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4.ステップアップとは段階を踏んでこそ成立する
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その日は私のお勧めのカフェ⋯というより屋台に近いお店で簡単に腹を満たし、安売りになっていたパンを買い込んで。
お互い慣れていないからこそある意味初々しいと言えるような距離の詰め方がなんだかくすぐったく、それでいてこの初めての状況が少し離れがたく感じさせて。
どうせだから夜ご飯も、なんて考えたのが悪かったのか。
それとも“市場”というある意味私側のテリトリーである場所のせいで気が大きくなっていたのか。
いや、単純に入れたアルコールが悪かったのか⋯
「う、嘘でしょ⋯?」
「ん、うぅん⋯」
見慣れた部屋。
というかどう見ても私の家。
そして丸一日ずっと見ていたこの淡い栗色の髪に、やはり騎士だと思わされるしっかりと筋肉の付いた⋯
「ひ、ひぇぇえ!?」
「ッ、緊急事態か!?」
ガバッと起き上がりその場でキョロキョロするのはもちろんエバンで。
というか飛び起きたからこそ目の前に晒されたのは彼の⋯
「ふ、服を着てください!!!」
「⋯?あ、すまない寝てしまったのか」
こ、この状況、これは俗に言う⋯
“い、一夜の⋯⋯ッッ”
「過ちぃぃい!!!」
思わず叫び、エバンの服を引っ掴む。
そしてまだ少し微睡んでいる彼の腕を無理やり抱え込むようにして裸の彼と服を投げるようにして家から追い出した。
「えっ、えっ!?ちょ⋯ロー⋯っ」
「お疲れ様でした!!!」
バタンとドアを閉めへなへなとしゃがみこむ。
どれだけ頭を抱えてもヤッてしまった事実は変えようがなく⋯
「う、うわぁぁあ⋯⋯!!!」
“私ってば、婚約者のいる男性と!?”
羞恥と絶望で一人床でのたうち回ったのだった。
出来ればもう二度と会いたくない。
というかむしろ会うべきでないというのが正しい。
「なかったことにならないかな⋯ならないなら、犯罪にならないレベルでなんとか記憶を消せないかしら⋯」
うんうん唸りつつ、しかし生活費を稼ぐために今日も占い師として『魔女の館』をオープンさせる。
そして来たる最初の客は。
「先日の件で話があるのだが」
「やっぱりーーー!?!?」
そうなるだろうと予想した通り、やはりエバンだった。
“そりゃそうよね、服も一緒とは言え、寝起きに裸で外に放り出されるなんて騎士として恥⋯というか人としてアウトよね!?そりゃ文句もあるわよね!?”
いくら動揺したとはいえあの時の私の行いは当然叱られるべきで。
とりあえず謝罪し、そして出来れば無かったことにしてくれと頼まなくてはと考え、しかしそもそもどうしてこんなことになんて頭を過る。
起こってしまった出来事から無駄だとわかりつつも悪あがきで目を背け、ついでにエバンからも物理的に目を背けた先にあったのは私の水晶。
光が反射し映り込む自分の顔が酷く情けなく揺らめいて⋯
“⋯というか、この揺らめきは私の未来を⋯”
「!!!??」
ゆらりと映し出したその未来は、何故か再び体を交える私とエバンだった。
「そ、そんなはずないわ!?」
一夜の過ちならぬ、二夜の過ちなんてあってなるものか。
思わず声を荒げ、ガタンと音を鳴らして立ち上がる。
そんな私に驚いた様子のエバンは、ただしぱしぱと目を瞬かせていて⋯
“こ、この突然見せる子犬っぽさに騙されちゃダメ!!”
そんな表情がちょっと可愛いなんて思ったら最後、さっき見た未来が現実になってしまう。
婚約者がいることを知っていながら、何度も体を重ねるなんてそんな淫乱な女になるわけにはいかない、というかそんな噂が流れたら絶対廃業!!
「そ、そんな、そんなの⋯」
「お、おいローズ⋯?」
「ダメぇぇえ!!!」
バタンと勢いよくドアから飛び出し一目散に走り出す。
特に目的地がある訳ではないが、とにかく物理的にもっと距離が欲しかった。
⋯⋯⋯の、だが。
「おい、突然どうした?昨日から様子がおかしいぞ⋯?」
普段から館で水晶を必死に覗く私と、普段から体を鍛え騎士として働く彼。
当然逃げ切れるはずもなく。
「ここは見逃しなさいよぉ⋯」
「何故だ」
「ここで何故だ、はないわ⋯」
「何故だ⋯?」
「⋯⋯⋯。」
言い方を変えればいいという訳ではないのだが、戸惑いつつ何故だを繰り返し少し毒気が抜かれた。
「とりあえず、俺達には会話が必要だ」
「それは⋯そうですね」
問答無用で追い出したのも、問答無用で逃げ出したのも圧倒的に自分に非があったのでここは大人しく頷くことにした。
「だからまずはとりあえず」
それでもまだ捨てきれない“逃げ出す”選択肢に意識が逸れる私の耳に飛び込んできたのは。
「俺と結婚してはくれないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ?」
唖然とする私の前に、うやうやしく跪きそっと手を取られて⋯
「んなアホなッッ」
思わずその手を叩き落とす。
「⋯何故だ」
「いやいやいや、何故って聞かれましてもっ!?」
“プロポーズの相談で来たくせに、今この人私にプロポーズした!?”
訳がわからず混乱する。
どう考えても脈略がおかしい。
「だって、エバン様は⋯元々プロポーズを成功させたい相手がいるじゃないですか⋯」
「今プロポーズしている相手はローズなんだが⋯。それは、誰の事だ?」
「は!?誰ってもちろん占いに来た相手の事よっ!」
私の答えを聞き怪訝な顔をしたエバンは⋯そのままハッとして。
「実は上司からも親からもそろそろ結婚しろとうるさく言われていてな。相手はまだいないがどうすればいいかととりあえず相談に来たんだ」
「私結婚相談所じゃないんですけどぉっ!?」
さらっと説明されたその内容に思わず頭がくらくらする。
“ミッチミチの未来の原因はコレか⋯そりゃ相手がいないなら無限の可能性出てくるわよね⋯”
導きだされたその答えに思わず脱力してしまった。
お互い慣れていないからこそある意味初々しいと言えるような距離の詰め方がなんだかくすぐったく、それでいてこの初めての状況が少し離れがたく感じさせて。
どうせだから夜ご飯も、なんて考えたのが悪かったのか。
それとも“市場”というある意味私側のテリトリーである場所のせいで気が大きくなっていたのか。
いや、単純に入れたアルコールが悪かったのか⋯
「う、嘘でしょ⋯?」
「ん、うぅん⋯」
見慣れた部屋。
というかどう見ても私の家。
そして丸一日ずっと見ていたこの淡い栗色の髪に、やはり騎士だと思わされるしっかりと筋肉の付いた⋯
「ひ、ひぇぇえ!?」
「ッ、緊急事態か!?」
ガバッと起き上がりその場でキョロキョロするのはもちろんエバンで。
というか飛び起きたからこそ目の前に晒されたのは彼の⋯
「ふ、服を着てください!!!」
「⋯?あ、すまない寝てしまったのか」
こ、この状況、これは俗に言う⋯
“い、一夜の⋯⋯ッッ”
「過ちぃぃい!!!」
思わず叫び、エバンの服を引っ掴む。
そしてまだ少し微睡んでいる彼の腕を無理やり抱え込むようにして裸の彼と服を投げるようにして家から追い出した。
「えっ、えっ!?ちょ⋯ロー⋯っ」
「お疲れ様でした!!!」
バタンとドアを閉めへなへなとしゃがみこむ。
どれだけ頭を抱えてもヤッてしまった事実は変えようがなく⋯
「う、うわぁぁあ⋯⋯!!!」
“私ってば、婚約者のいる男性と!?”
羞恥と絶望で一人床でのたうち回ったのだった。
出来ればもう二度と会いたくない。
というかむしろ会うべきでないというのが正しい。
「なかったことにならないかな⋯ならないなら、犯罪にならないレベルでなんとか記憶を消せないかしら⋯」
うんうん唸りつつ、しかし生活費を稼ぐために今日も占い師として『魔女の館』をオープンさせる。
そして来たる最初の客は。
「先日の件で話があるのだが」
「やっぱりーーー!?!?」
そうなるだろうと予想した通り、やはりエバンだった。
“そりゃそうよね、服も一緒とは言え、寝起きに裸で外に放り出されるなんて騎士として恥⋯というか人としてアウトよね!?そりゃ文句もあるわよね!?”
いくら動揺したとはいえあの時の私の行いは当然叱られるべきで。
とりあえず謝罪し、そして出来れば無かったことにしてくれと頼まなくてはと考え、しかしそもそもどうしてこんなことになんて頭を過る。
起こってしまった出来事から無駄だとわかりつつも悪あがきで目を背け、ついでにエバンからも物理的に目を背けた先にあったのは私の水晶。
光が反射し映り込む自分の顔が酷く情けなく揺らめいて⋯
“⋯というか、この揺らめきは私の未来を⋯”
「!!!??」
ゆらりと映し出したその未来は、何故か再び体を交える私とエバンだった。
「そ、そんなはずないわ!?」
一夜の過ちならぬ、二夜の過ちなんてあってなるものか。
思わず声を荒げ、ガタンと音を鳴らして立ち上がる。
そんな私に驚いた様子のエバンは、ただしぱしぱと目を瞬かせていて⋯
“こ、この突然見せる子犬っぽさに騙されちゃダメ!!”
そんな表情がちょっと可愛いなんて思ったら最後、さっき見た未来が現実になってしまう。
婚約者がいることを知っていながら、何度も体を重ねるなんてそんな淫乱な女になるわけにはいかない、というかそんな噂が流れたら絶対廃業!!
「そ、そんな、そんなの⋯」
「お、おいローズ⋯?」
「ダメぇぇえ!!!」
バタンと勢いよくドアから飛び出し一目散に走り出す。
特に目的地がある訳ではないが、とにかく物理的にもっと距離が欲しかった。
⋯⋯⋯の、だが。
「おい、突然どうした?昨日から様子がおかしいぞ⋯?」
普段から館で水晶を必死に覗く私と、普段から体を鍛え騎士として働く彼。
当然逃げ切れるはずもなく。
「ここは見逃しなさいよぉ⋯」
「何故だ」
「ここで何故だ、はないわ⋯」
「何故だ⋯?」
「⋯⋯⋯。」
言い方を変えればいいという訳ではないのだが、戸惑いつつ何故だを繰り返し少し毒気が抜かれた。
「とりあえず、俺達には会話が必要だ」
「それは⋯そうですね」
問答無用で追い出したのも、問答無用で逃げ出したのも圧倒的に自分に非があったのでここは大人しく頷くことにした。
「だからまずはとりあえず」
それでもまだ捨てきれない“逃げ出す”選択肢に意識が逸れる私の耳に飛び込んできたのは。
「俺と結婚してはくれないか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ?」
唖然とする私の前に、うやうやしく跪きそっと手を取られて⋯
「んなアホなッッ」
思わずその手を叩き落とす。
「⋯何故だ」
「いやいやいや、何故って聞かれましてもっ!?」
“プロポーズの相談で来たくせに、今この人私にプロポーズした!?”
訳がわからず混乱する。
どう考えても脈略がおかしい。
「だって、エバン様は⋯元々プロポーズを成功させたい相手がいるじゃないですか⋯」
「今プロポーズしている相手はローズなんだが⋯。それは、誰の事だ?」
「は!?誰ってもちろん占いに来た相手の事よっ!」
私の答えを聞き怪訝な顔をしたエバンは⋯そのままハッとして。
「実は上司からも親からもそろそろ結婚しろとうるさく言われていてな。相手はまだいないがどうすればいいかととりあえず相談に来たんだ」
「私結婚相談所じゃないんですけどぉっ!?」
さらっと説明されたその内容に思わず頭がくらくらする。
“ミッチミチの未来の原因はコレか⋯そりゃ相手がいないなら無限の可能性出てくるわよね⋯”
導きだされたその答えに思わず脱力してしまった。
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