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本編
19.本音が溢れて、零して、溶けて。
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「やっ、やだぁ……!」
「そんなに声を出してると気付かれちゃうよ? ほら、今上を見上げられたら教室の窓際で後ろから突かれてるとこ見られちゃうね?」
「だめっ、そんなのダメなのぉ!」
耳元で囁かれるとどうしても感じてしまい、ナカが勝手に彼のモノを締め付けたことに気が付いた。
「ほんとロレッタの体は全部えっちだよね」
「ひゃあっ」
そのまま耳を甘噛みされ、後ろから何度も抉るように突きながら露出した胸を揉まれる。
放課後になってからだいぶ時間がたっているのに、この空き教室の窓から見える正門にはまだ人が沢山いた。
“いつもならみんなもう寮に戻っていて人なんていなくなるのに”
もしこの歩いている生徒たちが校舎を見上げたら、教室でえっちなことをしているとすぐにバレてしまうだろう。
胸はリドル様が揉み乳首自体は彼の手で隠れているが、逆に言えば揉まれてバックで致しているということははっきりとわかる。
だがこんなに沢山の人がまだそこにいることも、なんだかんだで教室に誰もこないことや誰も見上げないことを考えればやはりこれはイベントなのだと思った。
“この行為も、イベントだからしてるだけ、なのかな”
荒くなる呼吸、あがりそうになる嬌声を必死に堪えながら頭の片隅ではそんなことを考える。
好きな人との行為はたとえイベントだとしてもあんなに温かく幸せだったのに、今では少しだけ苦かった。
「よし、これでイベントは完遂かな」
後始末を終えたリドル様がそんなことを呟き、座って休んでいた私へと手を差し伸べる。
「ごめんね、無理な体勢で辛くはなかった?」
「あ、はい。大丈夫です」
心配そうな彼にこの不安を気付かれないよう精一杯の笑顔で返す。
やはりどこか違和感があるのか、少しだけ怪訝な顔を向けられるがすぐに彼もパッと笑顔を作り、私を立ち上がらせてくれた。
「そういえば、他の二人はどうですか?」
「順調にイベントをこなしてるみたいだよ。ロレッタが教えてくれたからロングロンド令息との接触も避けられたしありがとう」
「そっか、お役に立ててよかったです」
彼女たちが無事に過ごしていることに安堵した。
「なんだかんだで紹介した令息たちとも相性がいいみたいで、今度少し遠出するって言っていたから、もし仕立て屋に寄るならイベントに注意するように言っておいたよ」
「そうですね。どこで突然イベントに巻き込まれるかわかりませんし」
だがどうしても彼との会話に集中できない。
こんなこと考えたくはないのに、順調に愛を育んでいる二人が羨ましかった。
“ふたりは相手に好きって言われているのかな”
好きだと言って、好きだと返してもらう。
たったそれだけのことが何よりも難しい。
「ゲームでは体を重ねれば自動的に好感度が上がっていくのに」
思わずそんなことが口から溢れ、慌てて閉じる。
幸いなことにリドル様には聞こえていなかったようでホッと息を吐いた。
“何考えているんだろ。そもそもえっちなことをして好感度が上がるのは相手じゃなくて攻略対象である私の方じゃない”
だから彼はえっちなことをしても私のことを好きだとは言ってくれないし――
そこまで考えハッとする。
“えっちなことで、私の中の好感度が上がる?”
この説明は、リドル様と初めて会った時にこの世界について話した時にもした説明だ。
だから彼もそれは認識しているはずで。
「もしかして、私……」
「ロレッタ?」
「あ、いえ、その」
「やっぱり疲れてるよね。ごめん、こんな時間まで話してしまって」
私の荷物をさっと持ったリドル様にエスコートされながら教室を出る。
「今日も君を寮まで送る権利をくれるかな?」
「もちろんで……んっ」
まるでどこかの騎士のようにそう頭を下げるリドル様に思わず笑いながら答えると、リドル様に軽く口付けられた。
「ちゃんと送るだけにするから安心してね」
「もうっ、すぐそうやってからかうんだから」
「あはは」
いつものような軽口を交わし、私たちはそのまま寮へと戻る。
言葉通りちゃんと私を寮まで送ってくれたリドル様を見送ると、私も自室へと向かった。
一人になった途端足がいっそう重い。
負の感情が心を重くしているのかもしれず、つい俯きながら歩いていた時だった。
「ロレッタ様?」
「アンリエット様、テレーシア様まで……?」
談話室から顔を覗かせた二人の令嬢にドキリとする。
『今度少し遠出するって言っていたから』というリドル様の言葉が蘇り、好きとすら言ってもらえない自分と比べ惨めな気持ちになった。
弱っているところなんて見せたくないのに、突然こんな姿を見せられても二人を困らせるだけだとわかっているのに視界がどんどん滲み堪えられない。
私の瞳が潤んでいることに気付いたふたりは焦ったように私の元に近付き、アンリエット様が肩を撫で、テレーシア様がハンカチで涙を拭ってくれるがそんな彼女たちの優しさも愛されている余裕からなのかと思う自分が醜くて堪らなかった。
「ごめんなさい、私いま余裕がなくて嫌な子になってしまいそうだから」
そっと彼女たちの優しさを遠ざけるように顔を逸らす。
だが。
「いいえ! その程度の拒否じゃ引きません!」
「お話聞くのはお姉さんにお任せですよ~」
「えっ、えっ!?」
ガシッと両脇を抱えられ唖然とする。
「ま、待って待っ……」
焦る私を無視し、そのまま私を抱えた二人に引きずられるように、私は連行されたのだった。
◇◇◇
「こ、ここがテレーシア様のお部屋……」
連れられたのは同じ学年のテレーシア様の私室だった。
優等生枠の彼女はゲームではクールなイメージがあったが、部屋の中は可愛いぬいぐるみで溢れていてとても女の子らしい部屋である。
イメージと違う、なんて一瞬思い、ここはゲームの世界ではなく現実なのだと改めて実感した。
“私だってツンデレじゃないし”
ツンツンするのではなく思ったことはちゃんと伝えたいと思うタイプだからこそ、リドル様も「素敵」だと言ってくれたのだろう。
ツンデレ枠だがツンデレではない私。これこそが現実だから。
「で、どうしたんですか?」
「話すだけでも楽になること多いわよ、全部いっちゃってもいいんだからね」
私を労うふたりの言葉に心が揺れる。
私は彼女たちに嫉妬してこんなに醜い感情を持っているのに、どうしてこんなにも違うのだろうか。
「私がこんなだから、二人みたいになれなくて。だからその……」
思わず溢れる本音を聞いたテレーシア様が私の前に温かい紅茶を置いてくれる。
ふわりと優しい香りに少しだけ落ち着いた。
「こんなって、なんですか?」
「それは……」
「ロレちゃんはロレちゃんよ、誰かになる必要なんてないと思うわ」
優しい言葉をかけられまた俯いてしまう。
手に持ったティーカップにぽたりと涙が落ちた。
「……私、リドル様が好きなんです」
ぽつりと本音が零れる。
一度話し出してしまうと、躊躇っていたのが嘘のように勝手にぽろぽろと溢れ出した。
「優しくて可愛くて格好よくて。気遣ってくれるところも嬉しいし大事にされてることもわかってます。この想いを返してもらえないまま終わってもいいかなって思うくらい大好きなんです」
好きだと返してくれないことは悲しい。
宙ぶらりんの今の関係は堪らなく辛くて苦しいし、できればせめて恋人になりたいけれど、でも彼が私の気持ちを受け入れてくれているだけで十分だと思う自分がいるのも確かだった。
「この世界は、えっとなことをすればするほど好感度が上がるシステムなんです」
「えぇ。私たちもそう説明を受けたわ。だから間違ってもロングロンド令息とは絶対にそういう行為はしないようにと言われたもの」
「はい。好感度が上がるのは男性側ではなく私たちなんです。だから、もし主人公……ロングロンド令息とえっちなことをするとどんどん好きだと思い込ませられ、彼を求めてしまう可能性があるんです」
「王女殿下と取り合いなんて遠慮したい案件ですね……」
だがそれはつまり、男性側から向けられた好意はゲームの強制力による効果ではなく『真実』だということなのだ。
だから想いを重ね向けられている彼女たちが堪らなく羨ましいのだろう。
でもそれより私が一番つらいのは。
「私、本当にリドル様が好きなんです。でも、もしかして私の気持ちは作られたものだと、えっちなことをいっぱいしたからだと思われているのでしょうか」
だからいつも好きだと伝えたあとの返事はイエスでもノーでもなくありがとうなのだろうか。
「この気持ちは作られたものじゃない……っ、私の本音なのに……!」
彼に信じて貰えていないのかもしれない。
その可能性に気付き、そのことが何よりも悲しかったのだ。
「そんなに声を出してると気付かれちゃうよ? ほら、今上を見上げられたら教室の窓際で後ろから突かれてるとこ見られちゃうね?」
「だめっ、そんなのダメなのぉ!」
耳元で囁かれるとどうしても感じてしまい、ナカが勝手に彼のモノを締め付けたことに気が付いた。
「ほんとロレッタの体は全部えっちだよね」
「ひゃあっ」
そのまま耳を甘噛みされ、後ろから何度も抉るように突きながら露出した胸を揉まれる。
放課後になってからだいぶ時間がたっているのに、この空き教室の窓から見える正門にはまだ人が沢山いた。
“いつもならみんなもう寮に戻っていて人なんていなくなるのに”
もしこの歩いている生徒たちが校舎を見上げたら、教室でえっちなことをしているとすぐにバレてしまうだろう。
胸はリドル様が揉み乳首自体は彼の手で隠れているが、逆に言えば揉まれてバックで致しているということははっきりとわかる。
だがこんなに沢山の人がまだそこにいることも、なんだかんだで教室に誰もこないことや誰も見上げないことを考えればやはりこれはイベントなのだと思った。
“この行為も、イベントだからしてるだけ、なのかな”
荒くなる呼吸、あがりそうになる嬌声を必死に堪えながら頭の片隅ではそんなことを考える。
好きな人との行為はたとえイベントだとしてもあんなに温かく幸せだったのに、今では少しだけ苦かった。
「よし、これでイベントは完遂かな」
後始末を終えたリドル様がそんなことを呟き、座って休んでいた私へと手を差し伸べる。
「ごめんね、無理な体勢で辛くはなかった?」
「あ、はい。大丈夫です」
心配そうな彼にこの不安を気付かれないよう精一杯の笑顔で返す。
やはりどこか違和感があるのか、少しだけ怪訝な顔を向けられるがすぐに彼もパッと笑顔を作り、私を立ち上がらせてくれた。
「そういえば、他の二人はどうですか?」
「順調にイベントをこなしてるみたいだよ。ロレッタが教えてくれたからロングロンド令息との接触も避けられたしありがとう」
「そっか、お役に立ててよかったです」
彼女たちが無事に過ごしていることに安堵した。
「なんだかんだで紹介した令息たちとも相性がいいみたいで、今度少し遠出するって言っていたから、もし仕立て屋に寄るならイベントに注意するように言っておいたよ」
「そうですね。どこで突然イベントに巻き込まれるかわかりませんし」
だがどうしても彼との会話に集中できない。
こんなこと考えたくはないのに、順調に愛を育んでいる二人が羨ましかった。
“ふたりは相手に好きって言われているのかな”
好きだと言って、好きだと返してもらう。
たったそれだけのことが何よりも難しい。
「ゲームでは体を重ねれば自動的に好感度が上がっていくのに」
思わずそんなことが口から溢れ、慌てて閉じる。
幸いなことにリドル様には聞こえていなかったようでホッと息を吐いた。
“何考えているんだろ。そもそもえっちなことをして好感度が上がるのは相手じゃなくて攻略対象である私の方じゃない”
だから彼はえっちなことをしても私のことを好きだとは言ってくれないし――
そこまで考えハッとする。
“えっちなことで、私の中の好感度が上がる?”
この説明は、リドル様と初めて会った時にこの世界について話した時にもした説明だ。
だから彼もそれは認識しているはずで。
「もしかして、私……」
「ロレッタ?」
「あ、いえ、その」
「やっぱり疲れてるよね。ごめん、こんな時間まで話してしまって」
私の荷物をさっと持ったリドル様にエスコートされながら教室を出る。
「今日も君を寮まで送る権利をくれるかな?」
「もちろんで……んっ」
まるでどこかの騎士のようにそう頭を下げるリドル様に思わず笑いながら答えると、リドル様に軽く口付けられた。
「ちゃんと送るだけにするから安心してね」
「もうっ、すぐそうやってからかうんだから」
「あはは」
いつものような軽口を交わし、私たちはそのまま寮へと戻る。
言葉通りちゃんと私を寮まで送ってくれたリドル様を見送ると、私も自室へと向かった。
一人になった途端足がいっそう重い。
負の感情が心を重くしているのかもしれず、つい俯きながら歩いていた時だった。
「ロレッタ様?」
「アンリエット様、テレーシア様まで……?」
談話室から顔を覗かせた二人の令嬢にドキリとする。
『今度少し遠出するって言っていたから』というリドル様の言葉が蘇り、好きとすら言ってもらえない自分と比べ惨めな気持ちになった。
弱っているところなんて見せたくないのに、突然こんな姿を見せられても二人を困らせるだけだとわかっているのに視界がどんどん滲み堪えられない。
私の瞳が潤んでいることに気付いたふたりは焦ったように私の元に近付き、アンリエット様が肩を撫で、テレーシア様がハンカチで涙を拭ってくれるがそんな彼女たちの優しさも愛されている余裕からなのかと思う自分が醜くて堪らなかった。
「ごめんなさい、私いま余裕がなくて嫌な子になってしまいそうだから」
そっと彼女たちの優しさを遠ざけるように顔を逸らす。
だが。
「いいえ! その程度の拒否じゃ引きません!」
「お話聞くのはお姉さんにお任せですよ~」
「えっ、えっ!?」
ガシッと両脇を抱えられ唖然とする。
「ま、待って待っ……」
焦る私を無視し、そのまま私を抱えた二人に引きずられるように、私は連行されたのだった。
◇◇◇
「こ、ここがテレーシア様のお部屋……」
連れられたのは同じ学年のテレーシア様の私室だった。
優等生枠の彼女はゲームではクールなイメージがあったが、部屋の中は可愛いぬいぐるみで溢れていてとても女の子らしい部屋である。
イメージと違う、なんて一瞬思い、ここはゲームの世界ではなく現実なのだと改めて実感した。
“私だってツンデレじゃないし”
ツンツンするのではなく思ったことはちゃんと伝えたいと思うタイプだからこそ、リドル様も「素敵」だと言ってくれたのだろう。
ツンデレ枠だがツンデレではない私。これこそが現実だから。
「で、どうしたんですか?」
「話すだけでも楽になること多いわよ、全部いっちゃってもいいんだからね」
私を労うふたりの言葉に心が揺れる。
私は彼女たちに嫉妬してこんなに醜い感情を持っているのに、どうしてこんなにも違うのだろうか。
「私がこんなだから、二人みたいになれなくて。だからその……」
思わず溢れる本音を聞いたテレーシア様が私の前に温かい紅茶を置いてくれる。
ふわりと優しい香りに少しだけ落ち着いた。
「こんなって、なんですか?」
「それは……」
「ロレちゃんはロレちゃんよ、誰かになる必要なんてないと思うわ」
優しい言葉をかけられまた俯いてしまう。
手に持ったティーカップにぽたりと涙が落ちた。
「……私、リドル様が好きなんです」
ぽつりと本音が零れる。
一度話し出してしまうと、躊躇っていたのが嘘のように勝手にぽろぽろと溢れ出した。
「優しくて可愛くて格好よくて。気遣ってくれるところも嬉しいし大事にされてることもわかってます。この想いを返してもらえないまま終わってもいいかなって思うくらい大好きなんです」
好きだと返してくれないことは悲しい。
宙ぶらりんの今の関係は堪らなく辛くて苦しいし、できればせめて恋人になりたいけれど、でも彼が私の気持ちを受け入れてくれているだけで十分だと思う自分がいるのも確かだった。
「この世界は、えっとなことをすればするほど好感度が上がるシステムなんです」
「えぇ。私たちもそう説明を受けたわ。だから間違ってもロングロンド令息とは絶対にそういう行為はしないようにと言われたもの」
「はい。好感度が上がるのは男性側ではなく私たちなんです。だから、もし主人公……ロングロンド令息とえっちなことをするとどんどん好きだと思い込ませられ、彼を求めてしまう可能性があるんです」
「王女殿下と取り合いなんて遠慮したい案件ですね……」
だがそれはつまり、男性側から向けられた好意はゲームの強制力による効果ではなく『真実』だということなのだ。
だから想いを重ね向けられている彼女たちが堪らなく羨ましいのだろう。
でもそれより私が一番つらいのは。
「私、本当にリドル様が好きなんです。でも、もしかして私の気持ちは作られたものだと、えっちなことをいっぱいしたからだと思われているのでしょうか」
だからいつも好きだと伝えたあとの返事はイエスでもノーでもなくありがとうなのだろうか。
「この気持ちは作られたものじゃない……っ、私の本音なのに……!」
彼に信じて貰えていないのかもしれない。
その可能性に気付き、そのことが何よりも悲しかったのだ。
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