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第二章・強力なライバル、とはなんだ!?
8.おやすみのキスを
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絶望のお茶会から帰った私をまるで当然のように笑顔で出迎えてくれたのは、この国の王太子であり神の愛し子であるジラルド殿下だった。
“何故我が家に!”
驚く私とは対照に勝手知ったると言わんばかりに迷いなく歩くその先は、私の部屋である。
「えっと、あの……」
好きな人が自分を笑顔で出迎えてくれるというのは嬉しい。
部屋まで送ってくれるのも嬉しい……が、いつもいる侍女は何故か姿を現さないし、ジルのこの表情は部屋の中にまで入る気でいる。
“部屋で二人きりというはどうなのかしら”
確かに前回密室で二人きりというシチュエーションはあったが、あれはあくまでも肉壁という任務のためでここは私の家。
家族全員が私を肉壁婚約者だと知っているのにアピールする必要はないはずだ、と考えた私は思い切って扉を塞ぐようにジルの前に立った。
「いくらジルでも、流石に結婚もしていない状態で私室に入れる訳にはいきません」
「じゃあ今すぐ結婚しよう」
「い、いえそういうことを言っている訳ではなくてっ」
「くっ、ダメか」
しれっと言われたその言葉に一気に顔が熱くなるが、これはいつもの冗談。
本気にして傷つくことは目に見えている。
「へ、部屋の中はダメなんですっ」
「どうして? 僕たちは婚約者同士だよ」
「でもそれは仮初っていうか」
「何事も練習が大事だと言わなかった?」
“た、確かに言われたわ!?”
思わず納得しかけた私に、一歩近づいたジルが畳み掛けるように言葉を重ねる。
「婚約者の練習が出来るのは世界にルチアだけだよ」
「世界に私だけ?」
「だってそうだろ? 僕の愛する婚約者は君だけなんだから」
「そう……なの、かしら」
「愛するはスルーか……。まぁいい、とりあえず僕はルチアの私室、いや寝室に入る権利がある」
「なるほど、理解いたしました。どうぞ!」
「わぁ……」
ジルの説明に確かにその通りだと思った私が部屋の扉を開けて中へと促すと、一瞬ジルの表情が驚愕に染まった気がしたが、きっとそれは気のせいだろう。
部屋に入り、侍女がいないので自分でアクセサリーを外そうとしていると、気付けば背後に回っていたジルがそっと留め具を外してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いや、使ってくれていて嬉しいよ」
敵地への武器として、今回のお茶会には先日の夜会でジルが大量に贈ってくれたアクセサリーの中でシンプルだったもののひとつをつけて行ったのだ。
「婚約者というアピールにもなりますし」
「うん、ありがとう」
“まぁ、私が着けたかっただけなんだけど”
ジルに背を向ける形でよかったと内心安堵する。
きっと建前を口にする私の顔は赤く染まっているはずだから。
「ルチア、お茶会はどうだった?」
「あー、お茶会は……何故か今度フラージラ様とふたりでお買い物へ行くことになりました」
「えっ!? 僕ともふたりではないのに!? じゃ、なくて。えーっと、どうしてそうなったのかな」
いつも冷静なジルの慌てる様子は少し面白い。
きっとこれも、私を心配してくれているからこその反応なのだろう。
「フラージラ様は加護が強くて……」
「うん」
「その加護の中でも美味しく飲める紅茶を探しに行くことになりました!」
「何故」
「加護が強いからです!」
“あら? でもその紅茶を見つけても、当て付けのように出されるのは私なのよね?”
「つまり私は、私に対して当て付けるための道具を一緒に選びに行くってことですね……?」
公爵家という家柄に、強い加護を持つ美人のフラージラ様。
そんな彼女のライバルが、何も出来ない落ちこぼ令嬢の私だというのはおかしな話なのだが、しかし現状そうなのだから仕方ない。
「僕からの呼び出しがあったということにして断ろうか。いっそ釘を刺してもいいけど」
思わず考え込んでしまった私の顔を気遣うように覗き込んだジルがそう提案してくれるが、私は慌てて首を左右に振った。
「いえ! 大丈夫です、私行きますっ」
「えっ、行くの? 僕より彼女の方がいいってことじゃないよね?」
「えぇっ!? ち、ちが、というかそういう話じゃなくて!」
不満そうに唇を尖らせるジルのあざと可愛さにきゅんとした私は思わずジルを選びたくなるものの、そんな思いをなんとか振り切って彼を見上げる。
相変わらず七色に輝くオパールのようなその美しい瞳が、私を真っ直ぐ見つめていた。
「フラージラ様のこと、嫌いじゃなくて」
「え、それって好きってこと? まさか本当に僕より……」
「考えれば、フラージラ様って自分の自慢やどこがお似合いなのかはアピールされるんですけど、私を貶したりはしないんですよね」
私の方が王太子妃に相応しいのだとアピールはするが、それだけだ。
加護がない私には王太子妃なんてなれないという言い方は一度もされてはいない。
“あくまでも、フラージラ様の方が優秀だから私よりも相応しいって言い方なのよね”
それはまるで、何も出来ないそのままの私を見てくれているようだった。
“落ちこぼ令嬢で立ち向かえるような相手じゃないかもしれないけれど”
何せ彼女は私より身分が上で、とびきりの美人。
そして何より強力な加護も授かっている。
それでも、彼女が私をライバルとして思ってくれているのであれば、私はこのままの私で肉壁としての役割を果たしたい。
「……それに、そういうところがちょっとジルに似てるなって」
「僕に?」
「そのままの私を認めてくれているところです」
何も出来ないと悩んでいたこんな私を、ちゃんと認めて対等に扱ってくれるから。
「嫌いにはなれないなって」
むしろ好きまである。
だからこそ、ジルの手を借りて逃げるのではなく、正々堂々と自分の足で立ち向かいたいと思ったのだ。
「もちろんジルの婚約者の座を譲る気なんてありませんから、任せてください!」
「うっ、今ルチアにときめきすぎて心臓止まりそう。可愛すぎる」
わざとらしく胸を押さえて苦しそうな仕草でおどけてみせる彼に小さく吹き出した私は、こうやって励ましてくれていることに心から感謝した。
“優しいんだから”
溢れる笑いを止めることなくクスクスと溢れさせていると、そんな私をじっと見たジルが小さくコホンと咳払いをする。
「……そろそろ着替えなくちゃいけないよね。疲れているのにごめんね?」
「あ、全然、むしろ嬉しかったので」
これは本音だ。
確かに気疲れはしたし、プレッシャーで疲れて帰って来たのは確かだったが、それでも好きな人が出迎えて労ってくれたとあればむしろ疲れは吹き飛ぶというものである。
「そう言ってくれたなら良かった。じゃあ今日は少し早いけどこれでお暇するよ。実はお茶会が気になってこっそり執務を抜けてきたんだ」
「えっ! じゃあジルは今からまたお仕事に……?」
普段なら仕事を終えているだろう時刻なのに、私を心配して様子を見に来てくれた結果この時間からまた仕事に戻ると聞き思わず青ざめてしまう。
そんな私の様子に気付いたジルはふわりと笑い、私の頭をそっと撫でた。
「僕が来たかっただけだから気にしないで。それでも気になるってことなら、仕事が頑張れるようにおやすみのキスをくれる?」
そして少しだけしゃがみ、私の前に頬が出される。
“ど、どうしよう”
痛いくらい心臓が跳ねる。
私なんかがしてもいいのかという疑問と、でもそれが彼の望みなのだという喜び。
二つの気持ちに揺れた私だったが、私の目の前で動かずずっと待っているジルの姿を見て意を決した。
「し、します! おやすみなさ――、んッ!」
ギュッと目を瞑り、緊張しながら彼の頬目掛けて顔を近付けた私の唇に触れたのは、ふにゅりと少ししっとりとした何か。
そしてあの婚約お披露目の夜会でこっそり練習した時に覚えたあの感触だった。
「!!!」
「あ、気付いちゃった?」
慌てて目を開いた先にあるのはジルの頬……ではなく、予想通り彼の真正面の顔。
私が彼の頬に口付ける寸前、彼がくるりと顔をこちらに向けて唇同士が触れ合ったのだ。
「こ、こんな、これじゃおやすみのキスじゃなくてただの口付けですッ!」
「それは違うよ。頬にするだけがおやすみのキスじゃない。あともう一回したいしして欲しい」
「な、ななっ」
「練習」
「……!」
“練習なら仕方ないわね”
確かにおやすみのキスを唇にしてはいけないと決まっている訳ではないし、ジルの言うことにも一理ある。
なるほど、と納得した私は、にこにことしているジルへと目を伏せてもう一度おやすみのキスを贈ったのだった。
「買い物に行く日は必ず僕に教えるんだよ」
「わかったってば! もう、過保護なんだから」
繰り返し何度もそう念押しするジルに苦笑しつつ、彼を見送るため一緒に部屋を出ようと扉を開けると、何故かそこに険しい顔をした兄がいた。
「ちょ、私の部屋の前で何してるのよ!?」
「いや、いかがわしい声……ンンッ、異変があればすぐに突入しようかと様子を伺っていた」
「私の部屋に何者かが侵入する可能性があるってこと?」
「いや、侵入じゃなく挿にゅ……いや、いい。口付けで済んでるならそれでいい」
「?」
しどろもどろになりながら顔を逸らす兄に首を傾げつつ、よくわからないがとりあえずジルの護衛をしたいのだということだと理解する。
“まぁ、コンタリーニ家は王家の盾だものね”
騎士団員として立派に働く兄が側にいるならばジルの身は安全だろう。
「じゃあその、お仕事無理しないでね。おやすみなさい、ジル」
「仕事が終わったらもう一度来てもい……」
「殿下、執務に戻るお時間です」
ジルの言葉を遮るように兄がそう口にし、ジルの背中を押すようにして共に玄関へと向かった二人をぽかんとして眺める。
完全に不敬だと思うのだが、一応幼馴染みという関係のお陰かジルは相変わらずにこにことしながら手を振ってくれていたので、私も手を振り返し彼を見送ったのだった。
“何故我が家に!”
驚く私とは対照に勝手知ったると言わんばかりに迷いなく歩くその先は、私の部屋である。
「えっと、あの……」
好きな人が自分を笑顔で出迎えてくれるというのは嬉しい。
部屋まで送ってくれるのも嬉しい……が、いつもいる侍女は何故か姿を現さないし、ジルのこの表情は部屋の中にまで入る気でいる。
“部屋で二人きりというはどうなのかしら”
確かに前回密室で二人きりというシチュエーションはあったが、あれはあくまでも肉壁という任務のためでここは私の家。
家族全員が私を肉壁婚約者だと知っているのにアピールする必要はないはずだ、と考えた私は思い切って扉を塞ぐようにジルの前に立った。
「いくらジルでも、流石に結婚もしていない状態で私室に入れる訳にはいきません」
「じゃあ今すぐ結婚しよう」
「い、いえそういうことを言っている訳ではなくてっ」
「くっ、ダメか」
しれっと言われたその言葉に一気に顔が熱くなるが、これはいつもの冗談。
本気にして傷つくことは目に見えている。
「へ、部屋の中はダメなんですっ」
「どうして? 僕たちは婚約者同士だよ」
「でもそれは仮初っていうか」
「何事も練習が大事だと言わなかった?」
“た、確かに言われたわ!?”
思わず納得しかけた私に、一歩近づいたジルが畳み掛けるように言葉を重ねる。
「婚約者の練習が出来るのは世界にルチアだけだよ」
「世界に私だけ?」
「だってそうだろ? 僕の愛する婚約者は君だけなんだから」
「そう……なの、かしら」
「愛するはスルーか……。まぁいい、とりあえず僕はルチアの私室、いや寝室に入る権利がある」
「なるほど、理解いたしました。どうぞ!」
「わぁ……」
ジルの説明に確かにその通りだと思った私が部屋の扉を開けて中へと促すと、一瞬ジルの表情が驚愕に染まった気がしたが、きっとそれは気のせいだろう。
部屋に入り、侍女がいないので自分でアクセサリーを外そうとしていると、気付けば背後に回っていたジルがそっと留め具を外してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いや、使ってくれていて嬉しいよ」
敵地への武器として、今回のお茶会には先日の夜会でジルが大量に贈ってくれたアクセサリーの中でシンプルだったもののひとつをつけて行ったのだ。
「婚約者というアピールにもなりますし」
「うん、ありがとう」
“まぁ、私が着けたかっただけなんだけど”
ジルに背を向ける形でよかったと内心安堵する。
きっと建前を口にする私の顔は赤く染まっているはずだから。
「ルチア、お茶会はどうだった?」
「あー、お茶会は……何故か今度フラージラ様とふたりでお買い物へ行くことになりました」
「えっ!? 僕ともふたりではないのに!? じゃ、なくて。えーっと、どうしてそうなったのかな」
いつも冷静なジルの慌てる様子は少し面白い。
きっとこれも、私を心配してくれているからこその反応なのだろう。
「フラージラ様は加護が強くて……」
「うん」
「その加護の中でも美味しく飲める紅茶を探しに行くことになりました!」
「何故」
「加護が強いからです!」
“あら? でもその紅茶を見つけても、当て付けのように出されるのは私なのよね?”
「つまり私は、私に対して当て付けるための道具を一緒に選びに行くってことですね……?」
公爵家という家柄に、強い加護を持つ美人のフラージラ様。
そんな彼女のライバルが、何も出来ない落ちこぼ令嬢の私だというのはおかしな話なのだが、しかし現状そうなのだから仕方ない。
「僕からの呼び出しがあったということにして断ろうか。いっそ釘を刺してもいいけど」
思わず考え込んでしまった私の顔を気遣うように覗き込んだジルがそう提案してくれるが、私は慌てて首を左右に振った。
「いえ! 大丈夫です、私行きますっ」
「えっ、行くの? 僕より彼女の方がいいってことじゃないよね?」
「えぇっ!? ち、ちが、というかそういう話じゃなくて!」
不満そうに唇を尖らせるジルのあざと可愛さにきゅんとした私は思わずジルを選びたくなるものの、そんな思いをなんとか振り切って彼を見上げる。
相変わらず七色に輝くオパールのようなその美しい瞳が、私を真っ直ぐ見つめていた。
「フラージラ様のこと、嫌いじゃなくて」
「え、それって好きってこと? まさか本当に僕より……」
「考えれば、フラージラ様って自分の自慢やどこがお似合いなのかはアピールされるんですけど、私を貶したりはしないんですよね」
私の方が王太子妃に相応しいのだとアピールはするが、それだけだ。
加護がない私には王太子妃なんてなれないという言い方は一度もされてはいない。
“あくまでも、フラージラ様の方が優秀だから私よりも相応しいって言い方なのよね”
それはまるで、何も出来ないそのままの私を見てくれているようだった。
“落ちこぼ令嬢で立ち向かえるような相手じゃないかもしれないけれど”
何せ彼女は私より身分が上で、とびきりの美人。
そして何より強力な加護も授かっている。
それでも、彼女が私をライバルとして思ってくれているのであれば、私はこのままの私で肉壁としての役割を果たしたい。
「……それに、そういうところがちょっとジルに似てるなって」
「僕に?」
「そのままの私を認めてくれているところです」
何も出来ないと悩んでいたこんな私を、ちゃんと認めて対等に扱ってくれるから。
「嫌いにはなれないなって」
むしろ好きまである。
だからこそ、ジルの手を借りて逃げるのではなく、正々堂々と自分の足で立ち向かいたいと思ったのだ。
「もちろんジルの婚約者の座を譲る気なんてありませんから、任せてください!」
「うっ、今ルチアにときめきすぎて心臓止まりそう。可愛すぎる」
わざとらしく胸を押さえて苦しそうな仕草でおどけてみせる彼に小さく吹き出した私は、こうやって励ましてくれていることに心から感謝した。
“優しいんだから”
溢れる笑いを止めることなくクスクスと溢れさせていると、そんな私をじっと見たジルが小さくコホンと咳払いをする。
「……そろそろ着替えなくちゃいけないよね。疲れているのにごめんね?」
「あ、全然、むしろ嬉しかったので」
これは本音だ。
確かに気疲れはしたし、プレッシャーで疲れて帰って来たのは確かだったが、それでも好きな人が出迎えて労ってくれたとあればむしろ疲れは吹き飛ぶというものである。
「そう言ってくれたなら良かった。じゃあ今日は少し早いけどこれでお暇するよ。実はお茶会が気になってこっそり執務を抜けてきたんだ」
「えっ! じゃあジルは今からまたお仕事に……?」
普段なら仕事を終えているだろう時刻なのに、私を心配して様子を見に来てくれた結果この時間からまた仕事に戻ると聞き思わず青ざめてしまう。
そんな私の様子に気付いたジルはふわりと笑い、私の頭をそっと撫でた。
「僕が来たかっただけだから気にしないで。それでも気になるってことなら、仕事が頑張れるようにおやすみのキスをくれる?」
そして少しだけしゃがみ、私の前に頬が出される。
“ど、どうしよう”
痛いくらい心臓が跳ねる。
私なんかがしてもいいのかという疑問と、でもそれが彼の望みなのだという喜び。
二つの気持ちに揺れた私だったが、私の目の前で動かずずっと待っているジルの姿を見て意を決した。
「し、します! おやすみなさ――、んッ!」
ギュッと目を瞑り、緊張しながら彼の頬目掛けて顔を近付けた私の唇に触れたのは、ふにゅりと少ししっとりとした何か。
そしてあの婚約お披露目の夜会でこっそり練習した時に覚えたあの感触だった。
「!!!」
「あ、気付いちゃった?」
慌てて目を開いた先にあるのはジルの頬……ではなく、予想通り彼の真正面の顔。
私が彼の頬に口付ける寸前、彼がくるりと顔をこちらに向けて唇同士が触れ合ったのだ。
「こ、こんな、これじゃおやすみのキスじゃなくてただの口付けですッ!」
「それは違うよ。頬にするだけがおやすみのキスじゃない。あともう一回したいしして欲しい」
「な、ななっ」
「練習」
「……!」
“練習なら仕方ないわね”
確かにおやすみのキスを唇にしてはいけないと決まっている訳ではないし、ジルの言うことにも一理ある。
なるほど、と納得した私は、にこにことしているジルへと目を伏せてもう一度おやすみのキスを贈ったのだった。
「買い物に行く日は必ず僕に教えるんだよ」
「わかったってば! もう、過保護なんだから」
繰り返し何度もそう念押しするジルに苦笑しつつ、彼を見送るため一緒に部屋を出ようと扉を開けると、何故かそこに険しい顔をした兄がいた。
「ちょ、私の部屋の前で何してるのよ!?」
「いや、いかがわしい声……ンンッ、異変があればすぐに突入しようかと様子を伺っていた」
「私の部屋に何者かが侵入する可能性があるってこと?」
「いや、侵入じゃなく挿にゅ……いや、いい。口付けで済んでるならそれでいい」
「?」
しどろもどろになりながら顔を逸らす兄に首を傾げつつ、よくわからないがとりあえずジルの護衛をしたいのだということだと理解する。
“まぁ、コンタリーニ家は王家の盾だものね”
騎士団員として立派に働く兄が側にいるならばジルの身は安全だろう。
「じゃあその、お仕事無理しないでね。おやすみなさい、ジル」
「仕事が終わったらもう一度来てもい……」
「殿下、執務に戻るお時間です」
ジルの言葉を遮るように兄がそう口にし、ジルの背中を押すようにして共に玄関へと向かった二人をぽかんとして眺める。
完全に不敬だと思うのだが、一応幼馴染みという関係のお陰かジルは相変わらずにこにことしながら手を振ってくれていたので、私も手を振り返し彼を見送ったのだった。
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