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食堂ってそうじゃないよ、多分

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「食堂ってこうじゃないと思うんだけどなぁ」

そう言う私の隣では、何も気にすることなく食材を選ぶアリア様の姿があった。


この魔法学園、確かゲーム内で出てきた時はどちらかというとホテルのビュッフェに近い形式だったはずなのだが、この寮の食堂は料理教室の為のキッチンという感じだった。
何個もキッチン台あんの。

確かに、乙女ゲームというジャンルである以上、攻略対象と出会うことのないこの女子寮の設定が適当というかある意味ものすごく合理的になるのは仕方ないのだが。


「唸っていないで手伝ってくれると嬉しいですわ」

ぷぅ、と可愛く頬を膨らませるアリア様。
まるで天使。

本当に可愛くて、声もまさにヒロイン!という可愛さでやっぱりさっきのは夢だったのでは、と思わずにはいられないが、周りに聞こえないような声で

「お仕置きご希望だったらそのままでドーゾ。」

と低い声で呟いていたのでどうやら夢ではないらしい。

これでも私だってうら若き年頃の娘である、お仕置きに興味があるだなんてちっとも、本当にちっとも思わないし、何より天使がとんでもなく大雑把な創作料理を披露しそうだったので慌てて料理の主導権を奪った。

ちなみにキッチンに立っている生徒は私達2人だけで、周りはそれはもうさすが高位貴族様としか言えない。そう、お抱えシェフってやつである。

なるほどな。これが食堂なのか。私の知ってる食堂と違う気がしなくもない。
くそぅ、昼はいっぱい食べてやる・・・

そんなことを心に誓いつつサクサク料理を作る。
毎朝母がキッチンに立っていたし、私だってよく手伝っていた。
前世はコンビニに頼っていたが、今世の私は料理が出来る。

私のよく読んでた異世界転生は、前世の記憶を使って料理をしたことのないお嬢様が珍しい前世の料理を作りきゃっきゃうふふする感じだったんだけどなぁ。
料理が出来るようになったのは今世なので、目新しい料理が出来る訳ではないが、それでもまぁ出来るんだからいいだろう。

「へぇ、上手いもんだな」

調理を進める私を後ろから覗きつつ感心したように言う。小声なので地声の方で。
耳元で囁かれると、さっきの思い出しちゃうんだけど⋯

手早く簡単に完成させ、並んで食べたがアリア様の口に合ったらしく美味しい美味しいと食べてくれた。

私のような貧乏子爵家は貴族同士の婚姻を結ぶメリットが少ない為、夜会でなんとか見初めて貰うしか結婚方法がないのだが、この地味な見た目では壁の花でいるしかできず早々に夜会リタイアを起こしていた。
まぁ、そもそも夜会ってお金かかるからそこまで行ったことある訳でもないんだけど。

だからかな。
手料理を美味しいと喜んで食べてくれるその姿を見て、結婚し、家庭があったらこんな感じなんだろうか、なんて思ってしまった。

まぁ、そもそも結婚できたとしても相手がもし貴族なら自分で料理することになるかはわからないし、今一緒にご飯を食べているのはついてるかついていないかは別として美少女。
というかそもそも、この世界のヒロイン様である。

バカなこと考えちゃったな、なんて思いつつ一緒に自室へ戻ったところで気付いてしまった。

「私達、同室じゃん⋯」


夜会リタイアというか早々に行くのを辞めたこともあり、私に婚約者はいない。
婚約者はいないが、だからといってご自由にどうぞという訳でもない!

さっきは唐突に終わったけど、あの続きが無いとも限らないのだ。
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