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第一章・落ちこぼ令嬢、肉壁婚約者になる

6.甘く痺れるその先はまだ

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 宣言通りにジルの指が私のドレスの胸元に触れる。
 今日の私のドレスはジルが事前に用意し贈ってくれたもので、首までしっかりとレースで隠されたものだったのだが、流石贈り主というのだろうか。

“き、器用に脱がされてる……!”

 パッと見ではわからないサイドにあるボタンをプチプチと外され、すぐに胸当てが大きく緩みコルセットが現れる。

 そのタイミングでくるりとうつ伏せにされると、たゆんだドレスを腰まで引き下げたジルにコルセットの紐を簡単に引き抜かれてしまった。

“ご飯がいっぱい食べられるように緩めに締めてたから……!”

 あ、と思った時にはもう遅くコルセットごと横から引き抜きパサリと床へ落とされる。
 後ろから覆い被さったジルの手のひらがするりと前へ回され、露になった胸をやわやわと感触を確かめるようにゆっくりと揉んだ。

「ひ、ぁあっ」
「凄い、手に吸い付くみたいだ」

 ジルの手のひらが胸全体を揉みしだく度に僅かに先端が刺激される。
 その掠めるだけのもどかしさが逆に意識をそこへ集中させるのか、彼の指が触れる度にじんじんと痺れるようだった。

「ルチアの先っぽ、尖ってきたね」
「やっ、言わな……っ、ひんっ!」

 楽しそうな声が耳元で囁き、きゅっと敏感になった乳首をつねられる。更にそのまま耳を齧られ、今まで感じたことのないぞわぞわとした快感で肌が粟立った。

“こんなの知らないわ……!”

 くりくりと敏感になった先端を捏ねられると、勝手にビクビクと体が跳ねる。
 まるで電撃でも走っているかのようなその刺激が私の脳を痺れさせて判断を鈍らせた。

「ジル、ジルと口付け、したい……っ」

 もっともっと、さっきみたいに引っ付いて交じりたい。
 その衝動に支配されるようにもぞもぞと体を動かし、彼の下でくるりと体勢を変えて仰向けになると、ルビーのような色がジルの瞳の奥に揺らめき私をじっと見下ろした。

「ジ……、あっ」

 彼が一瞬どこを見ているのかわからずきょとんとした私は、その視線の先を追って愕然とする。
 彼の眼前に、自分のおっぱいが晒されていることに気が付いたのだ。

“さっきの体勢のままだったら見られることはなかったのに!”

 露出させることには同意したが、見られるのとはまた意味が違う。
 しかも自分から彼の目の前に晒したのだから、恥ずかしさは倍増だ。

「ちがっ、これは……!」

 慌てて両腕で自身を抱き締めるように胸を隠すが、ジルがその腕を掴み外される。

「やっ、待……っ」
「見たい、見せて? ……ルチアのここ、可愛いがりたいんだ」
「ダメ……っ、あぁ!」

 再び露になった胸元にすかさず顔を埋めたジルが、指での刺激で尖っていた先端を舌で弾いた。
 指とは違った舌での刺激は、私の思考までもを痺れさせるような快感を与える。

 熱く湿り気を帯びた舌が乳首を扱き、ちゅうっと強く吸われると、何も出るはずがないのに先端が熱く感じて下腹部が疼いた。

「吸っちゃや、あぁっ」
「どうして?」
「お腹が、熱くてっ」

 触れられているのは胸なのにお腹が切ないことが理解できずそのまま口にすると、一瞬ぽかんとしたジルと目が合う。

「ほんと、ルチアは……! それ、絶対に僕以外に言わないで。まぁ誰かに触れさせる気なんてないんだけど」
「え? あ、んんっ」

 何故か一瞬苦しそうに顔を歪めたジルが私に口付け、そしてすぐに舌が捩じ込まれた。
 ぐちゅぐちゅと口内をかき回すように舌が荒々しく動き、私の舌を見つけ絡めとる。

 息苦しいくらい深く口付けられるが、それだけ求められているようで胸の奥に甘い熱が広がるようだった。

「んっ、あぁ……っ、きもち、い……っ」
「ッ、煽ってるって気付いてる……!?」
「煽ってなんか、ひゃんっ! あ、ぁあっ、や、摘ままな……っ! あんっ」

 口内を蹂躙されながら胸も揉まれ、乳首を捻るように摘ままれる。
 その強すぎる刺激にビクンと私の腰が大きく跳ねた。

 私の胸を揉む手のひらがするりと下がり、腹部を撫でる。

「……ァ……ッ」

 小さく漏れるその声は甲高く、まるで自分の声ではないみたいで戸惑ってしまう。
 何故だか無性に声が耳につき羞恥心を刺激された。

“はしたない声って思われたらどうしよう”

 堪えられるなら堪えたいのだが、彼の手のひらが体をまさぐる度に溢れて仕方ない。
 快感を刻まれるように未体験の気持ち良さを教えられ、体が作り替えられていくような錯覚を起こす。

 だが私の胸を締めるのは嫌悪ではなく喜びだった。

「ジル、もっと……っ」
「くっ」

 小さく呻いたジルの手のひらがドレスをたくしあげて太股を撫でる。
 ゾクゾクと快感が背筋をかけ上り体を捩る。

「可愛いルチア、本当は全部欲しいけど……」

 はぁ、とため息のような熱い吐息が彼から漏れて頬を掠める。
 流石にダメか、と呟いたジルが重ねるだけの可愛い口付けを降らせるが、敏感になった体はそれだけで甘く痺れた。

“全部……”

 彼の言う全部は、肉壁との練習では出来ないのだろう。
 きっとこの先を知れるのは、いつか現れる彼の『本命』だけなのだ。


「ルチア、好きだよ」

 軽く頬に口付けられ、上体をぐいっと起こされる。
 脱がした時に着せる順番を覚えたのか、迷いない手つきで私のコルセットの紐を締めドレスを着せてくれた。

 いや、何でも出来る神の愛し子である彼ならばいつか来るその時の為にレディのドレスの着脱の仕方を閨教育のひとつとして教わっているのかもしれない。

“こうやって私相手に練習するくらいだもの”

 神の愛し子と誰もが認める彼は常に完璧を求められているのだから。
 

「そういうこと、誰にでも言っちゃダメですからね」
「あぁ、ルチアにしか言わない」

 あっさりと断言されたその言葉に思わず口角が緩む。
 それがここだけのリップサービスなのだとしても、他の誰でもない好きな人に私だけだと言われるのは嬉しかった。

「今、ジルの婚約者は私です」

 それだけじゃない、私たちはずっと一緒の幼馴染みだから。

「私の前ではいっぱい失敗してもいいですからね」
「……、あぁ。完璧ではないただの男としてこれからも側に居させてくれ」

 そう言ってふわりと微笑むジルの表情は、まるで花が綻ぶように柔らかくて温かいものだった。

 ◇◇◇

「……おい、ルチア」
「あらお兄様」

 行きと同じくジルに家まで送って貰った私は、一足先に帰っていたらしい兄に玄関で呼び止められてきょとんとする。

“何かあったのかしら?”

 その表情がどこか固く険しいことに気付いて不安になった私の胸がドキリと大きく跳ねるが、続けられた言葉にすぐ安堵した。

「お前、殿下と休憩室に籠っていたらしいな」
「あぁ、その話。えぇ、その通りよ」

 兄が知っているのならば、この見せつけ作戦は成功したのだろう。
 しかしホッとした私とは対照的に、兄は愕然とした表情になった。

「そ、それがどういう意味かわかってるのか!? というか、やっと殿下の気持ちに気付いたのか……!?」
「殿下の気持ち?」

 言われた言葉の意味がわからず思わず首を傾げると、そんな私の表情に何かを察したのかがくりと項垂れる。

「……いや、いい。多分外堀を埋めてるだけだと理解した」
「外堀?」
「はぁ、そろそろ俺の胃を労って欲しいよ……」
「な、なんなのよ」

 わざとらしいくらいの大きなため息を吐いた兄に釣られて私も小さくため息を吐く。
 いつも穏やかに笑っているジルとは大違いだ。

「ほんと、ジルはいつも笑顔なのよね」
「じ、ジル!? それ、殿下の愛称か!?」

 小さく呟いた言葉を耳ざとく聞き取った兄が驚愕の表情で狼狽えながらそう詰め寄ってきて、私の方こそ狼狽えつつコクコクと頷く。

「ジルがそう呼んでって言ってたから」
「いや、それいつも言ってたしお前はいつも断っていただろ!?」
「それはそうなんだけど……」

“でも、あの時のジルの声がまるで乞い願うようだったから”

 その時の彼の熱さに、気付けばそう呼んでしまっていたのだ。

「……? おい、ルチアお前顔赤くないか?」
「うっ、うるさいわね!? お兄様には関係ないでしょっ」
「いやいや、めちゃくちゃ関係あるだろ。というか、呼んでくれと言われたとしてもせめて様付けだろ」
「あっ」

 呆れたと言わんばかりのその表情に私もじわりと冷や汗が滲む。
 確かに、愛称で呼ぶ許可は貰ったが呼び捨てで呼ぶ許可は貰っていなかったことに今更気付いた。

「ふ、不敬罪になるかしら? 今からでもやっぱり殿下呼びに……」
「いや待て。呼び捨てからまた呼び方を戻したら余計なことを、と俺にだけ被害が来るかもしれん」
「え、お兄様にだけ?」

 何故そんな結論になったのかはわからないが、究極の二択でも迫られているかのように表情を険しくさせた兄が諦めたかのようにまた大きすぎるため息を吐く。

「……お前はそのままで、何も考えず呼んでいろ……」
「え? ちょ……っ、なんなのよ」
「どうせルチアは逃げられない。そして俺も逃げられない……」

“お兄様、変なものでも食べたのかしら”

 意味がわからない言葉を呟きつつくるりと背を向け自室へと帰って行く兄を、私はただ呆然としながら見つめていたのだった。
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