かい合っていた。
「ちょ、なんで入ってきてんの!?」
「10分たっても出てこねぇから、倒れてるんじゃないかと思って」
「さっき会話したんだから倒れてないってわかってたよな!?」
必死に抗議する俺にお構い無しの嘉川は、最後の砦だった浴室扉もあっさり開けた。
「あ、ほんとだ、倒れてなくて良かったわ」
「現在進行形で会話してるんだよなぁ⋯っ!!」
第三の選択肢である籠城を選んだことを激しく後悔しながら俺はその場にしゃがみ込む。
“ノーパンかエロぱんつを選んでいれば少なくともTシャツとスウェットズボンはあったのに!”
完全に防備0の真っ裸な俺の心臓が痛いほどバクバクと跳ねる。
「しゃがみ込んで大丈夫か?結構飲んでたもんな、起こしてやろうか」
しゃがんでいる理由がアルコールじゃないことを絶対わかっているはずの嘉川は、それでも俺の介抱というスタンスで俺の後ろにしゃがむ。
そのまま俺の両肩を自身の方へ引き寄せて――
べしゃ、と服のまま座った嘉川の足の間にすっぽり入る形で俺も尻を床に着けた。
「な⋯っ!?」
「ほら、俺にもたれて楽にしろよ、すぐ元気にしてやるからさ」
俺の背中に嘉川の胸がピッタリと引っ付く。
視界に入るのはあのローション。
“絶対今すぐコイツを押し退けて風呂場から出なきゃなのに”
ピタリと隙間なく引っ付いた嘉川の胸が、想像よりずっと速い鼓動を鳴らしていて⋯
背中から伝わる心臓の音は、真っ直ぐ想いを告げられているように感じ俺から逃げる意欲を奪った。
「望月⋯?」
俺が動かなくなった事に気付いた嘉川は、心配そうに顔を覗き込んでくる。
“くそ、全部策略のくせに本当に心配そうにしやがって⋯!”
ぶつけようのない怒りにも似た激情から、俺はただ嘉川を睨み付けた。
「⋯顔、赤いな」
「お酒のせいだっつの」
「あぁ、そうだな」
何処か嬉しそうな嘉川は、俺の返事に同意しつつ顔を近付ける。
“後ろから抱き締められてるせいで俺は身動き取れないし、アルコールで力も出ないから⋯”
まるで言い訳のようにそんなことを考えながら、俺はそっと嘉川からのキスを受け入れた。
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