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5.それは、決断の時

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 何気なく声の方へ視線を向けると、小さなボールが公園から飛び出してくる。

“キャッチに失敗したのか”
 
 そう思った僕は、道路に飛び出していったそのボールを追いかけて――


「ましろ!!」

 キキーッという不快な音と、僕の名前を叫ぶ瑛士の声。
 突然視界が眩しくなり、そして強く腕を引かれたと思ったらお尻からどてんとひっくり返る。
 それと同時にドンッと鈍い音が響き、何故か倒れている瑛士からじわじわと赤い血が流れ出す。


 何が起こったのかわからず、まるでスローモーションの世界に閉じ込められたようにその光景を呆けて見ていた。

 瑛士に買って貰った真っ白のスニーカーに赤が滲むのを見て、やっと覚醒する。

「瑛士!」

 彼の血で滑りながらもなんとか駆け寄ると、こんな状態だというのににこりと微笑む瑛士。

「なんでこんな……っ」
「痛いところは、ないか」
「ない!」

 そもそも僕は車に轢かれても刃物で刺されても死なないどころか痛みだって感じないのだ。

 それなのに、それを瑛士だって知っているはずなのに。

「な、んで」
「好きな人を守れて、うれ……しい」
「僕は本物の好きな人じゃ」

 ない、と言おうとした僕の言葉を遮るように小さく首を振る。

「日常を、一緒に過ごしてくれて嬉しかった」
「そんなこと」
「にこにこと食べる姿が、可愛かった」
「それは、美味し、かったから」

 瑛士と食べるその全てが楽しく、美味しかったから。

「最期まで側に、いてくれて……あり……が……」
「ッ!」

 ダメだ、このままじゃ瑛士は死んでしまう。

「まだ、まだ二日あるだろう!?」

 諦めないで欲しくてそう言うが、もう声が出ないのかただ微笑む瑛士を見て視界が滲む。

 ――嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ

「失い、たく、ない」

 気付けば彼の唇へ僕の唇を重ね、飲ませるように唾液を流す。
 そのお陰なのか、頭から流れていた血は止まっていた。

“でも、足りない”

 唾液ちまちま流し飲ませているよりも彼の命が尽きる方が早い。
 一時的に死へのカウントダウンは止まったようだが、動きだすのも時間の問題だった。

「もっとたくさん、もっと深く交わらなくちゃ」

 もっと奥で交わらないと、手遅れになる。
 決意する、や覚悟を決めるというよりも早くただ本能的にそう思った僕は、彼を抱えて翼を広げた。

 バサバサと羽ばたき、一気に空へと飛び上がる。

「天使様だ……」

 そう誰かが口にしたその言葉に苦笑する。

“違う、僕は天使なんかじゃない”

 死者を送る死神だった。
 そしてこの後は死神ですらないかもしれない。

 ――だって僕がこれからしようとしていることは。

「それでもいい」

 瑛士に死んで欲しくないから。
 そう心の中で強く思った僕は真っ直ぐ瑛士の、瑛士と僕の部屋へと帰ったのだった。

 

「大丈夫だよ」

 ちゅぱちゅぱと意識のない彼の舌と自身の舌を絡めながら言い聞かせるように囁く。
 口付けを繰り返したお陰で呼吸が安定してくるが、相変わらず意識は戻りそうになかった。

“こうするしかないよね”

 意識のない瑛士の服を脱がせ、下着をずらすと口付けのお陰か少しだけ芯を持っている瑛士のソレが露になった。

“勃たせなきゃ”

 ごくりと息を呑み、そっと彼の陰茎を口に含む。
 ぴちゃぴちゃと舐めていると、意識がなくても感じはするのか少しずつ固くなり安堵する。

「キスも、んっ、忘れないようにしないと」

 舐めれば舐めるほど少しずつ自身の体から力が抜ける。
 だがそれは同時にちゃんと瑛士に力を分け与えられているという事でもあった。

「そろそろ、挿入るかな」

 下だけ脱いで相変わらず意識のない瑛士に跨がる。
 無意識に喉を鳴らした僕は、だが躊躇っている時間はないと一気に彼のソレをナカへと挿入した。

 
「――いっ、た……!?」

 僅かにナカが引き攣る感覚がし、ピリッとした痛みを感じて思わず目を見開く。

“なんで”

 僕は痛みを感じないはずなのに。
 だがその僅かな痛みや違和感の正体を気にする余裕はなく、そのまま必死に腰を動かした。

 瑛士のを勃たせることばかり考えて自身のを解さなかったことを後悔しつつ、少しでも深く交われるよう祈りながら抽挿する。

 瑛士の体が快感を拾い、じわりと我慢汁が滲んだお陰なのか、それとも僕の体が慣れてきたのか。
 どちらなのかはわからないが、徐々にスムーズに動けるようになりホッと息を吐く。

“このままこれを繰り返せば……”

 ぢゅぽぢゅぽと腰を激しく動かし、彼のを奥まで咥え込む。
 痛みを感じないはずの僕は、当然快感を感じることもないはずなのに、瑛士へと力を移している影響なのか段々快感を覚え始めた。
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