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最終章:その寵愛、真実につき
26.鳥居
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“確かに私は何もしらない部外者だけど”
けれど清子さんと話し、鬼さんと語り、楓ちゃんとぶつかって。
そしてこんちゃんの温かさを知ったから。
だから私は一緒に過ごしたこの時間で少しは彼らを理解した――そんなつもりになっていた。
「きゃあ!」
ギリッと突然腕が痛み思わず声を上げる。
一泊遅れて腕を捩じりあげられたことに気が付いた。
「なにを……っ」
反射的に声を上げるが、その声を遮るように顔の目の前に彼の顔を近付けられた。
触れそうになるその距離、そして何も映していないその瞳にゾッとする。
今彼の牙を皮膚にたてられれば、私はあっけなく死んでしまうのだという現実を突きつけられた気がした。
そんな私の恐怖に気付いているのかいないのか、どこか不思議そうにまじまじと私の顔を覗いていた。
見られているのに映っていないその闇色の瞳に思わずごくりと唾を呑む。
“怖い”
「どうしたら一番効果的かな」
“怖い”
「四肢を切り落として家の前に置こうか。足は庭に、首は狐の部屋の前に……って、首は四肢じゃないかぁ」
“怖い”
「あいつが一番好きな君の部位はどこだろう? そこだけ食べて残骸を送るのもいいし、逆にそこだけを残して他全部ぐちゃぐちゃにしちゃうのもいいなぁ」
逃げなくちゃと思っているのに腕はビクともしない。
助けを呼びたくてもハクハクと私の口からは声が全く出ず、ただ終わりのカウントダウンに震えるしかできないと思った、その時だった。
「――返してもらうから」
私の体を突然白い炎が包み、犬神が掴んでいた手を慌てて離す。
まったく熱くないその炎ごと後ろから私をぎゅっと抱きしめたのは、鼓膜をくすぐるこの声は。
「ゆっこ、お待たせ」
「こんちゃん……!」
それは紛れもなく私が一番心配し、そして一番求めていた彼だった。
「狐火か」
さっきまで仮面のような笑顔を貼り付けていた犬神が忌々しそうに顔を歪める。
対してこんちゃんはというと……
「夜遊びするような悪い子は、帰ったらお仕置きだねぇ」
「今そんな話してる場合じゃないよね!?」
「そんなことないよ? 俺にとってはゆっこにどんなお仕置きをするのかが一番重要かな」
「絶対違うと思うけど!?」
まるで犬神なんて見えていないかのような振る舞いに、私は冷や汗を滲ませた。
「というか、なんでこの炎熱くないんだろ」
「うん? それはもちろん大切なゆっこを俺が傷つけるはずないからだよ?」
さらりとそんなことを言われ顔が一気に熱くなる。
「あれぇ? 顔が赤いよ、やっぱり熱い? おかしいなぁ、この炎はゆっこには熱くないはずなんだけどなぁ~」
“煽ってるだけ、煽ってるだけよね!?”
私をダシにしてされた嫌がらせの意趣返しをしているのだとわかっていても、これ見よがしに顔を近付けられればドキドキと鼓動が早くなってしまう。
犬神に顔を近付けられた時は恐怖しか感じなかったのに、相手がこんちゃんだと言うだけで私はこんなにも簡単に安心してドキドキ出来るのだと苦笑した。
“でも、状況は何も好転はしてないよね”
そっと私を背後に庇うようにして犬神の前に立つこんちゃん。
そのこんちゃんをひたすら睨んでいる犬神。
その均衡を最初に壊したのは犬神のほうだった。
――パチン、と指を鳴らし乾いた音がその場に響くと、こんちゃんの影がゆらりと揺れる。
“あれは!”
羽団扇の突風で私の上に木が倒れてきた時、その場に縫い止めるように影のような手が私の足を掴んでいたことを思い出す。
“この人の能力だったんだ……!”
揺れた影がこんちゃんの足を掴んだのを見てザアッと血の気が引くが、掴まれたこんちゃんの足も揺れたと思ったら白い炎に変わり、何故か犬神の後ろにこんちゃんが立っていた。
「残念、狐は化かすのが得意なんだよ」
「犬は嗅覚が鋭くてね」
爪で切り裂くように振りかぶる。
私が動きを追えていないせいか、確実に死角からの一撃だと思ったのだがこんちゃんの攻撃はあっさりと躱され、再びパチンと犬神が指を鳴らすと今度はまるで影で出来たベールのようなものがこんちゃんの頭上に現れた。
そのベールが包むようにこんちゃんの体に纏わりつき、顔をしかめたこんちゃんに思わず息を呑む。
“足が掴めなかったから、今度は範囲攻撃で動きを封じようとされてるってこと!?”
ピンポイントで狙って失敗したが、空間ごと広範囲で囲めばこんちゃんの動きを封じれるということなのだろう。
それにこんちゃんは怪我人で、今は夜。
闇に紛れより影が見えづらく、そして私という足手まといを庇いながら戦っているせいで圧倒的に不利だった。
「どうして……こんな……」
ただ迷い込んだだけの人間。
それだけの存在である私のために、彼は何度も駆けつけてくれた。
今は怪我だってしていて、私は抜け出したのにそれにも気付いて守ろうと戦ってくれている。
「見捨てればもっと動きやすいはずなのに」
いや、そもそも見捨てれば戦う必要だってないのだ。
呼び出され、それにホイホイと応じた私なんか放っておけばいいだけなのに。
……それなのに。
“仮初めだってわかってるのに、本当に好かれてるみたいじゃない”
影のベールを狐火で焼き、なんとか抜け出すが劣性なのはこんちゃんだ。
それでも私が無事かを確認しつつ戦うこんちゃんに胸が締め付けられる。
絶体絶命の状況。
じりじり追い詰められているのはこちらで、長引けば長引くほど不利になる。
「どうしよう、どうしたら……!」
何でもいい。
何でもいいから活路を、と辺りを見回す。
石畳、砂利、狐の獅子と狛犬、そして連なる鳥居――
「……そうだ、千本鳥居って……」
けれど清子さんと話し、鬼さんと語り、楓ちゃんとぶつかって。
そしてこんちゃんの温かさを知ったから。
だから私は一緒に過ごしたこの時間で少しは彼らを理解した――そんなつもりになっていた。
「きゃあ!」
ギリッと突然腕が痛み思わず声を上げる。
一泊遅れて腕を捩じりあげられたことに気が付いた。
「なにを……っ」
反射的に声を上げるが、その声を遮るように顔の目の前に彼の顔を近付けられた。
触れそうになるその距離、そして何も映していないその瞳にゾッとする。
今彼の牙を皮膚にたてられれば、私はあっけなく死んでしまうのだという現実を突きつけられた気がした。
そんな私の恐怖に気付いているのかいないのか、どこか不思議そうにまじまじと私の顔を覗いていた。
見られているのに映っていないその闇色の瞳に思わずごくりと唾を呑む。
“怖い”
「どうしたら一番効果的かな」
“怖い”
「四肢を切り落として家の前に置こうか。足は庭に、首は狐の部屋の前に……って、首は四肢じゃないかぁ」
“怖い”
「あいつが一番好きな君の部位はどこだろう? そこだけ食べて残骸を送るのもいいし、逆にそこだけを残して他全部ぐちゃぐちゃにしちゃうのもいいなぁ」
逃げなくちゃと思っているのに腕はビクともしない。
助けを呼びたくてもハクハクと私の口からは声が全く出ず、ただ終わりのカウントダウンに震えるしかできないと思った、その時だった。
「――返してもらうから」
私の体を突然白い炎が包み、犬神が掴んでいた手を慌てて離す。
まったく熱くないその炎ごと後ろから私をぎゅっと抱きしめたのは、鼓膜をくすぐるこの声は。
「ゆっこ、お待たせ」
「こんちゃん……!」
それは紛れもなく私が一番心配し、そして一番求めていた彼だった。
「狐火か」
さっきまで仮面のような笑顔を貼り付けていた犬神が忌々しそうに顔を歪める。
対してこんちゃんはというと……
「夜遊びするような悪い子は、帰ったらお仕置きだねぇ」
「今そんな話してる場合じゃないよね!?」
「そんなことないよ? 俺にとってはゆっこにどんなお仕置きをするのかが一番重要かな」
「絶対違うと思うけど!?」
まるで犬神なんて見えていないかのような振る舞いに、私は冷や汗を滲ませた。
「というか、なんでこの炎熱くないんだろ」
「うん? それはもちろん大切なゆっこを俺が傷つけるはずないからだよ?」
さらりとそんなことを言われ顔が一気に熱くなる。
「あれぇ? 顔が赤いよ、やっぱり熱い? おかしいなぁ、この炎はゆっこには熱くないはずなんだけどなぁ~」
“煽ってるだけ、煽ってるだけよね!?”
私をダシにしてされた嫌がらせの意趣返しをしているのだとわかっていても、これ見よがしに顔を近付けられればドキドキと鼓動が早くなってしまう。
犬神に顔を近付けられた時は恐怖しか感じなかったのに、相手がこんちゃんだと言うだけで私はこんなにも簡単に安心してドキドキ出来るのだと苦笑した。
“でも、状況は何も好転はしてないよね”
そっと私を背後に庇うようにして犬神の前に立つこんちゃん。
そのこんちゃんをひたすら睨んでいる犬神。
その均衡を最初に壊したのは犬神のほうだった。
――パチン、と指を鳴らし乾いた音がその場に響くと、こんちゃんの影がゆらりと揺れる。
“あれは!”
羽団扇の突風で私の上に木が倒れてきた時、その場に縫い止めるように影のような手が私の足を掴んでいたことを思い出す。
“この人の能力だったんだ……!”
揺れた影がこんちゃんの足を掴んだのを見てザアッと血の気が引くが、掴まれたこんちゃんの足も揺れたと思ったら白い炎に変わり、何故か犬神の後ろにこんちゃんが立っていた。
「残念、狐は化かすのが得意なんだよ」
「犬は嗅覚が鋭くてね」
爪で切り裂くように振りかぶる。
私が動きを追えていないせいか、確実に死角からの一撃だと思ったのだがこんちゃんの攻撃はあっさりと躱され、再びパチンと犬神が指を鳴らすと今度はまるで影で出来たベールのようなものがこんちゃんの頭上に現れた。
そのベールが包むようにこんちゃんの体に纏わりつき、顔をしかめたこんちゃんに思わず息を呑む。
“足が掴めなかったから、今度は範囲攻撃で動きを封じようとされてるってこと!?”
ピンポイントで狙って失敗したが、空間ごと広範囲で囲めばこんちゃんの動きを封じれるということなのだろう。
それにこんちゃんは怪我人で、今は夜。
闇に紛れより影が見えづらく、そして私という足手まといを庇いながら戦っているせいで圧倒的に不利だった。
「どうして……こんな……」
ただ迷い込んだだけの人間。
それだけの存在である私のために、彼は何度も駆けつけてくれた。
今は怪我だってしていて、私は抜け出したのにそれにも気付いて守ろうと戦ってくれている。
「見捨てればもっと動きやすいはずなのに」
いや、そもそも見捨てれば戦う必要だってないのだ。
呼び出され、それにホイホイと応じた私なんか放っておけばいいだけなのに。
……それなのに。
“仮初めだってわかってるのに、本当に好かれてるみたいじゃない”
影のベールを狐火で焼き、なんとか抜け出すが劣性なのはこんちゃんだ。
それでも私が無事かを確認しつつ戦うこんちゃんに胸が締め付けられる。
絶体絶命の状況。
じりじり追い詰められているのはこちらで、長引けば長引くほど不利になる。
「どうしよう、どうしたら……!」
何でもいい。
何でもいいから活路を、と辺りを見回す。
石畳、砂利、狐の獅子と狛犬、そして連なる鳥居――
「……そうだ、千本鳥居って……」
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