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最終章:その寵愛、真実につき
27.朱色の道のその先で
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“勝手に離れるのは気が引けるけど”
だがここにいても足を引っ張るだけ。
ならば出来ることをするべきだ。
「それが例え、神頼みだとしても……!」
願いが『通る』ように、もしくは『通った』お礼として奉納された鳥居たち。
それらがこの千本鳥居になったのだと聞いたことがある。
“ということは、それだけ願いが叶うご利益のある場所ってことよね!?”
それに私はあやかしたちと出会ってしまった。
あやかしがいるなら神様がいたっておかしくはないだろう。
ぎゅっと両手を強く握った私は、ゆっくり後退るように彼らから離れる。
目指すは千本鳥居の入り口――だが。
「ねぇ、まだ利用してないよ」
「きゃっ!」
私の目の前に突然人形の影が現れ行き先を塞ぐ。
「俺の大事な恋人を利用させるわけないって気付かない?」
だがすぐにその影が白く燃え上がり崩れるように消えた。
“この機会を失う訳にはいかない……!”
こんちゃんが開いてくれた道を無駄になんてさせるものか。
「絶対何か、何か見つけてくるから!」
そう叫んだ私は、まだ僅かに残っているこんちゃんの炎に飛び込むように真っ直ぐ千本鳥居へと向かって駆け出したのだった。
「走ったら思ったよりも傾斜がある……!」
鳥居をくぐり抜けた先、頂上にある大社を目指す。
一人、夜中の千本鳥居は物々しい雰囲気だった。
“ちゃんと出口に着くよね?”
ひたすら続くこの鳥居の先が本当にあるのだろうか。
思わずそんな心配が過るほど無限に続くこの道に心細くなるが、それでも足を止める訳にはいかない。
「神様はいる、きっといる」
だって彼らがいるんだから。
彼らの前に私がいるんだから。
不確定なその希望にすがりたいくらい、私だってこんちゃんのために何かをしたいから。
“足を引っ張るだけなんてもう嫌だから……!”
ぜぇぜぇと息が上がり始める。
日頃の運動不足も重なり、この長く続く傾斜が辛い。
「ちょっとした登山よね」
それでも今こんちゃんも頑張っているのだ。
その思いが私の足を無理やり一歩、また一歩と先に進めさせた。
“神様に会ったらこんちゃんを助けてくださいってお願いして、そしてこんちゃんと一緒に家に帰ろう”
勝手に出てごめんなさいと謝ったら、きっと彼は笑って許してくれるのだろう。
いつもの少し意地悪な笑顔を作り、悪戯のようなお仕置きを言ってくるかもしれない。
「こんちゃんならあり得る」
また変なことを言って、と頬を膨らませればあの笑い上戸のお狐様はすぐに吹き出してしまうんだ。
――そんな時間を、取り戻したいから。
淡い妄想に心を奮い立たせ、ただ前だけを見て必死に走る。
無限に続くような気がしたこの鳥居の道の先が唐突に開け、石で出来た階段が現れる。
その階段を駆け上った先が、目的地の大社だった。
「――ッ」
暗闇の中、光などないのにハッキリと見えることにごくりと唾を呑む。
少し不気味だとすら感じた夜の千本鳥居の行き着く先だったこの場所は、空気が凛と張り詰めていてここにいるだけで背筋が自然と伸びるようだった。
“えっと、どうしたらいいんだろ”
とりあえずお参りをすればいいのだろうか?
無計画かつ根拠のない想像でここまで突っ走ってしまったせいで、途方に暮れそうになるがやはり神様にお願い事を伝えるならばお参りしかないと思った私はそっとポケットに手を入れて――
「こ、小銭がない……!!」
というかそもそもお財布がない。
「鞄の中かっ」
お賽銭せず願いを伝えてもいいのかと焦った私は、とりあえずその場でジャンプした。
「チャリンチャリンっていえ!!」
まかり間違って小銭とか出てこないかと一縷の望みにかけて飛びながら耳を澄ませるが、残念ながら小銭は出ない。
“お札! お札でもいい!”
冷や汗が額に滲む。
まさかあんなにお膳立てして貰い、こんなに意を決して駆け抜けた先でお金を求めてひたすらジャンプするはめになるだなんて思っていなかった私は、ただただ惨めな気分だった。
というか惨めだ。
「そんなぁ~っ! こんなオチとかないよ!? お願い、こんちゃんを助けて欲しいだけなの! お賽銭の後払いは採用されておりませんかーッ!!」
一人きりの境内で嘆きながらお賽銭箱の前でひたすらジャンプする女。
それが私だと思うと惨めすぎて泣きそうだ。
きっとこの姿の私を見たら、こんちゃんは吹き出しお腹を抱えて転がるほど笑うのだろう。
「ヒィッ、ひはっ、あははっ、こんなっ、あひっ、こんな面白いっ、ヒヒヒッ!」
――そう、まさにこんな感じに。
だがここにいても足を引っ張るだけ。
ならば出来ることをするべきだ。
「それが例え、神頼みだとしても……!」
願いが『通る』ように、もしくは『通った』お礼として奉納された鳥居たち。
それらがこの千本鳥居になったのだと聞いたことがある。
“ということは、それだけ願いが叶うご利益のある場所ってことよね!?”
それに私はあやかしたちと出会ってしまった。
あやかしがいるなら神様がいたっておかしくはないだろう。
ぎゅっと両手を強く握った私は、ゆっくり後退るように彼らから離れる。
目指すは千本鳥居の入り口――だが。
「ねぇ、まだ利用してないよ」
「きゃっ!」
私の目の前に突然人形の影が現れ行き先を塞ぐ。
「俺の大事な恋人を利用させるわけないって気付かない?」
だがすぐにその影が白く燃え上がり崩れるように消えた。
“この機会を失う訳にはいかない……!”
こんちゃんが開いてくれた道を無駄になんてさせるものか。
「絶対何か、何か見つけてくるから!」
そう叫んだ私は、まだ僅かに残っているこんちゃんの炎に飛び込むように真っ直ぐ千本鳥居へと向かって駆け出したのだった。
「走ったら思ったよりも傾斜がある……!」
鳥居をくぐり抜けた先、頂上にある大社を目指す。
一人、夜中の千本鳥居は物々しい雰囲気だった。
“ちゃんと出口に着くよね?”
ひたすら続くこの鳥居の先が本当にあるのだろうか。
思わずそんな心配が過るほど無限に続くこの道に心細くなるが、それでも足を止める訳にはいかない。
「神様はいる、きっといる」
だって彼らがいるんだから。
彼らの前に私がいるんだから。
不確定なその希望にすがりたいくらい、私だってこんちゃんのために何かをしたいから。
“足を引っ張るだけなんてもう嫌だから……!”
ぜぇぜぇと息が上がり始める。
日頃の運動不足も重なり、この長く続く傾斜が辛い。
「ちょっとした登山よね」
それでも今こんちゃんも頑張っているのだ。
その思いが私の足を無理やり一歩、また一歩と先に進めさせた。
“神様に会ったらこんちゃんを助けてくださいってお願いして、そしてこんちゃんと一緒に家に帰ろう”
勝手に出てごめんなさいと謝ったら、きっと彼は笑って許してくれるのだろう。
いつもの少し意地悪な笑顔を作り、悪戯のようなお仕置きを言ってくるかもしれない。
「こんちゃんならあり得る」
また変なことを言って、と頬を膨らませればあの笑い上戸のお狐様はすぐに吹き出してしまうんだ。
――そんな時間を、取り戻したいから。
淡い妄想に心を奮い立たせ、ただ前だけを見て必死に走る。
無限に続くような気がしたこの鳥居の道の先が唐突に開け、石で出来た階段が現れる。
その階段を駆け上った先が、目的地の大社だった。
「――ッ」
暗闇の中、光などないのにハッキリと見えることにごくりと唾を呑む。
少し不気味だとすら感じた夜の千本鳥居の行き着く先だったこの場所は、空気が凛と張り詰めていてここにいるだけで背筋が自然と伸びるようだった。
“えっと、どうしたらいいんだろ”
とりあえずお参りをすればいいのだろうか?
無計画かつ根拠のない想像でここまで突っ走ってしまったせいで、途方に暮れそうになるがやはり神様にお願い事を伝えるならばお参りしかないと思った私はそっとポケットに手を入れて――
「こ、小銭がない……!!」
というかそもそもお財布がない。
「鞄の中かっ」
お賽銭せず願いを伝えてもいいのかと焦った私は、とりあえずその場でジャンプした。
「チャリンチャリンっていえ!!」
まかり間違って小銭とか出てこないかと一縷の望みにかけて飛びながら耳を澄ませるが、残念ながら小銭は出ない。
“お札! お札でもいい!”
冷や汗が額に滲む。
まさかあんなにお膳立てして貰い、こんなに意を決して駆け抜けた先でお金を求めてひたすらジャンプするはめになるだなんて思っていなかった私は、ただただ惨めな気分だった。
というか惨めだ。
「そんなぁ~っ! こんなオチとかないよ!? お願い、こんちゃんを助けて欲しいだけなの! お賽銭の後払いは採用されておりませんかーッ!!」
一人きりの境内で嘆きながらお賽銭箱の前でひたすらジャンプする女。
それが私だと思うと惨めすぎて泣きそうだ。
きっとこの姿の私を見たら、こんちゃんは吹き出しお腹を抱えて転がるほど笑うのだろう。
「ヒィッ、ひはっ、あははっ、こんなっ、あひっ、こんな面白いっ、ヒヒヒッ!」
――そう、まさにこんな感じに。
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