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本編
23.お仕置きはまだですか
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ゲームが終わった。
あの難易度激甘の18禁同人ゲームという恐ろしいゲームが多分みんなハッピーのバッドエンドで終了した。
もちろん最初はシナリオから脱出したのだと信じられなくて、突然理解を超えたエロイベントが起きるのではと疑っていたがそんなこともなく平和な学生生活を送っている。
“もう突然服が紙になることもないしおっぱいから媚薬だって出ないのね”
リドル様とは正式に婚約を結ぶことになった。
本当に私が勝手に空回っていただけで、実際は彼が根回ししてくれておりバッドエンドを迎えた翌日には正式な婚約者という立場になっていた。
それはテレーシア様やアンリエット様も同様で、同時に三組ものカップルが誕生したのだが、そもそもこの魔法学園えちはれは成人した18歳から入学するという年齢設定上、既婚者すらいたおかげで話題にすらならなかった。
唯一例外で話題になったのが王女殿下と元主人公の婚約で、彼はこの度の学園内で起こった召喚獣騒動での謹慎という名目で自宅謹慎……ではなく王城謹慎をすることになったのだが、謹慎処分だったはずなのに王城に着いた途端王女殿下が堂々の婚約発表を行い、とっくに謹慎が明けているはずの今日もまだ登校してきてはいない。
おそらくマナーなどを叩き込まれているのだろうと思うが、真相は闇ならぬ王城の中、もしかしたら閨の中である。
「そうなのよね、もうこんなに日にちがたったのね」
自室に飾られたカレンダーを眺めた私がそんなことを呟く。
数えた日数は元主人公が謹慎処分を受けたあのバッドエンドを迎えた日からではあるが、もちろん元主人公へ気持ちを馳せているわけではない。
私が想いを寄せるのはいつも一人だけ。
そう、あの日から想い人であるリドル様とほぼ会えていないのだ。
「くっ、あの理解不能なイベントが起きないというだけでこんなにすれ違うことになるなんて!」
あのバッドエンドの日から早三か月。
会えないまま明日からは長期休暇。
仕方ないとはわかっているのだ。
元々彼は次期宰相の地位を約束された王太子殿下の側近。
そのポジションは学生の身であろうと変わらず、むしろ学生という身分が追加されたことにより更に多忙を極めている。
“王女殿下が正式に婚約発表されたからそっちの仕事もあるみたいだし”
会えたとしても、廊下のすれ違いざまに手を振る程度。
それも私が三年生の通る廊下に張っていてやっとという始末だ。
これではただの推しアイドルの追っかけである。
「お仕置きはまだなの!!!」
くぅ、と思わず地団太を踏みそうになる。
あの時囁かれた「お仕置き」は、リドル様多忙のため現在進行形で延期されていた。
“いいえ、これがきっと正しいのよね”
そもそも婚約すら結んでいない状況であんなに体を重ねていたことがおかしいのだ。
処女性を重んじる国ではないものの、さすがにこれではビッチすぎるというもの。
現在の、互いを認識しつつも近づきすぎないこの距離感が貴族の婚約者という立場的には正しい。
相手を気遣って渡すプレゼントはぱふぱふではなく刺繍したハンカチで、もし保健室へ行くことになったら怪我を治療する。決して先生に隠れてえっちなことをするためではない。
図書室へ行ったなら読書を嗜むのであって、媚薬を楽しむのではないのだ。
これが正しい。むしろこちらしか正しくない。
「けど、物足りないのよ……!」
“ハッ、もしかしてこれが放置プレ――”
「ロレッタ?」
「ひゃぁあ!? り、リドル様!?」
突然現れた婚約者にぎょっとする。
だってここは私の自室、つまりは女子寮。
「なんでここに、まさかまた忍び込んで……」
「それこそまさかだよね」
動揺している私を少し可笑しそうに眺めたリドル様が、首から下げたパスケースを見せてくれた。
「ちゃんと管理人に許可を得て来ているよ。最近時間を作れなくてごめん、お詫びという訳でもないんだけど、ロレッタは明日からの休暇の予定はセシル侯爵家への帰省で合ってる?」
「あ、はい」
所謂冬休み。
私も他の令嬢たちと同じく実家へ帰省することになっていた。
「それ、俺も付いて行ってもいい? あ、ちなみにお義父様にはもう許可は貰っているんだけどね」
「えっ」
「あと、寄り道の許可も貰ってるからね」
「えぇぇっ!?」
◇◇◇
“リドル様と帰省……”
これはつまりあれか。結婚の挨拶というやつなのだろうか。
馬車内で隣り合って座りながらそんなことを考えていると、ふいに手を握られドキリとする。
「え、えっと、な、なんでしょうか?」
久しぶりにこの至近距離で眺めるドストライクイケメンは少し心臓に悪く、痛いくらい鼓動が早くなった。
「ふふ、ひさしぶりのロレッタだと思って」
“無防備笑顔の破壊力!”
ドギュンと私の胸が変な音を爆音で奏でたが、リドル様には聞こえていないようで私はこそっと胸を撫で下ろす。
そんな私に気付いているのかいないのか、重ねた私の手をそっと口元に持っていったリドル様が軽く唇を寄せた。
“え、今日サービスデーなの?”
確かにこの帰省前に「お詫び」という言葉は言われたが、彼が忙しいのは彼の責任ではない。
それは未来の妻である私は十分に理解をしていて――
“ぐふふ、未来の、妻……!”
内心呟いたその単語に思わず笑いがこみ上げ、この笑いは元主人公がしていたものと同じだと気付き唖然とした時だった。
突然馬車の進行方向が変わったのだ。
「……え? リドル様、私たちセシル侯爵家へ向かっていたんですよね?」
「最終目的地はそこだね」
「最終?」
リドル様の言葉にぽかんとする私に、リドル様がにこりと微笑む。
「春が来れば卒業、俺の卒業のタイミングで結婚する話は覚えてる?」
「もちろんです!」
ほぼ会えなくてもなんとか耐えられたのはこの婚約の先の日付が明確に決まっていたから。
私は結婚後ももう一年学園生活が残っているが、王太子殿下の側近として本格的な実務に入る彼と今まで以上にすれ違い生活が発生することがわかっていたからこその強硬策だった。
“結婚さえしてしまえば寮から出て同じ家に帰ることもできるしね”
ちなみにこれは余談だが、この国は女性でも爵位が継げること、そして中枢の役職持ちは同時に当主になることが出来ないと定められているため、リドル様が我が侯爵家に婿入りする形での婚姻である。
「この先に、実は俺たちの新居にと建てておいた屋敷があるから、まずはそこを経由して行こう?」
「新居!?」
「ふふ、ちゃんと秘密裏に動いていたって言っていたでしょ」
“あれってこういうことだったの!?”
屋敷を建てるくらいの時間って――と一瞬計算しそうになり慌ててその考えを追いやる。
今重要なのはそこじゃないから。
「すごい、楽しみです!」
「今日泊まれるだけの家具は入れてあるけど、ロレッタの過ごしやすい家にしたいから改めて一緒に家具も選ぼうか」
「はい! 今日泊まれるだけの家具以外の家具はリドル様と一緒に……、え、泊る?」
「うん。泊る」
握られていた手にぎゅっと力を込められ、後ずさることも許されない。
「……久しぶりだから恥ずかしくなっちゃった?」
「いえ、そのっ」
「でもロレッタ、物足りないって言ってたよね」
“聞かれていたの!?”
さらりと指摘され一気に顔が熱くなる。
そんな私に、その青い瞳をスゥッと細めて口角を上げたリドル様が更に口を開いた。
「それにお仕置きがまだだったもんねぇ?」
そう口にする彼の表情に、散々このゲームに慣らされたせいなのか、それとも攻略対象というキャラの体のせいなのか。
“ううん、きっと私も好きな人に触れたいと思っていたから”
キュゥッと下腹部の奥に熱を孕んだのを感じたのだった。
あの難易度激甘の18禁同人ゲームという恐ろしいゲームが多分みんなハッピーのバッドエンドで終了した。
もちろん最初はシナリオから脱出したのだと信じられなくて、突然理解を超えたエロイベントが起きるのではと疑っていたがそんなこともなく平和な学生生活を送っている。
“もう突然服が紙になることもないしおっぱいから媚薬だって出ないのね”
リドル様とは正式に婚約を結ぶことになった。
本当に私が勝手に空回っていただけで、実際は彼が根回ししてくれておりバッドエンドを迎えた翌日には正式な婚約者という立場になっていた。
それはテレーシア様やアンリエット様も同様で、同時に三組ものカップルが誕生したのだが、そもそもこの魔法学園えちはれは成人した18歳から入学するという年齢設定上、既婚者すらいたおかげで話題にすらならなかった。
唯一例外で話題になったのが王女殿下と元主人公の婚約で、彼はこの度の学園内で起こった召喚獣騒動での謹慎という名目で自宅謹慎……ではなく王城謹慎をすることになったのだが、謹慎処分だったはずなのに王城に着いた途端王女殿下が堂々の婚約発表を行い、とっくに謹慎が明けているはずの今日もまだ登校してきてはいない。
おそらくマナーなどを叩き込まれているのだろうと思うが、真相は闇ならぬ王城の中、もしかしたら閨の中である。
「そうなのよね、もうこんなに日にちがたったのね」
自室に飾られたカレンダーを眺めた私がそんなことを呟く。
数えた日数は元主人公が謹慎処分を受けたあのバッドエンドを迎えた日からではあるが、もちろん元主人公へ気持ちを馳せているわけではない。
私が想いを寄せるのはいつも一人だけ。
そう、あの日から想い人であるリドル様とほぼ会えていないのだ。
「くっ、あの理解不能なイベントが起きないというだけでこんなにすれ違うことになるなんて!」
あのバッドエンドの日から早三か月。
会えないまま明日からは長期休暇。
仕方ないとはわかっているのだ。
元々彼は次期宰相の地位を約束された王太子殿下の側近。
そのポジションは学生の身であろうと変わらず、むしろ学生という身分が追加されたことにより更に多忙を極めている。
“王女殿下が正式に婚約発表されたからそっちの仕事もあるみたいだし”
会えたとしても、廊下のすれ違いざまに手を振る程度。
それも私が三年生の通る廊下に張っていてやっとという始末だ。
これではただの推しアイドルの追っかけである。
「お仕置きはまだなの!!!」
くぅ、と思わず地団太を踏みそうになる。
あの時囁かれた「お仕置き」は、リドル様多忙のため現在進行形で延期されていた。
“いいえ、これがきっと正しいのよね”
そもそも婚約すら結んでいない状況であんなに体を重ねていたことがおかしいのだ。
処女性を重んじる国ではないものの、さすがにこれではビッチすぎるというもの。
現在の、互いを認識しつつも近づきすぎないこの距離感が貴族の婚約者という立場的には正しい。
相手を気遣って渡すプレゼントはぱふぱふではなく刺繍したハンカチで、もし保健室へ行くことになったら怪我を治療する。決して先生に隠れてえっちなことをするためではない。
図書室へ行ったなら読書を嗜むのであって、媚薬を楽しむのではないのだ。
これが正しい。むしろこちらしか正しくない。
「けど、物足りないのよ……!」
“ハッ、もしかしてこれが放置プレ――”
「ロレッタ?」
「ひゃぁあ!? り、リドル様!?」
突然現れた婚約者にぎょっとする。
だってここは私の自室、つまりは女子寮。
「なんでここに、まさかまた忍び込んで……」
「それこそまさかだよね」
動揺している私を少し可笑しそうに眺めたリドル様が、首から下げたパスケースを見せてくれた。
「ちゃんと管理人に許可を得て来ているよ。最近時間を作れなくてごめん、お詫びという訳でもないんだけど、ロレッタは明日からの休暇の予定はセシル侯爵家への帰省で合ってる?」
「あ、はい」
所謂冬休み。
私も他の令嬢たちと同じく実家へ帰省することになっていた。
「それ、俺も付いて行ってもいい? あ、ちなみにお義父様にはもう許可は貰っているんだけどね」
「えっ」
「あと、寄り道の許可も貰ってるからね」
「えぇぇっ!?」
◇◇◇
“リドル様と帰省……”
これはつまりあれか。結婚の挨拶というやつなのだろうか。
馬車内で隣り合って座りながらそんなことを考えていると、ふいに手を握られドキリとする。
「え、えっと、な、なんでしょうか?」
久しぶりにこの至近距離で眺めるドストライクイケメンは少し心臓に悪く、痛いくらい鼓動が早くなった。
「ふふ、ひさしぶりのロレッタだと思って」
“無防備笑顔の破壊力!”
ドギュンと私の胸が変な音を爆音で奏でたが、リドル様には聞こえていないようで私はこそっと胸を撫で下ろす。
そんな私に気付いているのかいないのか、重ねた私の手をそっと口元に持っていったリドル様が軽く唇を寄せた。
“え、今日サービスデーなの?”
確かにこの帰省前に「お詫び」という言葉は言われたが、彼が忙しいのは彼の責任ではない。
それは未来の妻である私は十分に理解をしていて――
“ぐふふ、未来の、妻……!”
内心呟いたその単語に思わず笑いがこみ上げ、この笑いは元主人公がしていたものと同じだと気付き唖然とした時だった。
突然馬車の進行方向が変わったのだ。
「……え? リドル様、私たちセシル侯爵家へ向かっていたんですよね?」
「最終目的地はそこだね」
「最終?」
リドル様の言葉にぽかんとする私に、リドル様がにこりと微笑む。
「春が来れば卒業、俺の卒業のタイミングで結婚する話は覚えてる?」
「もちろんです!」
ほぼ会えなくてもなんとか耐えられたのはこの婚約の先の日付が明確に決まっていたから。
私は結婚後ももう一年学園生活が残っているが、王太子殿下の側近として本格的な実務に入る彼と今まで以上にすれ違い生活が発生することがわかっていたからこその強硬策だった。
“結婚さえしてしまえば寮から出て同じ家に帰ることもできるしね”
ちなみにこれは余談だが、この国は女性でも爵位が継げること、そして中枢の役職持ちは同時に当主になることが出来ないと定められているため、リドル様が我が侯爵家に婿入りする形での婚姻である。
「この先に、実は俺たちの新居にと建てておいた屋敷があるから、まずはそこを経由して行こう?」
「新居!?」
「ふふ、ちゃんと秘密裏に動いていたって言っていたでしょ」
“あれってこういうことだったの!?”
屋敷を建てるくらいの時間って――と一瞬計算しそうになり慌ててその考えを追いやる。
今重要なのはそこじゃないから。
「すごい、楽しみです!」
「今日泊まれるだけの家具は入れてあるけど、ロレッタの過ごしやすい家にしたいから改めて一緒に家具も選ぼうか」
「はい! 今日泊まれるだけの家具以外の家具はリドル様と一緒に……、え、泊る?」
「うん。泊る」
握られていた手にぎゅっと力を込められ、後ずさることも許されない。
「……久しぶりだから恥ずかしくなっちゃった?」
「いえ、そのっ」
「でもロレッタ、物足りないって言ってたよね」
“聞かれていたの!?”
さらりと指摘され一気に顔が熱くなる。
そんな私に、その青い瞳をスゥッと細めて口角を上げたリドル様が更に口を開いた。
「それにお仕置きがまだだったもんねぇ?」
そう口にする彼の表情に、散々このゲームに慣らされたせいなのか、それとも攻略対象というキャラの体のせいなのか。
“ううん、きっと私も好きな人に触れたいと思っていたから”
キュゥッと下腹部の奥に熱を孕んだのを感じたのだった。
応援ありがとうございます!
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