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9.少しずつ狂う歯車は
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しっかり殿下にフォシェル公爵家まで送って貰った私を待ち構えていたのはミルシュカだった。
「デートはいかがでしたか?」
「デッ、そ、そうね。まぁ……悪くはなかったわ。これ、お土産よ」
そっと手渡したのはミルシュカに教えて貰ったデザート店のタルトである。
「わ! ビクトリア様、ありがとうございます」
すぐに何かわかったのか、ぱあっと顔を綻ばせたミルシュカはすぐにハッとした顔になって。
「でもこのお店、凄く混んではいませんでしたか?」
「そうね、確かに結構長い時間並ぶことになったわね」
「えぇっ!」
「でも、お話していたらあっという間だったわ」
“まぁ、お題はほぼやり直し関連のことばかりだったのだけれど”
それでも、目を輝かせて色んなことを質問してくる殿下はどこかあどけなく、自分たちの順番が来るまでただ立って待つだけだというのに楽しかった。
「まぁ、一国の王子がデザートの為に列に並んでる様子は少し違和感があったのだけど」
「それはまぁ、そうですね……」
「当たり前のように順番を待っておられる姿はその、悪くはなかったわ」
少し気恥ずかしくてミルシュカから顔を逸らしつつそう言うと、彼女の口角がニマッと上がる。
「確かにビクトリア様にはプライドが高く自分中心な男性よりも、落ち着いて当たり前ではない時間も当たり前のように楽しめる相手がお似合いだと思います」
「も、もうっ!」
彼女の言うその二人が誰と誰を指しているのかは明確で、私はつい声を荒げたのだった。
“それにしても、本当にミルシュカは変わったわね”
教育を施す前、つまりはやり直す前の彼女は自分の都合のいいように事を進めて平気で人を貶めるタイプなのだと思っていたが、やり直し教育をした今の彼女からはそんな姿は想像出来ない。
仕事も真面目にこなし、不特定多数の異性に声をかけるようなことだってもちろんなくて。
「本来の気質はこちらだったってことなのかしら」
ベッドにそっと潜り込むと、ミルシュカが温めておいてくれたらしくほわりとした気持ちになる。
“こんなに繊細な気が遣えるのに”
なのに何故やり直し前はああだったのか、本当に理解に苦しむ。
「母親を尊敬して同じ行動をしていた、とは思えないのよね」
若い男を買い散財していたミルシュカの母。
そんな母を彼女は軽蔑していた。
“軽蔑していたのは、きっと前回も同じだったはずよ”
それなのに、そんな母親と同じ行動をしていたのにはきっと理由があるのだろう。
もちろんただ単純に考えることを止めてしまったから、なんて可能性もなくはないが……
「――誰かの、入れ知恵?」
王太子の新しい婚約者として花咲く為に、彼女が蹴落とし利用した男たち。
その中に、逆にミルシュカを唆した人がいるのかもしれない。
“いや、王太子以上に権力を持てる可能性がある令息なんかいないわ”
それにいくら王太子といえど、申し開きをする場を設けることなく一存で処刑するなんて許されるはずがないのだ。
だがあの夜殿下は躊躇いなく実行し、隣にいたミルシュカもそれがさも当然のように見て笑っていた。
まるで最初からそうする許可が出ていたように。
「……そうよ、あの時私は確かに思ったじゃない」
その場にいて、そして止める様子すら見せない宰相の様子に確かに私は思ったのだ。
『本当にこんなことが認められているのか』と。
「……そうよ、何で気付かなかったの」
宰相は我がフォシェル公爵家と派閥を争っている。
つまりあの夜の黒幕は――
◇◇◇
“でも、何が目的なのかしら”
一番に思い付くのは政争。
魔道具にばかりご執心の第一王子か、どうやって自分が王太子に選ばれたかも忘れ婚約者を処刑するような愚か第二王子なら傀儡にしやすいのは断然後者だ。
ミルシュカを唆し、ニコラウス殿下を陥落させて力を削げ落とし自分の思う通りに動かすのが目的、それが現状最もあり得そうな答えなのだが……。
「どうだ? ビクトリアの為に用意した紅茶だ」
「ハルン産の物ですね。ほんのり香り口に広がるオレンジが素晴らしいですわ」
“どうしてこんなことに!”
「デートはいかがでしたか?」
「デッ、そ、そうね。まぁ……悪くはなかったわ。これ、お土産よ」
そっと手渡したのはミルシュカに教えて貰ったデザート店のタルトである。
「わ! ビクトリア様、ありがとうございます」
すぐに何かわかったのか、ぱあっと顔を綻ばせたミルシュカはすぐにハッとした顔になって。
「でもこのお店、凄く混んではいませんでしたか?」
「そうね、確かに結構長い時間並ぶことになったわね」
「えぇっ!」
「でも、お話していたらあっという間だったわ」
“まぁ、お題はほぼやり直し関連のことばかりだったのだけれど”
それでも、目を輝かせて色んなことを質問してくる殿下はどこかあどけなく、自分たちの順番が来るまでただ立って待つだけだというのに楽しかった。
「まぁ、一国の王子がデザートの為に列に並んでる様子は少し違和感があったのだけど」
「それはまぁ、そうですね……」
「当たり前のように順番を待っておられる姿はその、悪くはなかったわ」
少し気恥ずかしくてミルシュカから顔を逸らしつつそう言うと、彼女の口角がニマッと上がる。
「確かにビクトリア様にはプライドが高く自分中心な男性よりも、落ち着いて当たり前ではない時間も当たり前のように楽しめる相手がお似合いだと思います」
「も、もうっ!」
彼女の言うその二人が誰と誰を指しているのかは明確で、私はつい声を荒げたのだった。
“それにしても、本当にミルシュカは変わったわね”
教育を施す前、つまりはやり直す前の彼女は自分の都合のいいように事を進めて平気で人を貶めるタイプなのだと思っていたが、やり直し教育をした今の彼女からはそんな姿は想像出来ない。
仕事も真面目にこなし、不特定多数の異性に声をかけるようなことだってもちろんなくて。
「本来の気質はこちらだったってことなのかしら」
ベッドにそっと潜り込むと、ミルシュカが温めておいてくれたらしくほわりとした気持ちになる。
“こんなに繊細な気が遣えるのに”
なのに何故やり直し前はああだったのか、本当に理解に苦しむ。
「母親を尊敬して同じ行動をしていた、とは思えないのよね」
若い男を買い散財していたミルシュカの母。
そんな母を彼女は軽蔑していた。
“軽蔑していたのは、きっと前回も同じだったはずよ”
それなのに、そんな母親と同じ行動をしていたのにはきっと理由があるのだろう。
もちろんただ単純に考えることを止めてしまったから、なんて可能性もなくはないが……
「――誰かの、入れ知恵?」
王太子の新しい婚約者として花咲く為に、彼女が蹴落とし利用した男たち。
その中に、逆にミルシュカを唆した人がいるのかもしれない。
“いや、王太子以上に権力を持てる可能性がある令息なんかいないわ”
それにいくら王太子といえど、申し開きをする場を設けることなく一存で処刑するなんて許されるはずがないのだ。
だがあの夜殿下は躊躇いなく実行し、隣にいたミルシュカもそれがさも当然のように見て笑っていた。
まるで最初からそうする許可が出ていたように。
「……そうよ、あの時私は確かに思ったじゃない」
その場にいて、そして止める様子すら見せない宰相の様子に確かに私は思ったのだ。
『本当にこんなことが認められているのか』と。
「……そうよ、何で気付かなかったの」
宰相は我がフォシェル公爵家と派閥を争っている。
つまりあの夜の黒幕は――
◇◇◇
“でも、何が目的なのかしら”
一番に思い付くのは政争。
魔道具にばかりご執心の第一王子か、どうやって自分が王太子に選ばれたかも忘れ婚約者を処刑するような愚か第二王子なら傀儡にしやすいのは断然後者だ。
ミルシュカを唆し、ニコラウス殿下を陥落させて力を削げ落とし自分の思う通りに動かすのが目的、それが現状最もあり得そうな答えなのだが……。
「どうだ? ビクトリアの為に用意した紅茶だ」
「ハルン産の物ですね。ほんのり香り口に広がるオレンジが素晴らしいですわ」
“どうしてこんなことに!”
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