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番外編
だって私はお姉さんなの
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――可愛い殿方が好きよ、いつだってよしよししたいもの。
プロポーションには自信があった。
家柄こそ男爵家だが、この余りある美貌のためか婚約の申し込みは絶えなかったし、実際誘われて何人もの男性とデートをしたけれど。
“結局下心が透けるのよねぇ”
そういう殿方は好みじゃない。
私は、私だけを愛してくれて、本当は私を可愛がりたいのに私によしよしされて恥ずかしさから大きな体躯を縮こませてしまうような方がいいのだ。
我が家は四人姉弟で、私は長女だった。
一代限りの男爵家なので長子だが継ぐ家はなく、将来はどこかの家の侍女になるのも悪くないし町でパンなどを売る仕事も悪くないと思っていた。
そのことを弟に話すと、貴族の愛人志望ってこと? だとか、それって未亡人として一人生計を立てているみたいなことじゃないよね、なんて意味のわかわないことを言われたし、どこかの家の家庭教師にだけはなるな、と念も押されている。
そんな私がある時次期宰相と名高いリドル様に呼び出されたと思ったら、「貴女は攻略対象です。ありとあらゆるえっちなイベントに襲われ、最終的にはハーレムの一員になります」なんて言われたのだから青天の霹靂だ。
「攻略対象ってなんなのぉ? どうして私なのかしら?」
思わず首を傾げると、彼もゆっくり首を左右に振る。
「正確な選定基準はわかっていない。だが俺の婚約者が言うにはアンリエット嬢もその一人だということだ。そして一度選ばれてしまえば最後、ありとあらゆる場面でえっちな出来事に遭遇する呪いにかかっている」
「まぁ。なんてことかしら」
「だが、そのえっちなことをする相手がまずいんだ。だからこちらで用意した相手と力を合わせて対処していただきたい」
“つまり本来の相手とは別の、リドル様が用意した殿方とそういう行為に挑めってことなのね”
正直何一つ理解できていないが、王命だと言われれば従うしかないだろう。
「相手がよしよししても怒らない人だといいのだけれど」
そんなことを考えつつ、私は特に反論もせずにその話を受けることにした。
大事なのは、文句を言い覆せない決定に抗うよりも、与えられたものの中で最善を選ぶ努力だからだ。
そうして紹介されたのは騎士課に通う、代々騎士の一族の令息だった。
騎士ということで筋肉質な肉体が美しい。
年齢は私と同じ三学年だが、誕生日の兼ね合いで二か月だけ私の方がお姉さんだったが、騎士という性質なのか私を敬ってはくれていても恋人という接し方ではなかった。
尊重してくれるし、デートにも誘ってくれる。
令嬢としては高身長な私だが、鍛えている彼の方が背が高く、どちらかといえば愛でられている気がした。
“私の方がお姉さんなのに!”
いつもなら殿方が勝手によしよししてくれと近付いてくるのに、一切そんな素振りも見せない。
よしよしを望まれればよしよしをするが、よしよししたことでお礼に私をよしよししようとする殿方は却下。
下心が透けているから。
それなのに私にあてがわれたこの令息は、よしよししてくれともよしよししてさせてくれとも言わず、一切の下心が見つからない。
もちろんイベントが始まればそういう行為はするが、それは全て王命だからという前提のもと淡々と済まされる。
愛し合う二人じゃないから当然なのかもしれないが、彼の紳士で高潔なところに好感を抱き始めていた私としては少し面白くなかった。
だから、彼を存分に可愛がれるイベントがきたときには密かに心が躍った。
突然出るようになったこの母乳を彼が飲み、存分に可愛がる。
ご褒美と称して色んな場所を好きなだけよしよしした。
そして無事にイベントが終わったあとの彼は、まるで大型犬が叱られたようにしょぼくれてしまっていたのだ。
“なんて可愛いの!”
「貴方の意思じゃなかったのだから落ち込む必要ないわよぅ?」
小首を傾げながら顔を覗くと、一気に真っ赤になった彼と目が合う。
そこには下心など一切なく、むしろ罪悪感に押しつぶされそうな顔をしていた。
「ですが俺たちは同い年です。あんな、まるで子供みたいな」
「あらぁ。同い年だけど私の方が少しだけ年上よぉ? お姉さんに甘えてもいいんじゃないかしら」
「いえ、貴方が姉ではなく大事な婚約者です。あんなこと、させるべきではなかったのに……!」
クッと顔をしかめた彼に胸が高鳴るのを感じた。
甘やかしたい。ひたすらよしよしして、可愛がって、そしてそういうことを私にされて羞恥に悶えつつ僅かな歓喜に戸惑う彼を見てみたい。
“やだぁ。私ってば実はSだったのかしらぁ”
だが私が求めていた萌えが目の前にいるのだ。
悶えそうになる気持ちに気付かれないよう気を付けつつ、後悔で表情を歪めている彼の頭を背伸びしてそっと撫でる。
「よーしよし」
「あ、アンリエット……」
「可愛いわぁ。ずっとこのままでいてね」
「自分は決して可愛いと評される容姿をしていませんが」
「そこは私が決めるのよ」
ふふふ、と思わず笑みが込み上げる。
戸惑い、眉を下げる彼が、甘やかすのも甘やかされるのも慣れていないこの不器用な彼が。
堪らなく愛おしいとそう思えたから。
“私の好みに合う人……”
そういう人を探してと進言してくれたらしい可愛いお嬢さんに、私は心から感謝したのだった。
プロポーションには自信があった。
家柄こそ男爵家だが、この余りある美貌のためか婚約の申し込みは絶えなかったし、実際誘われて何人もの男性とデートをしたけれど。
“結局下心が透けるのよねぇ”
そういう殿方は好みじゃない。
私は、私だけを愛してくれて、本当は私を可愛がりたいのに私によしよしされて恥ずかしさから大きな体躯を縮こませてしまうような方がいいのだ。
我が家は四人姉弟で、私は長女だった。
一代限りの男爵家なので長子だが継ぐ家はなく、将来はどこかの家の侍女になるのも悪くないし町でパンなどを売る仕事も悪くないと思っていた。
そのことを弟に話すと、貴族の愛人志望ってこと? だとか、それって未亡人として一人生計を立てているみたいなことじゃないよね、なんて意味のわかわないことを言われたし、どこかの家の家庭教師にだけはなるな、と念も押されている。
そんな私がある時次期宰相と名高いリドル様に呼び出されたと思ったら、「貴女は攻略対象です。ありとあらゆるえっちなイベントに襲われ、最終的にはハーレムの一員になります」なんて言われたのだから青天の霹靂だ。
「攻略対象ってなんなのぉ? どうして私なのかしら?」
思わず首を傾げると、彼もゆっくり首を左右に振る。
「正確な選定基準はわかっていない。だが俺の婚約者が言うにはアンリエット嬢もその一人だということだ。そして一度選ばれてしまえば最後、ありとあらゆる場面でえっちな出来事に遭遇する呪いにかかっている」
「まぁ。なんてことかしら」
「だが、そのえっちなことをする相手がまずいんだ。だからこちらで用意した相手と力を合わせて対処していただきたい」
“つまり本来の相手とは別の、リドル様が用意した殿方とそういう行為に挑めってことなのね”
正直何一つ理解できていないが、王命だと言われれば従うしかないだろう。
「相手がよしよししても怒らない人だといいのだけれど」
そんなことを考えつつ、私は特に反論もせずにその話を受けることにした。
大事なのは、文句を言い覆せない決定に抗うよりも、与えられたものの中で最善を選ぶ努力だからだ。
そうして紹介されたのは騎士課に通う、代々騎士の一族の令息だった。
騎士ということで筋肉質な肉体が美しい。
年齢は私と同じ三学年だが、誕生日の兼ね合いで二か月だけ私の方がお姉さんだったが、騎士という性質なのか私を敬ってはくれていても恋人という接し方ではなかった。
尊重してくれるし、デートにも誘ってくれる。
令嬢としては高身長な私だが、鍛えている彼の方が背が高く、どちらかといえば愛でられている気がした。
“私の方がお姉さんなのに!”
いつもなら殿方が勝手によしよししてくれと近付いてくるのに、一切そんな素振りも見せない。
よしよしを望まれればよしよしをするが、よしよししたことでお礼に私をよしよししようとする殿方は却下。
下心が透けているから。
それなのに私にあてがわれたこの令息は、よしよししてくれともよしよししてさせてくれとも言わず、一切の下心が見つからない。
もちろんイベントが始まればそういう行為はするが、それは全て王命だからという前提のもと淡々と済まされる。
愛し合う二人じゃないから当然なのかもしれないが、彼の紳士で高潔なところに好感を抱き始めていた私としては少し面白くなかった。
だから、彼を存分に可愛がれるイベントがきたときには密かに心が躍った。
突然出るようになったこの母乳を彼が飲み、存分に可愛がる。
ご褒美と称して色んな場所を好きなだけよしよしした。
そして無事にイベントが終わったあとの彼は、まるで大型犬が叱られたようにしょぼくれてしまっていたのだ。
“なんて可愛いの!”
「貴方の意思じゃなかったのだから落ち込む必要ないわよぅ?」
小首を傾げながら顔を覗くと、一気に真っ赤になった彼と目が合う。
そこには下心など一切なく、むしろ罪悪感に押しつぶされそうな顔をしていた。
「ですが俺たちは同い年です。あんな、まるで子供みたいな」
「あらぁ。同い年だけど私の方が少しだけ年上よぉ? お姉さんに甘えてもいいんじゃないかしら」
「いえ、貴方が姉ではなく大事な婚約者です。あんなこと、させるべきではなかったのに……!」
クッと顔をしかめた彼に胸が高鳴るのを感じた。
甘やかしたい。ひたすらよしよしして、可愛がって、そしてそういうことを私にされて羞恥に悶えつつ僅かな歓喜に戸惑う彼を見てみたい。
“やだぁ。私ってば実はSだったのかしらぁ”
だが私が求めていた萌えが目の前にいるのだ。
悶えそうになる気持ちに気付かれないよう気を付けつつ、後悔で表情を歪めている彼の頭を背伸びしてそっと撫でる。
「よーしよし」
「あ、アンリエット……」
「可愛いわぁ。ずっとこのままでいてね」
「自分は決して可愛いと評される容姿をしていませんが」
「そこは私が決めるのよ」
ふふふ、と思わず笑みが込み上げる。
戸惑い、眉を下げる彼が、甘やかすのも甘やかされるのも慣れていないこの不器用な彼が。
堪らなく愛おしいとそう思えたから。
“私の好みに合う人……”
そういう人を探してと進言してくれたらしい可愛いお嬢さんに、私は心から感謝したのだった。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(3件)
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番外編ありがとうございます😄
ずっと気になってた、王女様sideの話が読めて嬉しいデス!
理想の棒を手に入れる事ができて良かった…
サラサ様
お読みくださりありがとうございます!
どうしても話の構成上、ゲームの主人公を避ける=王女様を避けるという構図になってしまって彼女だけ名前すらほぼ出てこないという⋯!
実は彼女が一番このゲームの被害者だったので、最後にチラッと彼女の事情が出せて良かったです~!
ある意味不遇な彼女ですが、能力は一番なのでストレスを(元主人公で)発散させつつチート生活を送って色んなところで無双して欲しいところ⋯!
不幸中の幸いといいますか、彼女もゲームのキャラらしくその欲求に率直で受け入れているところだけが救いかもですね。
余談ですが、前世の兄やんの推しが王女様でした笑
最後までお付き合いありがとうございました!
まさかの4p…( ゚д゚)
サラサ様
お読みくださりありがとうございます!
そうなんです、まさかの4Pで特殊プレイを重ねるという⋯!笑
万一主人公組が乱入したら6P⋯?とか思いつつ、流石にそれはもうてんやわんやしすぎるので(ФωФ)
ちなみに明日、明後日の更新分はいつも以上に頭を空っぽにして薄目で見ていただけますと嬉しいです、とだけお伝えしておきますね←
感想ありがとうございました!
王女様が、こんなイケイケキャラだったとはw
サラサ様
お読みくださりありがとうございます!
王女様、実はこんなキャラでした笑
そしてこんなキャラだからこそ絶倫主人公を一人占めするべく乗り込んでくるんですが笑
実は兄やんの推しが王女様だったり。
実際の彼女を見て兄やんと一緒に引かれないか心配しつつ、まだまだみんな暴走していきますのでどうぞもうしばらくお付き合いくださると嬉しいです~!
感想ありがとうございました!