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番外編
信じるも信じないも自由なら
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――本が好き、ただそれだけだった。
「貴女は攻略対象です。ありとあらゆるえっちなイベントに襲われ、最終的にはハーレムの一員になります」
物語は大好きで、フィクションもノンフィクションもなんでも嗜んだ。
設定が突飛な本だって何度も読んだけれど、まさかそんなあり得ないことが事実としてありえるとは考えたこともなかった。
貴族の家に生まれた以上、政略結婚は覚悟していた。
しかしハーレムなんてたまったもんじゃない。ハーレムなんかに入るくらいなら私は一生独身でいいから官僚になりたい。
その願いを口にしたことはなかったけれど、もし私がこの先結婚するとすれば互いにしたいことを出来るような相手が理想だった。
「その話を信じるにはいささか証拠が足りないように思うのですが」
確かに私が件の令息とこの図書室で出会ったことは間違いなかった。
だが、それがどうしたというのか。
“図書室なんだから本を借りる人なんて沢山いるわ”
たまたまその日の当番だった私が貸し出しの手続きをしただけじゃないか。
それを特別なことのように言われても戸惑ってしまう。
信じられる要素がひとつもない。
言っている相手が、この国の次期宰相であるリドル・グレゴリー令息で、しかも王太子殿下の名前まで出されなければすでにこの場を去ってしまっていたかもしれないほど、彼の言っていることは信じがたいことだった。
“そもそも攻略対象って何なのよ”
まるで何かのゲームのように私の攻略が行われるというの?
そういうのは魔物相手に狩猟会でやって欲しいものである。
流石に呆れてしまうものの、一連の事件が終わるまでの護衛がてらある令息を紹介するという話には少し興味が湧いた。
何故ならその相手が、王城の文官として働く一人の家系だったからだ。
「どうせこれ、王命なんですよね?」
「あぁ。王太子殿下の名前ですでに決定されている案件だ」
「なら、お受けします。正直疑いの方が大きいですが、彼の話を聞くのは有意義そうなので」
会話の先に夫婦しか行わないような行為がついてくるのはいただけないが、国が認めた婚約者として紹介される上に私の理想の相手。
処女性を重んじる国ではないので婚前交渉もある程度は覚悟していたし、国が保証してくれるのならそれくらいは仕方ないかとも思った。
もし紹介された彼と結婚しなかったとしても、この任務を無事に終わらせられればそれで構わないという。
国に恩を売っておくのも悪くない。
ひとつだけ気になるとすれば。
「どうして私に彼をあてがったのですか?」
偶然というにはあまりにも私に得が多すぎる相手。
婚姻を結んでも結ばなくても得になり、しかも私側に王家のお墨付きがついているらしく何かあっても私と私の名誉を守ってくれるという大きすぎるオマケ付き。
そりゃ不審にも思うだろう。
しかしその説明で返って来たのは、あまりにもあっさりした理由だった。
「俺の婚約者が、令嬢側の気持ちを最優先にして一番彼女たちを幸せにしてくれる相手を選ぶよう進言したからだよ」
「え、グレゴリー令息の婚約者ですか?」
「あぁ。俺の相手も君と同じように攻略対象だからね。まだ表に出すことは出来ないけれど、このイベントとやらが全て終われば正式な婚約を結ぶつもりだ」
“私と同じ攻略対象の令嬢が……”
リドル・グレゴリーを落とした令嬢というだけでも興味深いのに、その令嬢自ら面識のない私の幸せを願ってくれていると知ってより興味が湧いた。
「どんな人なんだろう」
「少し無口ではあるが、いい男だよ」
“そっちじゃないんだけど”
だがきっと自然と彼女にあえる日も来るのだろう。
だって私たちは同じ『攻略対象』なのだから。
“正直バカバカしいという気持ちが拭いきれないけれど”
それでも先ほど説明されたことが本当なのであれば、対策を取らないといけないことも確かだ。
それを国のバックアップ付きで護衛もしてくれ、理想の相手をあてがわれたというのであれば乗らない手はない。
「わかりました。精一杯頑張ります」
「あぁ。頼む」
相変わらず作られたような笑顔にコクリと頷いて返事をする。
そんな私が、想像以上におかしなイベントへ巻き込まれる日々に直面するのはもう少し先の話である――
「貴女は攻略対象です。ありとあらゆるえっちなイベントに襲われ、最終的にはハーレムの一員になります」
物語は大好きで、フィクションもノンフィクションもなんでも嗜んだ。
設定が突飛な本だって何度も読んだけれど、まさかそんなあり得ないことが事実としてありえるとは考えたこともなかった。
貴族の家に生まれた以上、政略結婚は覚悟していた。
しかしハーレムなんてたまったもんじゃない。ハーレムなんかに入るくらいなら私は一生独身でいいから官僚になりたい。
その願いを口にしたことはなかったけれど、もし私がこの先結婚するとすれば互いにしたいことを出来るような相手が理想だった。
「その話を信じるにはいささか証拠が足りないように思うのですが」
確かに私が件の令息とこの図書室で出会ったことは間違いなかった。
だが、それがどうしたというのか。
“図書室なんだから本を借りる人なんて沢山いるわ”
たまたまその日の当番だった私が貸し出しの手続きをしただけじゃないか。
それを特別なことのように言われても戸惑ってしまう。
信じられる要素がひとつもない。
言っている相手が、この国の次期宰相であるリドル・グレゴリー令息で、しかも王太子殿下の名前まで出されなければすでにこの場を去ってしまっていたかもしれないほど、彼の言っていることは信じがたいことだった。
“そもそも攻略対象って何なのよ”
まるで何かのゲームのように私の攻略が行われるというの?
そういうのは魔物相手に狩猟会でやって欲しいものである。
流石に呆れてしまうものの、一連の事件が終わるまでの護衛がてらある令息を紹介するという話には少し興味が湧いた。
何故ならその相手が、王城の文官として働く一人の家系だったからだ。
「どうせこれ、王命なんですよね?」
「あぁ。王太子殿下の名前ですでに決定されている案件だ」
「なら、お受けします。正直疑いの方が大きいですが、彼の話を聞くのは有意義そうなので」
会話の先に夫婦しか行わないような行為がついてくるのはいただけないが、国が認めた婚約者として紹介される上に私の理想の相手。
処女性を重んじる国ではないので婚前交渉もある程度は覚悟していたし、国が保証してくれるのならそれくらいは仕方ないかとも思った。
もし紹介された彼と結婚しなかったとしても、この任務を無事に終わらせられればそれで構わないという。
国に恩を売っておくのも悪くない。
ひとつだけ気になるとすれば。
「どうして私に彼をあてがったのですか?」
偶然というにはあまりにも私に得が多すぎる相手。
婚姻を結んでも結ばなくても得になり、しかも私側に王家のお墨付きがついているらしく何かあっても私と私の名誉を守ってくれるという大きすぎるオマケ付き。
そりゃ不審にも思うだろう。
しかしその説明で返って来たのは、あまりにもあっさりした理由だった。
「俺の婚約者が、令嬢側の気持ちを最優先にして一番彼女たちを幸せにしてくれる相手を選ぶよう進言したからだよ」
「え、グレゴリー令息の婚約者ですか?」
「あぁ。俺の相手も君と同じように攻略対象だからね。まだ表に出すことは出来ないけれど、このイベントとやらが全て終われば正式な婚約を結ぶつもりだ」
“私と同じ攻略対象の令嬢が……”
リドル・グレゴリーを落とした令嬢というだけでも興味深いのに、その令嬢自ら面識のない私の幸せを願ってくれていると知ってより興味が湧いた。
「どんな人なんだろう」
「少し無口ではあるが、いい男だよ」
“そっちじゃないんだけど”
だがきっと自然と彼女にあえる日も来るのだろう。
だって私たちは同じ『攻略対象』なのだから。
“正直バカバカしいという気持ちが拭いきれないけれど”
それでも先ほど説明されたことが本当なのであれば、対策を取らないといけないことも確かだ。
それを国のバックアップ付きで護衛もしてくれ、理想の相手をあてがわれたというのであれば乗らない手はない。
「わかりました。精一杯頑張ります」
「あぁ。頼む」
相変わらず作られたような笑顔にコクリと頷いて返事をする。
そんな私が、想像以上におかしなイベントへ巻き込まれる日々に直面するのはもう少し先の話である――
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