1 / 31
プロローグ:はじまりの雨
プロローグ:お天気雨にはご注意を
しおりを挟む
「わ、お天気雨だ」
大学から家までの近道をしようと神社の境内を歩いていると、ポツポツと空から雫が降ってくる。
あまりにも辺りが明るかったせいで一瞬雨だとは認識出来なかった。
“雨に濡れると髪の毛が絡まるんだよね”
少し明るい茶色へ染めた髪。
元からくせっ毛のこの髪は、湿気ですぐにボリュームを増し髪同士が絡まってしまう。
ほどくだけでギシギシと傷むため、雨自体はあまり強くはなかったが濡れることを嫌悪し石畳を小走りで駆けた――時だった。
「ひゃっ!?」
濡れた石畳で靴が滑り、私は思い切り前のめりに転んでしまって――……
――シャラン、シャランと音がする。
“え、なに?”
さっきまでの空気とは違い、どこか張りつめた……まさに凛とした雰囲気に包まれた境内。
さっきより明るく、だがさっきより空気が張りつめて思わずごくりと唾を呑んだ私の目の前に現れたのは。
「花嫁行列……?」
ふと、思い出す。
“そうだ、お天気雨って確か別称があったんだ”
白無垢の花嫁を囲うように沢山の人たちが傘も差さずに列を成す。
そんな彼らには、何故かふわりとした尻尾が見え隠れしていた。
さっきまでと同じ場所、同じ景色。
けれどさっきとは明らかに変わってしまったこの光景と雰囲気から、決して同じ場所とは思えない。
そんな行列の中の一人が口を開くと、ギラリとした牙と言えそうなほどの八重歯が見えた。
「おや、紛れ込んだのかね。珍しい」
少し八重歯が鋭く見えるが、ちゃんと見慣れた人間の顔。
けれど人にはない大きな三角の獣耳。
「――狐の、嫁入り……?」
現実にはあり得ないと思いつつも何故かそうだと確信した誰に伝えるでもないそんな言葉が、私の口から溢れ落ちたのだった。
大学から家までの近道をしようと神社の境内を歩いていると、ポツポツと空から雫が降ってくる。
あまりにも辺りが明るかったせいで一瞬雨だとは認識出来なかった。
“雨に濡れると髪の毛が絡まるんだよね”
少し明るい茶色へ染めた髪。
元からくせっ毛のこの髪は、湿気ですぐにボリュームを増し髪同士が絡まってしまう。
ほどくだけでギシギシと傷むため、雨自体はあまり強くはなかったが濡れることを嫌悪し石畳を小走りで駆けた――時だった。
「ひゃっ!?」
濡れた石畳で靴が滑り、私は思い切り前のめりに転んでしまって――……
――シャラン、シャランと音がする。
“え、なに?”
さっきまでの空気とは違い、どこか張りつめた……まさに凛とした雰囲気に包まれた境内。
さっきより明るく、だがさっきより空気が張りつめて思わずごくりと唾を呑んだ私の目の前に現れたのは。
「花嫁行列……?」
ふと、思い出す。
“そうだ、お天気雨って確か別称があったんだ”
白無垢の花嫁を囲うように沢山の人たちが傘も差さずに列を成す。
そんな彼らには、何故かふわりとした尻尾が見え隠れしていた。
さっきまでと同じ場所、同じ景色。
けれどさっきとは明らかに変わってしまったこの光景と雰囲気から、決して同じ場所とは思えない。
そんな行列の中の一人が口を開くと、ギラリとした牙と言えそうなほどの八重歯が見えた。
「おや、紛れ込んだのかね。珍しい」
少し八重歯が鋭く見えるが、ちゃんと見慣れた人間の顔。
けれど人にはない大きな三角の獣耳。
「――狐の、嫁入り……?」
現実にはあり得ないと思いつつも何故かそうだと確信した誰に伝えるでもないそんな言葉が、私の口から溢れ落ちたのだった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
お狐様とひと月ごはん 〜屋敷神のあやかしさんにお嫁入り?〜
織部ソマリ
キャラ文芸
『美詞(みこと)、あんた失業中だから暇でしょう? しばらく田舎のおばあちゃん家に行ってくれない?』
◆突然の母からの連絡は、亡き祖母のお願い事を果たす為だった。その願いとは『庭の祠のお狐様を、ひと月ご所望のごはんでもてなしてほしい』というもの。そして早速、山奥のお屋敷へ向かった美詞の前に現れたのは、真っ白い平安時代のような装束を着た――銀髪狐耳の男!?
◆彼の名は銀(しろがね)『家護りの妖狐』である彼は、十年に一度『世話人』から食事をいただき力を回復・補充させるのだという。今回の『世話人』は美詞。
しかし世話人は、百年に一度だけ『お狐様の嫁』となる習わしで、美詞はその百年目の世話人だった。嫁は望まないと言う銀だったが、どれだけ美味しい食事を作っても力が回復しない。逆に衰えるばかり。
そして美詞は決意する。ひと月の間だけの、期間限定の嫁入りを――。
◆三百年生きたお狐様と、妖狐見習いの子狐たち。それに竈神や台所用品の付喪神たちと、美味しいごはんを作って過ごす、賑やかで優しいひと月のお話。
◆『第3回キャラ文芸大賞』奨励賞をいただきました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる