2 / 3
2.
しおりを挟む
「ありがとう。ちゃんと戸締りするから安心して?」
にこりと笑いかけると、まだ何か話したそうに口を開いた南くんは結局それ以上何も言わず握っていた手を離した。
「……何かあったらすぐ連絡して」と言ってくれた南くんに感謝しつつ一人部屋に入った私はすぐにガチャンと鍵を閉める。
今日友人にストーカーだと言われたせいかなんだか不安になった私は、玄関の鍵を閉めたあとすぐに窓やベランダの扉の鍵がちゃんと閉まっていることを確認するために部屋の中に入った。
――もし鍵を閉めたあとも玄関に立っていたならば、「まだ、足りないか」と呟く、さっきまで話していた南くんの声よりずっと低い声で言った彼に気付けたかもしれない。
家中の戸締りを確認した私がちゃんと鍵がかかっていたことに安心していると、突然しとしとと雨が降り出す。
窓ガラスを雨が叩き、一瞬またポルターガイスト現象かとビクッとした私は不安になってスマホをぎゅっと握った。
(ただの雨、だよね?)
小さく窓を叩く雨。
耳を澄ますと雨がガラスを叩くパタパタという小さな音と、そんな音に交じるカツン、カツンという音が聞こえて。
「え、何……?」
明らかに雨ではない音にバクバクと私の鼓動が早くなる。
脳裏に過るのはさっきの死んだカラスだ。
「せめて埋めてあげたらよかったのかもぉ……」
ちらっと見ただけで何もしなかった私を恨んでいるのかもしれない。
この窓から聞こえるカツンという音は、あのクチバシでガラスを叩いているのかも――
そう思った私はゾッと背筋を震えさせ、けれどこのままにしては今日も眠れないからと震える足を叱咤して音のする窓の前に立った。
ごくり、と唾を呑む。
カタカタと手が震えながらカーテンを握ったせいでカーテンレールまでカタカタの鳴り更に私を怯えさせた。
「だ、大丈夫、怖くない、怖くないもん」
だって私は将来医者になるのだ。
今までだってたくさんの解剖をしてきたし、これからだってたくさんの解剖をする。
生きている人の中身を見ることもあれば、もしかしたら死んだ人の解剖をする日だってくるかもしれない。
だったら、内臓の出たカラスの霊に怯える必要なんてないはずだ、と言い聞かせて一気にカーテンを開けた。
シャッという音が部屋に響く。
一瞬強く瞑った目をゆっくり開く。
目の前には――
「……何も、ない」
目の前に広がるいつもと変わらない光景にホッと息を吐き……
「何、これ?」
窓ガラスの下に沢山落ちている小石に首を傾げた。
(なんでこんなところに)
なんだろう、と窓を開けて小石を取ろうとし、昼にした会話を思い出す。
「まさか、本当にストーカー……?」
人為的なものである可能性が過った私は鍵を開けるギリギリで思いとどまりその場で尻もちをついてしまった。
そんな私へ追い打ちをかけるように、今度は玄関の扉についたポストがガチャガチャと音を立てる。
「な、なに!?」
恐々玄関を振り返ると、誰かが中を覗いているのかギラリと光を反射する。
ひゃぁ、と思わず両手で顔を覆うとポトンと何かが入れられたようで。
口から飛び出しそうな心臓を何とか抑えつつポストを見る。
そこには赤黒い血のようなもので『みてるよ』と書かれたポストカードが入っていて。
「だ、誰か……っ」
震える手でスマホを握る。
警察?
ううん、実被害もなければ証拠もない。
親は他県だし、こんな時に頼れるのは――
ふと、『運命』という言葉が過る。
「南くん……」
もし彼の言う通り私たちが運命なら。
もし彼の気持ちが本物なら。
さっき拒絶したくせにすぐに頼ろうとするなんて最低かもしれないけれど。
「すぐに連絡してって言ってくれたもの」
まるで自分に言い聞かせるようにそう口に出した私は、南くんに電話をかけた。
すぐにスマホからコール音が鳴る。
(出てくれるかなぁ)
そんな心配をしていた時、突如家のチャイムが鳴る。
「!?」
通販なども頼んだ記憶がない。
ただコール音が響くだけのスマホを握っていると、ふと玄関の向こうからも誰かの着信音が鳴っていること気が付いた。
「え?」
慌ててドアスコープから外を覗くと、そこには南くんが立っている。
驚いた私がすぐにドアを開けると南くんが柔らかく笑った。
にこりと笑いかけると、まだ何か話したそうに口を開いた南くんは結局それ以上何も言わず握っていた手を離した。
「……何かあったらすぐ連絡して」と言ってくれた南くんに感謝しつつ一人部屋に入った私はすぐにガチャンと鍵を閉める。
今日友人にストーカーだと言われたせいかなんだか不安になった私は、玄関の鍵を閉めたあとすぐに窓やベランダの扉の鍵がちゃんと閉まっていることを確認するために部屋の中に入った。
――もし鍵を閉めたあとも玄関に立っていたならば、「まだ、足りないか」と呟く、さっきまで話していた南くんの声よりずっと低い声で言った彼に気付けたかもしれない。
家中の戸締りを確認した私がちゃんと鍵がかかっていたことに安心していると、突然しとしとと雨が降り出す。
窓ガラスを雨が叩き、一瞬またポルターガイスト現象かとビクッとした私は不安になってスマホをぎゅっと握った。
(ただの雨、だよね?)
小さく窓を叩く雨。
耳を澄ますと雨がガラスを叩くパタパタという小さな音と、そんな音に交じるカツン、カツンという音が聞こえて。
「え、何……?」
明らかに雨ではない音にバクバクと私の鼓動が早くなる。
脳裏に過るのはさっきの死んだカラスだ。
「せめて埋めてあげたらよかったのかもぉ……」
ちらっと見ただけで何もしなかった私を恨んでいるのかもしれない。
この窓から聞こえるカツンという音は、あのクチバシでガラスを叩いているのかも――
そう思った私はゾッと背筋を震えさせ、けれどこのままにしては今日も眠れないからと震える足を叱咤して音のする窓の前に立った。
ごくり、と唾を呑む。
カタカタと手が震えながらカーテンを握ったせいでカーテンレールまでカタカタの鳴り更に私を怯えさせた。
「だ、大丈夫、怖くない、怖くないもん」
だって私は将来医者になるのだ。
今までだってたくさんの解剖をしてきたし、これからだってたくさんの解剖をする。
生きている人の中身を見ることもあれば、もしかしたら死んだ人の解剖をする日だってくるかもしれない。
だったら、内臓の出たカラスの霊に怯える必要なんてないはずだ、と言い聞かせて一気にカーテンを開けた。
シャッという音が部屋に響く。
一瞬強く瞑った目をゆっくり開く。
目の前には――
「……何も、ない」
目の前に広がるいつもと変わらない光景にホッと息を吐き……
「何、これ?」
窓ガラスの下に沢山落ちている小石に首を傾げた。
(なんでこんなところに)
なんだろう、と窓を開けて小石を取ろうとし、昼にした会話を思い出す。
「まさか、本当にストーカー……?」
人為的なものである可能性が過った私は鍵を開けるギリギリで思いとどまりその場で尻もちをついてしまった。
そんな私へ追い打ちをかけるように、今度は玄関の扉についたポストがガチャガチャと音を立てる。
「な、なに!?」
恐々玄関を振り返ると、誰かが中を覗いているのかギラリと光を反射する。
ひゃぁ、と思わず両手で顔を覆うとポトンと何かが入れられたようで。
口から飛び出しそうな心臓を何とか抑えつつポストを見る。
そこには赤黒い血のようなもので『みてるよ』と書かれたポストカードが入っていて。
「だ、誰か……っ」
震える手でスマホを握る。
警察?
ううん、実被害もなければ証拠もない。
親は他県だし、こんな時に頼れるのは――
ふと、『運命』という言葉が過る。
「南くん……」
もし彼の言う通り私たちが運命なら。
もし彼の気持ちが本物なら。
さっき拒絶したくせにすぐに頼ろうとするなんて最低かもしれないけれど。
「すぐに連絡してって言ってくれたもの」
まるで自分に言い聞かせるようにそう口に出した私は、南くんに電話をかけた。
すぐにスマホからコール音が鳴る。
(出てくれるかなぁ)
そんな心配をしていた時、突如家のチャイムが鳴る。
「!?」
通販なども頼んだ記憶がない。
ただコール音が響くだけのスマホを握っていると、ふと玄関の向こうからも誰かの着信音が鳴っていること気が付いた。
「え?」
慌ててドアスコープから外を覗くと、そこには南くんが立っている。
驚いた私がすぐにドアを開けると南くんが柔らかく笑った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
真夜中の訪問者
星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。
※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。
静かな隣人
吉良朗(キラアキラ)
ホラー
彼と彼女のハートフルバイオレンスホラー
和雄とひかりは駅近のマンションで暮らす若い夫婦。
そんな二人は、3か月ほど前に隣の部屋に引っ越してきたユーチューバーのゲーム実況の声に毎晩悩まされていた。
そんな状況に和雄の我慢は限界を迎えようとしていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる