30 / 35
最終章・えぇっ、本気だったんですか!?
最終話:えぇっ、本気だったんですか!?
しおりを挟む
泊まって行けばいいのに、なんて散々言われ後ろ髪を引かれつつも帰った侯爵家。
やはり疲れもあったのか、ジルの部屋で仮眠は取ったというのに一瞬で深い眠りに落ちた私は、翌日ざわめく邸内の違和感で目を覚ました。
「え、何……」
ぼんやりとしながら起き上がると、まだ早朝と言ってもいい時間。
侍女が起こしにくるのもまだ先だろう時間だったが、流石にこの騒がしさに疑問を持った私は首を傾げながら階下へと降り――……
「あ、おはようルチア」
「じ、ジル!?」
「体の調子はどうかな? 安心して、今日は僕がずっと抱っこして移動するね」
「え、移動って……え?」
“私何かジルと約束してたかしら?”
怪訝に思いながらチラリとジルの隣に立つ父を見ると、まるで全て諦めたかのように表情が死んでいてギョッとする。
その隣に立つ兄は何かを考え込んでいるし、母はどこか楽しそうに眺めていた。
「さぁ、準備を整えてすぐに向かおうね。必要なものは全て持ってきてるから」
「必要なもの?」
「もちろん君のウェディングドレスだよ!」
「え、えぇえっ!!?」
◇◇◇
「ま、まさかこんな急に……」
自身に起きたことが未だに信じられず愕然としてしまう。
それもそのはず、私は今教会にいるのだ。
“ど、どうしてこうなったの”
朝起きたら邸内が騒がしく、不思議に思っているとジルが私の着るウェディングドレスと共に現れた。
もうそれだけで意味がわからないのだが、わかることがもうひとつ。
どうやら私は今から結婚するということである。
「昨日言った通りだよ、『明日にでも結婚したい』って」
「えぇっ!? 本気だったんですか!?」
「ずっとそう言ってたじゃないか」
にこりと笑うジルがあまりにもいつも通りで、そしてこの彼の笑顔こそ本気の時の笑顔なのかと今更ながらにやっと気付く。
“まさか昨日の話も本気だったなんて”
「第一、僕が何度ルチアにプロポーズしたと思っているの?」
「え、だって本気だなんて……」
「187.5回だよ!? 一回くらい信じてくれたっていいのに……!」
「その『.5』って何ですか!?」
「最後まで言わせて貰えなかったやつだ!」
“わぁ……”
どこか現実感がなく呆然としたまま見つめる扉。
この扉をジルと開き、歩いた先にいる司祭の前で永遠を誓えば私たちの婚姻は成立する。
もちろん結婚披露パーティーは大々的に別途開催することになってはいるのだが。
「……嫌だった?」
呆然としている私の表情を窺うようにジルがそう聞いてくる。
その少し不安そうな様子すらも愛おしい。
“結局私はこの顔に弱いのよね”
クスリと思わず笑った私は、隣に立つ彼の腕に自身の腕をぎゅっと絡めて抱き付いた。
最初はただの肉壁だと思っていた。
いつか現れる彼の運命の人。その人が現れるまでの仮初めの婚約者。
加護もなく、王家の盾にも影にもなれなかった私にジルが与えてくれた壁役としての仕事なのだと、ずっとそう思っていたけれど。
“最初からずっと彼は本気だったのね”
ずっとずっと、私という個を見てくれていた彼だから。
私もずっと、もしまた彼が加護を失うようなことがあったとしても。
「ジルのことが大好きだなって思っていただけよ!」
そう答えると、まるで花が綻ぶような笑顔を向けられる。
その笑顔を見るだけで私の胸はじわりと熱くなった。
きっと私は、これから先もずっとこの最愛の人を想い続けるのだろう。
そして願わくば、ふたりの想いがこれからも永遠に続きますように――……
やはり疲れもあったのか、ジルの部屋で仮眠は取ったというのに一瞬で深い眠りに落ちた私は、翌日ざわめく邸内の違和感で目を覚ました。
「え、何……」
ぼんやりとしながら起き上がると、まだ早朝と言ってもいい時間。
侍女が起こしにくるのもまだ先だろう時間だったが、流石にこの騒がしさに疑問を持った私は首を傾げながら階下へと降り――……
「あ、おはようルチア」
「じ、ジル!?」
「体の調子はどうかな? 安心して、今日は僕がずっと抱っこして移動するね」
「え、移動って……え?」
“私何かジルと約束してたかしら?”
怪訝に思いながらチラリとジルの隣に立つ父を見ると、まるで全て諦めたかのように表情が死んでいてギョッとする。
その隣に立つ兄は何かを考え込んでいるし、母はどこか楽しそうに眺めていた。
「さぁ、準備を整えてすぐに向かおうね。必要なものは全て持ってきてるから」
「必要なもの?」
「もちろん君のウェディングドレスだよ!」
「え、えぇえっ!!?」
◇◇◇
「ま、まさかこんな急に……」
自身に起きたことが未だに信じられず愕然としてしまう。
それもそのはず、私は今教会にいるのだ。
“ど、どうしてこうなったの”
朝起きたら邸内が騒がしく、不思議に思っているとジルが私の着るウェディングドレスと共に現れた。
もうそれだけで意味がわからないのだが、わかることがもうひとつ。
どうやら私は今から結婚するということである。
「昨日言った通りだよ、『明日にでも結婚したい』って」
「えぇっ!? 本気だったんですか!?」
「ずっとそう言ってたじゃないか」
にこりと笑うジルがあまりにもいつも通りで、そしてこの彼の笑顔こそ本気の時の笑顔なのかと今更ながらにやっと気付く。
“まさか昨日の話も本気だったなんて”
「第一、僕が何度ルチアにプロポーズしたと思っているの?」
「え、だって本気だなんて……」
「187.5回だよ!? 一回くらい信じてくれたっていいのに……!」
「その『.5』って何ですか!?」
「最後まで言わせて貰えなかったやつだ!」
“わぁ……”
どこか現実感がなく呆然としたまま見つめる扉。
この扉をジルと開き、歩いた先にいる司祭の前で永遠を誓えば私たちの婚姻は成立する。
もちろん結婚披露パーティーは大々的に別途開催することになってはいるのだが。
「……嫌だった?」
呆然としている私の表情を窺うようにジルがそう聞いてくる。
その少し不安そうな様子すらも愛おしい。
“結局私はこの顔に弱いのよね”
クスリと思わず笑った私は、隣に立つ彼の腕に自身の腕をぎゅっと絡めて抱き付いた。
最初はただの肉壁だと思っていた。
いつか現れる彼の運命の人。その人が現れるまでの仮初めの婚約者。
加護もなく、王家の盾にも影にもなれなかった私にジルが与えてくれた壁役としての仕事なのだと、ずっとそう思っていたけれど。
“最初からずっと彼は本気だったのね”
ずっとずっと、私という個を見てくれていた彼だから。
私もずっと、もしまた彼が加護を失うようなことがあったとしても。
「ジルのことが大好きだなって思っていただけよ!」
そう答えると、まるで花が綻ぶような笑顔を向けられる。
その笑顔を見るだけで私の胸はじわりと熱くなった。
きっと私は、これから先もずっとこの最愛の人を想い続けるのだろう。
そして願わくば、ふたりの想いがこれからも永遠に続きますように――……
41
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
【完結】記憶を失くした旦那さま
山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。
目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。
彼は愛しているのはリターナだと言った。
そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。
婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど
藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。
物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。
三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。
他サイトでも掲載中
新春辰年配信企画!ハメハメでガッポガッポなオトシタマタマッ!
掌
BL
炎上御曹司「弍王頭龍鶴」が企画した新春のスケベ企画に乗っかり、配信好きの「L亜」が新年早々新規の推しを探すべくあれこれ企画用の配信を観て楽しむお話。いろいろなカップルや人物が登場しますが、L亜本人のスケベは含まれません。
Xのリクエスト企画にて執筆したお話です。リクエストをくださった皆様、誠にありがとうございました!
大変遅れましたが今年もハメハメよろしくお願いいたします!
・web拍手
http://bit.ly/38kXFb0
・X垢
https://twitter.com/show1write
私は何も知らなかった
まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。
失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。
弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。
生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。
うちのワンコ書記が狙われてます
葉津緒
BL
「早く助けに行かないと、くうちゃんが風紀委員長に食べられる――」
怖がりで甘えたがりなワンコ書記が、風紀室へのおつかいに行ったことから始まる救出劇。
ワンコ書記総狙われ(総愛され?)
無理やり、お下品、やや鬼畜。
ヤリチン無口な親友がとにかくすごい
A奈
BL
【無口ノンケ×わんこ系ゲイ】
ゲイである翔太は、生まれてこの方彼氏のいない寂しさをディルドで紛らわしていたが、遂にそれも限界がきた。
どうしても生身の男とセックスしたい──そんな思いでゲイ専用のデリヘルで働き始めることになったが、最初の客はまさかのノンケの親友で……
※R18手慣らし短編です。エロはぬるい上に短いです。
※デリヘルについては詳しくないので設定緩めです。
※受けが関西弁ですが、作者は関東出身なので間違いがあれば教えて頂けると助かります。
⭐︎2023/10/10 番外編追加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる