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番外編:覚悟をしてくれるなら
3.事件の結末は
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私が一人帰ったあの夜会。
だが翌日になっても両親も妹も戻って来なかったことに嫌な予感が過る。
「まさか事故にでも遭ったんじゃ……」
こんな時こそ長女である私がしっかりしなければ、使用人たちへも不安が広がってしまうだろう。
だからこそ気丈にみんなの前では笑顔を保ってみるが、ふと私室でひとりになると気弱になってしまう。
“どうしたらいいの?”
誰かに大丈夫だと言われたい。
少しかさつき剣ダコでゴツゴツとした大きな手で撫でられたい。
「って、それはダメだわ!!」
弱気になった自分のそんな妄想に慌てた私が勢い良く立ち上がると、手に持っていたカップから紅茶が零れた。
“忘れなくちゃいけないのに!”
つい頼りたくなってしまったのは、彼があまりにも優しかったからかもしれない。
「というかいつもピンチの時に現れる王子様だからで、だからその、この感情に他意はないんだからッ」
私が好きなのはジラルド様なのだ。
もうとっくに諦めているけれど。
だが彼は責任を取ると言ってくれた。
それに、抱いているのが俺だと覚えていて欲しい、とも言っていた。
それはつまり、ちゃんと彼は彼自身として私を選んでくれたということで――
「だからと言って、自分で断ったくせに少し不安になったくらいでエミディオ様を思い出すだなんて! 私ってば! この愚か者ッ! ですわ!」
動揺しそんなことを口走っていると、扉がノックされた。
いつもよりどこか余裕がない様子で叩かれたその扉に首を傾げる。
“我が家の使用人らしくないわね”
異変に戸惑いつつ扉を開く許可を出すと、ガチャリと開かれたその先にいたのは我が家のメイド――では、なく。
「王城の……?」
胸元にキラリと身元を証明する王家の紋章が入ったバッチをつけた、使いの者が立っていた。
◇◇◇
「お父様! お母様!」
使いからの通達書を受け取った私はすぐに中を確認し、慌てて王城へと戻った。
そして応接室で待っていた両親と合流する。
――だがそこに妹はいない。
「お前は、その……大丈夫だったか?」
「えぇ。私は問題ございませんわ」
いつもは公爵らしくいつも凛々しい父だが、今は覇気なくどこか弱々しい。
だがそれも仕方がないだろう。
娘、つまりは私の妹でもあるメルージラが反逆罪で捕まったのだから。
「何があったかは聞いているか?」
そう聞かれ小さく頷いて答える。
王家からの通達書には詳しいことは書いていなかったが、だが昨晩自分に起こったことならよく覚えている。
そして薬を盛られた時に聞かされた内容からも推測は出来た。
“ジラルド様にも媚薬が盛られたんだわ”
出来ればそっちは失敗してくれていないかと願っていたが、その願い虚しく実行されて何かしらが起きたのかもしれない。
「ルチアは大丈夫かしら……」
婚約者同士であり想い合っている二人でも、無理やりは絶対ダメだ。
もしジラルド様が薬で理性を失い嫌がるルチアに何かをしたのならば。
「私がもぐしかないわね」
“……いや、もいでしまうとそこで王家の血が途絶えてしまうわ”
つまり外部に子種を保存してからもげばいいのかしら、なんて考えながら呼ばれた大広間。
断罪を待つかのように両陛下とジラルド様の前にひとり立っているのは妹のメルージラだった。
いつも気弱で、私の背中に隠れていたメルージラ。
守ってあげなきゃと常に彼女の前に立っていたことも全て誤りだったのかもしれないと、吐露される彼女の思いに衝撃を覚える。
“どこから間違えてしまったの?”
――いや、きっと背後に庇った時から間違っていたのだ。
たったひとりの姉妹なのだから、盾になるのではなく向かい合うべきだった。
隣に並ぶべきだったのだろう。
苛烈なまでもの妹の考えを知りショックを受けていた時に飛び出してきたのはルチアだった。
「貴女は愛されているわ」
そう断言する彼女に強さを見る。
騎士団試験に落ち、貴族ならば当然持っているはずの加護もない。
だが、『何もない』と自分を評する彼女はいつも生き生きと輝き眩しかった。
“本当に完敗だわ”
「私も貴女のようになりたいわ」
思わずそう私の口から溢れたが、誰にも聞こえなかったようで安堵する。
だって私はフラージラ・コルティ。決して彼女にはなれないのだから。
コンタリーニ侯爵家は、今回の被害者として呼ばれていたようで事情を確認し終わったのか先に大広間から退席した。
そして残ったのは両陛下とジラルド様、そしてコルティ公爵家だけである。
“一家全員打ち首かしら”
加護という存在すらも疎んでいたらしい妹は、なんとジラルド様が加護を失ったこととも関係していたらしい。
せめて雇われているだけの使用人と、コルティ公爵家の騎士団は免除して欲しいのだが当然そんなことを願うことすら許されないだろう。
“良かった、あの時断っておいて”
もしエミディオ様に責任を取ってもらうことにしていれば、彼までをも巻き込むところだった。
既に多大なる迷惑と大回転レベルの巻き込みをしてしまっているのに、更に断罪にまで巻き込むところだったのかと思うとゾッとする。
“でも、死ぬ前に素敵な思い出を貰えて私ってばついてるわね”
本来なら私とエミディオ様にそういった未来はないはずだった。
全く興味はなかったとは言わない。
助け出してくれたあの時のことは私にとっては特別だった。
怖かった。死んでしまうかもしれないと思ったその時に現れた慕っていた相手は私を見向きもせず友人だけを見ていた。
そしてそんな彼女が羨ましいと心の底から思ったのだ、『私も誰かに見つけて欲しい』と。
その時に現れたのがエミディオ様だった。
“エミディオ様は、二回も見つけてくださったわ”
媚薬を飲んでしまったあの時、もし側にいたのが彼じゃなくても、私は服を掴み引き留めていただろうか?
“いいえ。きっと彼だったから”
そう思えるくらいには特別だった。
もちろんジラルド様を見ればまだ心は痛むけれど、それでも、心から友人の幸せを祈れるくらいには吹っ切っているつもりだった。
「でも、それももう終わりね」
もし来世というものがあるのなら、今度は私が貴方を見つけるから。
だからその時は……
「――……よって、メルージラ・コルティには修道院に入ることを命ずる」
……、?
完全に来世へと思いを馳せていた私は、告げられた処分に首を傾げた。
思わず隣にいる両親を見上げると、二人とも愕然とした表情をしていたのでどうやら聞き間違いではなかったらしい。
「し、処刑されないのですか?」
「おかしいな、さっきの場で僕は彼女に二択を迫ったし、その二択はそもそも修道院か没落だったと思うんだけれど」
「えっ」
“そう、言われれば……?”
完全に処刑一択だと思い込んでいたせいで折角の温情を無駄にするところだった私は慌てて頭を下げる。
結果から言えばコルティ公爵家は処刑を免れ、妹も修道院へ入ることになったとはいえ家族の縁を切らなくてもいいことになった。
しかもメルージラの研究の成果次第では、我が家に戻って来れるかもしれないというオマケ付き。
この国の宝である神の愛し子、王家唯一の子であり王太子のジラルド様から加護というものを奪い、媚薬を盛るという罪まで犯したにしては余りにも甘すぎるその罰に、これでは流石に王家の顔が立たないと領地の三分の一を返還することを父が申し出、それが受理される形で今回の件は終わったのだった。
だが翌日になっても両親も妹も戻って来なかったことに嫌な予感が過る。
「まさか事故にでも遭ったんじゃ……」
こんな時こそ長女である私がしっかりしなければ、使用人たちへも不安が広がってしまうだろう。
だからこそ気丈にみんなの前では笑顔を保ってみるが、ふと私室でひとりになると気弱になってしまう。
“どうしたらいいの?”
誰かに大丈夫だと言われたい。
少しかさつき剣ダコでゴツゴツとした大きな手で撫でられたい。
「って、それはダメだわ!!」
弱気になった自分のそんな妄想に慌てた私が勢い良く立ち上がると、手に持っていたカップから紅茶が零れた。
“忘れなくちゃいけないのに!”
つい頼りたくなってしまったのは、彼があまりにも優しかったからかもしれない。
「というかいつもピンチの時に現れる王子様だからで、だからその、この感情に他意はないんだからッ」
私が好きなのはジラルド様なのだ。
もうとっくに諦めているけれど。
だが彼は責任を取ると言ってくれた。
それに、抱いているのが俺だと覚えていて欲しい、とも言っていた。
それはつまり、ちゃんと彼は彼自身として私を選んでくれたということで――
「だからと言って、自分で断ったくせに少し不安になったくらいでエミディオ様を思い出すだなんて! 私ってば! この愚か者ッ! ですわ!」
動揺しそんなことを口走っていると、扉がノックされた。
いつもよりどこか余裕がない様子で叩かれたその扉に首を傾げる。
“我が家の使用人らしくないわね”
異変に戸惑いつつ扉を開く許可を出すと、ガチャリと開かれたその先にいたのは我が家のメイド――では、なく。
「王城の……?」
胸元にキラリと身元を証明する王家の紋章が入ったバッチをつけた、使いの者が立っていた。
◇◇◇
「お父様! お母様!」
使いからの通達書を受け取った私はすぐに中を確認し、慌てて王城へと戻った。
そして応接室で待っていた両親と合流する。
――だがそこに妹はいない。
「お前は、その……大丈夫だったか?」
「えぇ。私は問題ございませんわ」
いつもは公爵らしくいつも凛々しい父だが、今は覇気なくどこか弱々しい。
だがそれも仕方がないだろう。
娘、つまりは私の妹でもあるメルージラが反逆罪で捕まったのだから。
「何があったかは聞いているか?」
そう聞かれ小さく頷いて答える。
王家からの通達書には詳しいことは書いていなかったが、だが昨晩自分に起こったことならよく覚えている。
そして薬を盛られた時に聞かされた内容からも推測は出来た。
“ジラルド様にも媚薬が盛られたんだわ”
出来ればそっちは失敗してくれていないかと願っていたが、その願い虚しく実行されて何かしらが起きたのかもしれない。
「ルチアは大丈夫かしら……」
婚約者同士であり想い合っている二人でも、無理やりは絶対ダメだ。
もしジラルド様が薬で理性を失い嫌がるルチアに何かをしたのならば。
「私がもぐしかないわね」
“……いや、もいでしまうとそこで王家の血が途絶えてしまうわ”
つまり外部に子種を保存してからもげばいいのかしら、なんて考えながら呼ばれた大広間。
断罪を待つかのように両陛下とジラルド様の前にひとり立っているのは妹のメルージラだった。
いつも気弱で、私の背中に隠れていたメルージラ。
守ってあげなきゃと常に彼女の前に立っていたことも全て誤りだったのかもしれないと、吐露される彼女の思いに衝撃を覚える。
“どこから間違えてしまったの?”
――いや、きっと背後に庇った時から間違っていたのだ。
たったひとりの姉妹なのだから、盾になるのではなく向かい合うべきだった。
隣に並ぶべきだったのだろう。
苛烈なまでもの妹の考えを知りショックを受けていた時に飛び出してきたのはルチアだった。
「貴女は愛されているわ」
そう断言する彼女に強さを見る。
騎士団試験に落ち、貴族ならば当然持っているはずの加護もない。
だが、『何もない』と自分を評する彼女はいつも生き生きと輝き眩しかった。
“本当に完敗だわ”
「私も貴女のようになりたいわ」
思わずそう私の口から溢れたが、誰にも聞こえなかったようで安堵する。
だって私はフラージラ・コルティ。決して彼女にはなれないのだから。
コンタリーニ侯爵家は、今回の被害者として呼ばれていたようで事情を確認し終わったのか先に大広間から退席した。
そして残ったのは両陛下とジラルド様、そしてコルティ公爵家だけである。
“一家全員打ち首かしら”
加護という存在すらも疎んでいたらしい妹は、なんとジラルド様が加護を失ったこととも関係していたらしい。
せめて雇われているだけの使用人と、コルティ公爵家の騎士団は免除して欲しいのだが当然そんなことを願うことすら許されないだろう。
“良かった、あの時断っておいて”
もしエミディオ様に責任を取ってもらうことにしていれば、彼までをも巻き込むところだった。
既に多大なる迷惑と大回転レベルの巻き込みをしてしまっているのに、更に断罪にまで巻き込むところだったのかと思うとゾッとする。
“でも、死ぬ前に素敵な思い出を貰えて私ってばついてるわね”
本来なら私とエミディオ様にそういった未来はないはずだった。
全く興味はなかったとは言わない。
助け出してくれたあの時のことは私にとっては特別だった。
怖かった。死んでしまうかもしれないと思ったその時に現れた慕っていた相手は私を見向きもせず友人だけを見ていた。
そしてそんな彼女が羨ましいと心の底から思ったのだ、『私も誰かに見つけて欲しい』と。
その時に現れたのがエミディオ様だった。
“エミディオ様は、二回も見つけてくださったわ”
媚薬を飲んでしまったあの時、もし側にいたのが彼じゃなくても、私は服を掴み引き留めていただろうか?
“いいえ。きっと彼だったから”
そう思えるくらいには特別だった。
もちろんジラルド様を見ればまだ心は痛むけれど、それでも、心から友人の幸せを祈れるくらいには吹っ切っているつもりだった。
「でも、それももう終わりね」
もし来世というものがあるのなら、今度は私が貴方を見つけるから。
だからその時は……
「――……よって、メルージラ・コルティには修道院に入ることを命ずる」
……、?
完全に来世へと思いを馳せていた私は、告げられた処分に首を傾げた。
思わず隣にいる両親を見上げると、二人とも愕然とした表情をしていたのでどうやら聞き間違いではなかったらしい。
「し、処刑されないのですか?」
「おかしいな、さっきの場で僕は彼女に二択を迫ったし、その二択はそもそも修道院か没落だったと思うんだけれど」
「えっ」
“そう、言われれば……?”
完全に処刑一択だと思い込んでいたせいで折角の温情を無駄にするところだった私は慌てて頭を下げる。
結果から言えばコルティ公爵家は処刑を免れ、妹も修道院へ入ることになったとはいえ家族の縁を切らなくてもいいことになった。
しかもメルージラの研究の成果次第では、我が家に戻って来れるかもしれないというオマケ付き。
この国の宝である神の愛し子、王家唯一の子であり王太子のジラルド様から加護というものを奪い、媚薬を盛るという罪まで犯したにしては余りにも甘すぎるその罰に、これでは流石に王家の顔が立たないと領地の三分の一を返還することを父が申し出、それが受理される形で今回の件は終わったのだった。
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