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番外編

王女ハ、棒ヲ、手ニイレタ!

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 ――私は、よく折れずに生きてこれたとそう思う。


 魔力の強さが性欲に直結する。
 そのシステムは理解していたが、幼い頃本当の意味ではわかっていなかった。

“こんなに苦しいだなんて……!”

 ハァハァと自然に荒くなる呼吸。
 どれほど熱っぽい吐息を漏らしても、その息が触れるのは冷たいシーツだけ。

 この国の王女として生まれた私は、この国一番の魔力を有して生を受けた。
 だが年齢を重ねるごとに自身の内に蠢く熱の衝動に悩む。

 こっそり手配して貰った玩具で自身を慰めるが、所詮ただの人工物。
 その場しのぎにはなっても本当の意味で体を静めてはくれなかった。

 何人かと閨を共にしたこともある。
 それは婚約者候補だったり、身分の低い平民だったりと様々だった。

「色狂いって言われていることは知ってるけど」

 それでも希望者は後を絶たない。
 王女という立場は、その程度のレッテルでは揺るがないほどのブランドだから。
 

 兄がいた。
 シスコンを極めて妹のために玩具を差し入れてくるようなどこかズレた兄だが嫌いじゃない。

 もう一人、兄がいた。
 血の繋がらない兄の幼馴染。私とはそこまで面識はないが、それでも兄と同じくらい気遣い大事に接してくれる人。
 王女ではなく友人の妹として接してくれる彼も私にとっては本物の兄で、そして兄に頼まれ玩具を仕入れて来たのが彼だった。


 この二人の、少しズレた過保護さがなければとっくに私は私に絶望し折れていたかもしれない。


 無茶なわがままを言ったこともあった。

「何度も連続で致せて、どこでも勃起できる棒を探して欲しい」

 私に求婚してきた男や、何度もできると自称する男たちを閨に呼んでも私を満足させる前に尽きてしまう。
 こんな関係が虚しく辟易していた時にそう溢したことがあったのだ。

“私だって、たった一人の運命の人と思う存分愛のある行為にふけってみたい”


 体を繋ぐ行為は好きだった。
 体を静めてくれるし、気持ちいいことは悪いことじゃない。

 自身が女である点もよかった。
 もし私が男で、相手を孕ませる側だったのなら、私生児を名乗る小さな命を沢山作ってしまうことになる可能性もあったが、私が孕む側であれば避妊をしっかりしておけば問題ない。

“私の子を名乗る不届き者が現れる可能性がないのがいいわね”

 そんなことを考える日々だった、あの日までは。



 その日は突然やって来た。
 お忍びで城を出て気晴らしに男娼を買おうとお気に入りの娼館へ向かっている時だった。
 スリに合ったのだ。

「か、返しなさい!」

 そのお金がないと今日の相手が買えない。
 もちろん着ているものや着けている宝飾品を売れば買えるだけのお金は手に入れられるが、それをすると身元がバレてしまう。

 色狂いと呼ぶのは私と閨を共にしたことがある貴族が流した噂で、平民街でまでそんな噂を流されるわけにはいかない。
 そのため、スられたお金はなんとしても取り返さなければ今日を静めるお金がなくなってしまう!

 
 慌てて追いかけるが、勝手知ったる道なのだろう、魔法で身体強化をしていてもなかなか追いつけず私は焦っていた。
 もちろん相手に魔法をかけて止めることはできるが、それは目立ちすぎて自身の身分を証明するようなもの。
 身バレしてはお金が戻って来ても意味がないので目立たないよう魔法はこっそり自身にかけるしかなかったのだ。
 
 飛び出すように曲がり角を曲がった時、同じく曲がり角を曲がって来た一人の男性とぶつかる。
 思い切り彼の体にぶつかった私は、慌ててぶつかった相手を抱き寄せた。

 身体強化をしているので思い切りぶつかった相手を弾き飛ばし、怪我をさせる恐れがあったからだ。
 

「わ、悪かったわ、ごめんなさい!」

 グイッと腕を引きぶつかった相手が転んでしまわないように抱き留める。


 ――むに。むにむにむに。

「ッ!」

 それは偶然のようにも、確信を持って手が伸ばされたようにも見えたが真相はわからない。
 わかるのは、ぶつかった相手に胸を揉まれたということだ。


 しかも普通ぶつかりざまに女性のおっぱいに触れてしまったのならば、慌てて手を離すものだろう。
 それなのにあろうことか感触を確かめるように何度も揉まれる。

「な、何をして……、!!」

 驚きつつ胸を揉む手を叩き落とそうと思った時だった。
 気付いてしまったのだ、彼のアソコがテントを張っていることに。

“勃起してるわ!”

 たった数回胸を揉んだだけでバキバキになっているらしい相手を改めてみる。
 
 年齢の近い男性。
 そして見る限り本人に魔力はなさそう。

 しかし魔力がないのにここまで簡単に勃たせてしまうほどの性欲を持っているのだ。

“将来有望では!?”

 それはほぼ直感だった。
 この棒が私が長年求め続けていた棒なのだ、と。


 パチンと指を鳴らし魔法を発動すると、スリの上にスポットライト代わりの光の柱を立てる。
 対象が移動しても消えずに追いかけ続けるこの柱は、私が魔法解除するまで消えないだろう。

“捕まえるのは憲兵に任せればいいわね”

 身バレを懸念する必要はもうない。
 だって今日はもう娼館で誰かを買う必要がなくなったから。


「その棒、私に責任を取らせてくれないかしら?」

 にこりと微笑むと、ハッとしたその男性が前かがみになりながらコクコクと頷く。


「処女じゃないなんて!」と文句を言われたが、「初恋は捧げますわ」と返事すると途端にデレデレし出したのでよしとした。
 この性欲に忠実で単純な生き物を私は嫌いじゃない。


 しかも彼は他人の魔力を受け入れ自分の体に溜めることが出来るという特殊体質。
 私に触れる度に私の魔力を体内に取り込み、蓄積させる。

 魔力の強さ=性欲で、そして私の魔力が尽きるまでひたすら溜められるということは、私と同じだけの性欲が彼の中に生まれるということだ。


“この人相手なら互いが尽きるまで何度でも求めあえるんだわ!”

 だって魔力を共有しているのだから。


 あぁ、今日まで折れずにいてよかった。


 私は、どうやら理想の棒を手に入れたらしい。
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