10 / 16
10.やっぱり貴方が
しおりを挟む
何故か今私は、極力会うことを避けていたニコラウス殿下と二人きりで王城の庭園でお茶をしていた。
今まで彼からの直接の召集は手順を理由に断ってきたし、ニコラウス殿下自身も王子である俺がわざわざ誘ってやっているのだから、という驕りから彼はその手順を踏んだことはなかった。
だからこそ今までは婚約者候補筆頭として、殿下ではなく王城から召集された時にしかこうして時間を共有することなどなかったのだが――
“まさか正当な手順で召集されるなんて!”
アンドレアス殿下の私室から出たことを聞いたのか、それとも彼との街デートを知ったのか。
理由はわからないが、この状況に焦ったのか初めて正当な手順を踏んだのだ。
アンドレアス殿下からの誘いを受けた以上、同じく正当な手順を踏んだニコラウス殿下の誘いを断るわけにはいかずにやってきたこの場所。
“彼が私を誘うのは、私と婚約することが王太子への近道なのだと理解してるってことね”
だが焦っている割にはいつもと変わらない態度のニコラウス殿下を少し怪訝に思い――
「……、ッ?」
突然くらりと視界が揺れる。手足が痺れ、舌が動かない。つまりは助けがもう呼べないのだ。
“まさか、さっきのお茶に……!”
そんな推測を立てたところでもう遅かった。
「あ……れす、さま……」
そこで私の意識は途切れたのだから。
◇◇◇
「――、ここは……」
ふっと朧気に意識が戻る。
どうやら薬がまだ抜けきっていないのか手足の痺れが残り上手く体が動かない。
だが体に触れるその感触からどうやら私はベッドに寝かされているのだと判断した。
“恐らく王城……、でも、流石にニコラウス殿下の私室ではないわよね”
一番可能性が高いのは貴賓室だろうが、王城の貴賓室なんてかなりの数がある。
助けが来る可能性の低さに絶望しつつも、ならば自分で逃げればいいだけだ。
“体が動くようになれば、椅子で扉を殴ってでも逃げ出してやるわ!”
王太子だったニコラウス殿下ならともかく、今はただの第二王子。
フォシェル公爵家が後ろ盾にならなければ、彼の立太子はあり得ないだろう。
だからこそ、今最も心配すべきは危害を加えられることではなく、私の貞操。……というか、この状況ではそれしかない。
そして子種を注がれてしまってはニコラウス殿下へと嫁ぐしかなくなる。
“それを狙ってるはず!”
衣服の乱れがないことに安堵した私は、少しでも早く体が動くようにと祈りつつ部屋の中を見渡して――
「おや、気付きましたか? ビクトリア嬢」
「……え?」
そして、声をかけられた事に驚いた。
――否。声をかけてきた『相手』に驚いた。
「さ、宰相様……?」
薬を飲ませたのはニコラウス殿下だったはずなのに、この部屋にいるのは殿下ではなく宰相だというその違和感に唖然とする。
“どういうこと?”
ニコラウス殿下から助けてくれた、と断定するのはまだ早い。
この状況にごくりと唾を呑んだ私は、まだ上手く動かせない体に鞭を打ってなんとか上半身を起こした、のだが。
「――ひっ!」
体を起こし視界が変わったことで私の目に飛び込んできたのは、焦げ茶色の髪の毛。
床にうつ伏せで倒れているが、きっとその瞳は琥珀色だろう。
「に、ニコラウス殿下……!?」
「ご安心を、流石に殺したりはしておりませんからな」
あっはっは、と大口を開け楽しそうに笑う宰相の様子にぞわりと鳥肌が立った。
「あぁ、可哀想なビクトリア嬢。無理やりドレスを破かれ襲われた恐怖で体が震えて動かないようだね」
「は?」
嘆くように一瞬顔を覆った宰相は、まるで次の演劇が始まったかのようにわざとらしく両腕を広げ、ゆっくりと私のいるベッドへと足を進める。
「私はドレスを破かれてなどおりませんが……」
“体が動かないのは薬の影響だし”
一体何を言っているのか理解できずただひたすら戸惑っていると、あっという間にベッドの側にまで来た宰相がくすりと笑みを溢し、いまだに自由の利かない私の耳元へと顔を近付け囁いた。
「――いえ、貴女はニコラウス殿下に無理やり犯されそうになったのです。ほら、ドレスだってこのように破かれて」
「きゃあっ!?」
そして私のドレスの胸元を掴み、無理やり引き裂かれる。
「そこへ偶然通りかかった私が異変を察し、襲われている貴女に気が付いた」
「な、なにを……!」
「可哀想なビクトリア嬢。好きでもない男に無理やり体を暴かれてしまった君は絶望してしまったんだね」
ニタリ、と歪む口元に悪寒が走る。
今まで彼からの直接の召集は手順を理由に断ってきたし、ニコラウス殿下自身も王子である俺がわざわざ誘ってやっているのだから、という驕りから彼はその手順を踏んだことはなかった。
だからこそ今までは婚約者候補筆頭として、殿下ではなく王城から召集された時にしかこうして時間を共有することなどなかったのだが――
“まさか正当な手順で召集されるなんて!”
アンドレアス殿下の私室から出たことを聞いたのか、それとも彼との街デートを知ったのか。
理由はわからないが、この状況に焦ったのか初めて正当な手順を踏んだのだ。
アンドレアス殿下からの誘いを受けた以上、同じく正当な手順を踏んだニコラウス殿下の誘いを断るわけにはいかずにやってきたこの場所。
“彼が私を誘うのは、私と婚約することが王太子への近道なのだと理解してるってことね”
だが焦っている割にはいつもと変わらない態度のニコラウス殿下を少し怪訝に思い――
「……、ッ?」
突然くらりと視界が揺れる。手足が痺れ、舌が動かない。つまりは助けがもう呼べないのだ。
“まさか、さっきのお茶に……!”
そんな推測を立てたところでもう遅かった。
「あ……れす、さま……」
そこで私の意識は途切れたのだから。
◇◇◇
「――、ここは……」
ふっと朧気に意識が戻る。
どうやら薬がまだ抜けきっていないのか手足の痺れが残り上手く体が動かない。
だが体に触れるその感触からどうやら私はベッドに寝かされているのだと判断した。
“恐らく王城……、でも、流石にニコラウス殿下の私室ではないわよね”
一番可能性が高いのは貴賓室だろうが、王城の貴賓室なんてかなりの数がある。
助けが来る可能性の低さに絶望しつつも、ならば自分で逃げればいいだけだ。
“体が動くようになれば、椅子で扉を殴ってでも逃げ出してやるわ!”
王太子だったニコラウス殿下ならともかく、今はただの第二王子。
フォシェル公爵家が後ろ盾にならなければ、彼の立太子はあり得ないだろう。
だからこそ、今最も心配すべきは危害を加えられることではなく、私の貞操。……というか、この状況ではそれしかない。
そして子種を注がれてしまってはニコラウス殿下へと嫁ぐしかなくなる。
“それを狙ってるはず!”
衣服の乱れがないことに安堵した私は、少しでも早く体が動くようにと祈りつつ部屋の中を見渡して――
「おや、気付きましたか? ビクトリア嬢」
「……え?」
そして、声をかけられた事に驚いた。
――否。声をかけてきた『相手』に驚いた。
「さ、宰相様……?」
薬を飲ませたのはニコラウス殿下だったはずなのに、この部屋にいるのは殿下ではなく宰相だというその違和感に唖然とする。
“どういうこと?”
ニコラウス殿下から助けてくれた、と断定するのはまだ早い。
この状況にごくりと唾を呑んだ私は、まだ上手く動かせない体に鞭を打ってなんとか上半身を起こした、のだが。
「――ひっ!」
体を起こし視界が変わったことで私の目に飛び込んできたのは、焦げ茶色の髪の毛。
床にうつ伏せで倒れているが、きっとその瞳は琥珀色だろう。
「に、ニコラウス殿下……!?」
「ご安心を、流石に殺したりはしておりませんからな」
あっはっは、と大口を開け楽しそうに笑う宰相の様子にぞわりと鳥肌が立った。
「あぁ、可哀想なビクトリア嬢。無理やりドレスを破かれ襲われた恐怖で体が震えて動かないようだね」
「は?」
嘆くように一瞬顔を覆った宰相は、まるで次の演劇が始まったかのようにわざとらしく両腕を広げ、ゆっくりと私のいるベッドへと足を進める。
「私はドレスを破かれてなどおりませんが……」
“体が動かないのは薬の影響だし”
一体何を言っているのか理解できずただひたすら戸惑っていると、あっという間にベッドの側にまで来た宰相がくすりと笑みを溢し、いまだに自由の利かない私の耳元へと顔を近付け囁いた。
「――いえ、貴女はニコラウス殿下に無理やり犯されそうになったのです。ほら、ドレスだってこのように破かれて」
「きゃあっ!?」
そして私のドレスの胸元を掴み、無理やり引き裂かれる。
「そこへ偶然通りかかった私が異変を察し、襲われている貴女に気が付いた」
「な、なにを……!」
「可哀想なビクトリア嬢。好きでもない男に無理やり体を暴かれてしまった君は絶望してしまったんだね」
ニタリ、と歪む口元に悪寒が走る。
6
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる