19 / 31
第四章:可愛い恋敵
18.小さな自称正妻ちゃん
しおりを挟む
それは突然にやってきた。
「貴女が白さまの恋人!? しんっじられない! おばさんじゃないの!!」
「お、おば……」
“私まだ21歳なんだけど”
まるで黒く艶やかな髪がふわりとウェーブし、まるで宝石のように輝く黒目が美しい。
赤く染まった唇は小さく、うっすら染まる頬は可愛さを引き立てている。
まさに美少女。
そしてそんな美少女の背中には髪や瞳と同じ艶やかな黒い羽があった。
「私は貴女が白さまの恋人だなんて絶対認めないわ! 白さまと結婚するのは私なんだから!!」
「あはは、楓ちゃんってば可愛いなぁ」
仮初めではあるが、一応恋人としてこんちゃんの家で過ごさせて貰っている私にそんな啖呵を切った彼女ににこにこと笑うこんちゃんも嬉しそう。
つまり私にとって目の前のこの美少女がはじめての恋のライバルというやつなのだろう、……が。
“どうみても七歳くらい……!”
「うんうん、楓ちゃんも大きくなったら好きな人がちゃんと出来るからねぇ」
「ですからッ! それがッ! 白さまだと申しておりますのですわぁ~!!」
にこにこ笑うこんちゃんの返答に、その場で地団駄を踏む彼女は年相応。
むしろ最近の子供ってませてると聞くので、もしかしたら子供っぽい方なのかもしれないと思うほどですらあった。
“何のあやかしなんだろう”
見た目からわかるのは彼女に羽があるというくらいで、すぐにピンと来るあやかしが思い出せなかった私は昔テレビでよく観ていた妖怪アニメを必死に思い出しつつそっとこんちゃんへと近付く。
内緒話をするようにこんちゃんの方へ手を添えて顔を近付けると、察してくれたこんちゃんも顔を傾けて耳を近付けてくれた。
「なんですの、見せつけておりますの!?」
「ぅえっ!? そ、そういうつもりじゃっ」
「じゃあどういうつもりなんですの!! 不愉快ですわ、そもそも貴女、名前くらい名乗ったらどうなの!」
ビシッという効果音が付きそうな勢いで指摘された私は、相手が幼い女の子だというのに思わず気圧されて慌てて名乗った。
「きっ、桐生優子です……!」
「そう。私は烏天狗の一族当主の娘、黒曜楓よ。桐生……なんて名前聞いたことないのだけれど、そんな家妖狐にいたかしら?」
「あぁ、その羽は烏天狗――って、え?」
“妖狐?”
気になっていた答えに納得した私だったが、そのまま続けられた言葉にぽかんとしてしまう。
桐生という妖狐の一族がいるかどうかは別として、私はあくまでも迷い込んでしまったただの人間。
それなのに彼女の言い方だと、まるで私が妖狐に見えているようで。
「え? えぇっと……」
「うん、ちょっと遠方の方だけどね」
「そうなんですの? ふぅん、つまりは田舎者ってことね!」
「えっ、えぇ?」
そしてそんな会話にしれっと乗ったこんちゃんにぎょっとした私に気付いたこんちゃんが、いつものように赤い瞳を三日月型のスッと細めた。
“こ、この顔は……!”
何度も見たこの表情は、彼にとって『楽しいこと』を意味する表情。
簡単に言えば、誰かをからかって遊ぶ時の――!
「言ったでしょ? 狐は化けるのが得意だって」
「!!」
その発言にガクリと項垂れる。
どういう仕組みはわからないが、どうやら私はこんちゃんの妖術で目の前にいるこの美少女には彼と同じ妖狐に見えているらしかった。
“なんでそんなにややこしいことを!”
抗議の気持ちを込めてギロリと睨むが、何をどう思ったのか突然わざとらしいくらいの微笑みを貼り付けたこんちゃんが、これまたわざとらしく私の頭を撫でて――
「ちょっと!! 私がいるのにいちゃつかないでくださいますっ!?」
「ひぇっ」
「今は確かに貴女が恋人かもしれませんが、正妻は私です! 貴女なんてせいぜい愛妾にしかなれませんッ!」
「愛妾!?」
およそ七歳の少女の口から出るべきではない言葉が飛び出し愕然とする。
「楓ちゃん」
諭すようにこんちゃんに名を呼ばれた彼女がビクリと肩を跳ねさせた。
「俺にはゆっこだけだから、ごめんね?」
「そこじゃなくないっ!?」
てっきり愛妾について言及するのかと思っていたせいで思いっきりツッコミをいれてしまう。
そんな私をキッと見た楓ちゃんは、つかつかと私の目の前まで歩き、そして再びビシッという効果音が付きそうな勢いで私に詰め寄って。
「貴女ごときの何がいいのか、見極めさせていただきますわ……!」
なんて宣言をしたのだった。
「貴女が白さまの恋人!? しんっじられない! おばさんじゃないの!!」
「お、おば……」
“私まだ21歳なんだけど”
まるで黒く艶やかな髪がふわりとウェーブし、まるで宝石のように輝く黒目が美しい。
赤く染まった唇は小さく、うっすら染まる頬は可愛さを引き立てている。
まさに美少女。
そしてそんな美少女の背中には髪や瞳と同じ艶やかな黒い羽があった。
「私は貴女が白さまの恋人だなんて絶対認めないわ! 白さまと結婚するのは私なんだから!!」
「あはは、楓ちゃんってば可愛いなぁ」
仮初めではあるが、一応恋人としてこんちゃんの家で過ごさせて貰っている私にそんな啖呵を切った彼女ににこにこと笑うこんちゃんも嬉しそう。
つまり私にとって目の前のこの美少女がはじめての恋のライバルというやつなのだろう、……が。
“どうみても七歳くらい……!”
「うんうん、楓ちゃんも大きくなったら好きな人がちゃんと出来るからねぇ」
「ですからッ! それがッ! 白さまだと申しておりますのですわぁ~!!」
にこにこ笑うこんちゃんの返答に、その場で地団駄を踏む彼女は年相応。
むしろ最近の子供ってませてると聞くので、もしかしたら子供っぽい方なのかもしれないと思うほどですらあった。
“何のあやかしなんだろう”
見た目からわかるのは彼女に羽があるというくらいで、すぐにピンと来るあやかしが思い出せなかった私は昔テレビでよく観ていた妖怪アニメを必死に思い出しつつそっとこんちゃんへと近付く。
内緒話をするようにこんちゃんの方へ手を添えて顔を近付けると、察してくれたこんちゃんも顔を傾けて耳を近付けてくれた。
「なんですの、見せつけておりますの!?」
「ぅえっ!? そ、そういうつもりじゃっ」
「じゃあどういうつもりなんですの!! 不愉快ですわ、そもそも貴女、名前くらい名乗ったらどうなの!」
ビシッという効果音が付きそうな勢いで指摘された私は、相手が幼い女の子だというのに思わず気圧されて慌てて名乗った。
「きっ、桐生優子です……!」
「そう。私は烏天狗の一族当主の娘、黒曜楓よ。桐生……なんて名前聞いたことないのだけれど、そんな家妖狐にいたかしら?」
「あぁ、その羽は烏天狗――って、え?」
“妖狐?”
気になっていた答えに納得した私だったが、そのまま続けられた言葉にぽかんとしてしまう。
桐生という妖狐の一族がいるかどうかは別として、私はあくまでも迷い込んでしまったただの人間。
それなのに彼女の言い方だと、まるで私が妖狐に見えているようで。
「え? えぇっと……」
「うん、ちょっと遠方の方だけどね」
「そうなんですの? ふぅん、つまりは田舎者ってことね!」
「えっ、えぇ?」
そしてそんな会話にしれっと乗ったこんちゃんにぎょっとした私に気付いたこんちゃんが、いつものように赤い瞳を三日月型のスッと細めた。
“こ、この顔は……!”
何度も見たこの表情は、彼にとって『楽しいこと』を意味する表情。
簡単に言えば、誰かをからかって遊ぶ時の――!
「言ったでしょ? 狐は化けるのが得意だって」
「!!」
その発言にガクリと項垂れる。
どういう仕組みはわからないが、どうやら私はこんちゃんの妖術で目の前にいるこの美少女には彼と同じ妖狐に見えているらしかった。
“なんでそんなにややこしいことを!”
抗議の気持ちを込めてギロリと睨むが、何をどう思ったのか突然わざとらしいくらいの微笑みを貼り付けたこんちゃんが、これまたわざとらしく私の頭を撫でて――
「ちょっと!! 私がいるのにいちゃつかないでくださいますっ!?」
「ひぇっ」
「今は確かに貴女が恋人かもしれませんが、正妻は私です! 貴女なんてせいぜい愛妾にしかなれませんッ!」
「愛妾!?」
およそ七歳の少女の口から出るべきではない言葉が飛び出し愕然とする。
「楓ちゃん」
諭すようにこんちゃんに名を呼ばれた彼女がビクリと肩を跳ねさせた。
「俺にはゆっこだけだから、ごめんね?」
「そこじゃなくないっ!?」
てっきり愛妾について言及するのかと思っていたせいで思いっきりツッコミをいれてしまう。
そんな私をキッと見た楓ちゃんは、つかつかと私の目の前まで歩き、そして再びビシッという効果音が付きそうな勢いで私に詰め寄って。
「貴女ごときの何がいいのか、見極めさせていただきますわ……!」
なんて宣言をしたのだった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符
washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
お狐様とひと月ごはん 〜屋敷神のあやかしさんにお嫁入り?〜
織部ソマリ
キャラ文芸
『美詞(みこと)、あんた失業中だから暇でしょう? しばらく田舎のおばあちゃん家に行ってくれない?』
◆突然の母からの連絡は、亡き祖母のお願い事を果たす為だった。その願いとは『庭の祠のお狐様を、ひと月ご所望のごはんでもてなしてほしい』というもの。そして早速、山奥のお屋敷へ向かった美詞の前に現れたのは、真っ白い平安時代のような装束を着た――銀髪狐耳の男!?
◆彼の名は銀(しろがね)『家護りの妖狐』である彼は、十年に一度『世話人』から食事をいただき力を回復・補充させるのだという。今回の『世話人』は美詞。
しかし世話人は、百年に一度だけ『お狐様の嫁』となる習わしで、美詞はその百年目の世話人だった。嫁は望まないと言う銀だったが、どれだけ美味しい食事を作っても力が回復しない。逆に衰えるばかり。
そして美詞は決意する。ひと月の間だけの、期間限定の嫁入りを――。
◆三百年生きたお狐様と、妖狐見習いの子狐たち。それに竈神や台所用品の付喪神たちと、美味しいごはんを作って過ごす、賑やかで優しいひと月のお話。
◆『第3回キャラ文芸大賞』奨励賞をいただきました!ありがとうございました!
アカシックレコード
しーたん
キャラ文芸
人は覚えていないだけで、肉体が眠っている間に霊体が活動している。
ある日、ひょんなことから霊体としての活動中の記憶をすべて覚えている状態で目が覚める生活を送ることになってしまった主人公。
彼の霊体は人間ではなかった。
何故か今まで彼の霊体が持っていたはずの記憶がないまま、霊体は神界の争いに巻き込まれていく。
昼は普通の人間として、夜は霊体として。
神界と霊界と幽界を行き来しながら、記憶喪失扱いとなった主人公の霊体の正体を探す日々が始まる。
表紙、イラスト、章扉は鈴春゜様に依頼して描いていただきました。
※この作品はエブリスタで公開したものを順次転載しながら公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる