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5.終電とは、俺を守る最後の砦だったらしい
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正直何か話すことあんのかな、と不安ではあった。
しかも、その後のごちゃごちゃでうっかり忘れていたがキスまでされたのだ。
なのに普通に楽しんでしまっていたせいで色々忘れていた自分に少し呆れながら、俺は冷ましたつくねを口に放り込む。
「そういや今度、化研がなんかやるらしいぜ」
「へ、なんかってなんだ?」
「詳しくは知らんが、でかいワニの骨格標本作るとかなんとか⋯」
「えー!そもそも骨格標本って俺達で作れんの!?」
「らしいぞ。第二研究塔の裏でやるらしくて、見学もしていいらしい」
「嘘⋯気にはなるけどちょっと怖ぇかも⋯」
“話すこと、案外あるな”
いや、案外どころかめちゃくちゃ弾む会話に自分でも驚く。
嘉川は知り合いが多いのか、色んな小話を知っていて単純に面白かった。
「そういや望月はサークル、呑み研だけ?」
「えっ、サークルって掛け持ち出来んの!?」
「サークルによってはな」
「知らなかった⋯けどま、俺は呑み研だけでいいかなぁ」
「相変わらず男ばっか?」
「最早女子禁制な雰囲気すらあるよ、まぁ活動内容もサークル名のまんま駄弁りながら酒飲むだけだしな」
「いつも店で飲んでんの?」
「いや、基本は青山の家に持ち寄りでー⋯」
しかも適度に質問も投げてくれる上に聞き上手だったのだ。
「⋯っと、望月次何呑む?」
⋯そして、飲ませ上手。
「んぁ~、なんか良さげな焼酎⋯」
「飲んだことねぇのばっかだから俺の直感で決めてやるよ、『鬼嫁』な」
「だぁれが鬼嫁だばかっ!」
「芋らしいよ」
「へぇ、それにするわ。頼んで頼んで!」
なんて、お酒の力だけとは言い切れないくらいこの場を満喫してしまってー⋯
「鬼嫁どう?」
「旨い!なんかな、こう⋯強い感じ」
「名前通りなんだな」
「うはっ」
なんて笑い合っていた時、ふと嘉川が口をつぐんだ。
「?」
途切れることがなかったせいか、突然訪れた静寂に少し居心地の悪さを感じはじめる。
そんな俺にそっと嘉川がスマホを渡してきて⋯
「え⋯なに?」
「写真。消すんだろ」
「写真⋯?」
一瞬何の事かわからずぽかんとするが、その“写真”が“エロぱんつを持った俺”だと気付く。
「あ、あれか⋯!?え⋯でも急に⋯?」
「デートが消す交換条件だっただろ」
そう言われ、そういえばそうだったと思い出す。
こんなもの他人のスマホに残すメリットなんてなく、故意でなくても万一誰かに見られれば俺は『男物のエロぱんつと構内で記念撮影をする変態』に認定されてしまうだろう。
――それなのに。
どこか寂しく感じるのは、美味しいお酒を楽しんだからかもしれないし嘉川との時間が思ったより居心地が良かったからかもしれない。
“そもそもコイツは突然人のを咥えるわ、エロぱんつを鞄に仕込むわ⋯挙句の果てにキスまでしてくる変態だし⋯”
内心悪態をつきながら、それでもなんだか名残惜しさを感じ受け取ったスマホをただ眺める。
“画像を消せば、もう終わり”
今から友情を築くには微妙な距離感になってしまった俺達はどうなるのだろうか。
一緒の講義があればまた隣に座ることもあるのか、それともまた知らない間柄に戻るのか⋯
ぼんやり考え込んでいる俺を怪訝に思ったのか、嘉川がさっとスマホを回収して。
「ロックはかけてなかったんだが⋯」
そのまま操作を続けた嘉川が、再び俺に画面を見せながら例の写真を表示した。
「ほら、これで⋯ん、消えたぞ。確認するか?」
あっさりゴミ箱に移動したその写真は、更にゴミ箱ホルダーからも完全に消去される。
一覧からもゴミ箱からも完全に消えてしまったからか、なんだか俺ごと捨てられてしまったように感じ何故だか胸が重く感じた。
“なんだよ⋯好きとか言ったくせに、そんなにあっさり⋯”
少し心が翳る俺とは対照に、どこかスッキリしたような表情になった嘉川は先程までのやり取りなど無かったように振る舞って。
「折角だからさ、望月の最初に飲んだ酒とか教えてくれよ」
なんて、まるでこれからもずっと友達でいれるような勘違いを俺にさせた。
“んなはずねぇよな、俺がここにいるのは脅されているからで。そしてもう脅しの材料が無いなら一緒にいる必要もなくて”
「俺が最初に飲んだのはなー⋯」
これが最後かもしれない、なんて思ったからか、俺は嘉川に聞かれるがまま色々話す。
俺からも聞いたり、教授の真似なんかをしてみたり。
ずっと親しかったように笑い合い、お互いの話に耳を傾けた。
「申し訳ありません、そろそろ閉店でお会計よろしいですか?」
店員さんにそう声をかけられるまで、俺達は⋯いや、俺は時間なんて忘れるくらい夢中になっていて。
「えっ!もうそんな時間⋯って、うわ!終電!!」
「あー⋯、本当だな、とりあえずこれでお釣りください」
白々しく俺の『終電』発言に適当な相槌を打った嘉川がサクサクお会計を終わらせる。
促されるまま俺達は居酒屋の外に出て。
「⋯おい、嘉川お前⋯」
「いやぁ、楽しくてうっかりしたな」
全然困ってなさそうに笑った嘉川が、俺の前に指を2本立てた。
「望月には選択肢が2つ、な。俺の家に来るか、歩いて帰るか」
「歩いて⋯って、ここから俺ん家8駅くらいあんだけど!?」
「お酒もいっぱい飲んだもんなぁ⋯」
薦められるまま飲んだのはビール2杯とレモン酎ハイ、ハイボールと芋焼酎⋯
「ちなみにネカフェかファミレスって⋯」
「歩いて1時間はかかるな。もちろん駅で始発まで寝るとか危ないからナシで」
サックリそう言われ、ニヤッと笑った嘉川が俺の顔を覗き込む。
「どっち選ぶ⋯?」
ノーパンかエロぱんか。
そんな二択を迫られた事から始まったこの関係。
“あの時もしノーパンを選んでいても、結果は同じだったろうな⋯”
なんて考えた俺は、かなり大きなため息を吐いた。
“この選択肢も、どうせどっち選んでも同じなんだろうな”
俺が歩く方を選んだとしても、歩き疲れるまでついてきてまた二択を迫られる。
簡単に想像出来てしまって少し頭が痛い。
“頭痛がすんだから、仕方ない”
これは決して名残惜しかったからではなく、本当に頭が痛いからだと主張をしよう。
そう自分に言い聞かせた俺は、渋々嘉川の家に行くことを選ぶのだった。
しかも、その後のごちゃごちゃでうっかり忘れていたがキスまでされたのだ。
なのに普通に楽しんでしまっていたせいで色々忘れていた自分に少し呆れながら、俺は冷ましたつくねを口に放り込む。
「そういや今度、化研がなんかやるらしいぜ」
「へ、なんかってなんだ?」
「詳しくは知らんが、でかいワニの骨格標本作るとかなんとか⋯」
「えー!そもそも骨格標本って俺達で作れんの!?」
「らしいぞ。第二研究塔の裏でやるらしくて、見学もしていいらしい」
「嘘⋯気にはなるけどちょっと怖ぇかも⋯」
“話すこと、案外あるな”
いや、案外どころかめちゃくちゃ弾む会話に自分でも驚く。
嘉川は知り合いが多いのか、色んな小話を知っていて単純に面白かった。
「そういや望月はサークル、呑み研だけ?」
「えっ、サークルって掛け持ち出来んの!?」
「サークルによってはな」
「知らなかった⋯けどま、俺は呑み研だけでいいかなぁ」
「相変わらず男ばっか?」
「最早女子禁制な雰囲気すらあるよ、まぁ活動内容もサークル名のまんま駄弁りながら酒飲むだけだしな」
「いつも店で飲んでんの?」
「いや、基本は青山の家に持ち寄りでー⋯」
しかも適度に質問も投げてくれる上に聞き上手だったのだ。
「⋯っと、望月次何呑む?」
⋯そして、飲ませ上手。
「んぁ~、なんか良さげな焼酎⋯」
「飲んだことねぇのばっかだから俺の直感で決めてやるよ、『鬼嫁』な」
「だぁれが鬼嫁だばかっ!」
「芋らしいよ」
「へぇ、それにするわ。頼んで頼んで!」
なんて、お酒の力だけとは言い切れないくらいこの場を満喫してしまってー⋯
「鬼嫁どう?」
「旨い!なんかな、こう⋯強い感じ」
「名前通りなんだな」
「うはっ」
なんて笑い合っていた時、ふと嘉川が口をつぐんだ。
「?」
途切れることがなかったせいか、突然訪れた静寂に少し居心地の悪さを感じはじめる。
そんな俺にそっと嘉川がスマホを渡してきて⋯
「え⋯なに?」
「写真。消すんだろ」
「写真⋯?」
一瞬何の事かわからずぽかんとするが、その“写真”が“エロぱんつを持った俺”だと気付く。
「あ、あれか⋯!?え⋯でも急に⋯?」
「デートが消す交換条件だっただろ」
そう言われ、そういえばそうだったと思い出す。
こんなもの他人のスマホに残すメリットなんてなく、故意でなくても万一誰かに見られれば俺は『男物のエロぱんつと構内で記念撮影をする変態』に認定されてしまうだろう。
――それなのに。
どこか寂しく感じるのは、美味しいお酒を楽しんだからかもしれないし嘉川との時間が思ったより居心地が良かったからかもしれない。
“そもそもコイツは突然人のを咥えるわ、エロぱんつを鞄に仕込むわ⋯挙句の果てにキスまでしてくる変態だし⋯”
内心悪態をつきながら、それでもなんだか名残惜しさを感じ受け取ったスマホをただ眺める。
“画像を消せば、もう終わり”
今から友情を築くには微妙な距離感になってしまった俺達はどうなるのだろうか。
一緒の講義があればまた隣に座ることもあるのか、それともまた知らない間柄に戻るのか⋯
ぼんやり考え込んでいる俺を怪訝に思ったのか、嘉川がさっとスマホを回収して。
「ロックはかけてなかったんだが⋯」
そのまま操作を続けた嘉川が、再び俺に画面を見せながら例の写真を表示した。
「ほら、これで⋯ん、消えたぞ。確認するか?」
あっさりゴミ箱に移動したその写真は、更にゴミ箱ホルダーからも完全に消去される。
一覧からもゴミ箱からも完全に消えてしまったからか、なんだか俺ごと捨てられてしまったように感じ何故だか胸が重く感じた。
“なんだよ⋯好きとか言ったくせに、そんなにあっさり⋯”
少し心が翳る俺とは対照に、どこかスッキリしたような表情になった嘉川は先程までのやり取りなど無かったように振る舞って。
「折角だからさ、望月の最初に飲んだ酒とか教えてくれよ」
なんて、まるでこれからもずっと友達でいれるような勘違いを俺にさせた。
“んなはずねぇよな、俺がここにいるのは脅されているからで。そしてもう脅しの材料が無いなら一緒にいる必要もなくて”
「俺が最初に飲んだのはなー⋯」
これが最後かもしれない、なんて思ったからか、俺は嘉川に聞かれるがまま色々話す。
俺からも聞いたり、教授の真似なんかをしてみたり。
ずっと親しかったように笑い合い、お互いの話に耳を傾けた。
「申し訳ありません、そろそろ閉店でお会計よろしいですか?」
店員さんにそう声をかけられるまで、俺達は⋯いや、俺は時間なんて忘れるくらい夢中になっていて。
「えっ!もうそんな時間⋯って、うわ!終電!!」
「あー⋯、本当だな、とりあえずこれでお釣りください」
白々しく俺の『終電』発言に適当な相槌を打った嘉川がサクサクお会計を終わらせる。
促されるまま俺達は居酒屋の外に出て。
「⋯おい、嘉川お前⋯」
「いやぁ、楽しくてうっかりしたな」
全然困ってなさそうに笑った嘉川が、俺の前に指を2本立てた。
「望月には選択肢が2つ、な。俺の家に来るか、歩いて帰るか」
「歩いて⋯って、ここから俺ん家8駅くらいあんだけど!?」
「お酒もいっぱい飲んだもんなぁ⋯」
薦められるまま飲んだのはビール2杯とレモン酎ハイ、ハイボールと芋焼酎⋯
「ちなみにネカフェかファミレスって⋯」
「歩いて1時間はかかるな。もちろん駅で始発まで寝るとか危ないからナシで」
サックリそう言われ、ニヤッと笑った嘉川が俺の顔を覗き込む。
「どっち選ぶ⋯?」
ノーパンかエロぱんか。
そんな二択を迫られた事から始まったこの関係。
“あの時もしノーパンを選んでいても、結果は同じだったろうな⋯”
なんて考えた俺は、かなり大きなため息を吐いた。
“この選択肢も、どうせどっち選んでも同じなんだろうな”
俺が歩く方を選んだとしても、歩き疲れるまでついてきてまた二択を迫られる。
簡単に想像出来てしまって少し頭が痛い。
“頭痛がすんだから、仕方ない”
これは決して名残惜しかったからではなく、本当に頭が痛いからだと主張をしよう。
そう自分に言い聞かせた俺は、渋々嘉川の家に行くことを選ぶのだった。
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