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11.そういうシナリオだったのね

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 体に自由が利かない今、ニヤニヤと私の衣服を脱がす宰相を見るしか出来ない。

「純潔を失った君は、行為の証だけをベッドシーツに残しまさか消えてしまうなんて」
「や、やめ……っ」

 どんどんと脱がされ、残った服を一気に引き下ろされると私の胸がぶるりと飛び出た。

「ひっ!」

 露になった胸をどこかうっとりとした様子で見つめる宰相がおぞましい。

「こ、こんなこと許されません!」
「あぁ、許されない。殿下はその地位を剥奪されるだろう」

“殿下の、地位?”

 確かに薬を飲ませたのはニコラウス殿下で、そしておそらくこの部屋に連れ込んだのもニコラウス殿下。
 だが今まさに私に無礼を働こうとしているのは宰相の方で――


 そこまで考えて、やっと理解しゾッとした。
 これは、そういうシナリオなのだ、と。

“そうよ、私が庭園でニコラウス殿下とお茶をしていたのは何人も見ているわ。正式な招待状も届いているし物的証拠もある”

 そしてその茶器から薬が出て、私がいなくなったとしたら?
 宰相の言った通り、破瓜を示す血痕だけを残し行方不明になったとしたら。

“いくらニコラウス殿下がしていないと言っても状況がそれを許さないわ”

 たとえ私を今組み敷こうとししているのがニコラウス殿下ではなく宰相だとしても。
 

 そして私はというと、無理やり純潔を散らされたショックで人知れず自死を選んだとされてもおかしくないのだ。
 

「あぁ、素晴らしい、このきめ細かい陶器のような肌に控えめな色の乳首がなんて美しいんだ」
「みっ、見ないで、嫌っ、触らないで!」
「まだ誰にも見せていないこの桃色の先端に初めて触れるのが私だと思うと興奮するよ」
「ひゃ!」

 むにゅ、と宰相の太い指が私の両胸を鷲掴み人差し指がくにゅりと乳首を押し込む。

“まさか本当に私、このまま?”

 未だに痺れている体。
 目覚めた時よりは動かせるようになっているが、まだ近くの何かを掴めるほどは力が入らず宰相の手の中で胸が形を変えるのを見るしか出来ない。

「なんで、こ、んなことを」
「何故? 君がネックレスをしていなかったからだよ」

“ネックレス……!?”

「君は知らなかったのかな? 君の祖父が渡したネックレスは魔道具でね」

 おや、と少し不思議そうな顔をした宰相は、どこかいたずらっ子のような表情を浮かべて。

「私の計画では、君のネックレスが発動した時に私のモノにするつもりだったのだが」
「どういう……」
「あのネックレスはね、持ち主の命に危険が迫った時に仮死状態にして一度だけ守るものなんだよ」

『持ち主を仮死状態にして、すぐに蘇生すると思っていた』と、確かにアンドレアス殿下も言っていたと思い出す。

 実際は、死んだ瞬間に十歳まで時間が巻き戻った訳なのだが――その事実を知る術が宰相にはない。

“古代の技術は解明されていないことがほとんどだもの”

 私が黙り込んだことをどう捉えたのか、どこか得意気に宰相は再び口を開く。

「仮死状態の君さえ手に入れれば、後は私の可愛い人形として足がつくこともなくずっと愛でてやれる。だが、気付けば君はネックレスをしなくなってしまってね」

 そして、その内容の異常さに私は青ざめるしかなかった。

「ずっと、ずっとずっとずうっとビクトリア嬢が欲しかったんだ。君が公爵家の娘でさえなければこんなに回りくどい方法を取らなくても良かったんだがね」
「私が……?」
「あぁ、一目惚れというやつかな。もし君が私の娘として産まれてきてくれていればこんなことをしなくても良かったんだが、よりにもよってあのフォシェル公爵の娘として産まれてくるなんてね」

 はぁ、と煩わしそうにため息を吐いた宰相は、幼い君が日に日に花開くように美しくなっていく姿は涎が出そうなほど美味だった、なんて意味のわからない言葉を更に続けた。
 

“何を言ってるの?”

 異常だ。あまりにも異常。

「頭の悪いニコラウス殿下の婚約者にして、君の罪をでっち上げさえすれば勝手に処刑してくれるはずだったんだ。罪を犯した君のせいで公爵家は力を失うし、仮死状態の君を簡単に手に入れられるはずだった」

“それがあの夜の真相……!?”

 ニコラウス殿下を傀儡にし、権力を握る。
 てっきり政争だと思い込んでいた。まさかこんな理由だったなんて。


 未だにベッドの近くで倒れているニコラウス殿下へと視線を移した宰相が、すぐに舌舐りをして私へと視線を戻す。
 それは、もう猶予の時間が終わったとでも宣告するようだった。
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