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本編

5.パイタッチ、断固拒否!

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『じゃあ、そういうことでよろしくね』なんてにこりと笑ったリドル様が去った方角をぼんやりと見つめる。

「……ほんとに?」

 私は本当にドストライクイケメン……ではなく、グレゴリー家の次男、リドル様とこれからえっちなことを沢山するのだろうか。

“いや、する……のよね”

 えっちなイベントは、こなさなければ永遠と起こるのを待ち続ける。
 出会いイベントが起きるまで攻略対象であるテレーシア様とアンリエット様がずっと同じ場所に居続けていたことからもそうだと言えた。


 理由はわからないが、王女殿下と主人公をの仲を進展させたいというのがリドル様側の意向であり、そのためには私を含めた攻略者たちのえっちなイベントは主人公以外とこなす必要があるというのも理解は出来る。

 誰かとイベントをこなさなければ、主人公はハーレムを狙ってくるだろうから。

 そしてそんな攻略対象である私の相手がまさかのリドル様――……


「そ、そんなことって、ある……!?」

 ドストライクのイケメンが、主人公の魔の手から守るために私とえっちなことをしようと言っているのだ。

 役得。
 これはきっと役得というやつである。

「どうしよう、どうしたらいいの……っ!? 私のおっぱいに伸びる主人公の手を颯爽と現れたリドル様が掴み、『この膨らみは俺のだから触らないでくれないか』って後ろから抱き締められちゃうってことよね!?」

“いや、このゲームには他の男キャラはいないって言ってたからそういうイベントはないんだろうけど……!”

 だがここはゲームの世界であると同時に私たちにとっては現実の世界なのだ。
 男キャラだっているし、魔物と戦う騎士団もいる。

 ならば、主人公から私のヒーローであるリドル様が庇ってくれたりする、なんてこともあり得るかもしれない。

「どうしよう、最ッ高だわ……!」

 やはり前世とはいえ妹にエロゲーの知識を植え付けた兄と血を分けた兄妹だということだろう。
 私の思考は最早完全に不安よりも期待で胸が高鳴っていた。
 
 完全に兄やんと同じ血筋だなんて考えながら、先ほどまでリドル様が座っていたベンチに転がるようにして悶えていた私は、現在はエロゲーを語りつくしていた兄やんの妹ではなく、セシル侯爵家の一人娘だったことを思い出し、咳払いをして優雅に立ち上がった。

「授業に、行かなくてはいけませんわ」

 落ち着き、優雅にスカートの裾を払った私は授業へ行くべく演習場へ向かう。
 
“リドル様とのえっちなイベント、いつ始まるのかしら”なんて、脳内はピンクに染めながら。


  
 午後一番の授業は外で行う魔法の実践訓練だった。

 リドル様と行うえっちなイベントと、リドル様と起きるかもしれない主人公とドストライクイケメンが私を取り合うという構図。

 しかし期待に胸を膨らませていた私に告げられたのは、「ロレッタ令嬢、触らせてやれ」という担任からの無情な一言だった。

 
「せっ、先生っ、どうして私なのですか!?」
「仕方ないだろう、ロングロンドはえっちなことをしなければ魔法が発動しないんだから」
「そ、そうではありません、どうしてその相手が私なのかとお伺いしているのです!」
「仕方ないだろう、ロングロンドはえっちなことをしなければ魔法が発動しないんだから」

“繰り返したッ!”

 説明が説明になっていないことに絶望しつつ、その先生の様子と、私を見る周りの生徒たちが当たり前のことのようにこの『体を触らせる』行為を受け入れているのを見て確信する。

“これ、イベントだわ……!”

「ロレッタ……はぁ……はぁ……」
「ひぇっ」

 愕然としている私に、何故か既に荒い息をした主人公がゆっくりと手を伸ばす。
 もちろん彼の手は私のおっぱいを狙っているし、何故か人差し指を真っ直ぐ向けているところを見ると乳首を狙い撃ちたいのだろう。

“ちょ、これ軽くパイタッチ程度のイベントじゃないの!?”

 ぶわりと鳥肌がたつ私の脳内を、『攻略キャラを感じさせられればより好感度が上がるんだ』とニマニマしながら話していた兄やんの言葉が駆け巡る。

 狙われている、私の乳首と私の好感度が!!!

“どうしよう、どうしたらいいの?”

 なんとかこのイベントを止めなければ。そう思うがイベントはこなさなければ終わらない。


 リドル様や王女殿下とは学年が違うのだ、そしてこの場にいる攻略対象は私ひとり。

“助けて、リドル様――!!”
 
 まさしく絶体絶命、触られる! そう思った時だった。


「アイザァン!」
「ぷぎょっ」

 ドンッと誰かが私のおっぱいへ釘付けになっていた主人公へ飛び掛かり、聞いたことのない何かの鳴き声みたいな声を飛び掛かられた主人公があげる。

「え、なに……?」
「まだ好感度はあげられてないよね?」
「り、リドル様!?」

 何が起きたのかわからず戸惑っている私に声をかけたのは、心の中で思わず助けを求めたまさにその彼だった。


「えっちなことでしたら、さぁどうぞ!」

 飛び掛かった拍子に地面に転がった主人公へと馬乗りになったのはピンクブロンドの髪がふわりと靡く小柄な令嬢。

 その見たことがありすぎる髪色に、きっと王族特有の黄金の瞳を持っているだろうと私は察した。

“レイラ王女殿下!”

「い、いや俺はロレッタの小ぶりな胸を」
「なんですって!? Dはある……じゃなくて、誰が貴方なんかに!」
「ツンデレッタぁ……!」

 謎な呼び方で未練たらしく私の方へ手を伸ばすが、その手をがっしりと掴んだ王女殿下はそのまま自身の胸へとあてがった。
 
「大きなお胸がお好みなら揉んで大きくしてくださいませ、あぁん! 揉まれてますわぁ!」

“合法ロリ枠ってこんなキャラなの!?”

 予想外のその癖の強い彼女に思わず後ずさった私を抱き止めるようにリドル様が背後に立つ。
 

 「え、えっと、そういえばどうやってここに?」

 私はこの少しもやもやとした気持ちを誤魔化すように先ほど飲んだ質問を改めて口にすると、私のその気持ちを知ってか知らずか隣に立ったリドル様がある一点を指さす。

「やだなぁ、権力だよ」
「権りょ……、あ、あぁ……」

 彼の指さす先を見ると、主人公に馬乗りになっている王女殿下と、そんなふたりを複雑そうに睨むコンラート王太子がそこにいた。

“学園内でも王族の力って強いのね”

 学園内ではみんな平等、なんていうよくある設定ではなく、どうやらこの世界はしっかりと権力が反映される仕様らしい。
 そのお陰で助かったのだから、文句なんて当然ないが。
 
 
「このままロレッタ嬢のイベントをこなしちゃいたいんだけど、触れる許可は貰えるかな」
「あ、はい! もちろんですわ」

 皆が完全に主人公と王女殿下に釘付けへとなっている今がチャンスだと思った私はすぐに頷いた。
 
「じゃあ、失礼して」

 ふわりと微笑んだリドル様の手のひらが私の胸へとそっと伸びる。

 私の心音が彼に聞こえてしまいそうなほどバクバクと響き、それと同時に緊張と僅かな期待からごくりと唾を呑んだ私だったのだが。
 
「終わったよ」
「……! …………、………………?」
「ロレッタ嬢?」
「はへ?」

 ぽかんとした私を少し不思議そうに見るリドル様。
 そのお顔も大層私の好みではあるが……

「さ、触りました?」
「ごめんね、嫌じゃなかったかな」
「え? えーっと、嫌では……」

 ない、というか。それ以前に。

“ほ、本当に触った?”

 思わずそう疑問に思うほど触れられたのは一瞬で、胸というより制服の表面を掠った程度の刺激しかなかったのだ。

「もっとしっかり触られるものだと思っていたので驚いたといいますか……」
「物足りなかった?」
「もの……っ!? ンンッ、そんなことはありません」

 くすりと笑うリドル様に咳払いで誤魔化す。
 ここで素直に頷くと私は完全に痴女だろう。

“主人公が完全に私の乳首を狙い撃とうとしてたから!”

 だからてっきりもっとしっかり触れられると勘違いしてしまったのだ。
 そもそも攻略対象を感じさせるのはイベントではなくボーナスポイントの部分で、より好感度が上がるというだけである。

 つまりイベントをこなすだけなら私を感じさせる必要など当然なく、彼の対応で正解だった。

 正解、なのだが。


「でも、そうだね。ロングロンド令息は完全に王女殿下の胸を揉んでいるみたいなんだけど、アレもイベントにあるのかな」
「それは」

 わからない。
 授業でパイタッチがあるのは知っているが、私自身がプレイしていたわけではないのだから。

“毎時間パイタッチイベントが出るのは困るわ”

 今回はリドル様が手を回してくれていたお陰で授業中でのパイタッチは避けられたが、もしパイタッチ以上の接触イベントがあるのならこなすのは今しかない――というのは建前で、正直物足りない。

 やはり血筋。
 前世とは言え私はあの兄やんの妹なのだから。

「……そうだと思います!」
「そうか、なら仕方ないね?」
「はいッ」

 力強く肯定すると、とうとうリドル様が吹き出し肩を震わせる。
 けれど、笑いながらも彼は私の腰にそっと腕を回し軽く引き寄せた。

「少し木陰に行こうか」
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