上 下
1 / 4

1.きみと一緒に過ごしたい

しおりを挟む
「ん、好き、好きだよ蓮⋯っ」
「や、やめ、奥突きなが⋯っ、ちく⋯び、ダメ⋯っ」
「なんで?ここグリグリされるの好きじゃん、ほらっ」
「ひゃあんッ!あッ、あき、あきらぁ⋯ッ」

ぱちゅんぱちゅんと音が響き、その卑猥な音すらももう俺の羞恥を誘えないほど溺れていく。

目の奥をチカチカと瞬く星にくらくらし、俺は後ろからズンズンと腰を動かす彰に全てを委ね枕に顔を押し付けてイきそうなのを堪えていた。


「⋯ね、噛みたい、蓮、噛んでいい?いいよね?お願い⋯番になろ?」
「や⋯っ、ダメ、やだ⋯っ」
「なんで?俺達付き合ってもう8年だよ?」
「や、やぁ、⋯ッ!あ、あぁあ⋯⋯ッ」

ガジガジとチョーカーに歯をたてられているのを感じる。
そのまま一際奥まで挿れた彰は、ギュッと俺の乳首をつねってきて。

「~~~ッッ」

その痛いくらいの刺激に、俺はあっさりと達してしまったのだった。




大河内彰と出会ったのは大学初日の経済の講義だった。
必須科目だった上に、オメガである俺はめちゃくちゃ勉強してやっと入った大学ということもあってかなり気合いを入れていて。
そしてたまたま隣に座ったのが、他でもない彰だった。

彰はアルファ特有のエリートオーラなんてものはなく、それどころか少し天然で可愛い感じで。
オメガだとかアルファだとか関係なく仲良くなった俺達は、あまりにもありきたりで、だからこそ穏やかに気持ちを育み付き合い始めた。



「れーん、蓮の好きな監督のドラマ始まるよ」
「え、まじ?今行くわ」

勝手知ってる彰の家。
最早自分の家よりも居心地のいいこの部屋で、まるで自室のようにテレビの前のソファに並んで座ると、すかさず彰が膝掛けをかけてくれる。

「湯冷めしちゃダメだよ?」
「⋯ん、ありがと」


特に大きな喧嘩もなくこの8年過ごし、これからもずっと一緒に居れれば⋯と願えば願うほど、彰が番になろうと言ってくるほど⋯俺には頷く事が出来なくて――


「あ、これ“運命の番”がテーマになってるドラマなんだね」

彰の言葉に思わずビクッと肩を跳ねさせる。

「蓮?」
「ん?あー、いや、これ系多いよな」
「そだねぇ、運命かぁ⋯」

しみじみと続けられる“運命”という言葉に、ジュクリと心臓が傷んだ。


――運命の番。

ドラマや漫画ではよくある設定だが、そもそもその『運命』に出会える人間はどれだけいるのだろうか?

“一目見たらわかる⋯か”


穏やかに、緩やかに。
じっくりと想いを育んだ俺達には無縁の言葉。


重ねた時間に、育んだ絆に誇りを持っているとしても⋯

“⋯もし彰が、その運命とやらに出会ったとしたら⋯”


オメガは噛まれたアルファしか受け付けなくなる。
しかしアルファは何人でも番を作る事が生物学上可能で。


“番になったとして、もし彰に『ホンモノ』が現れたら⋯。それでも、俺に会いに来てくれるのか?抱いてくれるのか?”


彰のいない未来を想像し、彰だけを求めて泣く自分が簡単にイメージ出来てしまう。
1人世界に取り残されるようなじわりとした恐怖が、「番になろう」と言ってくれる彰を受け入れられない理由だった。

“好きだよ、すげー好き。だからこそ⋯怖い”

ぽすんと彰の肩に頭を預けると、柔らかく微笑んだ彰がそっと頭を撫でてくれた。

「俺、蓮のこの柔らかな茶髪好きだな」
「⋯俺は猫ッ毛の黒髪好きだぞ。あとそのタレ目も」
「えっ、俺の全部じゃん」
「彰の全部ってその2つで構成されてんのかよ」

はは、と笑い合う。
くだらない軽口が心地よく、穏やかな時間に俺はそっと瞳を閉じた。


“――付き合えているだけで、今側にいてくれるだけで感謝しねぇとな⋯”
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

きみはオメガ

モト
BL
隣に住む幼馴染の小次郎君は無表情。何を考えているのか長年ずっと傍にいる僕もよく分からない。 そんな中、僕がベータで小次郎君がアルファだと診断を受ける。診断結果を知った小次郎君は初めて涙を見せるが僕が言った一言で、君は安心した。 執着、幼馴染、オメガバース、アルファとベータ

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

君を変える愛

沙羅
BL
運命に縛られたカップルって美味しいですよね……受けが嫌がってるとなお良い。切なげな感じでおわってますが、2人ともちゃんと幸せになってくれるはず。 もともとβだった子がΩになる表現があります。

不安になるから穴をあけて

森 うろ子
BL
不安になると耳にピアスの穴をあけるオメガの玲。玲を都合のいい相手にするアルファの茉莉。 番にしてくれないのに「好きなだけそばにいればいいじゃん。」と調子の良いことを言う茉莉のそばは心地よくて玲は離れることが出来なかった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

要らないオメガは従者を望む

雪紫
BL
伯爵家次男、オメガのリオ・アイリーンは発情期の度に従者であるシルヴェスター・ダニングに抱かれている。 アルファの従者×オメガの主の話。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...